Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

平成28年度第20回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました(2日目)

high190です。
今回も第20回大学行政管理学会定期総会・研究集会の第2日目の記事になります。初日の記事はこちらをご参照下さい。*1また、今年も全日程を通じて参加者有志によるtwitter実況も行われ、togetterにまとめていただきましたので、本記事と併せてご覧ください。*2

2日目はパネルディスカッションからスタートしました。テーマは「未来を拓く」ですが、多様なパネリストによる踏み込んだ議論が行われていたのが印象的でした。なお、ブロガーの瀬田博さんが既にまとめを作って下さっているので、是非こちらもあわせて参照しながら読んでいただければと思います。*3

20周年企画パネルディスカッション テーマ:「未来を拓く」(大学の未来・職員の未来、そしてJUAMの未来)

  • パネリスト:松本美奈 氏(読売新聞専門委員)、倉部史記 氏(NPO法人NEWVERY理事、高大接続事業部ディレクター)、水野雄二 氏(獨協大学教育研究支援センター次長)、竹山優子 氏(筑紫女学園大学学生支援課係長)、松田優一 氏(関西大学学生サービス事務局学生生活支援グループ)
  • コーディネーター:足立寛 氏(立教大学総長室渉外課担当課長・教育懇談会事務局・立教セカンドステージ大学事務室)
  • コーディネーターから各パネリストの紹介。まずは孫福初代会長の寄稿文に触れる形から始めていきたい。
  • 松本さん「大学の未来を拓くのは誰か」
    • 「大学の実力」調査から大学の現状が如実に現れている。学位に付記される名称について、非常に多岐にわたっていて、何が学べるのか、そもそも学問であるのか分からない。AO入試の退学率の高さ。6年制薬学部の卒業率の低下傾向、基礎学力の低下に伴って退学率が上昇している。
    • 入学時の学生年齢が18歳に大きく偏っている。学生の多様性は望むべくもないのが実情である。大学職員が大学の今後に想像力を持って、高等教育の将来像を描いていってもらいたい。
  • 倉部さん:大学選びという観点で、WEEK DAY CAMPUS VISITという取り組みを展開。
    • 「普段の授業を高校生に公開しませんか?」という提案を大学の入試広報課長に行う事が多い。では、この提案を受けたらどのように対応するのか?
    • 基本的に共感するが・・・「お金がない」、「人手がない。忙しい。」、「(競合の)○○大学はやってるのか?」、「教員の同意が得られない」、「上のリーダーシップがない」、「授業は教務課の管轄だから」、「うちの授業を見せたら志願者が減る」などなど。という人が多い。これは大学アドミニストレーターなのか?
      • 政策検討・実行の行動指針がない?
      • 組織間の壁を越える提案に不慣れ?
      • 全体最適化を担う意識に乏しい?
    • 「3カ年計画でゴールを設定しよう」、「どこもやってないなら、チャンスですね」、「まず○○学部から始めてみましょう」という反応をする人もいる。
      • 自分たちで成果を設定している
      • 成果から逆算して手段を講じている
      • 所属に関わり無く全体最適化を意識
    • この2人は何が違うのか?これこそ「政策提言能力」ではないのか。
    • 他の部署と連携せずに成果を挙げられる大学改革は存在しない。エビデンス重視の議論。IRを特殊なものとして考えるのではなく、日々の業務の中でIR的な発想を持ってデータを活用していく事が必要。
      • エビデンス重視の議論が大事、調査・分析も職員の専門性のひとつ。急にはできないので、若いうちから仮説・検証の繰り返しを!
      • 課題から逆算して、解決に必要なプロセスを組み立てる
    • 「貴学の中間管理職が他部署との連携を恐れないアドミニストレーターであるかどうか。それは貴学の経営はもとより、日本の社会問題解決にも関わる重要な問題」
  • 水野さん
