high190です。
関西大学で開催された大学行政管理学会の定期総会・研究集会の2日目(9/6)の参加記録です。1日目はこちらからご覧下さい。*1今回もhigh190が参加したセッションについて、所感をまとめてみました。理解違いなどがある可能性がありますので、悪しからずご了承下さい。なお、総会に関するツイートをtogetterでまとめて下さった方がいますので、こちらもあわせてご覧下さい。*2
第19回定期総会・研究集会(出典:大学行政管理学会Webサイト)
1.分科会「学外のSDに意味はあるのか?-最もコストの高い「大学院進学」を話題に-」
各登壇者のプロフィール紹介。大学院に入学した理由。
- 関西学院大学 渡辺 絵里 氏
- 大学職員になりたい、と思って就職した訳ではなかった。
- 仕事が合わない事から退職を考えた事もあったが、現在の部署に異動してきた時点で、桜美林大学大学院に進学する事を決意。業務に直結するスキルが得られるか否か。考え方を学べる。
- 大学院で学んだ事が業務に直結するか否かは、担当業務によって異なるが、学外ネットワークが広がるきっかけになると思う。
- 中央大学 梅澤 貴典 氏
- 京都大学 中元 崇 氏
- 大学院に進学することの意味付けについて、お話をしたい。他の登壇者の方と違って、就職の時点で修士号を得ており、職員になってから名古屋大学博士後期課程に進学した。大学院に進学する事の意味はあるが、ただし、それは当人及び職場・組織が相応の意味づけを行うことが必要。
- 「絶対的コスト」と「相対的コスト」を考えなければならない。大学院に進学する事については、職場での仕事内容・レベルに引きずられる部分がある。
- 大学職員の企画立案能力については、大学設置基準の大綱化によって90年代から徐々に求められるようになってきた。職能開発としての大学院進学に関し、職場からの理解が得られるかどうかは大事。
- SDが多様化している「往々にして無秩序なダイバーシティ」SD/職能開発での「たまたま」問題。偶発的なキャリア形成。
- 名城大学 森 康介 氏
- 文学部を卒業し、中近世ドイツ文学を学んでいた。現在は名城大学大学院にて学んでいる。進学動機は「学生に学びを実行してもらえる職員になりたい」
- 大学院進学による生活スケジュールはどうしても厳しくなってはしまう。学びと仕事を両立させる点については、どうしても時間的な制約があるので学習時間の確保を第一に置くことが必要である。
- 大学院に進学して、情報の扱い方が変化した。精査、組み合わせ、リフレクション。
- 京都文教大学 村山 孝道 氏
【全体討論】
- 職場・家庭の理解、折り合い
- 職場・家庭からは特に意見などはなく、背中を押してもらえた。
- 新人職員が大学院に通う際に、職場の理解は得られたか
- 特にコメントなどはなく、職場の中でも背中を押されることが多かった。
- 職場での理解を得るために、職場内でのコミュニケーションなどで気をつかっている部分はあるか
- 通信教育課程なので、それほど通常業務には影響がないが、スクーリングなどに参加する際、職場内で調整して対応している。職場として、送り出す際に業務に支障を来たさないような仕組みなどを整備しておく事が大切ではないか。
- キャリア焦燥感:大学院に通うと思うことはおかしいか?
- 出願の段階で、研究計画書などをどう書けば良いかなどで迷っている人も多くいると思うが、登壇している人でも、ひとりとして出願時の研究計画書のままで修士論文を書き上げた人はいないと思う。
- 大学行政管理学会に来るようになってから、焦りを感じるようになった。現在、大学院に通っており、高等教育に直結するものではないが、そういう部分で焦りの気持ちを抱くようになった。自分の責任において大学院で学ぶのだから、自分の責任において対応しなければならない。
- 大学図書館に関する研究をして、どんな成果が大学にもたらせたか
- 大学側の人材育成に関する投資に関する考え方
- もっと大学側も職員の育成に関して、育成に関する投資を行うべきではないか。大学院進学などに関しても、費用負担などを行っても良いのではないか。
- 費用面での負担軽減も大切だが、一番重要なのは、仕事をしながら履修することの時間的制約なので、その部分の負担軽減・職場の理解を得る体制整備が必要ではないかと思う。
