Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

平成27年度第19回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました(2日目)

high190です。
関西大学で開催された大学行政管理学会の定期総会・研究集会の2日目(9/6)の参加記録です。1日目はこちらからご覧下さい。*1今回もhigh190が参加したセッションについて、所感をまとめてみました。理解違いなどがある可能性がありますので、悪しからずご了承下さい。なお、総会に関するツイートをtogetterでまとめて下さった方がいますので、こちらもあわせてご覧下さい。*2

第19回定期総会・研究集会(出典:大学行政管理学会Webサイト)

1.分科会「学外のSDに意味はあるのか?-最もコストの高い「大学院進学」を話題に-」

各登壇者のプロフィール紹介。大学院に入学した理由。

  • 関西学院大学 渡辺 絵里 氏
    • 大学職員になりたい、と思って就職した訳ではなかった。
    • 仕事が合わない事から退職を考えた事もあったが、現在の部署に異動してきた時点で、桜美林大学大学院に進学する事を決意。業務に直結するスキルが得られるか否か。考え方を学べる。
    • 大学院で学んだ事が業務に直結するか否かは、担当業務によって異なるが、学外ネットワークが広がるきっかけになると思う。
  • 中央大学 梅澤 貴典 氏
    • 日本私立大学図書館協会の米国研修で刺激を受けて、東京大学大学院に進学する事を決意。
    • 大学院に進学してから、基礎知識を学び、俯瞰的に物を見る事ができるようになり、調査の設計やデータの分析を学ぶことができる。研究手法を学ぶことができ、知識の体系化に繋げられるようになった。職員として研究の視座を得られる事は、大学での仕事に大きく役立つ。*3
    • また、大学院で研究する内容は広すぎるテーマではなく、内容を絞って研究テーマを設定するといい。
  • 京都大学 中元 崇 氏
    • 大学院に進学することの意味付けについて、お話をしたい。他の登壇者の方と違って、就職の時点で修士号を得ており、職員になってから名古屋大学博士後期課程に進学した。大学院に進学する事の意味はあるが、ただし、それは当人及び職場・組織が相応の意味づけを行うことが必要。
    • 「絶対的コスト」と「相対的コスト」を考えなければならない。大学院に進学する事については、職場での仕事内容・レベルに引きずられる部分がある。
    • 大学職員の企画立案能力については、大学設置基準の大綱化によって90年代から徐々に求められるようになってきた。職能開発としての大学院進学に関し、職場からの理解が得られるかどうかは大事。
    • SDが多様化している「往々にして無秩序なダイバーシティ」SD/職能開発での「たまたま」問題。偶発的なキャリア形成。
  • 名城大学 森 康介 氏
    • 文学部を卒業し、中近世ドイツ文学を学んでいた。現在は名城大学大学院にて学んでいる。進学動機は「学生に学びを実行してもらえる職員になりたい」
    • 大学院進学による生活スケジュールはどうしても厳しくなってはしまう。学びと仕事を両立させる点については、どうしても時間的な制約があるので学習時間の確保を第一に置くことが必要である。
    • 大学院に進学して、情報の扱い方が変化した。精査、組み合わせ、リフレクション。
  • 京都文教大学 村山 孝道 氏
    • 寺の息子に生まれて、佛教系の大学に通い、佛教関係の大学に就職してプロパー職員として就職した。
    • 大学コンソーシアム京都のアドミニストレータ研修をきっかけに、職場の教職学イベントでの発表で「やる」「やらない」の選択肢が目の前に現れたら、「やる」を選択しようと思うようにと発表した。そして同志社大学大学院総合政策科学研究科に進学。
    • 家族を持っていると、ワーク・ライフバランスではなく、ライフ・ライフバランスになる。家族のことも大切にしないといけない。複眼的思考が身に付く事は重要だろう。専門性とメタ視点を持った職員。「やる」を選んでからどうやるかをゆっくり考えればいい。

【全体討論】

  • 職場・家庭の理解、折り合い
    • 職場・家庭からは特に意見などはなく、背中を押してもらえた。
  • 新人職員が大学院に通う際に、職場の理解は得られたか
    • 特にコメントなどはなく、職場の中でも背中を押されることが多かった。
  • 職場での理解を得るために、職場内でのコミュニケーションなどで気をつかっている部分はあるか
    • 通信教育課程なので、それほど通常業務には影響がないが、スクーリングなどに参加する際、職場内で調整して対応している。職場として、送り出す際に業務に支障を来たさないような仕組みなどを整備しておく事が大切ではないか。
  • キャリア焦燥感:大学院に通うと思うことはおかしいか?
    • 出願の段階で、研究計画書などをどう書けば良いかなどで迷っている人も多くいると思うが、登壇している人でも、ひとりとして出願時の研究計画書のままで修士論文を書き上げた人はいないと思う。
    • 大学行政管理学会に来るようになってから、焦りを感じるようになった。現在、大学院に通っており、高等教育に直結するものではないが、そういう部分で焦りの気持ちを抱くようになった。自分の責任において大学院で学ぶのだから、自分の責任において対応しなければならない。
  • 大学図書館に関する研究をして、どんな成果が大学にもたらせたか
    • 情報リテラシーに関する研修などを実施し、大学院で得られた知見を職場に還元するようにしている。*4 *5
  • 大学側の人材育成に関する投資に関する考え方
    • もっと大学側も職員の育成に関して、育成に関する投資を行うべきではないか。大学院進学などに関しても、費用負担などを行っても良いのではないか。
    • 費用面での負担軽減も大切だが、一番重要なのは、仕事をしながら履修することの時間的制約なので、その部分の負担軽減・職場の理解を得る体制整備が必要ではないかと思う。