    • 松本さんの指摘にあった経営と教育の不等式だが、現在の大学がアカデミック・キャピタリズムのようなものに成り下がっているのか?という視点での意見だと思う。戦後の教育運動で民主教育などを通じて、様々な学校が生まれた。看板になる代表者が一流の講師、学生が集まって、非常に大きな成果を挙げたが、数年で破綻した。理由は財政の破綻。これらに足りなかったのはビジネスアドミニストレーションである。学校を運営する知識・スキルを持つ人がいなかったことが原因だろう。では、ビジネスアドミニストレーションを誰が担うのか。職員である。
    • 孫福さんの意見、具体的な専門性は何か?という点は曖昧なままだった。30数年前に教務事務を担当していたが、上司・先輩職員を見ると「ルールだから」「ここに書いてあるから」という伝家の宝刀を抜いていた。大人しい学生でも不満はたまる。「違うだろう」と思った。制度趣旨などを踏まえた根拠を調べた。学生相談室に出かけていって、カウンセリングマインドについて、学生とどのように向き合ってどのように話せば良いのかなど、ごく基本的な学生との話し方を学んだ。
    • 仕事が変わると、学生の相談を受けるのが難しくなる。それまでに身につけた専門性をどう活かすか。自分自身のライフデザインで、自らの専門性をどのようにして修得していくのか。そういったものを実体験として持っていた。1982年に大学職員となり、七転八倒をたくさんしてきたが、そういった経験を通して自らの立ち位置が分かってきた。松本さんの意見には、既存の学会への批判があったが、個人的にはJUAMは既存の学会ではないという理解である。大学職員が業務の知見をどのように活かすか。
  • 竹山さん「職員の天井」
    • 1985年に男女雇用機会均等法、労働者派遣法、第三号被保険者制度(女性の分断元年)
    • 孫福さんのキーワード「ビジョナリーリーダー」:自らが組織の革新的なビジョンを示して構成員全体に向かうべき方向を示す能力、経営トップに向けて
      • 女子大学研究会、女子大学の今日的意義とは。男女共同参画社会の実現に向けて。女子学生のリーダーシップを育成するのに、「女性職員はこのままでいいのか」
      • ビジョナリーな視点が足りないのではないか。リーダーシップを発揮する環境をどのようにして若手職員に提供していくのか。性別役割と職務役割の関係性を今一度考えないといけないのではないか。
    • ビジョナリーリーダーシップ。学び続けながらアウトプットの機会を積み重ねていく事。知見・専門性を高めるために、JUAM(アカデミックを背景とした現場力)を活用する。最終的にアウトプットの対象は学生であることを忘れない。
  • 松田さん「若手・中堅職員から見た「現在」と「未来」」
    • JUAMなどでも若手・中堅職員としての活動をしており、若手・中堅職員の代表として生の声を伝えたい。
    • 大学改革研究会の活動。若手・中堅職員のピア・サポート。同世代の仲間が企画運営していく、学び合う場を作る。
    • なぜ、若手・中堅職員は大学改革研究会に集うのか。
      • 夢の場所で働きたい!
      • 学生のためにもっともっと役に立つ職員になりたい!
    • 自分なりに苦労して内定を勝ち取った。学生の能力開発に役立ちたい。多くの若手職員が熱い思いをもって入職してくる。現実は、「未来を拓く」なんて考える余裕が無い。若手・中堅職員が主体的に取り組めるものではない。
    • 若手・中堅職員の現状
      • 目の前の業務に追われている
      • 大学は危機的状況らしいという現実
      • キャリアビジョンをイメージできない
    • 志をもって大学職員になった人も、日々の業務で忙殺される中で当初の志を失っていってしまう。JUAMの近畿地区研究会に参加したところ、役員の方々から「何かやって見なさい」という形で背中を押された。そして、活動が停止していた大学改革研究会を引き継いで運営していく事になった。
    • ごくごく普通の若手・中堅職員が趣味的に集っているのが実情だが、その中で多くの気づきがあり、研究会でのイベント企画・運営を通じて、高等教育の最新情報に触れるなどのメリットがあった。
    • これからのJUAMに求めること。
      • 学会員のチャレンジに寛容な学会であり続けて欲しい。学会員がより一生主体的に参加し、JUAMを味わい尽くしてほしい。暗い未来の話ばかりだが、業務でなくプライベートでやっているので、我々が未来を変えていくのだという気概を持って活動していきたい。自分が動けば周りも付いてきてくれることを信じている。