ある意味、今回の研究集会に参加して一番興味をそそられたのが、この分科会のテーマでした。大学職員にとって大学院進学の意味とは?というテーマは、現在、中教審で議論されている高度専門職やSD義務化の話とも繋がります。私自身、ブログを書き続けることがSDになると思って続けてきていますが、登壇者の方々のお話を伺って、働きながら大学院に通うことの大変さが伝わってきました。その反面、マルチタスクをこなすための練習としてはいい機会なのかも知れないとも感じました。また、質疑応答でもフロアから色々な意見が寄せられましたが、個人的には現在においては、職員で大学院に通う人は「変わった人」「勉強熱心な人」という形で捉えられているように感じ、まだ一般的ではないということです。しかし、大学院に通うだけではなく、変わったバックボーンを持った人が多くいて、多様性のある環境を作っていくことこそ、これからの大学には必要なのではないかと思います。硬直的な発想や組織文化を打ち砕くためには、異なる文化に触れ、吸収した人を多く組織に迎え入れる・または内部で育成していく必要があります。もちろん、自学のミッションを浸透させることによって、多様な人々の集団凝集性*6を高める工夫を怠ってはいけないと思いますが。そのためにも大学院進学は魅力的な選択のひとつではないかと個人的に感じているところです。
これは私見ですが、登壇された皆さんの専攻分野は高等教育が中心(政策科学を専攻されている方がお一人)でしたが、経営学などの分野も今後は進学先の選択に入れてもよいかと思います。職員が学ぶべきマネジメントの発想、マネジャーとしての役割などは、高等教育の大学院だけでは学べないと思いますので、その点については今後の大学職員の高度専門職養成のあり方にも一定の示唆を与えうるものかと思います。こちらの詳細は拙ブログの過去記事をご参照下さい。*7
なお、上記にまとめた内容はあくまでも一部です。他の大学職員ブログでも記事にされている方がいますので、そちらも是非ご参照下さい。*8 *9 *10
2.研究・事例研究発表1「大学職員の研修(SD)の必要性と効果検証−テーマパークの事例を参考に−」昭和女子大学 松丸 英治 氏
- 発表の目的
- テイラー、アレンによる効果検証を前提とした研修制度。
- なぜ人材育成をするのか
- 「組織は戦略に従う」チャンドラー
- 「構造は戦略に従う。組織構造は組織が目的を達成するための手段である」ドラッカー
- 必要な人数・スペックの設定が必要なのだが、現実は「既存人材の配置」に留まっている。「大学職員のSDの必要性と課題」(岩崎保道)
- 「MBAは会社を滅ぼす」ミンツバーグ
- 「教室でマネージャーはつくれないが、すでにマネージャーの職に就いている人は教室で成長できる」
- 某テーマパークの研修方法を参考に、新任教員研修プログラムを開発した大学がある。「モントリート・カレッジ」
- ディメンションズ(エグゼクティブ対象の研修)
- SDを行う以上は効果検証が必須ではないか。まず、SDをやる前に「大学として必要な組織能力を把握」し、「所属員の能力の把握」を行い、「必要な人材と能力の把握」をした上で、「SD(研修)」を行うことで効果検証に繋がる。大学側が成長させてくれる訳ではない。
某テーマパークの研修手法から、大学職員の研修に焦点を当てた発表です。中教審で現在議論されているSDの義務化に際し、どのようにして効果的なSDを行うのか、またSDが機能するための仕組みづくりを行うことで効果検証を行うことができるという指摘でした。発表の中で興味を引かれたのはテーマパークでの研修手法をFDに取り入れた大学があるということでした。ノースカロライナ州のモントリート・カレッジがそのようですので、こちらについても引き続き情報収集してみたいと思ったところです。SDの効果検証のお話も印象的でした。実際にSDの効果検証をしている大学はあるんでしょうか?私は寡聞して知りませんが、どなたかご存知の方がいらっしゃいましたら、ご教示いただければ幸いです。
3.研究・事例研究発表2「大学職員のメンタルヘルス研究の現状と展望」立教大学 松木 敦志 氏
- 発表概要
- メンタルヘルスに関する研究の到達点(先行研究)
- 先行研究を踏まえると、大学職員の精神健康状態は決して良好とは言えない。その結果を含めて、どのようなアクションを起こせば良いのか。
- 不足している研究知見
- 何がストレス源(またはメンタルヘルス影響要因)か?
- 特徴的なストレス反応はどんなものがあるのか?
- ストレスを抑制・促進する要因(要因 AtoZ)は?
- 要因AtoZは個人の属性によって異なるのか?
