Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

日本私立大学協会主催の教務部課長相当者研修会に参加してきました。

high190です。
私が勤務する大学は日本私立大学協会に加盟しているのですが、今年から教務に異動してきたこともあって、毎年開催されている「教務部課長相当者研修会」という2泊3日の研修に、部長でも課長でもないのですが行かせてもらいました。今年で通算50回目を迎える由緒正しい研修会です。学士課程教育の質的転換をテーマにした講演、班別研修などに参加してきたので、このブログでもご紹介したいと思います。
いかんせん2泊3日の研修であるため、分量が多くなっています。また、例によってこの内容はhigh190の私的なメモなので表現等に若干の差異があることをご容赦下さい。

【第1日目】10月17日(水)
1.私学振興上の諸情勢と当面する重要課題
  日本私立大学協会事務局長 小出 秀文 氏

日常の教育・研究を企画運営するにあたって、私大に関連する課題を共有してからスタートしたい。業務上の手本は存在せず、自らが作り上げていくことが重要である。私立大学の運営は自主性に資するものでなければならない。

  • 事業計画
    • 東日本大震災からの復興を事業計画に入れ、風化させず、若者のありように活かしていきたい。明治開国から147年が経過し、明治開国→敗戦→社会環境の激変した成熟社会が現代。震災復興を含めた日本の再生は大学教育を原動力とすべきである。
    • ファンディングの格差。国立大学法人と私立大学では大きな差がある。高等教育政策の転換・パラダイムシフト。質保証をいかにして行っていくかが重要。各大学の特性を活かして、中長期計画を策定・実施を通じて教育の質的転換を行っていかなければならない。重要ポイントは、大学教育を学位中心のプログラムに転換することである。現在の学部教育では卒業に必要な単位数を修得すれば卒業が認定されるが、何を身に付けたかの「ラーニング・アウトカム」が極めて重要となる。それを担保する学位の質保証。
    • 今までは18歳人口のみを対象としてきた日本の大学は、生涯学習機能の強化が必要。定年後の学習機会の提供、就業期間中の研修などに高等教育を活用していく策を考えなければならない。
  • 学士課程教育の構築と教職協働活動の取り組み
    • アドミッション・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、ディプロマ・ポリシーの連動性をどう担保するか。FD・SD研修を超えたUD(University Development)が必要。さらにBoard(理事会)の開発も必要。(アメリカではPOD(Professional and Organizational Development)として捉えられている。教職協働のガバナンス。)
  • 国家戦略会議の動向
    • 大学は社会に役立つ人材を養成しているか、力の付いた学生は育っているのか、学位の国際的通用性は担保されているのか、大学は地域にとって必要とされているのか、等々、提言型政策仕分けなどで指摘されてきた問題である。概算要求の実現に向け、他の私立大学関係団体とも協力して、予算充実等の活動を行う。

2.教育と学術研究を取り巻く諸動向と私立大学〜研修会の趣旨説明を含む〜
  明海大学学長 安井 利一 氏

  • 研修会の目的
    • 教学経営の生命線である教務部課長並びに相当者を対象とし、教学経営実践力の育成を目標としている。私立学校法による自主性尊重に加え、公共性も大きく配慮すべきである。そういった立場を踏まえた学士課程教育の発展に資することが重要。将来像答申→学士課程答申→今年出た答申(これらの連続性を踏まえ、自学の教育課程をより戦略的に構築する)近年の当該研修で行われてきた内容をおさらいし、経緯を踏まえて今回の研修に活かす。通底するテーマは、学士課程教育の質の充実である。
    • アプローチ方法:初年次教育(H20、AP・初等・中等教育との接続)→学生参加型教育(H21、CP・教育方法の改善)→キャリア教育(H22、キャリアガイダンス・設置基準に明文化)→学生の主体的学習の促進と支援(H23、DP)→【今年】最新答申+能動的学習+学習時間確保+教育研究の相乗効果 → 教える内容が何かではなく、何ができるようになるかが重要。自立した21世紀型市民の育成(幅広い教養、倫理性、社会変革の実践者)、入口と出口の管理、質保証、大学間連携による相互補完的な教育課程編成。
  • 実践的教育カリキュラムをどのように運用していくか。
    • 大学がどのように関わっていくのかが極めて重要になる。大学に期待される取り組み(PBL、グループワーク、サービス・ラーニング)、教育課程の体系化(ナンバリング:ナンバーに明確な意味を持たす、科目間の関連性を可視化)、組織的な教育の実施(教員間の連動性が今まで皆無、先習科目の設定と科目間のグルーピング)、シラバスの充実化(事前・事後の準備、他の科目との関連性をいかに説明するか。授業の工程表)、全学的な教学マネジメント(大学教育改革のPDCAサイクルを回すフレームワーク作り、組織内を同じベクトルに向けるメッセージ発信)
  • 質的転換の課題
    • プログラムとしての概念形成が未発達、学位授与までのロジック・ツリー構築、環境面の整備(健全経営の枠内で)学生間の協働学修促進、、高校と大学との接続性についての研究(中退者数の多さ、アンマッチング)、社会人基礎力を持った学生の輩出の要請、企業・地域社会等との連携体制