  • これからのJUAMはどうあるべきなのか。(フリートーキング)
    • アカデミックな分野も必要である。自由な研究の機会が与えられているならば、
    • 知識に裏付けられた実践知という話があったが、具体的な事例があれば回答いただきたい(松本さん)
      • ワークショップを中心としたピア・サポートを行っている。(松田さん)
      • 人事、財務という領域は具体的な問題。各大学での知見などを集約し、そういった点を各大学で活かしている意味では具体的な事例である。(水野さん)
    • 先ほど出した例の中で、3番目のパターンの対応をした人がいる。WCVの提案をして、即決した課長がいた。自分たちの大学では既に行っていた、ということだった。その2校は産業能率大学金沢工業大学だった。(倉部さん)
    • 大学は教学、大学経営の2本の縦糸を紡ぎながら経営していかなければならない。(水野さん)
    • 意識の高い仲間と活動する事が刺激になっており、JUAMに入会して大学改革研究会に所属しなければ現在のような立ち位置にはなっていない。具体的に何かを得た!ということはない。(松田さん)
    • 最近は大学間で異動する人も増えているが、その多くの人たちが大学行政管理学会での発表などを行っている。人材バンク機能を学会が意識的に持つかどうかは色々議論があると思うが、このまま大学で働いていて大丈夫か?と思った事はないか?例えばNEWVERYにはそういった思いをもって、大学職員から転身してきた人が何人もいる。(倉部さん)
    • 根回しと腹芸。これだけで結構仕事ができる、特に管理職になれば。ところが様々なステークホルダーが出てきた今、それだけではやっていけない。何らかの理論や知見に基づいたマネジメントが必要だし、そのマネジメントに基づいた仕事ができないといけない(水野さん)
  • 松本さんに、「こうすればさらにJUAMが良くなる」という提案があれば教えて欲しい。(足立さん)
      • 現在は補助金誘導型の政策なので、ある意味において、大学が初等・中等教育化することにも繋がり得る。そういったことを避けたいのであれば、各大学が自律的にカリキュラムマネジメントを行って、3つのポリシーを実質化させていくことが必要なのではないか。(松本さん)
  • 質疑応答
    • JUAMが無くても活動はできるが、JUAMとしてアーカイブを残すという点で、JUAMだからこそこういった査読方針を採用するということがあるのか。
      • 学会誌という名称である以上、クオリティの担保は必要だと思う。しかし、発行する媒体などは変えていく事も必要なのではないか。
  • 【まとめのコメント】
    • JUAMの良さは懐の広さ、寛容性だと思う。しかし、規律と涵養の両方がある事で多様な学びに繋がると思う。若手にチャレンジする幅の広さを持ち合わせて欲しい。(松田さん)
    • JUAMはバラエティ豊かな学びの場だと思う。人を育てる場合、育つ側が文句を言うチャンスがある。そういった意見を踏まえて原点に戻る事も必要。(竹山さん)
    • 今までの大学職員はオペレーションに対するオペレーターだった。しかし、大学の高度化を支えるためには自律的に企画・提案を行って組織を動かす人物が必要。よって本学会は職員がアドミニストレーターとなることを目指してきた。これからはイノベーションであると思う。変化を見つけて変化を分析し、変化を利用することが大切なので、そうした職員になっていってもらいたい。(水野さん)
    • 水野さんの意見にあったイノベーションは本当に重要だと思う。「学生は未来からの留学生」という加藤寛先生のコメント。未来を最も確実に実現するためには、自分が未来を作っていくこと。良くなった部分もあるが、まだ未解決の点もある。30周年を迎えるための学会活動であればいいと思う。大学で働いていくために、やらなければならないことは多くある。止めるのは難しい。しかし、それを打破していくのがエビデンスだと思う。(倉部さん)
    • これからの社会に相応しい誰も考えていなかったあたらしい大学を、みんなで作っていくことが必要(松本さん)