- 研究主題
- 大学職員のストレス構造を明らかにする
- ストレス反応を規定する要因を明らかにする
- ストレスを抑制・促進する要因を明らかにする
- 調査の結果
- 20代の職員が最もストレス要因を受けやすく、50代の職員が一番ストレス要因が少ない。
- 「職場の将来への不安」がストレス促進要因として、最も高い。その反面、愛着的愛校心はストレスを抑制する。
- ストレスマネジメント研修の効果の測定と分析を行うべきではないか。
- 質疑応答
- 各大学での職場でのストレスチェックについて、衛生委員会や衛生管理者などに対する研修を行うべきなのか、一般職も含めた全ての人に研修を実施すべきなのか。
- ストレスは、対処を放置するとどんどん負担が高まっている。何か嫌な事があった時に、対処方法を知っていることが重要であると思う。
大学職員のメンタルヘルスに関する研究は、いくつかの先行研究はありますが、まだまだ研究が深まっていない分野だと思います。*11しかしながら、大学を巡る環境の激変に対応して、大学職員のメンタルヘルスがどのように変化しているかを明らかにしようという本研究の試みは、今後の研究進展に大きな一石を投じるのではないか?と個人的に期待しているところです。今後も研究を継続されるということでしたので、研究結果の進捗状況についてフォローしていきたいと思える発表でした。
4.研究・事例研究発表3「大学を取り巻く各種データに対する統計的分析手法の適用とその課題」日本大学医学部 烏山 芳織 氏
- 研究の背景と目的
- 研究課題
- 統計的分析に係る環境
- 大学職員においても、統計解析ソフトが広まってきたことの影響でできるようになってきた。その場合、データを正しく扱えているかどうか怪しい場合もある
- 現実的にデータを統計的に分析する場合
- 大学教員に相談しながら、というのが一番早い
- 自学自習は正直、時間もかかるので教員の助けを借りながらやるのが良い
- 多くの大学職員は、多かれ少なかれ近しい大学教員からアドバイスを受けながら統計的分析を進めていけるのではないか。
- 当該大学教員が専門とする専門分野での慣例に依存しやすくなる傾向があるのではないか。
- その点を考慮すると、職員向けの統計的分析能力は大切なのでは?統計的分析に関しても、様々な学問領域の教員毎にやっているのでは。知らない間に、結果として誤った分析方法の選択、十分な説明量がない統計モデルということに陥っていることもある。
- 統計リテラシーや統計学的背景を持たない者が、業務上の要請や自己の研究に必要なため統計解析ソフトに基づいているので、正しい統計知識で検証が必要
- 統計的分析手法でも、大学行政管理学会の発表においても、様々な手法のアプローチが出てきている。
- 大学行政管理学会で発表する場合、どの程度の統計処理レベルや分析方法が適切なのか?
ワークショップによる人的ネットワーク形成などに関しては、なかなか面白い提案ではないかと思います。個人的に気になったのは、統計的な理論背景を理解しない状況で分析する事は怖いということです。これは正しいと言えます。
統計に関する公的検定試験としては、日本統計学会が実施している「統計検定」*12がありますので、求められるレベルの試験に合格できるだけの基礎知識を付ける事が大切ではないかと思います。また、入門者向けの講座として私がオススメなのは、NTTドコモが運営するgaccoにて日本統計学会が提供する「統計学Ⅰデータ分析の基礎」*13と総務省統計局統計研修所が提供する「社会人のためのデータサイエンス入門」*14です。私自身、統計に関する知識は持っていませんでしたが、IR関係の仕事をするようになって最低限の知識は必要であることから、両方の講座を受講し、修了しました。
事例研究発表は全部で4グループに分かれているのですが、今回は自分自身も発表をチャレンジしようと思いまして、他の方の発表を聞くことができなかったのが心残りです。今回の研究集会を通じて、色々な課題なども浮き彫りになったかと思います。是非継続してこのことに関する議論を積み重ねていくことを望みたいです。そのためにもソーシャルメディア等のツールを上手に活用していければいいのではないかと思います。
*1:平成27年度第19回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました(1日目) http://d.hatena.ne.jp/high190/20150908
*2:大学行政管理学会第19回定期総会・研究集会 http://togetter.com/li/873455
*3:梅澤貴典「大学職員が社会人大学院で学ぶ意義とは?」 http://www.slideshare.net/takanoriumezawa/ss-43688505
*4:梅澤貴典「誰でもできる!知的生産のための図書館&公的データベース活用法」 http://www.slideshare.net/takanoriumezawa/ss-37392161
*5:梅澤貴典・大学職員のための情報収集法 http://www.slideshare.net/takanoriumezawa/ss-35032215
*6:集団凝集性(グロービス経営大学院・MBA用語集) http://gms.globis.co.jp/dic/00693.php
*7:東京大学大学院教育学研究科大学経営・政策コース設立10周年記念シンポジウム「大学経営・政策人材と大学院教育」に参加してきました http://d.hatena.ne.jp/high190/20150403
*8:大学職員の枠からはみ出た人たち−大学院進学をめぐる議論から(Curation) http://setapapa.net/20150920/
*9:大学職員と大学院〜SD・SD・PD〜(大学アドミニストレーターを目指す大学職員のブログ) http://as-daigaku23.hateblo.jp/entry/2015/09/07/180000
*10: (2015.9.6) 大学行政管理学会 分科会 大学院進学(システム担当ライブラリアンの日記) http://blog.goo.ne.jp/kuboyan_at_pitt/e/287a87091b6095c4553a99fd34e29d83
*11:大学職員独自のワークモチベーションとメンタルヘルスに関する研究を調べてみる http://d.hatena.ne.jp/high190/20131113
*12:http://www.toukei-kentei.jp/
*13:https://lms.gacco.org/courses/gacco/ga014/2014_11/about
*14:データサイエンス・オンライン講座「社会人のためのデータサイエンス入門」 http://gacco.org/stat-japan/