3.私立大学における学士課程教育の質的転換を考える(第1部)(1)我が国の高等教育政策と学士課程教育の質的転換
  文部科学省高等教育局企画官 合田 哲雄 氏
答申は審議会での議論を事務的に取りまとめるが、私立大学団体とも意見交換をしながらまとめてきた。答申の基本的な背景等を踏まえて説明する。文科省のオフィシャル見解からは若干離れる。
【キーワード】
学士力の具体的手立て(大学生の学習を質・量を高める)、Kto16(幼稚園から大学までの一貫教育体制の構築)

  • 4月9日の国家戦略会議
    • 平野前大臣が大学に対する批判・不満の声を受けた。大学の数が多すぎる、選択と集中の議論。財務省等の多数アクターが働きかけたとは思われるが、日本全体として大学に対する声としては誤っていないのではないかと思う。
    • 日本の大学はユニバーサル化に入った。現在の為政者世代は、エリートとして大学に通っていたので、全入はそぐわないと思っているのではないか。国立大学法人化から9年経過し、中長期の視点に立った説明責任を果たす必要。人口動態(生産年齢人口の減少、高齢化がさらに加速)
  • 諸外国の動向
    • 2月まで米国国立科学財団(NSF=The National Science Foundation)に出向していたが、science and engineering indicator2010で比較すると、他の先進国は理工系の分野が成長している。日本は鈍化。知識基盤社会=人的資本と社会関係資本、今までには全くなかった新しいイノベーションが重要になってきた。ものづくり社会に非物質的な要素を入れていくことが大切。社会関係資本(social capital)の横繋がり。これを大学で養成する必要がある。
    • 財政支出の教育関係支出の比率を増やしていくことが必要。ミドルスキルワーカーは大学以外で養成すればいい?目利きとしての賢い消費者(市民)を要請していくべきではないか?(中教審大学教育部会の議論の帰結)大学の規模は日本社会全体を考えると、決して多すぎるという水準ではない。4月9日の国家戦略会議を踏まえて、その際に鈴木寛元文科副大臣が示した資料を見ると、新規就業者数の受け入れ需要を充足するためにも大学進学者を増加させることが求められてくる。
    • 他国との比較を行うと、90年代から2009までに他国が大学進学率+進学者数を伸ばしているが、日本は進学率は緩い伸び+進学者数が減少している。量的規模をある程度前提にはしながらも、質の保証ができるように教育内容を転換していかなければならない。
  • 中教審で議論した課題
    • イノベーション人材の育成については、どうしてもポスドクをどうするかといった問題に繋がるが、さらに幼児期から計画的な教育内容が必要になってくる。
    • 日本の大学生の質が低いからこそ、世論も日本の大学を評価していない。中教審での議論においても、学習時間+学生の目から見た有用感を見ても、ロジカルな教育が行われていない。汎用的能力(ジェネリック・スキル)の獲得が大きな目標になる。学習の量だけでなく、質の議論を結節点として中教審でも議論をしてきた。
    • プログラムとしての学士課程教育という概念の未定着。学修支援制度の整備についての課題、地域社会や企業など、社会と大学の接続についての課題。高等教育と初等中等教育の接続についての課題→学力の中間層の学習時間が1990年と比較すると半分に。
  • PISAのテスト結果
    • 3年ごとの調査で学力がどんどん下がってきていたが、2009年にはV字回復になった。「考える力」を育む。発達段階別のレベル別指導。具体例としては理科と国語の融合などが挙げられる。このような結果を踏まえて、どのように大学教育の成果を出していくかが重要なポイントになる。生涯学び続ける力をどのようにして養うのか。将来的には高校卒業検定のようなものを創設していくべきという議論も高校側からも出ている。もはや、今までの大学教育と高校教育の関係性ではなくなり、高校教育までの学習結果の可視化を目指してきている。
    • 中教審が学習時間に着目したのは、形式的な理由ではなく、知識基盤社会で必要な汎用的能力を養うために、学習時間の増加が不可欠であるためである。
    • カリキュラムを誰が作るのか?どういった力を付けさせるか、ということは専門性が求められてくる。プログラムとしての学士課程教育にはカリキュラム・マップが不可欠であり、ラーニング・アウトカムをどのように評価し、それをどう教育改善に繋げていくのか。このようにカリキュラムの作成にあたって、誰が作っていくかという議論が極めて重要である。大学ポートレートについても、例えば私学事業団に毎年度提出される学校法人基礎調査を活用して、どのようにデータベース化していくべきかを大学評価・学位授与機構で議論を行っている。学問分野別のカリキュラムの参照基準についても、日本学術会議で議論されている。ファカルティ・ディベロッパーやIRの専門家をどのように育成していくかを文部科学省としても議論していきたい。企業からも認められるカリキュラム・マップを作っていくことが、企業側の信頼を勝ち得ることに繋がっていく。学校教育制度自体を、プログラム中心・具体的な成果中心の観点から見直すことが必要。