個人的に今回のイベントで最も面白かったのがパネルディスカッションでした。大学職員、元大学職員や新聞記者など多様なメンバーが大学の将来、大学行政管理学会の今後についての意見を戦わせていたのが興味深かったです。個人的には倉部さんのコメントで「刺さる」事柄が多かったです。イノベーションの重要性の話が出ましたが、大学の事務職員という仕事柄、どうしても内向きな世界に籠りがちになってしまうのは否定できないところです。しかしながら、大学こそが変革を担う人材を送り出していくという使命を与えられていることも事実です。その中で職員がどのように行動し、また大学も職員に対して何を求めていくのか?という点で、未来を拓く職員になるためには大学内にとどまることなく、積極的に他者と協働する機会を作っていく事が必要ではないでしょうか。
他部署と連携せずに達成できる大学改革は存在しない、との倉部さんからのコメントがありましたが、大学での教職協働、産官学連携、地域連携など最近の大学にまつわるトレンドには連携・協働という文字が多くあります。他者を動かし、自らを変革していけるリーダーシップを発揮できる職員になる事が、未来を拓くということに繋がっていくのではないかと感じました。個人的にはSD義務化にあわせて検討すべきは、大学の執行部、教職員におけるリーダーシップ開発ではないかと思っています。そのことについてはまた別の機会に取り上げてみたいと思っています。