ある意味、今回の研究集会に参加して一番興味をそそられたのが、この分科会のテーマでした。大学職員にとって大学院進学の意味とは?というテーマは、現在、中教審で議論されている高度専門職やSD義務化の話とも繋がります。私自身、ブログを書き続けることがSDになると思って続けてきていますが、登壇者の方々のお話を伺って、働きながら大学院に通うことの大変さが伝わってきました。その反面、マルチタスクをこなすための練習としてはいい機会なのかも知れないとも感じました。また、質疑応答でもフロアから色々な意見が寄せられましたが、個人的には現在においては、職員で大学院に通う人は「変わった人」「勉強熱心な人」という形で捉えられているように感じ、まだ一般的ではないということです。しかし、大学院に通うだけではなく、変わったバックボーンを持った人が多くいて、多様性のある環境を作っていくことこそ、これからの大学には必要なのではないかと思います。硬直的な発想や組織文化を打ち砕くためには、異なる文化に触れ、吸収した人を多く組織に迎え入れる・または内部で育成していく必要があります。もちろん、自学のミッションを浸透させることによって、多様な人々の集団凝集性*6を高める工夫を怠ってはいけないと思いますが。そのためにも大学院進学は魅力的な選択のひとつではないかと個人的に感じているところです。
これは私見ですが、登壇された皆さんの専攻分野は高等教育が中心(政策科学を専攻されている方がお一人)でしたが、経営学などの分野も今後は進学先の選択に入れてもよいかと思います。職員が学ぶべきマネジメントの発想、マネジャーとしての役割などは、高等教育の大学院だけでは学べないと思いますので、その点については今後の大学職員の高度専門職養成のあり方にも一定の示唆を与えうるものかと思います。こちらの詳細は拙ブログの過去記事をご参照下さい。*7
なお、上記にまとめた内容はあくまでも一部です。他の大学職員ブログでも記事にされている方がいますので、そちらも是非ご参照下さい。*8 *9 *10


2.研究・事例研究発表1「大学職員の研修(SD)の必要性と効果検証−テーマパークの事例を参考に−」昭和女子大学 松丸 英治 氏

  • 発表の目的
    • 学生時代に某テーマパークでアルバイトした際、非常に充実した研修制度があった。その反面、大学職員になってからは研修制度の未整備さに驚き、以来、研修に関心を持って、過去にも大学行政管理学会で発表してきた。
    • 現在、中央教育審議会の大学教育部会にて、「高度の専門性を有する職種や、事務職員等の経営参画能力を向上させるため(中略)」と指摘している。FDは大学設置基準上で規定されているが、今後はSDについても義務化される可能性がある。
  • テイラー、アレンによる効果検証を前提とした研修制度。
    • 既にSDを実施している大学は全体の83%に達しているが、内容面での不満などが寄せられている。ひとつの参考として、経営参画能力の向上などが挙げられているが、体系的な研修を実施している大学は少ない(早稲田大学立教大学など)
  • なぜ人材育成をするのか
    • 「組織は戦略に従う」チャンドラー
    • 「構造は戦略に従う。組織構造は組織が目的を達成するための手段である」ドラッカー
    • 必要な人数・スペックの設定が必要なのだが、現実は「既存人材の配置」に留まっている。「大学職員のSDの必要性と課題」(岩崎保道)
    • MBAは会社を滅ぼす」ミンツバーグ
      • 「教室でマネージャーはつくれないが、すでにマネージャーの職に就いている人は教室で成長できる」
    • 某テーマパークの研修方法を参考に、新任教員研修プログラムを開発した大学がある。「モントリート・カレッジ」
    • ディメンションズ(エグゼクティブ対象の研修)
    • SDを行う以上は効果検証が必須ではないか。まず、SDをやる前に「大学として必要な組織能力を把握」し、「所属員の能力の把握」を行い、「必要な人材と能力の把握」をした上で、「SD(研修)」を行うことで効果検証に繋がる。大学側が成長させてくれる訳ではない。

某テーマパークの研修手法から、大学職員の研修に焦点を当てた発表です。中教審で現在議論されているSDの義務化に際し、どのようにして効果的なSDを行うのか、またSDが機能するための仕組みづくりを行うことで効果検証を行うことができるという指摘でした。発表の中で興味を引かれたのはテーマパークでの研修手法をFDに取り入れた大学があるということでした。ノースカロライナ州のモントリート・カレッジがそのようですので、こちらについても引き続き情報収集してみたいと思ったところです。SDの効果検証のお話も印象的でした。実際にSDの効果検証をしている大学はあるんでしょうか?私は寡聞して知りませんが、どなたかご存知の方がいらっしゃいましたら、ご教示いただければ幸いです。


3.研究・事例研究発表2「大学職員のメンタルヘルス研究の現状と展望」立教大学 松木 敦志 氏

  • 発表概要
    • 大学職員のメンタルヘルス研究の現状の共有
    • 同研究の今後の必要性についての共有
    • 自分や同僚のメンタルヘルス、または職場の環境について関心を持ってもらう。
    • 内発的理由として、大学職員のメンタルヘルスが悪化しているのではないかという仮説。
    • 外発的理由として、厚生労働省のストレスチェック義務化。
  • メンタルヘルスに関する研究の到達点(先行研究)
    • 先行研究を踏まえると、大学職員の精神健康状態は決して良好とは言えない。その結果を含めて、どのようなアクションを起こせば良いのか。
  • 不足している研究知見
    • 何がストレス源(またはメンタルヘルス影響要因)か?
    • 特徴的なストレス反応はどんなものがあるのか?
    • ストレスを抑制・促進する要因(要因 AtoZ)は?
    • 要因AtoZは個人の属性によって異なるのか?
  • 研究主題
    • 大学職員のストレス構造を明らかにする
    • ストレス反応を規定する要因を明らかにする
    • ストレスを抑制・促進する要因を明らかにする
  • 調査の結果
    • 20代の職員が最もストレス要因を受けやすく、50代の職員が一番ストレス要因が少ない。
    • 「職場の将来への不安」がストレス促進要因として、最も高い。その反面、愛着的愛校心はストレスを抑制する。
    • ストレスマネジメント研修の効果の測定と分析を行うべきではないか。
  • 質疑応答
    • 各大学での職場でのストレスチェックについて、衛生委員会や衛生管理者などに対する研修を行うべきなのか、一般職も含めた全ての人に研修を実施すべきなのか。
    • ストレスは、対処を放置するとどんどん負担が高まっている。何か嫌な事があった時に、対処方法を知っていることが重要であると思う。

大学職員のメンタルヘルスに関する研究は、いくつかの先行研究はありますが、まだまだ研究が深まっていない分野だと思います。*11しかしながら、大学を巡る環境の激変に対応して、大学職員のメンタルヘルスがどのように変化しているかを明らかにしようという本研究の試みは、今後の研究進展に大きな一石を投じるのではないか?と個人的に期待しているところです。今後も研究を継続されるということでしたので、研究結果の進捗状況についてフォローしていきたいと思える発表でした。