【第2日目】10月18日(木)
4.私立大学の使命と未来〜日本の高等教育政策を考える〜
  放送大学学園理事長、早稲田大学学事顧問 白井 克彦 氏

  • 高等教育の大衆化
    • 18歳人口はここ10年程度は横ばいで、その後に劇的に減少する。生活レベルの維持が難しいことになる。10年の余裕(猶予)をどう活かすか。進学率の低下?基本調査速報値では、大学進学率が低下。コスト・ベネフィットの観点から大学教育は過剰投資か?
    • 日本の大学の構造:国公私立の構造、私学助成の少なさ、教育の公的負担が少ない。日本の大学院:修士、博士号取得者は主要国と比較しても少ない。高度専門職業人が養成できていない。進学率収容指数:大学進学することの意味、意義を照らしなおして考えることが大切。
  • 大学教育に対する社会の要求
    • 私学助成が重要であると考える政治家はいることにはいるが、どちらかというと産業界(日本経団連経済同友会等)が厳しい意見を持っている。企業と大学の意識差異を無くしていくことが重要だが、大学人がどうやって協力を得て打開するのかが不透明である。この問題を打開することによって、進学率等の問題は打開していけるのではないか。
    • 日本は高齢化社会において先進国である。時代を担う学生たちにどういう能力を獲得させ、チャレンジ精神を養わせるか。内需のみでは難しい側面がある。当然グローバル市場経済で競争していける人材を育てていくことが必要になる。
    • 地域社会の再構築:これを担う人材はどう養成されるべきか。大学はCOC(Center of Community)であるべき。地方都市の中心に大学があるという考え方。地域リーダーの養成。国公私立を超えた大学間連携、大学コンソーシアムの充実、単位互換。地域社会を巻き込んだサービス・ラーニング。地域興し人材の養成。若い人材には力があるが、力を発揮する環境を整備していないことが問題。地方の独自性を踏まえた教育・研究活動。
    • 科学技術研究の推進人材:大学共同利用機関法人等の活用、そのための私学間連携による教員派遣制度の創設。私立大学は教育中心であるべき。研究についてはサバティカル的な対応を考えていくことが重要では。課されているミッションを果たさなければ社会からの理解を得ることはできない。社会の問題解決に直接的にかかわっていくことが重要である。具体的には、大学入学時又は入学以前に具体的な人材イメージを抱かせられる教育が必要。学習量の問題、24時間から睡眠時間を除いたとしても、それ以外の時間を大学としてどのようにセットするかが問題。アルバイトに明け暮れる現状を打破し、修学支援等の経済面での助成をどう行うか。また、アルバイトにしても大学内で「スチューデント・ジョブ」を作っていくことが重要になってくる。学生の自発性を喚起する環境を作り出すことが大切。すべてを教員がやることには無理がある。アクティブ・ラーニングも大切だが、学園・大学自体をアクティブにしていくことが必要である。学生を厳しい風に当てさせる、他大学、他国の大学での厳しいトレーニングに直接的に関わらせることで訓練することが重要である。タフな人材の育成。
  • 高大連携の新しい視点
    • 高大連携を図る今までの尺度は、どの大学に入学したか、進学率はどうであったかだけであった。効率性の観点からはメリットがあった。(高度成長期にはマッチ)大学での学びを充実化させるために、高校側に対して求める能力のメッセージを出していかなければならない。これからの高大接続はそうあるべき。大学の責任大。高校も大学も互いにもたれあってきたのでは?学生のモビリティを上げないと「反応」は起こらない。そういう意味では、入学した大学だけで大学生活が完結してはいけない。国内雇用の産業別シフトを踏まえつつ、どういった業界に人材を送り込んでいくかを考えなければならない。
    • 社会連携に積極的に学生を送り込んでいくことが重要。午前中は授業に参加、午後は社会活動に参画して収入を得られるならば全くベストに近い。大学にとって負担は大きいが、インターンシップ+サービス・ラーニングに繋げていく。学生自身の自発的力を獲得させていくことが重要になる。肌で感じて一緒に仕事をする環境を作らないと、社会は崩壊してしまう。単純な就職崩壊ではない。留学者が減っているのは人口動態に並行しているため予想できるが、もっと積極的に厳しい環境に身を置く若者を育てていかなければならない。高齢者(企業退職後)が社会活動に関わるための機会を作っていくことが重要である。そのためにも私学が果たすべき役割が大きい。社会人の大学進学率が低すぎる。日本は大学のファンクションが間違っており、先進国と比較すると異常。教育コンテンツの流通もグローバルに進行し、世界中との競争にさらされる。公財政支出の対GDP比を1.0%まで上げることを目標に。また、そのためのミッションを定めて達成しなければ公財政支出は増やせない。

