Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

平成27年度第19回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました(1日目)

high190です。

9月5日(土)、6日(日)の2日間、大阪の関西大学千里山キャンパスで開催された大学行政管理学会の定期総会・研究集会に参加しました。今年の全体テーマは、「未来の社会を元気にするために大学ができること」です。全2日間のプログラムで、1日目は定期総会、基調講演、懇親会が開催され、2日目はワークショップ、研究・事例研究発表が行われました。今回もhigh190が参加したセッションについて、所感をまとめてみました。内容が多いので今日は1日目のプログラムに関してのまとめです。理解違いなどがある可能性がありますので、悪しからずご了承下さい。昨年度以前の参加記録もお知らせしておきます。*1 *2 *3 *4

第19回定期総会・研究集会(出典:大学行政管理学会Webサイト)

1.開催校理事長講演「この伝統を、超える未来を。〜関西大学 創立130周年〜」(学校法人関西大学 理事長・池内啓三氏)

  • 関西大学の歴史、1886年に関西法律学校が創立。創立者「児島惟謙」の紹介。現在では13の学部・研究科、幼児教育、初等中等教育の付属校を要する。教育の対象者数は約35,000人。
  • 中興の祖、山岡順太郎(総理事、第11大学長)
    • 学是:「学の実化(じつげ)」
      • 学理と実際との調和
      • 国際的精神の涵養
      • 外国語教育の必要
      • 体育の奨励。
    • 現理事長は事務職員出身。職員として大学紛争を経験。職員としては学生支援、就職支援などを中心に経験し、最終的には総務局長を務めた。その後、理事として理事長のサポートをするとともに、幼稚園長なども務めた。
    • 大学時報に書いた記事。2013年1月。ずいそう「事務職員今昔」*5
      • 単純作業に明け暮れ
      • 求められる高い能力や人間性
      • 人事制度改革
      • 真の教職協働を目指して
  • 取り組んだ仕事の紹介
    • 日本能率協会と協働で人事制度を改革。事務職員の意識改革の先鞭をつける。
    • 大学教育職員定年延長制度改革。教員組合と3年間の協議を経て妥結。その他、早期退職制度や再雇用制度などを導入して、ST比の改善を行う事が出来た。*6
    • 学納金訴訟の対応を行い、3月末日までに入学辞退した者には授業料を返還するように命じる判決。大学経営に大きな影響を与えるものだった。*7 *8
    • 長期ビジョンの作成
      • 5つの柱を作る
      • ゴーイングコンサーンとしての学園
        • 教育改革
        • 研究改革
        • 社会連携・生涯学習計画
        • 国際化
        • 学生支援改革
        • 大学入試改革
        • 併設校の教育改革
        • 組織・運営基盤の構築
    • 長期ビジョンに関しては、PDCAサイクルを回す。5年間で中間評価を行い、見直しを行って改訂版を作成する。関西大学2010プロジェクト推進体制図。大阪医科大学大阪薬科大学との協働学部設置については設置基準上の要件を満たすための調整が難航し、残念ながら頓挫。
  • 130周年記念事業の大要。
    • 千里山キャンパスに新たなアクセスエリアの創出
    • 関西大学グローバルフロンティアプログラム」の開発・提供による”次世代グローバルリーダー”の育成
    • 関西大学イノベーション創生センター
    • 天六キャンパスの閉鎖。梅田駅近くで新たに社会人教育の拠点を作る。
  • 大学行政管理学会に期待する事
    • 大学職員は将来有望な職種であると思っている。大学行政管理学会の研究集会も19回を数え、職員の地位向上にも繋がった。中長期計画があり、単年度の事業計画が構築できていれば、やることは明確になる。また、事務職員の役割として、教育職員(教員)をどれだけ動かす事が出来るかがポイントである。新卒職員に対しては、ジェネラリストとして、きらりと光るスペシャリティを持つ事。