4.研究・事例研究発表3「大学を取り巻く各種データに対する統計的分析手法の適用とその課題」日本大学医学部 烏山 芳織 氏

  • 研究の背景と目的
    • 大学内情報を統計データとして分析的に扱う場面の増加
      • 大学における評価・経営等に関する調査・分析(IR・大学ポートレート
      • 関連データベースの整備と公開(大学に関するデータを用途に応じて統計的な分析が可能に)
    • 統計解析ソフトの進展(SPSS
      • 大学職員においても業務の中で数値データを扱う環境となりつつある?統計的分析の利用と機会も広がってきている?適切な方法での統計処理・分析が望まれる。
  • 研究課題
    • 大学に関する各種データにおける統計的分析手法の適用に着目して、かかる課題や問題点とその対処方法について検討する事
    • 大学を取り巻く各種データ
      • 大学内情報・大学外情報
      • 公開データ・非公開データ
      • 集計データ・非集計データ
      • 統計調査に関するデータ
    • 扱うデータ毎に適切な方法での処理が必要
      • 統計的分析手法の種類
      • 合計、平均、割合、比率(簡単)
      • 相関分析、回帰分析(普通)
      • 検定(まあまあ普通)
      • 多変量解析
      • 重回帰分析、因子分析、主成分分析、クラスター分析など
      • モデリング、プログラミング
      • 線形計画法などなど
  • 統計的分析に係る環境
    • 大学職員においても、統計解析ソフトが広まってきたことの影響でできるようになってきた。その場合、データを正しく扱えているかどうか怪しい場合もある
  • 現実的にデータを統計的に分析する場合
    • 大学教員に相談しながら、というのが一番早い
    • 自学自習は正直、時間もかかるので教員の助けを借りながらやるのが良い
    • 多くの大学職員は、多かれ少なかれ近しい大学教員からアドバイスを受けながら統計的分析を進めていけるのではないか。
      • 当該大学教員が専門とする専門分野での慣例に依存しやすくなる傾向があるのではないか。
      • その点を考慮すると、職員向けの統計的分析能力は大切なのでは?統計的分析に関しても、様々な学問領域の教員毎にやっているのでは。知らない間に、結果として誤った分析方法の選択、十分な説明量がない統計モデルということに陥っていることもある。
    • 統計リテラシー統計学的背景を持たない者が、業務上の要請や自己の研究に必要なため統計解析ソフトに基づいているので、正しい統計知識で検証が必要
    • 統計的分析手法でも、大学行政管理学会の発表においても、様々な手法のアプローチが出てきている。
  • 大学行政管理学会で発表する場合、どの程度の統計処理レベルや分析方法が適切なのか?
    • 特定の学問分野に準じるか?教育学、社会学、心理学、経済学?
    • 統計的分析手法を用いた発表に関する定義
    • JUAMにおいても、統計スキル向上のための研修会・勉強会・ワークショップなどが必要な段階にあると考えられる。統計スキルアップや統計分析の必要性に関する知識など
    • 今後、大学職員が統計分析を行うことが増えるならば「統計スキル向上のための研修会・勉強会・ワークショップを企画実施」が必要ではないか。

ワークショップによる人的ネットワーク形成などに関しては、なかなか面白い提案ではないかと思います。個人的に気になったのは、統計的な理論背景を理解しない状況で分析する事は怖いということです。これは正しいと言えます。
統計に関する公的検定試験としては、日本統計学会が実施している「統計検定」*12がありますので、求められるレベルの試験に合格できるだけの基礎知識を付ける事が大切ではないかと思います。また、入門者向けの講座として私がオススメなのは、NTTドコモが運営するgaccoにて日本統計学会が提供する「統計学Ⅰデータ分析の基礎」*13総務省統計局統計研修所が提供する「社会人のためのデータサイエンス入門」*14です。私自身、統計に関する知識は持っていませんでしたが、IR関係の仕事をするようになって最低限の知識は必要であることから、両方の講座を受講し、修了しました。

事例研究発表は全部で4グループに分かれているのですが、今回は自分自身も発表をチャレンジしようと思いまして、他の方の発表を聞くことができなかったのが心残りです。今回の研究集会を通じて、色々な課題なども浮き彫りになったかと思います。是非継続してこのことに関する議論を積み重ねていくことを望みたいです。そのためにもソーシャルメディア等のツールを上手に活用していければいいのではないかと思います。

*1:平成27年度第19回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました(1日目) http://d.hatena.ne.jp/high190/20150908

*2:大学行政管理学会第19回定期総会・研究集会 http://togetter.com/li/873455

*3:梅澤貴典「大学職員が社会人大学院で学ぶ意義とは?」 http://www.slideshare.net/takanoriumezawa/ss-43688505

*4:梅澤貴典「誰でもできる!知的生産のための図書館&公的データベース活用法」 http://www.slideshare.net/takanoriumezawa/ss-37392161

*5:梅澤貴典・大学職員のための情報収集法 http://www.slideshare.net/takanoriumezawa/ss-35032215

*6:集団凝集性(グロービス経営大学院MBA用語集) http://gms.globis.co.jp/dic/00693.php

*7:東京大学大学院教育学研究科大学経営・政策コース設立10周年記念シンポジウム「大学経営・政策人材と大学院教育」に参加してきました http://d.hatena.ne.jp/high190/20150403

*8:大学職員の枠からはみ出た人たち−大学院進学をめぐる議論から(Curation) http://setapapa.net/20150920/

*9:大学職員と大学院〜SD・SD・PD〜(大学アドミニストレーターを目指す大学職員のブログ) http://as-daigaku23.hateblo.jp/entry/2015/09/07/180000

*10: (2015.9.6) 大学行政管理学会 分科会 大学院進学(システム担当ライブラリアンの日記) http://blog.goo.ne.jp/kuboyan_at_pitt/e/287a87091b6095c4553a99fd34e29d83

*11:大学職員独自のワークモチベーションとメンタルヘルスに関する研究を調べてみる http://d.hatena.ne.jp/high190/20131113

*12:http://www.toukei-kentei.jp/

*13:https://lms.gacco.org/courses/gacco/ga014/2014_11/about

*14:データサイエンス・オンライン講座「社会人のためのデータサイエンス入門」 http://gacco.org/stat-japan/

平成27年度第19回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました(1日目)

high190です。

9月5日(土)、6日(日)の2日間、大阪の関西大学千里山キャンパスで開催された大学行政管理学会の定期総会・研究集会に参加しました。今年の全体テーマは、「未来の社会を元気にするために大学ができること」です。全2日間のプログラムで、1日目は定期総会、基調講演、懇親会が開催され、2日目はワークショップ、研究・事例研究発表が行われました。今回もhigh190が参加したセッションについて、所感をまとめてみました。内容が多いので今日は1日目のプログラムに関してのまとめです。理解違いなどがある可能性がありますので、悪しからずご了承下さい。昨年度以前の参加記録もお知らせしておきます。*1 *2 *3 *4