5.私立大学における学士課程教育の質的転換を考える(2)学生の「能動的学修」とラーニング・ポートフォリオ中教審答申を踏まえて〜
  帝京大学高等教育開発センター長・教授 土持 ゲーリー 法一 氏

答申に書かれている具体的背景を知ることが重要。学修ポートフォリオとラーニング・ポートフォリオでは少し違う。ポートフォリオとは、持ち運びできるファイルを指す。設置基準でも学習は15回ではなく、15週と定められている。

  • アメリカの大学生の学習時間が多いのは何故か?
    • まず先に立つべき前提として、学生は自発的に勉強しない。時間割が非常に厳しくなっている。週に3回同じ科目が開講される。好きで勉強しているのではなく仕方なく勉強している。英語表現を無理やり日本語に直すと言葉が一人歩きすることがある。「学習」と「学修」の違いが明確になった。学生の主体的学修を促す教育内容と方法の工夫が不可欠。アクティブ・ラーニングは北米ではstudent engagementとして使われることが多い。学生が大学の活動にどう関わっているかの度合いによって、大学が評価されるのが、アメリカの大学評価の一部に入り込んできている。学修とは授業+準備学習を総合したものである。中教審で問われているのは「学修」なので、学修時間の確保には教員にも責任の一端があるといえる。ルーブリックがないとポートフォリオは活用できない。学生に準備学習を求めても、授業内で求めることと合っていなければ意味がない。授業と授業外学修を一体化した「授業形態」に変える以外に方法はない。厳しい密度のある授業を行うと学生は安きに流れる。これを食い止めるには構造的に制度設計をしなければならない。指定図書を読んでくることを前提に、授業に入っていくことが必要。図書館に10数冊の参考図書を10数種類用意している。評価には2種類ある。「学習経験をつくる大学授業法」に詳細が記述されている。前向きな評価だと、評価する側も大変であるが、その大変さが社会に役立つ知識・力に繋がっていく。
    • 後向きな評価=この授業でXYZについて何を学んだのか?
    • 前向きな評価=この授業でXYZについて教えたが、○○という事象に対してXYZをどのように適用させるか?
    • 振り返り・気付きを得ることが重要。reflection(省察)+documentation(証拠書類)+collaboration/mentoring(共同作業)=learning!!
  • MIT方式=学生が試験問題を作る(オリエンテーションで話しておく)→同じような回答が多ければ、授業内容を学生がよく理解していることが客観的に把握できる。
    • 教員が何を教えたかは問わない、学生が何を学んだかが問われている。その成果が第三者に見える形にしなければいけない。単元別の回答は学生も作りやすいが、15回分をまとめて書くように指示すると嫌がる。男女混合、学部横断が原則。最初は嫌がるが効果は高い。コンセプト・マップを活用したグラフィック・シラバス。コンセプト・マップを書くのも学生にさせるが、マップを書くことに4時間かかる。ルーブリックは万能ではなく、あくまでもツールであることを前提にする必要がある。他のツールと組み合わせることで威力が発揮される。土持教授の場合、授業シラバスを配る際にルーブリックも一緒に配っている。
    • 帝京大のSCOT(Students Consulting on Teaching)の取り組み。訓練を受けた学生による授業コンサルティング1回で3,000円の報酬。スチューデント・ジョブでもある。FDとはFood and Drinkでもある。食べ物があると落ち着く。大学セミナーハウスでもSCOTを活用した研修を実施。

