high190です。
5月21日(土)に東北学院大学で開催された標記のイベントに参加してきました。今年で大学行政管理学会は創立20周年を迎えるとのことで、今回は東北地区の記念イベントとして「地方創生と大学の役割」と題したシンポジウムが開催された次第です。
今回も参加した内容をまとめてみました。理解違いなどがある可能性がありますので、予めご了承下さい。
会場校挨拶:東北学院大学学長室長 阿部重樹氏
基調講演「我が国の地方創生政策の動向〜地方創生と大学の役割〜」
文部科学省高等教育局大学振興課 課長補佐 遠藤翼氏大学の職員に対する期待が高まっている中で、こういった機会が得られて嬉しく思っている。平成18年に入省、10年目。科学技術政策に携わり、その後に初等中等教育局に異動。私学行政課では私学助成を担当した。その後に大臣官房を経験した後、高等教育局に来て、3つのポリシー、大学設置基準などを担当している。
1.法令の規定等から見る大学の目的・役割の変遷
- 帝国大学令(明治19年)
- 大学令(大正7年)
- 国以外の設置形態が認められるように。「国家思想の涵養」
- 学校教育法(昭和22年法律第26号)
- 教育基本法(平成18年法律第120号)
- 第7条 「社会の発展に寄与する」
- 学校教育法(昭和22年法律第26号)
- 第83条第2項 「大学は、その目的を実現するための教育研究を行い、その成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする。」
- 歴史的にも大学を法令上で位置づけてきたが、求められるものが変化してきた。
- 「平成12年度以降の高等教育の将来構想について」平成9年1月29日
- 「我が国の高等教育の将来像」平成17年1月28日
- 「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」平成24年8月28日
2.我が国の大学を取り巻く環境
- 大学の直面する諸課題
- 地域課題解決に関する公開講座実施状況
- 各大学で取り組みに差がある。しかし、地域課題解決型(地域リーダー育成、地域学など)は受講者数が多い
- 地域貢献に対する大学の貢献の取組状況
- 各大学で実施状況にグラデーションがあるので、各大学が持つ資源を踏まえて戦略的に公開講座等に取り組む必要性
3.高等教育政策の動向〜平成27年度末の法令改正を中心に〜
- 3つのポリシー策定・公表に関する省令改正(AP,CP,DP)、ガイドライン策定済(自主的・自律的な3つの方針の策定と運用の参考指針)
- 3つのポリシーを具体的に策定するにあたって、学部段階・学科段階など定め方はそれぞれの学校が戦略的に考えることの必要性
- 法令上の根拠:学校教育法施行規則第165条の2
- 学士課程教育は義務化、大学院はアドミッションポリシー以外は適用除外(大学側が想定する学修成果を飛び越える人材の育成を大学に期待しているため)
- 認証評価制度に関する省令改正*2
- 認証評価基準に3つのポリシー、内部質保証を追加
- 特に内部質保証に重点を置いて評価する、自律的なPDCAサイクルの構築
- 上記を実現するためには大学職員の能力向上が関係
- スタッフ・ディベロップメントに関する省令改正*3
- 大学職員の資質の維持・向上が必要
- 単純に「研修をしなければならない」と規定しなかった理由を考えて欲しい
- FDは目的を定めていないが、SDについては目的が定められている。
- 各大学が研修を個別にやる時代ではない。共同型の各種研修を通じて自らの能力を高めていける職員。
- 「その他必要な取組」この記述がポイント。研修の実施方針・計画の全学的な策定。
- 当該条文の「職員」には、法令上の規定通り、教員・執行部・技術職員・事務職員を包括する。