第19回定期総会・研究集会(出典:大学行政管理学会Webサイト)

1.開催校理事長講演「この伝統を、超える未来を。〜関西大学 創立130周年〜」(学校法人関西大学 理事長・池内啓三氏)

  • 関西大学の歴史、1886年に関西法律学校が創立。創立者「児島惟謙」の紹介。現在では13の学部・研究科、幼児教育、初等中等教育の付属校を要する。教育の対象者数は約35,000人。
  • 中興の祖、山岡順太郎(総理事、第11大学長)
    • 学是:「学の実化(じつげ)」
      • 学理と実際との調和
      • 国際的精神の涵養
      • 外国語教育の必要
      • 体育の奨励。
    • 現理事長は事務職員出身。職員として大学紛争を経験。職員としては学生支援、就職支援などを中心に経験し、最終的には総務局長を務めた。その後、理事として理事長のサポートをするとともに、幼稚園長なども務めた。
    • 大学時報に書いた記事。2013年1月。ずいそう「事務職員今昔」*5
      • 単純作業に明け暮れ
      • 求められる高い能力や人間性
      • 人事制度改革
      • 真の教職協働を目指して
  • 取り組んだ仕事の紹介
    • 日本能率協会と協働で人事制度を改革。事務職員の意識改革の先鞭をつける。
    • 大学教育職員定年延長制度改革。教員組合と3年間の協議を経て妥結。その他、早期退職制度や再雇用制度などを導入して、ST比の改善を行う事が出来た。*6
    • 学納金訴訟の対応を行い、3月末日までに入学辞退した者には授業料を返還するように命じる判決。大学経営に大きな影響を与えるものだった。*7 *8
    • 長期ビジョンの作成
      • 5つの柱を作る
      • ゴーイングコンサーンとしての学園
        • 教育改革
        • 研究改革
        • 社会連携・生涯学習計画
        • 国際化
        • 学生支援改革
        • 大学入試改革
        • 併設校の教育改革
        • 組織・運営基盤の構築
    • 長期ビジョンに関しては、PDCAサイクルを回す。5年間で中間評価を行い、見直しを行って改訂版を作成する。関西大学2010プロジェクト推進体制図。大阪医科大学大阪薬科大学との協働学部設置については設置基準上の要件を満たすための調整が難航し、残念ながら頓挫。
  • 130周年記念事業の大要。
    • 千里山キャンパスに新たなアクセスエリアの創出
    • 関西大学グローバルフロンティアプログラム」の開発・提供による”次世代グローバルリーダー”の育成
    • 関西大学イノベーション創生センター
    • 天六キャンパスの閉鎖。梅田駅近くで新たに社会人教育の拠点を作る。
  • 大学行政管理学会に期待する事
    • 大学職員は将来有望な職種であると思っている。大学行政管理学会の研究集会も19回を数え、職員の地位向上にも繋がった。中長期計画があり、単年度の事業計画が構築できていれば、やることは明確になる。また、事務職員の役割として、教育職員(教員)をどれだけ動かす事が出来るかがポイントである。新卒職員に対しては、ジェネラリストとして、きらりと光るスペシャリティを持つ事。

事務職員出身の理事長として、職員に求められる役割が変化してきたことを分かりやすい形で説明されるとともに、中長期計画を策定して大学経営を行うことの重要性など、現在多くの大学が取り組んでいる事例などのお話でした。個人的には、過去にブログで取り上げられた教員の定年延長制度改革のお話は興味深く聞かせていただきました。最後にJUAMへの期待が述べられていましたが、私も大学職員は将来有望な職種だと思います。そのために個々の職員が能力開発を積極的に行い、あわせてスペシャリティを持った職員が能力を発揮できる人事制度の構築に向けた検討を、大学行政管理学会が主導して行っていくことが今後の課題ではないかと感じました。

2.基調講演「笑いは百薬の長」関西大学人間健康学部長・教授 森下伸也氏

  • 笑ってくれる会場とそうでない会場は明確に異なる。女性の会場の方が笑い、男性が多い会場は笑わない傾向がある。日本の古典芸能としては狂言がある。これは古典のコメディーなので、こういうものがあることは日本人はもっと誇りに思っていい。”狂言笑い”腹式呼吸で笑うので、呼吸が回る。
  • また、大阪には文楽という古典芸能がある。文楽はひとつの人形に3名がついて動かす。操り手、語り手、音楽隊(三味線)の三位一体で作り上げる。文楽では「笑いに3年、泣き3月」と言われる。それだけ、笑いの方が難しい。
  • 生き写し、朝顔、笑い薬の段
  • 文楽の場合は、狂言笑いと異なる。大学生に「やれ」というと「羞恥心」があるからやらないパターンである。
  • 日本笑い学会・会長」
    • 誰でも入る事ができるが、芸人、メディア関係者、教育者、広告業界関係者などがいるが、一番多いのは医療業界である。医者で”落ち研”出身者は多い。また、医師と同じぐらい多いのは看護師である。薬剤師なども加えると医療関係者が一番大きい。