(3)学士課程教育における<新しい能力>
  京都大学高等教育研究開発推進センター教授 松下 佳代 氏

  • 新しい能力とは
    • 1990年代以降(日本では2000年代以降)に様々な形で提唱されるようになった能力の総称。それぞれが大きな影響力を持ってきている
      • (初等中等)生きる力、リテラシー人間力、キー・コンピテンシー
      • (高等教育)就職基礎能力→事業仕分済、社会人基礎力、学士力、汎用的技能/分野別
      • (労働政策)エンプロイアビリティ→雇用主から見た表現・考え方
      • (成人一般)成人力
    • 社会人基礎力は経済産業省で規定されており、チームワークに関する視点が重視されている。エンプロイアビリティについては、他の企業等においても通用する能力を身に付けることが必要。今の会社の能力と、他の会社の能力が重なり合えばより良い。自助努力と企業内訓練のバランスの問題。アメリカではPDを中心とした能力開発が明確になっている。欧米ではボローニャ・プロセス(欧州高等教育圏の創出)によって、域内の教育制度等を統合していくことが目指されている。
    • コンピテンスの抽出 → 汎用的・分野別、卒業生・雇用主・大学教員へのアンケート
    • 1st cycle=学士レベル、2nd cycle=修士以上
    • 各学士レベル別のコンピテンスを定め、カリキュラムに落とし込んでいく。新しい能力の特徴:カバーする範囲が広い、能力の中身が広い(認知的側面、情意的側面、社会的側面)教育に対する影響が大きい。教育目標だけでなく評価対象にも繋がる。グローバルな知識基盤社会。人生のリスク化、個人化→自己責任・自主選択の幅が拡大(能力でリスクを軽減)NPM(New Public Management)→何を学ぶかが重視されてきている。
  • OECD-AHELO(大学版PISA
    • 測定は4領域=工学、経済学、汎用的技能(jeneric skills)、付加価値(入学から卒業までの間にどれだけ伸びたか)日本は工学部門で参加。パフォーマンス課題(シナリオを与える→文書ライブラリを使う→問いに答える)「何故、その結論を導き出したのかを説明せよ」という形で問題が出される。批判的思考・分析的な推論などの能力を見る。付加価値=アウトプット(卒業時)−インプット(入学時)複数のジェネリック・スキルを1まとまりにして評価する。CLAテスト。AHELOが大学教育に与えるインパクトは非常に大きい。
  • 新しい能力のルーツ
    • competency=特定の職務における業績の水準を左右する個人の属性(仕事のできる人と普通の人とを分ける能力)業績を予測する変数として開発された。氷山モデルと同心円モデル。元々は「優れた人」を見つけるためのものとして活用されてきた。行動特性の分析、能力を分析して測定尺度を開発。その上で、職務ごとのコンピテンシー・モデルを開発した。特定の職務に適応できるかどうかについての尺度になる。管理職のコンピテンシー・モデル。具体的項目に加えて重みづけを行う。教育現場の評価法にも影響を与えている。人材マネジメントから高等教育・職業教育に活用している。カリキュラムや評価法に影響・・・アルバーノ・カレッジ(女子大)*1、能力をベースにしたカリキュラム。リベラルアーツカレッジ。→学士力、社会人基礎力に影響を与えている。かなり影響力の大きい大学。
  • カリキュラムや評価への影響
    • 8つの能力の開発プロセス、能力開発のプロセスは6段階(学士課程は4段階まで、6までが修士課程)→長期的ルーブリック。4段階までに達することがアルバーノカレッジの修了卒業要件。機関→専攻→課題を繋いだ組織的な取り組み、教員は専攻と能力部局(ability departments)に所属している(学部と専門領域別の所属が二重に存在する)。大学全体で身に付けさせたい能力を、各専攻・各科目でブレイクダウンして身に付けさせる。能力の階層化という四方を活用し、カリキュラム→授業→評価に一貫性を持たせている。大学教育を重層的に捉え、段階別の学習内容を規定。AAC&U(米国カレッジ・大学教育界のVALUEプロジェクト)→教養教育の評価基準を15個定める、eポートフォリオ+ルーブリック。アメリカでは企業の就職試験の際に、学生が大学で何を学んできたのかを示すためにeポートフォリオが使われている。
    • 標準テスト(CLA)では、授業内容に直接関連していないので、教育・学習改善には役立たない。→AHELOのようなベンチマーク向き。VALUEルーブリック=ベンチマーク(1年生)、マイルストーン(2,3年生)、キャップストーン(4年生)教養教育の15領域で共同開発、メタルーブリックとしての性格を持つ。※各大学は学科のの文脈に応じて、VALUEルーブリックをベースにローカライズする。あくまでも大学ごとに作り替えることが重要。ある程度の共通性は持たせながら、各大学の強みを活かすことになる。共通性と多様性の両立を図る。組織的利用を想定、長期的ルーブリックとして設定。
  • まとめ−日本の大学はどうするか?−
    • 新しい能力の中身、教育方法は共通している。AHELOには新しい能力のグローバル化+標準化の性格がよく表れている。学士課程教育プログラムの設計、改革方策は欧米、日本でも同じ内容が取り入れられており、国境を越えて共通するロジックのもとで、学士課程教育が作られている。日本の大学では、大学の多様化、機能別分化が進んだ日本の大学ではどうするか?国境を越えた共通するロジックに沿った改革が進行しているが、見落とされたものはないか?(例:ある知識を深く理解すればするほど、汎用性が増していく。深い学びとは何かを追及していくことが必要。知識そのものが持つ汎用性 アクティブ・ラーニングからディープ・アクティブ・ラーニングへ)