4.地(知)の拠点としての大学
- まち・ひと・しごと総合戦略(全体像)
- 「地方大学等創生5カ年戦略」*4
- 知の拠点としての地方大学強化プラン
- 地元大学定着促進プラン
- 地域人材育成プラン
- COC+のねらい
- 若者の地元定着率の向上や地域における雇用創出を推進する取組や、その地域が必要とする人材を育成するためのカリキュラムの構築・実施を支援
- KPI、事業実施大学における卒業生の連携自治体内企業等への就職率、連携企業等の雇用創出者数
- COC+における協働の重要性
- COC+のスケジュール
- 競争型資金として配分。事業実施年度毎に補助額は逓減し、最終的には共同事業体の大学・企業等が出していかなければ。
- COC+選定委員長所見
5.学生の定着と人材育成
- 奨学金を活用した大学生等の地方定着
- 実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化について
- 大学体系の中に位置づけ、学位授与機関とすることを基本(「大学たる学位授与権を持つ」ということが重要なポイント)
- 質の高い専門職業人養成のための教育
- 大学における入学定員超過是正方策
- 私学助成を全学不交付とする基準を厳格化。31年度まで段階的実施。
- 職業実践力育成プログラム(BP)の事例
質疑応答
- 収容定員是正策を進めるとの話があったが、今後どのように考えているのか。
- 資料以上のことはまだ検討していない段階。ただし、今後の私学の検討会議がスタートしているので、そちらの会議での議論経過を注視していただけると今後のあり方も見えやすくなるのではないか。
- 経常費が削られていくと、新しい取組には競争的補助金に頼らざるをえない状況がある。その点についてはどうか。
大学制度創設からの流れについて、分かりやすい説明があり、その上で現在の地方創生政策と大学の役割は何であるのかについての解説でした。
個人的には、歴史的経緯を踏まえた高等教育制度の理解は、政策的な動向を踏まえて自学のあり方を検討するため、大学のマネジメントに必須の知識であると再確認しました。そういった意味でも、こうした各種講演会で発表された資料を公表していくことも、大学行政管理学会に求めたいと思います。(もちろん著作権などのこともありますが、そのためにクリエイティブ・コモンズなんかも整備されているので)せっかくの講演なので、その内容を広く公表していった方が、色々な人の目に触れていいのではと。*5
パネルディスカッション「地方創生と大学の役割」
- パネリスト
- 松崎氏:終わった後に「いい話を聞いた」ではなく、「具体的に取り組むこと」を検討できるように。常日頃取り組んでいること、考えていることを順番にお話いただきたい。
- 三浦氏:ものづくり産業の人材育成・定着について担当している。今日この席にいるのは、担当部署がCOC+を担当しているから。構想書をじっくり読むと、「様々な関係機関との連携」という文言が出てくる。県で進めるものづくり人材育成確保対策事業では、初等教育から高等教育までに施策を実施。しかし、大学生向けの事業は都道府県で少ないのではないか?という意識。その他、教育委員会との連携体制などもしやすい。しかし、大学に関しては自治体の関与は少なく大学にお任せしている実情。その点で県としても大学との連携を進めていきたい。県側からすると大学との連携というと、審議会の委員への就任、研究会の研究主査などへの招聘などを想定する。
- 事業開始前に、東北学院大学の相澤氏と議論すると、大学の職員も様々な面で地域連携を検討されていて驚いた。こうした職員となら協働していけると感じ、職員も積極的に表に出てきてもらいたい。
- 大学職員と議論する中での共通点などは何だったか?