事務職員出身の理事長として、職員に求められる役割が変化してきたことを分かりやすい形で説明されるとともに、中長期計画を策定して大学経営を行うことの重要性など、現在多くの大学が取り組んでいる事例などのお話でした。個人的には、過去にブログで取り上げられた教員の定年延長制度改革のお話は興味深く聞かせていただきました。最後にJUAMへの期待が述べられていましたが、私も大学職員は将来有望な職種だと思います。そのために個々の職員が能力開発を積極的に行い、あわせてスペシャリティを持った職員が能力を発揮できる人事制度の構築に向けた検討を、大学行政管理学会が主導して行っていくことが今後の課題ではないかと感じました。

2.基調講演「笑いは百薬の長」関西大学人間健康学部長・教授 森下伸也氏

  • 笑ってくれる会場とそうでない会場は明確に異なる。女性の会場の方が笑い、男性が多い会場は笑わない傾向がある。日本の古典芸能としては狂言がある。これは古典のコメディーなので、こういうものがあることは日本人はもっと誇りに思っていい。”狂言笑い”腹式呼吸で笑うので、呼吸が回る。
  • また、大阪には文楽という古典芸能がある。文楽はひとつの人形に3名がついて動かす。操り手、語り手、音楽隊(三味線)の三位一体で作り上げる。文楽では「笑いに3年、泣き3月」と言われる。それだけ、笑いの方が難しい。
  • 生き写し、朝顔、笑い薬の段
  • 文楽の場合は、狂言笑いと異なる。大学生に「やれ」というと「羞恥心」があるからやらないパターンである。
  • 日本笑い学会・会長」
    • 誰でも入る事ができるが、芸人、メディア関係者、教育者、広告業界関係者などがいるが、一番多いのは医療業界である。医者で”落ち研”出身者は多い。また、医師と同じぐらい多いのは看護師である。薬剤師なども加えると医療関係者が一番大きい。

医学には”ユーモア療法”というものがあり、健康増進・病気の療養などに役立てている事例がある。そのお話をしたい。

    • 元々、ユーモアという言葉は医学の専門用語である。意味は笑いの元、気質、(古義、大体2000年前ぐらい)では体液を意味する。ユーモア療法の歴史だが、1964年に始まった。ちょうど東京オリンピックが開催された年である。オリンピックは10月10日に始まり、10月1日には東海道新幹線が開通した。
    • その反面、世界的には冷戦の時代であり、キューバ危機などがあった。ノーマン・カズンズというジャーナリスト・平和運動家が始めた。キューバ危機でケネディの特使としてソ連のフルシチョフと交渉した人物である。体調不良を訴えて、医者に駆け込んだところ「膠原病」と診断された。治療方法は現在でも確立しておらず、対症療法しかない難病である。その中でも特に回復が見込まれない症状であると言われた。入院してほどなく、ある本を読んだ。その本には「ストレス」という言葉が書かれており、ハンス・セリエという医師が書いていたが、その本には「ネガティブな感情でいると、関節の病気にかかりやすい」と書かれてあった。カズンズは「では、ポジティブな気持ちでいられれば、痛みが和らぐのではないか」と考えた。通常な治療は継続しながら、ネガティブな感情(食事、病院内での知人関係(男性、女性で異なる))を誘発させられるとの思いから、病院を引き払い、ホテルを1室借りる事にした。(ちなみに東京では1日滞在費が30万円の病室がある)
    • 病院で多いのは「病気自慢」である。重たい病気の方が尊敬される倒錯した価値観である。そういう意味でも病因自体がネガティブな環境であろう。スティーブ・ジョブズの例。ガンで亡くなったが、スタンフォード大学の卒業式でのスピーチを行ったが、"Stay Hungry, Stay Foolish"と言った。意味を考えると愚直であることを説いた。
  • 「災害は忘れた頃にやってくる」
    • 「科学者は頭が悪くなければならない」物理学者・寺田寅彦の言葉(夏目漱石との繋がりがある)
    • 「細胞の初期化」iPS細胞の山中伸哉
    • ノーマン・カズンズは、笑うために友人のテレビのディレクターに頼み、コメディー番組の編集してもらったものを見て、極力笑うように務めた。それを繰り返すうちに、徐々に痛みが取れてきた。その結果を医師に伝えたところ、細胞の一部を顕微鏡で見る事になったが、結果として徐々に痛みが減っていき、元の生活に戻る事ができた。そして、仕事に戻っていくが、発病から5年後には完治してしまった。そして、ジャーナリストの特性を生かして「闘病記」を書いてみたところ、大変な反響があった。
    • ノーマン・カズンズの書籍を受けて、笑いを治療に活かそうという医師が現れた。"パッチ・アダムズ(映画にもなった)"ロビン・ウィリアムズが演じている。当のロビン・ウィリアムズ鬱病になって自殺してしまっている。そのことも因果があると感じられる。
    • 病院の道化師(”ピエロ”は和製英語=クラウン)が欧米ではいない病院を探すことの方が難しい。
    • インドではヨガと笑いを融合させた取組も出てきた。ラフター・ヨガ。
    • 日本人の死因の一番はガンであり、3人に1人がガンで亡くなっている。笑いはがんに効くということ。交通事故などの突発的な事象は、”生きている間にやってみたいこと”をできない。その点からするとガンは時間はあるので、死に方としては悪くない。