6.学士課程教育の質的改善に向けた改革取り組み事例 (1)「学びあい」による能動的学修の推進
  大東文化大学国際関係学部准教授 岡本 信広 氏

いかにして能力を獲得するか?という点で、一方向の授業では不可能。民間の研究所で研究し、その後に大学教員に転身した。私立大学では学生の多様性がかなり幅広い。一方向の授業では、学生の理解度が低い。グループワークを命じてもコミュニケーションの問題で簡単にはできない。アイスブレークを経てから5週ぐらい経っている。

  • 「学び合い」スタートブック 西川純上越教育大学教授
    • 昨今、学習指導要領の改訂で初等中等教育でもグループワークなどが取り入れられてきている。一方方向授業のほうが教員は楽。色々なグループでやらせる方が大変だったりもする。グループを作ること自体も、学び合いである。
  • 学び合い
    • 学校観:人との折り合いを付けながら人間関係を構築する。
    • 子ども観:学生は有能であると考える。全員という覚悟→一人もドロップアウトさせないという覚悟、テクニックというよりも「考え方」
    • 授業観:evaluationではなく、acessment。教員は15回の授業終了時に学生が何を身に付けているかを想定できなければならない。学び方は多種多様。人間である以上「馬が合う」ということがある。教員が全員をしっかり教えることは現実的には不可能。全員に同じ知識を渡すことができる教員は少数だがいると思う。学生自身に学び方を考えてもらうこと自体、能動的な学修である。教員の仕事は目標を設定して、達成度合いを見て環境を整備することである。学び合いの構成最初の語り→課題提示→学び合い→評価の4段階構成。社会人基礎力とのリンク。そのためにこの授業で何を身に付けるか?学び合いの授業を行うことの意義を、学生自身に感じてもらう。できるだけ多くの人が関係する中で、学び合いを経験してもらう。例えば、企業の場合、決められた就業時間内に企業目標にどれだけ近づいたかが評価される。
  • 大東文化大学国際関係学部の場合、1年次の導入科目として「チュートリアル」を実施。文章の書き方。要約。図書館の利用など。
    • 学び合いを行う場合、アクティブ・ラーニングに適した教室の方が効果は高いか?講義型教室では高い効果が得られにくいか?授業の進め方にフューチャーセンターの考えを取り入れることはできるのか。ワールドカフェ、フューチャーセンターの高等教育への応用。入学時のキックオフラリーで、学生間の関係性を構築する取り組みは、学生間のネットワーク構築に有効だと思われる。アイスブレークも重要。
  • これからの課題
    • 真面目だが人との関わりが苦手な学生から、教員に「ちゃんと教えてほしい」と要求する。不真面目な学生は不真面目にやることにお墨付きを与えてみる。→世代間コミュニケーションは苦手だが、同年代のコミュニケーションは上手。成功体験を積ませることと、それを共有することで高い満足度に繋がる。