Ⅰ−8.「社会一般の人材育成・人事制度等と対比した高等教育機関のそれの特殊性は何か?」中元崇(京都大学医学研究科教務・学生支援室/名古屋大学教育発達科学研究科高等教育学講座・博士後期課程)

  • 研究目的:本研究では社会一般の労働情勢・慣行と高等教育機関の人材育成・人事制度を対比・整理し、今後望まれる人材育成・人事制度のあり様の提起を行う。
  • 日本型雇用システムの本質:雇用契約の特質
    • 濱口(2009)「雇用契約は空白の石版」「雇用契約の法的性格は、一種の地位設定契約あるいはメンバーシップ契約」の指摘
    • 個々の「職務」ではなく、組織に「所属」するメンバーシップ、人を職務に貼付けるシステム。
    • 新規定期採用制度:ポテンシャルに期待してメンバーシップを付与
    • 人事担当部署の中央集権的な採用管理:組織文化に適合的な人材化が第一義。個々の現場の希望は考慮されない。
    • 定期的な人事異動制度:ジョブ・ローテーション、玉突き人事、個人のキャリアパスなどは基本的に考慮されない。ジョブに応じてではない。人員管理、組織体制の維持が優先される。特定の職務に熟達しがたい(スキル熟達による転職が困難)
    • 企業内教育訓練の充実:個人の専門性と人事異動は基本的に不整合、一定の企業内教育訓練(OJT含む)が必要
    • 長期勤続者の優遇:ボーナス支給、退職金
    • 賃金と職務の分離:能力の代理指標としての年功制、職種別労組が未発達、無期限・無定量の業務(効率性の欠如、経験曲線効果が働かない)
    • 定年制:定期採用の裏返し、定期的に雇用終了。
  • 日本型雇用システムの利点と機能不全
    • 社会設計の上で想定しやすいモデル。しかし、社会変動の中で雇用システムが適応できなくなってきた。フルタイム非正規・ブラック企業問題
    • 大学においては事務系の専任職員において、日本型雇用システムを適用
  • 90年代以降の高等教育界の変動
    • 市場化、国際化、ユニバーサル化、ICT化の進展(従来の延長線上での対応は限界、諸業務の高度化・多様化の進展。しかし、アウトソーシング・電算化には限界)
  • 孫福弘のプロフェッショナル論
    • 二つの職務機能とプロフェッショナル機能
      • しかし、日本型雇用システムとプロフェッショナル型の雇用は接合が悪い
      • 大学における高度専門職導入の議論に対する違和感。菊地(2016)の指摘
      • メンバーシップとジョブでは異なる能力観。一緒に扱うのは無理。
        • 政策・制度レベルの諸要因の検討
        • 組織レベルの具体的な制度の検討
        • 個人レベルのキャリア成長とクロスプロフェッショナル化のあり方の検討
  • 質疑応答
    • 留学生からも日本型雇用のあり方が分からないとの質問がある。また、企業からしても働いてもすぐに止めてしまうとの評価。
      • 学術・経営専門職機能と大学アドミニストレーター機能の2つを孫福氏は指摘している。例えば弁護士資格を持つ職員を職場でどのように活用するかという点では、法務系業務のみ・ゼネラリスト志向の双方を見ていくことが必要。立命館と京大が人事交流制度を持っており、難しい部分は、同一賃金ではない中で同じ仕事をしていたという実情がある。市場的な意味で、ジョブの内容で給与が決まるようなあり方を検討していく事には可能性があるのかもしれない。
    • ジョブ型人材を交えた雇用管理は非常に難しい。古典的プロフェッショナルは専門職団体が存在している職業。弁護士、医師など。例えば学習支援専門職を位置づけるならば、職務内容のルーブリックで評価するなどの方法も検討できる。