ガンのポジティブな呼び方として”ポン”を日本笑い学会で考えた。人間の細胞は1日に1兆死んで、新しく1兆生まれるが、そのうちガン細胞は5000ほど生まれてくる。その反面、NK細胞を作り出して対応しているが、その力が弱くなってくるとガンになる。笑いはNK細胞を強化する効果があり、医学的にも実証されていることである。

  • 薬と笑いには3つの違いがある。即効性、経済性、副作用が無い。笑うとコルチゾールという物質が出て、ストレスを緩和してくれる。笑うと脳波にも変化がある。α波とβ波が出る。休息と元気によって人間は生活しているが、そのリズムを笑いがもたらしてくれる。また、脳血流を良くするということにも繋がりがある。

健康と笑いの関連性ということで、開催校の関西大学人間健康学部長・教授の森下伸也氏による講演でした。笑いの中に学問的な観点を入れながら、会場も巻き込んだ"アクティブ・ラーニング"の講演で圧巻でした。私自身も大学職員のメンタルヘルスについての関心があり、以前にそういった記事も書いたことがあります。*9能率・クオリティ面でも高いアウトプットを出すためにも、心身の健康が重要であることは言うまでもないことですが、笑いの面から健康を考えるという、とても楽しい基調講演でした。また、スティーブ・ジョブズスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチが話題になっていましたが、動画は公開されているので、こちらでもお知らせします。

