Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

大学の新設が止まる

high190です。
文部科学省の大学設置・学校法人審議会によって、平成21年度は新たに11の大学が開設されることになりました。これで、全国の大学は国公私立の全てを合わせて765校になりました。
しかし、この数字は18歳人口が減少し続けている時代に逆行しているとも言えます。今でも日本の大学が獲得を狙っているのは18歳人口であり、社会人やシニア層の取り込みはまだ試行錯誤の段階です。

このような状況を踏まえ、大学設置基準の厳格化について中央教育審議会の大学分科会が検討に入ったりと、高等教育行政を巡る動向が注目を集めています。


文部科学省の大学設置・学校法人審議会(大学設置審)はこのほど、2009(平成21)年度に11校の大学開設を認めるよう答申しました。これにより、4年制大学の数はさらに増えることになります。ただし、大学教育の質が低下しているという批判を受け、同審議会内部でも設置認可の見直しを求める声が出てきました。
同省の「学校基本調査」によると、4年制大学の数は、1988(昭和63)年度には490校(国立95校、公立38校、私立357校)でしたが、 2008(平成20)年度には765校(国立86校、公立90校、私立589校)と、20年間で275校も増えています。大学進学率の上昇が主な理由ですが、政府の規制緩和により、大学の設置認可が大幅に簡素化されたことも見逃せません。

確かに元々、大学の設置認可を簡素化したのは政府の規制緩和政策によるものです。

以前の大学設置審では、大学の質を維持するため、「大学設置基準」という法令で示された項目のほかに、図書館の蔵書数、グラウンドの広さなどを「内規」という形で定め、厳しい設置審査を行っていました。しかし、政府が大学設置にも規制緩和の方針を適用し、また、内規という形での規制が大学設置への新規参入の妨げになっている、という批判も受けて、設置審査が大幅に弾力化・簡素化されました。これが、大学急増の大きな要因の一つです。

ちなみに規制緩和後に設置された大学で、設置後に偏差値が大きく伸びた大学ってどこなんでしょう?ここを分析することは、ある意味でこれからの大学の生き残り戦略を考える上で重要なポイントになるんじゃないかと思います。

中教審大学分科会の会合に提出された大学設置審の報告書は、大学設置基準は最低限の基準であり、各大学はそれ以上の教育環境を整備するよう努力しなければならないにもかかわらず、「最低基準さえ満たしていればよい」という姿勢が一部の大学にある、と強く批判しています。このため大学設置審は、廃止された内規が規定していた図書館の蔵書数などを、大学設置基準で明確化するよう提案しています。また、以前に比べれば大幅に短縮されている設置認可の審査期間を延長することも求めています。
実際の審査機関である大学設置審自身が、設置をより厳しくすることを求めたことが、大学改革全体を審議している中教審にも大きな影響を及ぼすことは確実でしょう。ただ、規制緩和を支持する立場から、大学の設置認可を厳しくすることに反対する意見もあります。
大学の数を抑制・削減して、大学教育の質の維持・向上を図るのか。それとも規制緩和の立場から、あくまで設置認可の審査は最低限にとどめ、あとは市場原理と競争主義により大学自身による質の維持・向上を目指すのか。今後、中教審がどのような審議を展開するのかが、注目されるところです。

どの立ち位置かによって、この問題の捉え方は異なってくると思いますが、今後の社会の中で大学をどのように位置づけていきたいのか?という方針を文部科学省が示す必要があるのではないでしょうか。それも明確な形で。
曖昧な形で高等教育が迷走するならば、これから高等教育を受けようとする側と提供しようとする側の両方に不幸な結末を呼び込んでしまいそうな気がします。今こそ教育百年の計。文部科学省が国の教育の方向性についての明確な指針を提示することを願ってやみません。

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