高度専門職、専門的人材などジョブ型志向の大学職員のあり方が議論される中で、社会一般での雇用・人事と大学の特殊性との比較を通じて、今後の職員育成のあり方を論じた研究発表でした。中元さんの発表にはこれまでもほぼ参加しているように思いますが、今回も興味深く聞かせていただきました。
個人的に思う所があるとすれば、雇用や研修などのあり方を検討する際に、独立行政法人労働政策研究・研修機構*4の学術誌「日本労働研究雑誌」*5や「ビジネス・レーバー・トレンド」*6などが参考にできるのではないかと思っています。学生時代に所属していたのが人的資源管理(Human Resource Management)のゼミだった事もあり、機構のメールマガジンはいつも興味深く読んでいます。また、中元さんが紹介されていた濱口圭一郎先生も機構の研究員です。*7 *8

Ⅱ−7.効果的なSDの企画と実施−テーマパークの事例を参考に−松丸英治(昭和女子大学学長室)

  • 学生時代にアルバイトした某テーマパークと現職での研修制度の違いを感じた事から、SDに関するテーマでHRMに関連する内容をお話する。
  • 本研究の課題・目的
  • なぜ研修(人材育成)するのか
    • 組織は戦略に従う(チャンドラー)
    • 構造は戦略に従う。組織構造は組織が目的を達成するための手段である(ドラッカー
    • 組織論と現実では乖離がある。企業では人材育成・育成も投資。成果が求められるが、大学ではどうか?
  • 非営利組織の戦略
    • 戦略の重要性を知る、人をトレーニングする、廃棄のシステムをつくる
    • ポイントとしては「強みに焦点を合わせる」ことが非営利組織では重要。ドラッカーによる指摘。大学におけるSDの実施状況は国公私立を合算しても82.5%である。中身としては「職員としての基本的なスキルの修得を目的とした内容が多い」しかし、SDの効果検証は行われていないという指摘。岩崎
      • 現在行われているSDの必要性は本当にあるのだろうか。効果検証が行われていないSDに意味はあるのか。
      • 某テーマパークにおける研修。効果検証を前提とした研修制度が設計されている。合格しないと配属されない。不合格だと再研修。Disney University。かなり充実した研修施設。自分が何のための働いているのかを明らかにする。カストーディアル(清掃)マニュアルにもフローチャートがある。組織のビジョン➡組織のミッション➡部署のミッション➡部署の業務運営方針➡部署の作業という形でブレイクダウン。「毎日が初演」として業務に当たる。
      • 「現場のルールに理念を紐づける」
  • マニュアルの目的
    • 一般企業:個人の力を引き上げるため
    • ディズニー:現場のチーム全体の機能を押し上げるため
      • ストレンジャー:取り組むべき事を理解していない。
      • ディスリガード:定められたルールを軽視する
      • マインドレス:本質を理解していない
        • シンプルで明確なマニュアルを作る:全員を戦略に変える(研修)
        • 例えばディズニーランドで「ウォルト・ディズニーの理念は?」と聞けば、全員が答えられるように「訓練」されている。
    • 効果測定:相互で研修効果を確認する
      • 入社後の講義➡ペーパーテスト➡実地訓練➡実地テスト、OJT➡チェックシート、観察による評価
  • マニュアルに基づく効果検証
    • モチベーションを高め、ステップアップも踏まえた研修体系を形成。
    • 研修は、効果を確認することが前提
    • おはよう日本での紹介事例:2016/09/02
      • 近年、顧客満足度が下がってきている。ベテランキャストに対する顧客満足度向上のための接客力の向上
  • OJTでの事例
    • 研修で学んだ事を実地訓練で確認する。トレーナーとペアで業務を行い、一つ一つ作業手順を確認する。ミッションを理解した行動がとれているか確認する。効果測定方法は観察。トレーナーにも研修実施のポイントが定められている。マニュアル以上のことができるようにするために、マニュアルの的確な整備が必要不可欠ではないか。
    • トレーナーの仕事は通常業務のプラスアルファ。トレーナーをさせることでトレーナー自身の成長にも繋げていかなくてはならない。
      • SD(研修)の必要性:テーマパークでの事例は大学に当てはめていくことが可能なのではないか。ドラッカーが提唱する戦略そのものをテーマパークではやっている。大学とテーマパークの間で研修の目的に差がある?
      • SDの効果検証:効果が分からないものに投資をする意味は?東京ディズニーリゾートは3000億円程の年間売り上げがあると思うが、米国本社との取り決めで売上げの一割
    • 大学のSDは大学の理念・目的と紐づける事で、効果が出てくるのではないか。
      • 大学として必要な組織能力の把握➡所属員の能力の把握➡必要な人材と能力の把握➡SD(研修)➡効果の検証、または何に紐づけるか➡効果のある・意味のあるSDになるのでは。

