Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

日本の大学が海外の大学から学ぶべきものは何か?リーズ大学(University of Leeds)の戦略マップに学ぶ

high190です。
今年の10月末に秋田の国際教養大学で「大学のグローバル化に関する大学教職員の研修会がありました。テーマは「大学をグローバル化するための条件」です。
国際教養大学国際基督教大学早稲田大学国際教養学部立命館アジア太平洋大学の4大学によるグローバル4大学の連携・協定*1の一環として行われた研修会ですが、グローバル化のみならず大学経営に関しての興味深い内容が多々あったようなのでご紹介します。


国際教養大(秋田市)など国際化・英語教育に力を入れる4大学が主催し、教育や人材育成の方向性を考える初めての研修会が10月末、同大であった。4大学は昨年4月、「グローバル4大学」と称する連携・交流協定を締結。ノウハウを学ぼうと、全国から30大学約60人の大学関係者が集まった。
主催したのは、国際教養大のほか、国際基督教大、早稲田大国際教養学部(ともに東京都)、立命館アジア太平洋大(大分県)。英語での授業があり、外国人教員・留学生が多いなど共通点がある。研修会でマーク・ウィリアムズ国際教養大副学長は、国際化を目指す大学への提案として、「各大学が目標や長所、短所を明確にし、大学のPRには卒業生の力も借りて、取り組む枠組みをしっかりつくることが大切」と話した。また、桜井直子・早大国際コミュニティセンター課長は、4千人いる外国人学生と日本人学生をつなぐセンターの役割を説明した。同大では外国人学生の出身国は90カ国・地域にのぼり、学生スタッフを公募して年間200前後のイベントを開いているという。
高等教育専門誌「カレッジマネジメント」(リクルート)の小林浩編集長は国際系大学の人気について、「世界で活躍できる人材育成を明確に目指している点が大きい」と分析。多くの企業が海外に市場を求める時代で、「留学で壁を乗り越え、異文化を肌で知る個性的な人材へのニーズが高まっている」と指摘した。

研修会の案内が国際教養大学のWebサイトに掲載されています。

上記記事でも紹介されている通り、リクルート・カレッジマネジメントの小林編集長もこの職員研修会に参加されていたようで、編集長コラムに感想を書かれています。


(上記サイトより一部抜粋)

私が最も印象に残ったのは、この研修の一日目に国際教養大学マーク・ウィリアムズ副学長が紹介された、英リーズ大学の戦略マップ(Strategy Map)です。リーズ大学では、ビジョン(ミッション)を掲げ、学長を中心にA4サイズ1枚で整理された中期戦略を策定、そこにグローバル化をどう位置づけるのかを示しているとのことでした。
少子化の進行、企業からの要請など、大学がグローバル化を進めなければならない理由はいくらでもあります。しかし、すべての大学がグローバル化する必要はないと思います。今回、参加されていた大学の話をお聞きしていても、大学としてグローバル化を何のためにやるのかが不明確なまま、とりあえず人を採用した、部署を作ったという話も珍しくありませんでした。英語が話せる職員が必要とか、英語を話せるプログラムが必要という対処療法ではなく、まさにリーズ大学のように、それぞれの大学が中期の戦略マップを策定するなかで、各大学のミッション・ビジョンに合わせて、どのような人材を育成していくのか、グローバル化をどう位置づけていくのかということについて、議論をきちんとすべき時期にきていると感じました。人口減少社会に突入した日本において、各大学が将来どのような大学になっていくのか学内の合意はできているのか、その戦略マップはできているか、これが日本の大学のグローバル化に向けた最も大きな課題ではないでしょうか。

小林編集長の指摘は鋭いですね。まさしくグローバル化ではなく、自学の特色を活かした人材育成を考えなくてはいけないだけではなく、対症療法的に国際化の流れに乗ろうとする大学に対しての警鐘と私は受けとめました。また、非常に興味を引いたのがリーズ大学の戦略マップについての話です。具体的にどんなマップなのか見てみたいと思って、リーズ大学のWebサイトを調べてみたところ、すぐに見つかりました。

いつまでに何を大学として実現すべきか、A4用紙1枚ではありますが、とても分かりやすくビジョンが整理されたペーパーです。個人的に感心したのは、「Strategic Enablers」として中期計画を実現するための方策にまで言及していることです。中期計画の策定では遠大な理想を掲げることに終始し、具体性を欠いてしまうことがままあると思いますが、どういった手段を用いて実現にこぎつけるかという点で、分かりやすくワンペーパーにまとめられていると思います。こういった点で、日本の大学は海外の大学から多くのことを学べるのではないかと思います。国によって教育制度は異なりますが、大学経営に有用な知識は国内外を問わず貪欲に吸収していくことこそが、大学のグローバル化への近道なのではないかと感じました。

【追伸】
今日でClear Consideration(大学職員の教育分析)として、記事を1,000回書いたことになります。ブログ開始から6年、遠い道のりのように感じていましたが、地道に書き続けた結果、ひとつの区切りを迎えることができました。
これからも引き続き、大学関連のニュースについて自分なりの意見を発信していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

*1:国際教育の質向上を目的に国際教養大、ICU、早稲田大、立命館APUが連携協定を締結 http://d.hatena.ne.jp/high190/20100424