- 行政の立場からすると、教員と話すと話を聞くことが主体になる。職員とだと同じ立場として議論できる部分が共感できた。
- 八浪氏:震災後、国内外から様々な支援をしていただいた。今年で創立120周年を迎えるにあたって、イベントを企画していた。今回はデジタル事業部時代の取組が中心になるが、震災以降に始まった学生と新聞社との協働事業。震災後の情報ボランティア(学生育成と社会貢献のプログラム)震災時の混乱などを踏まえてスタートし、現在も続いている。ちょうど震災時にはtwitter,facebookなどのソーシャルメディアが興隆してきた時代であり、その時に始めた。学生の目線を活かした取組。中身をどう高め、深化させるかに課題があった。
- 「記者と駆けるインターン」マスコミ志望者とのマッチング。
- 倉本氏:たらこ製造の会社。水産加工場の食育活動、保育施設結いのいえ。地域創生に関する取り組み。東日本大震災からの復興に関する取り組み。地域との協働によって復興の推進役に。東北学院大学との関わりは、2014年からの復興支援インターンシップを受け入れた。その際にボランティアステーション・教員・関係者との協働。地域で一生懸命事業を行う企業と大学との連携。
- 関屋氏:高等教育推進センターでFD・SD、大学改革などを担当。昨年からCOC+推進室の担当になった。昨年度にCOC+を取得した公立大学は3校。事業スキームの説明。連携校は岩手県内大学が中心。東京都から杏林大学が参加。あわせて協力校として東京海洋大学、横浜国立大学、首都大学東京、北里大学、慶応義塾大学システムデザイン研究科がある。
- 相澤氏:参加大学12校で7つの部会を設置している。県内就職率の10%向上が目標であるが、就職する学生がハッピーになってもらいたい。宮城県という場所でどういう人材が求められているのか、その人材像の指標化を進めている。実践型のプログラムとして進めている。学生自身が「どういった企業がよいのか」という目利き力を持たせたい。そして企業側にも大卒者受け入れを促進するため、企業での課題設定をコーディネーターが行い、その場に学生を組み込むことで、学生には座学で学んだことを地域企業で実践し、振り返った上で大学に帰ってきてまた現場に出るという仕組みにしたい。*6持続的な取り組みにしていきたい。相互連携科目・プログラム、単位互換コア科目などを必修科目にしている。
- 山崎氏:企業が学生と協働する際の良い点、注意点、大学の課題などを議論してもらいたい。
- 八浪氏:学生が取材して記事を書く、ということはイメージしやすいが、その後の手直しで遅くまで残る。そして内容がよければ新聞記事に掲載される。これは学生にとって大きな達成感がある。アフターフォローとして、学生との関わりを継続することで、学生との関係性が構築される。正直、企業側にも疲弊する側面があるのは事実。学生のやる気に火を付けることが重要。学生に壁を超えさせることが重要。大学に望むのは「質の向上」である。人口減少、高齢者、過疎などの社会問題に対し、日本社会は人口の絶対数は減少していく。その中で人の質をいかに担保していくか。社会人基礎力。
- 倉本氏:企業として大卒者との関わりが少ない。インターンシップに来た学生は一生懸命取り組んでいるので、その点ではいい面しか見えなかった。しかし、実際にそういった方が入社していくということは難しいかもしれないが、学生が持つ「たくさんの知恵」を借りていければと思う。WEB・ソーシャルメディアの発信など、若い人の感性を是非活用して欲しい。
- 関屋氏:岩手県立大学は実学系の学部を持っているので、そうした点はカバーできると思うが、COC+の際には横断する副専攻として地域に視点を置いてもらいたいということが目的にあった。また、学内でも地元就職率を上げるといっても、岩手で生まれて岩手で育った人を県内就職させる、純粋培養のみでいいのか?との意見もあった。しかし県内就職率がKPIに設定されている以上、学生に多様な経験をしてもらう環境を整備することが必要。
- 相澤氏:COC申請の際、県との調整のために職員から現場に出て行った。学生を現場に出す前に職員がまずは前に出ないといけないのではないか。仮説を立ててチャレンジし、成果を見て改善するというサイクルを作る。また自分が関われる領域が何かにアンテナを張っておくことは重要ではないか。職員の場合は専門性として確固たるものを持っているわけではない。大学は新たな知を生み出す場所なので、それを活用するのは教員のみならず職員も同じであるべきではないか。
- 三浦氏:大学職員との協働をする中で、大きく意識が変わった面がある。教員の専門性を活かすことが「大学の活用」だったが、職員との協働を行う中で職員にも地域に対する思いを持つ人がいることが分かったのは大きな収穫。
- 質疑応答:
- 既存部局の人間は、どのようにCOC+に関わっているのか。
- 既にある取り組みの延長戦上。なので、既存部局の人間がCOC+推進室を兼務しているということがある。特別なことをやっている意識はない。