某テーマパークの事例を元に、効果的なSDのあり方を模索するという興味深い内容でした。松丸さんの発表もほぼ毎回聞いているのですが、立教大学MBAを取られている事もあって、ビジネスアドミニストレーションのケースを馴染みやすいテーマパークに当てはめる事で分かりやすく説明されているのが特徴です。個人的には去年の発表でも効果検証の必要性を指摘する意見があったと思うのですが、確かに大学のSD研修においてはその視点が欠けているように感じます。
これは昨今の大学教育改革で質的転換が謳われ、修得主義から学修成果の評価に移行する過程とよく似ているように感じます。つまり、SDにおいてもただ受講するだけではなく、具体的に何が身に付いて何ができるようになったのかを測定可能にする設計が必要だという事です。この点においては、中元さんの発表の質疑応答で職務内容のルーブリックについての話が出ていたように、SDに関しても効果測定を可能とするためのルーブリックなどを検討していく事が今後のトレンドになるかも知れませんね。

Ⅲ−8.私立大学のガバナンス改革−内部対立構造を防ぐ組織設計を考える−杉原明(学校法人工学院大学総合企画部長)

  • ガバナンス改革というタイトルを付けたが、ガバナンスには様々な定義があり、内容面ではマネジメントの部分が入っている。また、テーマに入っている「内部対立構造を防ぐ」という点では、内部対立によって適格に意思決定ができない場合、大学の存続に関わる。よって、意思決定の仕組みの部分をどのように改革するか、具体的には寄附行為の変更等も含めてお話する。
    • 工学院大学は2キャンパス、学生数650人の工学系大学。最初の15年間は産業能率大学で勤務していた。オーナー系の大学。良い事もあれば良くない事もある。工学院大学に移ってきた際、民主的な大学だと思った。ただ反面、教授会で一人が反対したら決まらない面もあった。それでいいのか?という面もある。
    • 現在の理事長は卒業生で企業経営の経験を持つ人物であるが、企業的なガバナンス・組織設計の考え方が入ってきた。その中、工学院で寄附行為の変更等に至ったという経緯である。
  • ガバナンス改革の目的とは
    • 適切な組織運営による強い組織作り➡私立大学の具体的な課題(責任と権限の所在)①経営(理事会)と教学(大学)の関係の明確化、②学長(大学)と教授会(学部)の関係の明確化、③理事会と評議員会の関係の明確化➡決められない組織から決められる組織へ。経営と教学は車の両輪。
  • 私立学校法改正(2004)の目的
    • ①理事会は学校法人の最終的な意思決定機関、②評議員会は諮問機関(多様なステークホルダーの代表)、③監事機能の強化(学校法人の適切な運営チェック)➡役割分担(分化)による機能の強化
  • 学校教育法改正(2014)の目的
    • 学長と教授会の関係の明確化、①学長が業務執行を決定する(学校法人としてどこまで学長に委任するかは各法人で検討)、②教授会は教学事項に付いて意見を述べる➡教授会は決定機関ではない(諮問機関的役割)
  • 組織・業務決定・内部規則の体系イメージ
    • 体系が明確であれば、運営に混乱は生じない
  • 学校法人工学院におけるガバナンスの問題
    • ①理事会と教授会・学長の権限および責任の分担、②理事会と評議員会の権限および責任の分担、③理事および評議員の定員を削減
  • 寄附行為の見直し
    • 評議員会の議決事項、諮問事項の見直し
    • ②理事、評議員の定員および選任方法の見直し
      • 理事6〜9人、評議員定員を33名に。職務上の理事・評議員を原則廃止(適任者を選出)
  • 学長選考方法の見直し
    • 理事会が学長の任命責任を実質的に負う仕組みに。
    • 学長選挙を廃止、理事会が次期学長のミッションを提示し学長選考委員会を設置、学長選考委員は理事会・教授会・評議員会から各機関の互選。経営の視点、アカデミックの視点、ステークホルダーの視点
  • 人事制度の見直し
    • ①職員人事制度の見直し:職能階級制度、目標管理制度の導入
    • ②教員人事制度の見直し
  • まとめ:内部の対立を防止するためのガバナンス強化
    • 理事会が最終意思決定機関。よって理事長も学長も理事会の決定に従って業務を執行する。ガバナンスの強化こそが無用な内部対立を防止する手段。
  • 質疑応答
    • 工学院大学では監事機能の強化という点で、どのような取り組みをしていたのか。
    • いずれは常勤の監事を置く予定である。現状では非常勤監事2名の体制だが、財務関連の内容のみならず教学関係の業務監査ができる人物の採用がポイントである。
    • 職員人事制度の導入と組合との関係性については。
      • 色々あったが、何故ダメなのか?ということを組合側が示す事ができなかった理由である。こういった点について、ロジカルにやっていくことが非常に重要である。
    • 所属大学でもガバナンス改革を実施したが、発表内容を聞いてよく内容が整理できた。ガバナンス改革の成否は、改革内容を構成員にしっかり伝えていくことが重要だと思うが、どうか。
      • 部長レベルには会合の中で話しているが、教員や他の職員に関してはこれから説明していく段階である。全構成員にしっかり説明していく予定である。
    • 合議制を前提にしていると、ガバナンス上の難しい面もあると思うが、合議制の意思決定のアジェンダ・方針などはあるか。
      • やらなければいけないと思っている。理事会が責任を持てる集団にしていくことは必要。理事会のメンバーには重い責任があるから数も少ない。合議制が無くなると理事長の暴走を止められない体制にもなってしまうので、リーダーシップと合議制のバランスを取りながら運営する事が重要。委員会の設置に関しても学長の権限で置くように変える。大学に権限と責任を与えるから、そのために必要な組織構成を考えていくべきではないか。

大学におけるガバナンスの問題は、法改正などによって大きな影響を受けますが、その趣旨を理解して自学に適合的なガバナンス体制をどのように構築するのかということで、実例を元にした内容でした。私自身、現在は法人事務局で勤務しているため、ガバナンス体制の適切な構築という点で関心を持ってきいていましたが、個人的に感じたのは意思決定のあり方を見直すと同時に人事制度なども検討することに意味があるのではないかという部分です。
より具体的に言えば、杉原さんの所属部署である総合企画部が司令塔としての役割を果たし、トータルプランでガバナンス改革を進めていった事が良いのではないかと思った次第です。法人部門でも総務、人事、企画、財務など機能別に分化した組織を持つ大学も多くあると思いますが、それぞれが分かれているとなかなか意見を調整・集約するのは大変な事です。スピード感をもって運営するためにも総合企画部のような総括部署を置くということは、大学事務組織の合理的運営という面でも参考になります。反面、総括部署を機動的に動かせる人材がいないと機能しませんので、高い能力と専門的な知識が要求されるでしょう。まさに大学アドミニストレーターでないと担えない業務だと思います。その一端ではありましたが、杉原さんの発表から大学アドミニストレーターとしてのあり方を感じました。

以上、長々と書きましたが、今回の参加記録を終わりにしたいと思います。来年は福岡の西南学院大学での開催となります。私自身、九州には行ったことがないこともあるので、参加できるかは現時点で未定ですが、もし参加できた場合にはまた多くの学びを持ち帰れるようにしたいと思っています。