医学には”ユーモア療法”というものがあり、健康増進・病気の療養などに役立てている事例がある。そのお話をしたい。

    • 元々、ユーモアという言葉は医学の専門用語である。意味は笑いの元、気質、(古義、大体2000年前ぐらい)では体液を意味する。ユーモア療法の歴史だが、1964年に始まった。ちょうど東京オリンピックが開催された年である。オリンピックは10月10日に始まり、10月1日には東海道新幹線が開通した。
    • その反面、世界的には冷戦の時代であり、キューバ危機などがあった。ノーマン・カズンズというジャーナリスト・平和運動家が始めた。キューバ危機でケネディの特使としてソ連のフルシチョフと交渉した人物である。体調不良を訴えて、医者に駆け込んだところ「膠原病」と診断された。治療方法は現在でも確立しておらず、対症療法しかない難病である。その中でも特に回復が見込まれない症状であると言われた。入院してほどなく、ある本を読んだ。その本には「ストレス」という言葉が書かれており、ハンス・セリエという医師が書いていたが、その本には「ネガティブな感情でいると、関節の病気にかかりやすい」と書かれてあった。カズンズは「では、ポジティブな気持ちでいられれば、痛みが和らぐのではないか」と考えた。通常な治療は継続しながら、ネガティブな感情(食事、病院内での知人関係(男性、女性で異なる))を誘発させられるとの思いから、病院を引き払い、ホテルを1室借りる事にした。(ちなみに東京では1日滞在費が30万円の病室がある)
    • 病院で多いのは「病気自慢」である。重たい病気の方が尊敬される倒錯した価値観である。そういう意味でも病因自体がネガティブな環境であろう。スティーブ・ジョブズの例。ガンで亡くなったが、スタンフォード大学の卒業式でのスピーチを行ったが、"Stay Hungry, Stay Foolish"と言った。意味を考えると愚直であることを説いた。
  • 「災害は忘れた頃にやってくる」
    • 「科学者は頭が悪くなければならない」物理学者・寺田寅彦の言葉(夏目漱石との繋がりがある)
    • 「細胞の初期化」iPS細胞の山中伸哉
    • ノーマン・カズンズは、笑うために友人のテレビのディレクターに頼み、コメディー番組の編集してもらったものを見て、極力笑うように務めた。それを繰り返すうちに、徐々に痛みが取れてきた。その結果を医師に伝えたところ、細胞の一部を顕微鏡で見る事になったが、結果として徐々に痛みが減っていき、元の生活に戻る事ができた。そして、仕事に戻っていくが、発病から5年後には完治してしまった。そして、ジャーナリストの特性を生かして「闘病記」を書いてみたところ、大変な反響があった。
    • ノーマン・カズンズの書籍を受けて、笑いを治療に活かそうという医師が現れた。"パッチ・アダムズ(映画にもなった)"ロビン・ウィリアムズが演じている。当のロビン・ウィリアムズ鬱病になって自殺してしまっている。そのことも因果があると感じられる。
    • 病院の道化師(”ピエロ”は和製英語=クラウン)が欧米ではいない病院を探すことの方が難しい。
    • インドではヨガと笑いを融合させた取組も出てきた。ラフター・ヨガ。
    • 日本人の死因の一番はガンであり、3人に1人がガンで亡くなっている。笑いはがんに効くということ。交通事故などの突発的な事象は、”生きている間にやってみたいこと”をできない。その点からするとガンは時間はあるので、死に方としては悪くない。

ガンのポジティブな呼び方として”ポン”を日本笑い学会で考えた。人間の細胞は1日に1兆死んで、新しく1兆生まれるが、そのうちガン細胞は5000ほど生まれてくる。その反面、NK細胞を作り出して対応しているが、その力が弱くなってくるとガンになる。笑いはNK細胞を強化する効果があり、医学的にも実証されていることである。

  • 薬と笑いには3つの違いがある。即効性、経済性、副作用が無い。笑うとコルチゾールという物質が出て、ストレスを緩和してくれる。笑うと脳波にも変化がある。α波とβ波が出る。休息と元気によって人間は生活しているが、そのリズムを笑いがもたらしてくれる。また、脳血流を良くするということにも繋がりがある。

健康と笑いの関連性ということで、開催校の関西大学人間健康学部長・教授の森下伸也氏による講演でした。笑いの中に学問的な観点を入れながら、会場も巻き込んだ"アクティブ・ラーニング"の講演で圧巻でした。私自身も大学職員のメンタルヘルスについての関心があり、以前にそういった記事も書いたことがあります。*9能率・クオリティ面でも高いアウトプットを出すためにも、心身の健康が重要であることは言うまでもないことですが、笑いの面から健康を考えるという、とても楽しい基調講演でした。また、スティーブ・ジョブズスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチが話題になっていましたが、動画は公開されているので、こちらでもお知らせします。

3.ワークショップ「大学のガバナンス(改正学校教育法施行後の教授会等の教学組織における会議運営及び学長の校務の範囲について)」

  • 改正学校教育法に基づく学長までの意思決定手続について
    • 入試判定の判定結果などについて、学長の承認を取りにくいような場面がある事から、審議事項が報告事項になったということはない。
    • 学事研究会でも同様の議論になったが、代議員制(学校教育法施行規則第143条)の活用などによって、スピーディな意思決定が行えるとの意見もあった。
    • 入試の場合は、最終の決定権者は学長である事から、副学長を置いている大学に関しては、事前の学長が校務上の権限を委任すれば、副学長の決定でも可とできる。ある意味において、国立大学法人のガバナンスを見ると、理事長・学長が兼務されていることから、私立大学よりもリーダーシップが発揮しやすい面もある。
  • 改正学校教育法に伴う学内運営上の主な変更点について
    • 教授会議事録に関する変化など、以前は「教授会が決定した」という表現の大学もあったと聞いているが、「教授会が承認した」などの文言を使う事に改めた大学もある。議事録の扱いは変えないが、学長裁定で教授会議事録の位置づけを明確にした大学もある。
  • 学長のあり方について
    • 学長選考のあり方について、選挙制度と指名制度のメリット・デメリットがあること、政治と経営の意思決定の対比から、大学における経営のあり方についての討議を行った。また、私立大学の学長は、理事会と教授会の調整者として(ある意味で「課長補佐」のような中間管理職的な役割)
    • (参加者意見)民間企業から転職してきた時には、学長選挙などは普通あり得ないと思っていたが、学校法人で働くにつれて、株式会社の場合は株主総会によって、社長が罷免される例もあるが、私立学校の場合には所有者不在の状況もあり得るので、選挙で選ばれることもあり得るのではないかと思っている。
    • 私立大学の学長においては、自分がやりたい施策を踏まえつつ、理事会の意向を尊重できる人物ではないか。以前は学部長は選挙で決めていたが、法改正を受けて学長指名に切り替えた。ただ、教授会は自らの意思を示すために、教授会でも学部長候補を選考していた。
  • 学長以外に、副学長、学長補佐を置くことによって対応しているが、そういった教学役職者の選任にあたって、職員にも選挙権を与えている大学はあるのか?
    • 学長選挙において、課長以上の職員に投票権があるケース、全職員に投票権があるケースなどがある。
    • 大学の運営形態を考えると「選挙」という形式が成り立ち得るか?
    • 諸外国においては理事会が決定するパターンが多い。選挙全てがけしからんということはないが、「施策の方策」「業績評価」など、アカウンタビリティの観点で選挙は問題があると思う。
    • 学長の評価という観点では、私立大学では機関別認証評価は学長に対する評価と考えられるので、任期を7年で設定するなどのこともできるかと思う。
    • 東北大学の学長選考については、経営協議会・教育研究評議会・推薦という形態を取っているので、バランスが取れていると思われる。
    • 例えば、当該大学にとって「改革を実施したい」と思う大学において、選挙よって選ばれた学長では、理事会が思う改革を進められないのではないかと思う。そういう点で選考委員会方式と選挙方式の両面を取り入れていくのがいいのではないかと思う。
  • 理事長、学長の職務権限を定めている大学はあるか?
    • ある大学のケースでは、寄附行為施行細則という形で職務権限を明確に定めているケースがある。
  • 他組織のガバナンスと学校法人ガバナンスの比較について
    • 私立学校における理事会は「自己チェック型」なので、性善説に立った上での運営形態となっている。
    • 学長と現場がいかにコミュニケーションを取れるか、という点がガバナンスには大きな影響があるのではないかと思う。国立大学法人においては、運営交付金の削減分を学長裁量経費に組み入れるなどの措置も検討されている。
    • 株式会社でも学校法人でもオーナー型の運営形態はある。株式会社においては、会社の負債は株式という形で失われるので、オーナーも負担を被るが、私立学校においては所有者が存在しないことから、学校法人財産は学校法人が解散した場合、残余財産は国庫に入るが、経営者個人の資産には特に権限が及ばない。