(2)教職協働による学生支援−大学生活の心強い味方−
  九州産業大学基礎教育センター所長・経済学部教授 秋山 優 氏

  • 九産大の概要説明
    • 今回は国際文化学部の事例を紹介。もともとは教養部であったが、改組した。53%の講義が非常勤講師によって行われるため、顔と名前が一致せず、講義内容がどうなっているか分からない。このような問題意識を受けて、基礎教育科目を設置したが、基礎教育科目を所管するセンターが必要になってきた。「基礎教育科目の構築と運営」を目的として、基礎教育センターを設置した。センター設置にあたって教室を改造したため、教務部長からは不満を言われたこともある。スタッフ構成:所長1名、副所長1名、専任教員7名、事務職員5名、兼務教員15名、学生アシスタント6名。他大学の成功例を探していたところ、自学の工学部にベストプラクティスがあった。工学部基礎教育サポートセンター。今の学生は扉を開けて入ることが苦手であり、ガラス張りで可視化された場所でないと学生は来てくれない。入学前教育も基礎教育センターで所管、学習課題のDVDを送付するなどのことを行っている。
  • 部署関連図
    • 学生からの相談を、どこでも受け付けることができるような体制を整備し、各部署との連携強化を促進させたい。学部との関係性が難しい。例:学校に来ない学生への対処、クラス担任の手に余るのでセンターにお任せしたいという声。間に学長直轄の教員支援チームがある。学生の止まり木をたくさんの場所に設けておくことが大切である。(学生が来たら必ずお茶を出しているとのこと、ユニークな取り組みだと思います)センターの業務を「基礎教育プログラムの構築・改善・実施」「学生支援」「教員支援」の3つに分ける。九産大でのオフィスアワーは、「兼務教員」が基礎教育センターで待機して、個人面談を通して学生の相談を受ける。
  • 職員の学生支援
    • スチューデント・コンサルタントの資格(NPO法人学生文化創造)を取らせる。一定程度のスキルを保証する上でも資格保有が有効になる。職員の年齢構成に幅を持たせ、相談できる年代を広くするようにしている。「履修指導、生活指導、接し方、マナー」「質の高い学生サービス」「しゃべり場(一定のルールを設ける、学内掲示で募集)、たべり場(教職員と一緒に昼食を取る機会を作ってコミュニケーション)のファシリテーター」基礎ゼミ、グループワーク、交流ワークプログラム、基礎ゼミの中で行う。必ず教員にも入ってもらう。
  • 学生アシスタント
    • 学生の指導を受けられる機会を設ける。学生自身の成長に繋げられる。
    • 基礎教育センターの利用状況からみると、徐々に利用者数が増えている。三位一体の学生支援(教員・学生・職員)相談内容例:修学関係、対人関係、進路・就職関係、転学・編入学関係、レポートの書き方、心理的なことなど。その他、11,000人のうち女子学生が2,400人ぐらいであり、女子学生の学生活動を支援・盛り上げることを目的に「KSUGL」というキャラクターを作った