- 元々、学生の就職活動というところで出口に近づくところで「みんな一緒にやりましょう」というのは難しい。プログラムを初年次においているのは、基盤整備を踏まえて専門科目には入っていってほしいという思い。既存部局との連携ではまだまだ進めないといけない部分があるので、こちらでも自分からご相談に伺いたいと思う。
- まとめ(遠藤課長補佐)
- 本来大学に求められてきている地域での大学の役割と、今まさに求められている役割の2つに分かれてきている。
- ある意味、学生の質を担保するということで、地方創生に参画しないで地方創生に貢献するというアプローチ。そして現状の地域課題に対する大学しか持ち得ない専門知識を活用すること、そしてフットワークの軽さと調整能力を有する大学職員がコーディネーターとして活躍すること。
- そしてそのための役割を担う職員をどのように活かしていくかを考えていくことが重要。本来の大学のあり方・機能・能力を十全に活かすこと、そのための取り組みを各大学が果たしていくことが求められるのではないか。
大学と地域の連携を通じた教育プログラムの構築にあたって、職員の目線で何が出来るのかということで、興味深くお話を聞きました。個人的に「まず職員が前に出ること」と「自分が関われる領域が何かにアンテナを張っておくこと」という点には多いに共感します。学生を育てる大学においては、職員自身が自律的に学ぶことがまず必要だと考えます。学習するコミュニティとしての大学が構築できなければ、学生のやる気に火を付けることは難しいです。教職学協働といいますが、その実現のためには、職員自身が個別にテーマを見つけて学んでいくことが大切ではないでしょうか。
基調講演ではSD義務化についても話題に上りましたが、単一大学での取り組みには限界があるとの指摘もありましたので、大学間の協働型SDモデルの再検討ができるといいのではないかと考えます。既にそうした取り組みも行われているので、*7参考に出来るのではないでしょうか。ただし、多様なメンバーを揃えたSDにはコーディネーター役が必要です。この点では、大学職員出身で高等教育研究を行っている研究者の助力を得ることが良いかと思います。私がすぐに思いつくのは、各種のSDイベントをコーディネートされている金沢大学基幹教育院助教の上畠洋佑さんです。*8あとは九州大学でQ-Linksの立ち上げを行い、今年の4月から東京工業大学に移られた田中岳さんが思い浮かびます。*9私個人はお二人が主催するワークショップに参加したことがありますが、とても勉強になった経験があります。
「地方創生と大学の役割」と題したシンポジウムでしたが、大学が果たすべき役割を担う職員の能力開発が重要であるとの認識を持ちました。このことを踏まえて、SD義務化にどのように対処していくのか、職員の適材適所での配置を踏まえた戦略的な人的資源管理戦略を構築することなど、引き続き社会から大学に求められる役割を果たすために、職員として何を追求していくべきなのかを考え続けていきたいと思います。
*1:「大学立地政策」の「規制緩和」のインパクト http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/51019/1/Ueyama.pdf
*2:認証評価制度の充実に向けて(審議まとめ) http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/houkoku/__icsFiles/afieldfile/2016/03/25/1368868_01.pdf
*3:大学設置基準等の一部を改正する省令の公布について(通知)27文科高第1186号 平成28年3月31日 http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1369942.htm
*4:http://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/chiikitf/5kai/siryou3.pdf
*5:オープンアクセス(Oa)とクリエイティブコモンズ http://www.slideshare.net/TasukuMizuno/oa-mizuno031116-59514669
*6:スパイラル・ラーニングのことかと思い増した http://www.fujitsu.com/jp/group/flm/phronesis/
*7:(ご案内)「第2回 Staff IR Forum(職員IRフォーラム)」について http://shinnji28.hatenablog.com/entry/2016/04/20/082711
*8:上畠洋佑(金沢大学研究者情報) http://ridb.kanazawa-u.ac.jp/public/detail.php?id=4385&page=1&org1_cd=620199
*9:田中岳(東京工業大学教育革新センター) http://www.citl.titech.ac.jp/about-citl/staff/tanaka/