Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

早大とSAPジャパン、内部統制に備えた人材育成のための寄附講座を開設

私は学生時代に、「大学に企業で活用している情報システムの実習講座を開設してくれ」と無理難題を言ったことがあります。
そのように思った理由として
「大学での講義は実務と乖離しているのではないか」
「大学で会計を学んでも実務では会計処理システムやERPを使うのだから、大学でシステムの実習講座を開けば、大学にとっても大きなアピールになる」
という理由でした。
当時は、「会計とITの両面に精通した教員がいない」「費用に見合うだけの効果が期待できない」「希望する学生が少ないため、開設できない」で実現しませんでした。
しかし、こういったプランは他大学で実施例がいくつもあります。
今日はその中のひとつをご紹介します。

早稲田大学、SAPジャパンと共同で
内部統制に備えた人材育成のための講座を開設

学校法人早稲田大学(所在地:東京都新宿区、総長:白井克彦、以下早稲田大学)は、SAPジャパン株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:ロバート・エンスリン、詳細別紙)と共同で、早稲田大学大学院会計研究科(研究科長:小林啓孝、詳細別紙)において、学生を対象に内部統制の理論をテーマとした寄附講座を2007年4月より開講します。当講座は、会計監査現場で活躍する人材育成支援を目的として、SAPの基幹業務システム「mySAP ERP」を教材として使用し、内部統制の基本理念や業務プロセス遂行のためのシステム利用法を習得することができる実践的な講座です。SAPのERPシステム基盤を教材として採用した大学における内部統制の正式な講義科目は、日本で今回が初めてとなります。

2006年6月に成立した日本版SOX法金融商品取引法)により、2009年3月期決算からすべての上場企業および法令で定められた企業は内部統制報告書の提出およびその監査が義務付けられます。これに伴い企業の対応も本格化し、監査を実施する人材育成が求められています。

こうした環境の中、早稲田大学とSAPジャパンは、内部統制対応の基盤となるmySAP ERP2005のシステムを教材とした「ERPシステム実務」および「ERPシステム実務(実習)」を開設し、会計監査および企業における会計実務の分野における人材の育成・養成に注力します。教材となるmySAP ERP2005は、企業内外にまたがるビジネスプロセスの基礎を築き、プロセスの可視化によって内部統制の情報基盤を整備するシステムです。学生は内部統制実施基準の内容およびその実装方法をより実践的な形で習得することができます。当講座は、前期・後期一科目ずつ三年間にわたって開講され、講師は早稲田大学大学院の教授陣と共に、SAPジャパンのコンサルタントが担当いたします。

【講座概要】

科目名:ERPシステム実務(SAPジャパン寄附講座)および、ERPシステム実務(実習)(SAPジャパン寄附講座)
受講対象:早稲田大学大学院 会計研究科在学生
期 間:開講期間:2007年4月−2009年3月(計3ヵ年)寄附講座(正規学科目)として前期週2コマ、後期週2コマを開講
内 容:内部統制概要、内部統制の整備と運用、内部統制監査、ERPシステム概要、ERPを用いた統制メカニズム、在庫購買管理プロセスと統制、ほか

以 上

さすがは早稲田大学!と思ってしまいますが、これは会計学研究科での寄附講座なんですね。
SAPジャパンという会社は聞きなれない方もいらっしゃるかと思いますが、ERPCRMのソフトウェアで有名な企業です。

早稲田大学大学院会計研究科は、100年を超える早稲田会計学の伝統を基盤として、2005年に設立されました。国際的に通用する高度な専門知識と、高潔な倫理観に裏付けられた「アカウンティング・マインド」を十分に備えた会計専門家を育成することを教育の理念とし、会計専門、高度会計専門、国際会計専門の3コースを設置しています。(http://www.waseda.jp/accounting
また、会計研究科では、全国の公認会計士等の現役実務家の協力によるネットワーク上での仮想的監査セッションを行うための「早稲田会計道場システム」を開発中です。(http://www.waseda-kaikei.org/dojo/

  • SAPジャパン株式会社

SAPジャパンは、企業向けビジネス・ソフトウェアの分野において世界のリーディングカンパニーであるSAP AGの日本法人として、1992年に設立されました。SAPは統合基幹業務ソフト(ERP)をはじめ、サプライヤ・リレーションシップ・マネジメント(SRM)やサプライチェーン・マネジメント(SCM)、カスタマーリレーションズ管理(CRM)、企業向けポータル(Enterprise Portal)、製品ライフサイクル管理(PLM)などの構築を可能にするさまざまなソリューションを提供しています。すでに世界では120カ国、38,000以上の企業で利用されており、企業内、および企業間のあらゆるビジネスプロセスの統合・効率化を達成しています。日本国内でもすでに1,950社以上の企業グループで利用され、日本企業の情報化の推進、国際競争力および企業価値の向上に貢献しています。
http://www.sap.com/japan
SAP社は、教育機関支援プログラム「University Alliance Program」を世界30ヶ国、約680校で実施しており、SAP製品を活用して、学生のビジネスプロセスに対する理解を促進し、経営とITの双方を熟知した人材の育成を支援しています。日本でも現在18校が本プログラムに参加いただいています。
SAP、R/3、mySAP、mySAP.com、xApps、SAP NetWeaver、SAPロゴ、記載されているすべてのSAP製品およびサービス名はSAP AGのドイツおよびその他世界各国における登録商標または商標です。

日本版SOX法の全面施行に伴い、「2009年3月期決算からすべての上場企業および法令で定められた企業は内部統制報告書の提出およびその監査が義務付け」になりました。これに伴い、実務面で内部統制に詳しい人材が企業で必要になることから、このような講座開設が決定したのですね。
講座で使用するmySAP 2005は市場シェアの高い製品だったと思いますが、SAP側としては、このように寄附講座を開くことで製品の優良性とパブリシティの向上を狙っているわけです。
早稲田大学側としても、伝統のある会計学分野で実務的に優秀な人材を多く輩出したい事情がありますので、相互の利害が一致しています。

このような「戦略的提携」は、双方にメリットが大きいです。(大学側は提携先に人材を送り込むチャンスになります)
学問と実務の融合が果たされたひとつの形ですが、今後ますます色々な大学で拡大するのではないでしょうか。

[Reference]