学校教育法改正の関連から、大学のガバナンスを考えるきっかけがありまして、大学行政管理学会の学事研究会が主催する研究会などにも参加してきました。その延長として、今回も当該ワークショップに参加しました。法改正後に大学内での意思決定プロセスなどに変化があったかなど、自らの興味関心もありましたので、参加しました。とても月並みな言葉ですが、対応状況は大学毎に大きく異なるように感じまして、法改正の趣旨をどのように理解し、学長のリーダーシップ体制を整備してスピーディな意思決定に繋げているかの差が出ているようにも感じられました。

ワークショップの後は懇親会に参加し、関西方面の大学職員の友人と旧交を温めました。懇親会でもIRの実践事例などのお話を聞けて有意義でした。次回は2日目のプログラム報告を掲載します。

*1:平成24年度第16回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました http://d.hatena.ne.jp/high190/20120911

*2:平成25年度第17回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました http://d.hatena.ne.jp/high190/20130909

*3:平成26年度第18回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました(1日目) http://d.hatena.ne.jp/high190/20140911

*4:平成26年度第18回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました(2日目) http://d.hatena.ne.jp/high190/20140916

*5:大学時報第348号(2013年1月発行) http://www.shidairen.or.jp/activities/daigakujihou/index_list/no348

*6:関西大学が教授の定年延長制度を5年から2年に短縮 http://d.hatena.ne.jp/high190/20080603

*7:不当利得返還請求事件(最高裁判例) http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=33837

*8:大学に対する入学辞退者による学納金返還請求(独立行政法人国民生活センターhttp://www.kokusen.go.jp/hanrei/data/200706.html

*9:大学職員独自のワークモチベーションとメンタルヘルスに関する研究を調べてみる http://d.hatena.ne.jp/high190/20131113

読売新聞社の"「大学の実力」検索・WEB版"から大学ポートレートのあるべき姿を展望する

high190です。
大学のリアルな実態を明らかにする調査として、すっかり定着した感のある読売新聞社の「大学の実力」ですが、これまで紙面でしか見られなかった各大学の状況をWEB上で確認できるサイトを構築されたようですので、本ブログでも取り上げたいと思います。


大学は大きく変わっています。親御さんや進路指導の先生がご存知の大学ではありません。最も大きく変わったのは、教育です。
2人に1人が進学する時代ですから、学ぶ意欲のない人も珍しくありません。そういう学生をぴかぴかに磨き上げ、社会に送り出すため、大学が教育の見直しに取り組み、情報公開を進めています。
そんな時代だからこそ、偏差値や知名度より教育の中身で!2008年から始まった読売新聞の「大学の実力」調査が、あなたの選択をサポートします。

公表されたので、早速使ってみたのですが、複数の大学を一覧表示で比較できるのは分かりやすくていいなと思いました。具体例として国立大学法人のうち、経済学部で大学を8つ(一橋大学名古屋大学大阪大学東京大学東北大学横浜国立大学神戸大学)選んで比較してみました。(検索して知ったのですが、京都大学は大学の実力調査には回答していないみたいですね。紙面でも確認してみたいと思いますが、検索しても出てきませんでした。それともエラー?)
ただ、表を横にスライドする形だとちょっと見ずらいので、アメリカのCollege Portraitsのように単一ページに数字が一覧で表示されるような形態の方が利用者側が使いやすいと思います。(College Portraitsの表示内容については、過去の記事で取り上げていますので、そちらをご参照下さい)*1

表示画面のユーザーインターフェースなど、改善の余地はまだあると思いますが、大学受験で志望校を考える際、数量的な比較を行えるという点で便利なサイトだと感じました。他のブログなどにおいても、大学選びに有効なサイトであるというような声もいくつかあるようです。NPO法人NEWVERY理事長の山本繁さんはいち早く賛同するブログ記事を書かれています。*2
このように「大学の実力」検索は、おおむね好意的に捉えられているようですが、私が一番最初に感じたのは「本来、この役割を担うものが大学ポートレートではなかったか?」という疑問です。大学ポートレートが整備されたことによって、同一のプラットフォームで大学情報を閲覧できるようになった点はメリットだと思いますが、機関毎の比較にこそ真価が発揮されますし、大学情報を公表する意味があるはずです。なお、大学間での比較ができないことのデメリットについては、筑波大学の金子元久先生が度々指摘してきたことです。本ブログでも過去記事で取り上げましたが、重要なご指摘だと思うので、平成25年10月2日に開催された中央教育審議会大学分科会組織運営部会の第4回議事録を抜粋して再掲したいと思います。


