Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

大学学内で企業を設立して学生の教育に役立てる

high190です。
来年度から大学設置基準の改正で、大学は学生が社会的及び職業的自立を図るための能力を教育課程・厚生補導を通じて培うことができるよう、適切な体制を整えることが求められるようになります。

大学は、当該大学及び学部等の教育上の目的に応じ、学生が卒業後自らの資質を向上させ、社会的及び職業的自立を図るために必要な能力を、教育課程の実施及び厚生補導を通じて培うことができるよう、大学内の組織間の有機的な連携を図り、適切な体制を整えるものとすること。

この改正内容を踏まえてか、大学が自ら企業を設立して学生の教育に役立てようとする取り組みを模索する大学が出てきています。


岩手大工学部は、学生が社員となって発光ダイオード(LED)照明装置の開発などに取り組む仮想会社「学内カンパニー」10社を設立した。実践的な人材育成事業「ものづくりエンジニアリングファクトリー(EF)」の一環。大学の資金を元手に、学生が技術開発と経営を行う全国でも先進的な取り組みで、企業との共同研究も推進する。将来的には製品化・販売、起業も視野に入れており、県内のものづくり力強化にもつながりそうだ。
学内カンパニーは、研究室の枠を超えた実践的な研究開発を経験させることが目的。▽月面天測望遠鏡などの機構設計▽ロボット開発▽無人航空機制御システム開発―などを行うカンパニー10社が10月に誕生した。ほかに資金援助を得ない準カンパニー1社もある。

学生が社員となり、技術開発と経営を行う取り組みは今までになかったスタイルだと思います。工学系ならではの取り組みですが、学生自身が社員になるということは非常に面白いですね。まさしく社会的及び職業的自立を図るために必要な能力を大学内で育成してしまおうという訳です。

また、東京電機大学未来科学部建築学科では、研究成果の実用化を目的として学内に一級建築士事務所を設立したそうです。これも建築学科ならではの取り組みです。


東京電機大学は、研究成果の実用化などを目的に、学内に一級建築士事務所を設立、業務を始めた。実際に設計業務を受託し、プロジェクトを通じて社会に研究成果を還元するほか、大学院生がインターンシップ(就業体験)を受けられる環境を整え、大学として実務教育を充実する狙いがある。
同大未来科学部建築学科は、実務教育の充実を目標の一つとしている。2011年度の未来科学部大学院1期生の誕生を前に、学内に一級建築士事務所を設立した。
事務所名称はD・Aスペース&テクノロジーデザイン一級建築士事務所(略称=D・Aデザイン)。同学科講師の柳秀夫氏(管理建築士、意匠担当)と二瓶光希氏(構造担当)をコアスタッフに据え、同学科の教員がサポートする体制を整えている。
大学院生のインターンシップは、希望する全大学院生を受け入れるようにするほか、カリキュラムが実効性を高めるため学外の受け入れ組織と連携する。
設計業務は学内外問わず、受託を目指し、大学での研究成果の実用化と社会への還元を進める。また、プロジェクトを通して企業や社会が求める研究テーマ、人物像を把握し、教育・研究の場に反映させる。
大学と地域のつながりも重視し、特に12年4月に東京千住キャンパスを開設する足立区との関係を深める。
事務所所在地は、東京都千代田区神田錦町2−2−5同大学14号館5階。

今回紹介したいずれの大学も、学部・学科の特色を活かした実務教育を行うために会社を設立しています。このように実社会と大学との接続性を考えた時、実務と知識の相互補完が非常に重要なポイントになります。学生にとっては社会的及び職業的自立を図るために必要な能力を大学生のうちに養う、いいトレーニングになります。同時に大学にとっても、企業による事業の進め方などを知ることができるため、教育面のみならず組織運営にあたって大きな示唆を得ることができるチャンスではないでしょうか。
設置基準の改正を規制強化と見る向きもありますが、高等教育に対しての方向付けというのが大きな目的であって、各大学がその内容を咀嚼して自らの力に変えるための機会であることも忘れてはならないと思います。