3.ワークショップ「大学のガバナンス(改正学校教育法施行後の教授会等の教学組織における会議運営及び学長の校務の範囲について)」

  • 改正学校教育法に基づく学長までの意思決定手続について
    • 入試判定の判定結果などについて、学長の承認を取りにくいような場面がある事から、審議事項が報告事項になったということはない。
    • 学事研究会でも同様の議論になったが、代議員制(学校教育法施行規則第143条)の活用などによって、スピーディな意思決定が行えるとの意見もあった。
    • 入試の場合は、最終の決定権者は学長である事から、副学長を置いている大学に関しては、事前の学長が校務上の権限を委任すれば、副学長の決定でも可とできる。ある意味において、国立大学法人のガバナンスを見ると、理事長・学長が兼務されていることから、私立大学よりもリーダーシップが発揮しやすい面もある。
  • 改正学校教育法に伴う学内運営上の主な変更点について
    • 教授会議事録に関する変化など、以前は「教授会が決定した」という表現の大学もあったと聞いているが、「教授会が承認した」などの文言を使う事に改めた大学もある。議事録の扱いは変えないが、学長裁定で教授会議事録の位置づけを明確にした大学もある。
  • 学長のあり方について
    • 学長選考のあり方について、選挙制度と指名制度のメリット・デメリットがあること、政治と経営の意思決定の対比から、大学における経営のあり方についての討議を行った。また、私立大学の学長は、理事会と教授会の調整者として(ある意味で「課長補佐」のような中間管理職的な役割)
    • (参加者意見)民間企業から転職してきた時には、学長選挙などは普通あり得ないと思っていたが、学校法人で働くにつれて、株式会社の場合は株主総会によって、社長が罷免される例もあるが、私立学校の場合には所有者不在の状況もあり得るので、選挙で選ばれることもあり得るのではないかと思っている。
    • 私立大学の学長においては、自分がやりたい施策を踏まえつつ、理事会の意向を尊重できる人物ではないか。以前は学部長は選挙で決めていたが、法改正を受けて学長指名に切り替えた。ただ、教授会は自らの意思を示すために、教授会でも学部長候補を選考していた。
  • 学長以外に、副学長、学長補佐を置くことによって対応しているが、そういった教学役職者の選任にあたって、職員にも選挙権を与えている大学はあるのか?
    • 学長選挙において、課長以上の職員に投票権があるケース、全職員に投票権があるケースなどがある。
    • 大学の運営形態を考えると「選挙」という形式が成り立ち得るか?
    • 諸外国においては理事会が決定するパターンが多い。選挙全てがけしからんということはないが、「施策の方策」「業績評価」など、アカウンタビリティの観点で選挙は問題があると思う。
    • 学長の評価という観点では、私立大学では機関別認証評価は学長に対する評価と考えられるので、任期を7年で設定するなどのこともできるかと思う。
    • 東北大学の学長選考については、経営協議会・教育研究評議会・推薦という形態を取っているので、バランスが取れていると思われる。
    • 例えば、当該大学にとって「改革を実施したい」と思う大学において、選挙よって選ばれた学長では、理事会が思う改革を進められないのではないかと思う。そういう点で選考委員会方式と選挙方式の両面を取り入れていくのがいいのではないかと思う。
  • 理事長、学長の職務権限を定めている大学はあるか?
    • ある大学のケースでは、寄附行為施行細則という形で職務権限を明確に定めているケースがある。
  • 他組織のガバナンスと学校法人ガバナンスの比較について
    • 私立学校における理事会は「自己チェック型」なので、性善説に立った上での運営形態となっている。
    • 学長と現場がいかにコミュニケーションを取れるか、という点がガバナンスには大きな影響があるのではないかと思う。国立大学法人においては、運営交付金の削減分を学長裁量経費に組み入れるなどの措置も検討されている。
    • 株式会社でも学校法人でもオーナー型の運営形態はある。株式会社においては、会社の負債は株式という形で失われるので、オーナーも負担を被るが、私立学校においては所有者が存在しないことから、学校法人財産は学校法人が解散した場合、残余財産は国庫に入るが、経営者個人の資産には特に権限が及ばない。

学校教育法改正の関連から、大学のガバナンスを考えるきっかけがありまして、大学行政管理学会の学事研究会が主催する研究会などにも参加してきました。その延長として、今回も当該ワークショップに参加しました。法改正後に大学内での意思決定プロセスなどに変化があったかなど、自らの興味関心もありましたので、参加しました。とても月並みな言葉ですが、対応状況は大学毎に大きく異なるように感じまして、法改正の趣旨をどのように理解し、学長のリーダーシップ体制を整備してスピーディな意思決定に繋げているかの差が出ているようにも感じられました。

ワークショップの後は懇親会に参加し、関西方面の大学職員の友人と旧交を温めました。懇親会でもIRの実践事例などのお話を聞けて有意義でした。次回は2日目のプログラム報告を掲載します。

*1:平成24年度第16回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました http://d.hatena.ne.jp/high190/20120911

*2:平成25年度第17回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました http://d.hatena.ne.jp/high190/20130909

*3:平成26年度第18回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました(1日目) http://d.hatena.ne.jp/high190/20140911

*4:平成26年度第18回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました(2日目) http://d.hatena.ne.jp/high190/20140916

*5:大学時報第348号(2013年1月発行) http://www.shidairen.or.jp/activities/daigakujihou/index_list/no348

*6:関西大学が教授の定年延長制度を5年から2年に短縮 http://d.hatena.ne.jp/high190/20080603

*7:不当利得返還請求事件(最高裁判例) http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=33837

*8:大学に対する入学辞退者による学納金返還請求(独立行政法人国民生活センターhttp://www.kokusen.go.jp/hanrei/data/200706.html

*9:大学職員独自のワークモチベーションとメンタルヘルスに関する研究を調べてみる http://d.hatena.ne.jp/high190/20131113