それから,作られようとするポートレートは非常にきれいで,様々な指標は入れられていって,その意味では,もう2年もかかって検討をして,お金もかけてやっているのだろうと思いますが,しかし,先ほどもお話がありましたが,大学によって,これにエントリーしないことは選べますし,それから今後も,別にエントリーしないことは任意です。私は,この任意はいいと思うのですが,しかし逆に最大の問題は,このポートレートでは複数の大学を比較することはできません。一つの大学を決めてしか,この大学について情報があるということを見ることしかできません。例えば私の行きたい大学は三つ,四つある場合,この大学の間を比較することは,このポートレートからはできないという設計になっています。諸外国の大学情報公開は二段構えになっていまして,一つは自由に検索できるデータベース,2段目はステークホルダー,高校生を中心として,大学を選ぶ際に比較ができる画面が出るような工夫がされています。
いずれにしても,日本の大学でポートレートと称しているものは,そういった基本的な情報公開の要件を満たしていません。私は,これは何回も大学ポートレート委員会に私,委員で入っていますが,主張しましたが,全くどうしてか分かりませんが,それは認められないと言われました。私は,この委員会の民主的な運営から見ても,これはおかしいと思いますし,日本の大学改革の全体の展望からいっても,なぜ先進国の間の中で日本だけがここでとどまるのかというのは分かりません。これについて何回も私は申し上げておりますけれども,著しく遺憾であると申し上げます。文部科学省の責任だけであるのかどうかは分かりませんが,とりあえずは文部科学省に説明していただきたいと思います。これは,むしろ日本の大学全体を交えた問題だと思います。
こういったところで,従来の秩序を壊したくないというプレッシャーが,私は端的に言って働いていると思いますが,こういったところを一つ一つ整理していかなければ,幾らここで議論していても余り意味がない。でも,この組織運営部会もそれで議論をやっているわけで,何も手が打たないというのを大変不満に,部会長も指摘されているところでありますが。しかし,私は,こういう基本的なところで,実際にやろうと言ったことも進まないようでは,きちんとした手を打っていないのは当たり前だと思います。これについては,私は何回も申し上げますけれども,非常に強く主張したいと思います。以上です。

大学ポートレートが構築された一番の理由は、大学教育の質保証のためです。しかし、実態として税金を投入して構築した大学ポートレートではなく、民間の新聞社が行っている調査の方が大学教育の質保証に資するということであれば、これほど大きな自己矛盾はないのではないでしょうか。ポートレートの構築に関しては国家予算も投入されている訳ですから、*3 質保証に繋がっているかどうかを政策的に検証していく必要があります。
また、これは私立大学に限った話ですが、今年からは私立大学等改革総合支援事業のタイプ1で「大学ポートレートに参加しているか」という設問が新規に追加されました。補助金獲得のために各大学は動くでしょうから、今後も大学ポートレートに情報を登録していくことが容易に想像できます。しかし、大学間比較ができないことで受験生や保護者に情報が伝わらないと仮定するならば、行政・大学・受験生の3者にとっても不幸なことです。この点を踏まえても、やはり大学ポートレートに大学間比較が可能となる機能を実装することこそ、あるべき姿に繋がるのではないかと私は思います。真に利用されるための公的データベースを目指して、大学ポートレートの進化に期待したいです。

【2015/09/14追記】
文部科学省が平成27年度に行った政策評価独立行政法人評価のうち、中期目標管理法人評価にて私学事業団の業務実績評価が公表されていますが、その中に私学版大学ポートレートについての記述がありますので、こちらでもご紹介します。なお、私学版大学ポートレートの構築に係る費用も公表されており、事業団の助成業務の収益から3億4千2百万円を拠出したとあります。*4具体的な費用なども明らかになってきましたので、今後の大学ポートレートの充実化に関する議論を継続して望みたいですし、大学の質保証に繋がる仕組み作りを考えていかねばなりません。

<評定に至った理由>
大学ポートレートの構築にあたっては、私学版ポートレートを構築し、予定どおり平成26年10月に稼働させたこと、また、私立大学等への積極的な働きかけや学校法人へ配慮したプレリリース等の実施により、平成 26 年度末の学校参加率について、稼働前に行った学校法人に対する参加意向調査の結果(参加見込み率71.1%)を上回る約9割と高い参加率となったことは高く評価できる。また、広報活動等については、本ポートレートの利用者である高等学校を所管する都道府県にリーフレットを配布するなど適切に取り組んでいると言える。これらのことから、大学ポートレートへの参加学校数が、見込み数より増加したことについて、ポートレートの構築と広報活動による成果と考えられるものの、その因果関係は明確ではなく、所期の目標を上回る成果をあげているとは判断しがたいことから、中期目標に向かって順調に実績をあげていると言うにとどまるため、評定をBとする。
<指摘事項、業務運営上の課題及び改善方策>
特になし
<その他事項>
有識者からは「私学事業団におけるポートレート参加校の増加に向けての努力や取組は評価されるべきであるが、計画及び評価の視点は「ポートレートの構築」と「広報活動」であることから、これらの取組等が中期計画における所期の目標を上回る成果にどのように繋がるのかを明確にしたうえで評価をすること。」と意見があった。

*1:大学ポートレートに関わる私立大学の状況を整理する http://d.hatena.ne.jp/high190/20140408

*2:読売新聞、グッジョブ!!ついに、大学間の教育情報の比較が可能に(「大学・NPO経営」と「初めての子育て」) http://blog.livedoor.jp/kotolier/archives/51978489.html

*3:構築にかかる費用等を調べていますが、まだ情報を見つけられていないので、見つけ次第掲載します

*4:日本私立学校振興・共済事業団(助成業務)の平成26年度における業務の実績に関する評価(文部科学省)によると、「大学ポートレート(私学版)の構築にかかる開発費(3億4千2百万円)は、参加学校に費用負担をかけず、その全てを助成業務の収益でまかなった。」とあります。 http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2015/09/11/1361260_15.pdf

日本学術会議が7月31日(金)に「人文・社会科学と大学のゆくえ」と題した公開シンポジウムを実施するので、お知らせします

high190です。
国立大学法人を巡る改革状況はめまぐるしく動いていますが、*1 *2特にその中でも議論の対象になっているのが人文社会科学系の学部・大学院の再編についての議論です。
この政策動向を受けて、日本学術会議が「人文・社会科学と大学のゆくえ」と題した公開シンポジウムを開催するそうですので、当ブログでもご紹介したいと思います。


文部科学大臣は去る6月8日、各国立大学法人に対して、「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」の通知を行ないました。そこでは、国立大学法人の組織の見直しにさいして「特に教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学部・大学院については、18歳人口の減少や人材需要、教育研究水準の確保、国立大学としての役割等を踏まえた組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めることとする」とされています。このことがわが国における人文・社会科学のゆくえ、さらには国公私立を問わず大学のあり方全般にどのような影響を及ぼすか、また今後、人文・社会科学はいかにあるべきか、どのような役割をはたすべきかについて、緊急に討論を行ないます。
日本学術会議の会員・連携会員、大学関係者のみならず、この問題に関心をお持ちのメディアや市民の皆さまのご参加をお待ちしています。

登壇されるメンバーも非常に豪華ですね。以下が当日のタイムラインです。個人的には本田由紀先生がどのような観点で発言されるのかに関心があります。

人文・社会科学系の見直しについては、京都大学総長を始めとして多くの場所で反対意見も出ています。*3これからの社会において、大学の人文・社会科学系の学問がどのような点で貢献していけるのか、議論の内容に注目したいと思います。

