Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

ユニーク学科で人材育成、「こども」「映画」「ゲーム」

high190です。
最近は大学でも非常にユニークな学科が設置されるようになりました。
これは文部科学省の方針(大学設置基準の緩和)によるものですが、今まででは考えられなかった分野についても、大学で学べる時代が到来しています。
その反面、教育内容についての疑問点や専門学校との棲み分け等、問題があるのも事実です。

ユニークな名前を冠した学科や学部を新設する大学が相次いでいる。目に付くだけでも「こども」「映画」「ゲーム」など、これが大学生向けかと見まがう言葉が並ぶ。新しい教育の領域を切り開きたいとする理想に加えて、受験生の関心を引き大学全入時代を生き残る狙いも垣間見える。若者の反応やいかに。

●芸大から保育士

京都市京都造形芸術大学。キャンパスの一角から子供たちの笑い声が響く。

大学の施設に小学校就学前の3―6歳と母親らがほぼ毎日集まってくる。絵画や彫刻など芸術活動を通じて、子供たちの創造力をはぐくむ新たな試みだ。

この日は母子15組ほどで誕生日会。子供たちが手作りの人形や絵の贈り物を取り出し、果敢にプレゼンテーションに挑む。大勢を前にしても、子供たちに臆する様子はない。

そばで温かく見守る森本玄・助教授は「芸術を通じて自分の考えを表現する力や受け手の気持ちを察する心、創造力を養いたい」と力を込める。

2年前から、「こども芸術大学」と称して保育園とも幼稚園とも違う取り組みを始めた。それがきっかけで4月、大学生向けに「こども芸術学科」を開く。新学科は芸術大学には珍しく、保育士の資格取得に合わせた授業が特徴。子供の創造性を伸ばすために、観衆の心を引き付ける芸術のノウハウを役立てる。

水野哲雄教授は「芸術大学の特徴を生かし、従来にない保育士を送り出そうと思い立った」と振り返る。新学科の特色を打ち出そうと卒業生を「芸術教育士(仮称)」と名付け、社会に普及させたいとも言う。子供にかかわる企業や美術館、病院などに保育士の活躍の場を広げるのが目標だ。

同大学には2007年4月、映画学科、キャラクターデザイン学科もお目見えする。

映画監督でもある林海象教授は「映画学科は映画を作れる人を育てる」と分かりやすい。現役監督がいるなら撮影所も必要との考えから、キャンパス内にスタジオも建設中だ。

学生の中から映画俳優も養成するという。林教授は「映画監督、俳優、スタジオ……。学生だけで映画が作れるといいね。将来は大学で映画祭も開きたい」。 ユニークな学科や学部は他大学にも広がる。4月に大阪樟蔭女子大学は、豊かな社会人生活を送るための知識と実践力を身に付けると銘打った「ライフプランニング学科」を開く。立命館大学は映像学部を新設。06年には京都精華大学マンガ学部を開設した。

●囲い込みの見方も

従来の大学にはない目新しい学部・学科名は受験生の好奇心をくすぐりそうなカタカナや娯楽系の単語が多い。このため、少子化の影響で今後減ってくる受験生を大学がネーミングで囲い込むマーケティング戦略だとの冷めた見方もある。

だが学科や学部名に「映画」や「ゲーム」など具体名を付けることで、「授業内容や進路が分かり、将来の目標が立てやすい」と歓迎する受験生もいる。目的意識のある学生には好都合だ。

大学にとっても、特色のある人材を輩出できれば、大学の存在感が高まる。入学生側と大学の双方の思惑が一致して、ユニーク学科が増えている一面もあるようだ。

ユニーク学科の実力が試されるのはこれからだ。03年に開設した大阪電気通信大学デジタルゲーム学科が今春、ようやく初の卒業生を出す。

大手ゲーム会社のコナミで野球ゲームのヒット作を放った長江勝也教授らが教授陣に名を連ねて話題になった。日本の成長産業とされるゲーム業界を支える人材を増やすとの触れ込みだったが「当初は子供をだめにするゲームを教えてどうするのかと怒られましてね」と上善恒雄教授。

しかし大学4年の松葉碧さん(22)は「インパクトのある学科名に入学してみたくなった」。中山明子さん(22)も「面白そうな学科だと思った」。

授業はプログラムやグラフィックスの技能習得にとどまらない。着想を膨らませるため、天文学や心理学なども幅広く学んだ。2人ともクリエーターやデザイン、アニメーションの知識を深めたくなり、卒業後は大学院で再び学ぶ。

ゲーム業界を志す卒業生は全体の1割だったが、大学側はネットビジネスやコンテンツ(情報の内容)産業でリーダー役になれる人材は多いと自信を見せる。

学科や学部の名称は、社会がこれからの時代にどんな人材を必要としているのかを映す鏡のような存在。ユニーク学科を掲げる大学への期待は大きいだけに、看板に見合う教育内容をいかに充実させていくのか、試行錯誤が続きそうだ。
(大阪経済部 加藤宏志)

これまでの大学では「経済学部」「法学部」「文学部」「理工学部」などの固定された学問分野でしか名称を定められませんでした。これらの名称は学問領域を示すには抽象的で、受験生が「何を目的に大学に行くのか分かりにくい」という状況に陥るひとつの要因になっていたのではないかと思います。
そういった観点から考えると、具体的でユニークな名称を付けることは、受験生が入学後に何を学ぶのかイメージしやすくする効果があります。キャリア教育に各大学が取り組む現状を鑑みても、入学前にスクールアイデンティティを具体化して示すことには意味があるのではないでしょうか。
しかしその反面、記事中にもあるように、大学全入時代に伴うマーケティング戦略であるという冷めた見方もあります。実際に、学科名称を現代的にアレンジしても、具体的な教育内容にはあまり変化が見受けられないということが多々あるのではないでしょうか。
また、特色を打ち出した学科では基礎的素養となる科目を充実させなければ、全体を俯瞰する能力が養われないようにも感じます。単に学科名称を変更するだけでなく、教育内容も合わせて充実させて初めて特色ある教育を行うことが可能になるはずです。