Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

社会責任を教える米国大学

high190です。
少し前の記事ですが、欧米の大学事情を知る上で面白い記事がありましたのでご紹介いたします。

ところが、エンロンワールドコムに代表される一連の不正事件、世界貿易センタービルの崩壊を目の当たりにして、学生たちの考え方は明らかに変わってきています。あくどい商売はしない、不正は犯さない、他人をいたわる、社会に対して正しいことをする、本当に自分がやりたいことを仕事にする、という価値観へと流れてきているのです。
(中略)
こうした風潮を反映し、全米各地の大学が、「社会責任」「社会事業」「NPO経営」といったクラスをMBA課程の一環として開講するようになっています。こうした大学は、今や、ソーシャル・アントレプレナー社会起業家)の養成学校という役割も果たしています。
2001年から2003年にかけて、「倫理」「企業の社会責任」「持続可能性」といった講義を必須科目としているMBA課程の割合は、34%から45%に増えました。また、MBA課程で選択できるこの種のクラスの数は、同期間に70%増加しました。これは、アメリカのアスペン研究所と世界資源研究所が、MBA課程を持つ国内の大学68校と、アジア、アフリカ、南北アメリカ、欧州、豪州の大学32校、計100校を対象に調べた結果です。ただし、残念ながら日本の大学は含まれていません。
1999年から2年に1回の頻度で行なわれているこの調査は、『ビヨンド・グレー・ピンストライプス』(グレーのピンストライプ・スーツを超えて)と呼ばれています。社会や環境への影響を学生に考えさせるような要素を組み込んだMBA課程を広げようというプロジェクトの一環として行われています。
2003年の報告書で、最先端の取り組みを行っていると評価されたのは、次の6校でした。

ジョージ・ワシントン大学(ワシントンDC)
ミシガン大学ミシガン州アナーバー)
ノースカロライナ大学(ノースカロライナ州チャペルヒル)
スタンフォード大学カリフォルニア州スタンフォード
イエール大学コネチカット州ニューヘーブン)
・ヨーク大学(カナダ・トロント

他の大学に比べてこの6校が優れている点は、選択的に企業の社会責任などを学べるばかりでなく、必須科目のなかにも社会・環境への影響を考慮する要素が多く組み込まれていることです。例えば、スタンフォード大学では、「財務会計」のなかに「会計手法とその実践が社会に与える影響」という内容が含まれています。
また、社会事業の分野を、MBAの副専攻にできる場合もあります。ミシガン大学には「企業の環境管理」という課程があり、MBAと併せて修了資格が取れます。ノースカロライナ大学では「持続可能な企業」、ヨーク大学では「ビジネスと持続可能性」を副専攻に選択できます。
調査では、学生主導の課外活動として、セミナーや講演会が企画され、社会問題に対する理解を深めるような努力が行なわれているかどうかについても評価されました。回答した100校から寄せられた会議、セミナー、講演会などの数は計700件を上回り、その数も2001年から約2倍という大きな伸びを示しています。
日本の大学の取り組みはどうなっているのでしょうか。とても興味があります。

米国で問題となったエンロンワールドコムといった巨大企業の粉飾決算。そういった現場を目の当たりにして、大学で学生が学ぶ内容にも変化が起こったとあります。私は社会の変化に対して、大学が機敏に動くことは極めて重要だと考えています。大学は社会をリードする存在であるべきで、そのためには社会で起こっている変化に対応した教育・研究が実行されている必要があります。むしろ、そうしたことが実現できているからこそ米国では大学と政府での人的交流が盛んなんでしょうね。経営を学ぶには倫理的アプローチによる学習が効果的であると同時に優れた経営者の育成にも繋がります。ただ、倫理的アプローチで経営を学んだとしても、経営者は利益獲得と倫理の狭間で揺れ動くことになります。そうしたことを考えると単純に経営のメソッドを学ぶだけでは、優れた経営者とは言えないという、米国学生の認識もあるでしょうね。
記事の著者は「日本の大学の取り組みはどうなっているのでしょうか。とても興味があります。」と言っていますが、大学院レベルでも米国なみに取り組んでいるところは恐らく少ないのではないかと思います。もっと、日本でも実業界と大学の距離が縮まるといいのですが。