7.班別研修
他大学の事例発表等を伺うことができました。ここでは省略します。

8.我が国の教員養成制度改革の動向について
  十文字学園女子大学 学長 横須賀 薫 氏

  • 教員養成の仕組
    • 日本の教員養成は免許状主義、開放制の原則を採用している。免許については教員養成大学のみならず、一般大学においてもなされている。免許制度は特権的でもあるが、その反面国民を保護するという側面も持っている。例示すると自動車免許についても同様のことが言える。師範学校制度の廃止に関しては、良質な教員を多数輩出してきた時代もあったため、今日でも様々な議論がなされている。
  • 教員免許の取得(大学の場合)
    • 学士の学位等+教職課程の履修(1.教科に関する科目+2.教職に関する科目+3.教科又は教職に関する科目)=教員免許状
  • 教職課程認定制度の概要
    • 申請大学→文部科学省への申請→中教審教員養成部会へ諮問→課程認定委員会から結果報告→文部科学大臣に答申 小学校教員養成課程=国立大学が中心、私学は一部
  • 教員養成の現状
    • 量的拡大期に入り、免許状取得者実数と教員採用数に乖離が発生した。
  • 教員養成の新しい動向
    • 教職大学院、教員免許更新制の創設。教職大学院の入学定員は、日本全国でも830人であるため、必ずしも多いとは言えない。また、教員免許更新制についても、更新制度の主体は教育委員会ではなく大学である。中には教員養成に高い評判を持ちながら更新講習を実施していない大学もある。更新制への是非については異論があるものの、更新制の研修を受けた教員からは非常に評判がいいという二重構造になっている。教員養成を担う大学にとっては、卒業後のアフターサービス的な側面もあるため、是非制度に参加してほしい。
  • 教員養成の今後の課題
    • 平成24年8月28日答申「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について」が発表された。この答申によって、教員が生涯学び続ける存在であることを示すことができたのは大きな進歩であったと考える。

9.大学教育改善ネットワーク「Q-Links」について教職協働型FD・SDの実践シリーズ(UD)
  九州大学基幹教育院教育企画開発部准教授 田中 岳 氏

やりなれないことをやると、とても気持ち悪い。これはFD・SDでも同じことである。短期的な成果を見せながら、中長期的な計画に基づいて、FD・SDの木を育てていくことが重要である。100年のうちの1年に近く、そのためにいま何が自分にできるか考えることが大切である。

  • FD・SDに対する何とも言えない閉そく感
    • ID(instractional development)に重点が置かれている。本来的なFDの意味合いは異なる。FD・SDの両方とも「実施している」と文科省に対するアンケートで回答した大学が90%以上になっており、実施はしているが効果が上がっていないのではないか?
  • 大学間連携に関する、何ともいえない疑問
    • 地域の大学コンソーシアム、FDネットワークはうまくいっている?
    • 契機:特色GPの獲得時に、教員・職員が一緒になって悪戦苦闘した経験から。従来のFD・SDに、大学教育改善を推進するための大学教育改善を推進するための「D」を加える。大学間のFDの取り組みに口を出すのではなく、各大学の意見を尊重して、共有できる情報を繋げていく。大学の人と人とを繋げる活動。ある大学の副学長にQ-LINKSへの加入について説得しに行った際、「場所に届けるではなく、人に届ける」というフレーズで実施していることを話したところ、「人と人との繋がりは消えない」として、賛同いただいた経験がある。
  • "異郷有悟=違っているから気づくこと学ぶことがある"
  • CD(curriculum development)+OD(organizational development)
    • Q-lab=labには"lab"oratory、col"lab"orationの二つの意味がある。例えば"カリキュラム"ひとつ取っても、教員・職員・学生でそれぞれの立場で捉え方が全く違う。Q-LINKSは、このようなことができるような場(場所と場面)づくりに精を出す。

以上、かなり長くなってしまいましたが研修の報告です。今回の研修会では、今年の8月28日に公表された「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて〜生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ〜」に関連した講演などが多く、答申自体は私も読んでいたのですが、有識者の方々のお話を伺うことができたのは大きな収穫でした。個人的に講演を聞いていて感じたことは、大学教育の質的転換を目指す以上、教職員自身がまず「生涯学び続け、主体的に考える力を育成」していくことが重要ではないかということです。例えばですが、SD研修にフューチャーセンターやワールドカフェを取り入れてみたり、研修成果の学内発表会を毎月開催するなど色々なアプローチが考えられますが、まずは大学を構成する教職員から学び続けることを実践していかなければならないように感じます。
また、こうした外部研修会に参加して得た情報・知見などを学内でフィードバックできるような場を作ることも大切だと思います。場を作ることによって、情報共有を図ったり職員の自発的な能力開発に繋げていけるような制度設計が不可欠ではないでしょうか。ここではご紹介していませんが、参加者が班別に分かれて討議する研修もあり、そこでは各大学の具体的な取り組みについて非常に興味深いお話を伺うことができました。九州大学の田中岳先生の言葉を借りれば、まさしく「異郷有悟=違っているから気づくこと学ぶことがある」であって、自学を客観的に捉える非常に良い機会であったと思います。こうして得られた知見は是非共有するべきだと感じましたので、報告書や資料の回覧を行いました。同僚にどれだけ響くかは未知数ですが、継続して取り組んでいきたいと思います。

*1:Alverno College http://www.alverno.edu/