*1:国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて(通知) http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/062/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2015/06/16/1358924_3_1.pdf

*2:国立大学経営力戦略 http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2015/06/24/1359095_02.pdf

*3:山極壽一・京都大学総長インタビュー 「歴史や文化を科学に結び付け優秀な学生を世界に送り出す」 http://diamond.jp/articles/-/74128

日本の大学経営に必要な"人材体制"とは

high190です。
産業界と大学との関係性が変化してきていることについて、最近色々な場面で資料等から感じます。ある意味、国家戦略としての大学改革を産業競争力会議などで主導し、その議論をベースに大学改革の諸政策が動いているということです。
では、そういった議論の下地はどのように作られているのでしょうか。そのポイントとなるひとつのイベントが日本経団連主催で開催されていましたので、そちらの内容を踏まえながら、大学の現場で働く者の目線から捉えなおしてみたいと思います。なお、本稿は主として国立大学法人を対象とした内容になると思われますが、現状の国立大学改革に関する流れや懸念材料などを詳細にまとめたブログがありますので、そちらをリーディングアサインメントとして読んでいただければ、より理解が深まると思います。*1


21世紀政策研究所榊原定征会長、三浦惺所長)は15日、都内で第114回シンポジウム「研究開発体制の革新に向けて―大学改革を中心に」を開催した。研究プロジェクト「ナショナルシステムの改革方策に関するプロジェクト」(研究主幹=橋本和仁東京大学大学院教授)の研究成果を紹介するとともに、特に注目されている大学改革を中心に議論した。

■ 研究報告「研究開発体制の革新に向けて」

冒頭、橋本研究主幹が、大学改革、研究開発法人改革、科学技術イノベーション拠点の形成、産業界の変革について研究報告を行った。政府は、成長戦略の推進にあたってイノベーションを重要視し、特に大学の役割が不可欠であるとして「大学改革」を進めていると解説。国としてのイノベーション創出のシステムをつくるためには、産学官の連携拠点をつくり、大学と研究開発法人がそれに向けた制度改革を行い、産業界も協力して産学官が一体となって連携を推進することが重要であると指摘した。また、「尖ったサイエンスから生まれる真のイノベーション」を得るために、産業界は大学を育てることに対して当事者意識を持ってほしいと述べた。

■ 講演「アメリカにおける大学改革とグローバル戦略」

続いて、上山隆大・政策研究大学院大学副学長が講演を行い、キャッチアップ型の経済から抜け出すためにはまったく新しいイノベーションが必要であり、それを担うのが、新しい知識、アイデア、構想、概念をつくり出すための実験場である「研究大学」だと指摘。
アメリカの大学はかつて今の日本と同じような状況に置かれていたが、1980年代に、国家戦略として技術移転、知的財産を重視するように変革するなかで、大学の収入を多様化して財務基盤を強化するとともに、大学本部のガバナンスとマネジメント力を強化して、大学全体の戦略を考えた資金配分を行い生き残ったと説明した。そのうえで日本の大学改革について、産業界が積極的に関わり、投資することが非常に重要であると述べた。

■ パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、澤昭裕・21世紀政策研究所研究主幹をコーディネーターに、上山氏、須藤亮・経団連未来産業・技術委員会企画部会長、橋本研究主幹の間で、会場からの質疑も交えた活発な討議が行われた。

須藤氏は、実現すべき日本の姿を産学官で共有することが重要だと指摘。大学は経営的な視点を持ち、教育や研究をビジネスとしてとらえる観点が必要だと訴えた。さらに大学も変わってきており、(1)大学を育てる意識(2)産学官連携でオープンに研究開発する領域の拡大――等について、産業界としても早急に議論する必要があると述べた。

上山氏は、アメリカにおけるプロボスト(研究・学術担当副学長)のような大学経営ができる人材を育成する必要がある等を指摘した。

橋本研究主幹は、(1)実現すべき日本の姿を産学で共有するのは容易ではないが、政府の科学技術基本計画がこれに相当する(2)大学に経営人材が育つのを待っていられず、今ある人材で対応しなければいけない(3)産業界とさらなる意見交換をしたい――と述べた。

さて、色々と取り上げていきたい点がありますので、順番に書いていきます。
まず、上山隆大教授が指摘するアメリカの大学における1980年代の議論についてです。この点については、上山先生が産業競争力会議文科省の会議で発表されている資料を見れば、大凡の流れが掴めるかと思います。*2 *3また、私のブログでも取り上げさせてもらったことがあります。*4アメリカが1980年代に大学の危機をどのようにして乗り越えたのか、その点を多くの場で話されています。なお、このことに関連しては、上山先生が2010年に書かれた以下の著書を読むと、より理解が深まると思います。

上記の発表資料のうち、産業競争力会議での発表内容から一部を引用します。

アメリカの大学の財務環境は激変している。そしてそれは世界の大学の潮流でもある。日本の大学の財務状況は、国立大学の運営費等交付金の一律削減の影響や、18歳人口の減少によって悪化しているが、諸外国と較べればその減少の度合いはそれほどではないし、日本の大学行政は、むしろ安定している。問題は、諸外国の大学が自らの力で財務環境を改善する努力を重ねているのに対して、日本の大学の財務マネジメントには、それを追究する自由と気概が失われていることである。また、民間からの寄付を含めた活動が欠かせないにもかかわらず、そのような努力が「公的」あるいは「国家的」な利益に直結するという認識に欠けていることに問題がある。

(中略)

ハーバード大学では、80年代に入ると Office of Presidentの人件費が急速に増大している。つまり、全大学のビジョンを決めマネジメントを行なう体制が急速に発展したことを示している。

このように財務マネジメントを柔軟に行えるような体制を整備すべきという意見です。また、ハーバード大学においてOffice of Presidentの人件費が急激に増大していることに触れています。これは、大学がマネジメント能力のある人材を集め、ガバナンス体制を強化していったということを証するものです。また、先に紹介した日本経団連のシンポジウムや産業競争力会議において、上山先生はプロボストの重要性を掲げています。では、プロボストとはどのような人物を指すのでしょうか。また、日本の現行法令等において実現可能性があるか否かを整理しておきたいと思います。現行法令において可能か否かですが、今年4月から施行された改正学校教育法において、副学長の職務を明確化する条文が新たに設けられました。*5

(1)副学長の職務(第92条第4項関係)
副学長の職務は,これまでは「学長の職務を助ける」と規定されてきたが,学長の補佐体制を強化するため,学長の指示を受けた範囲において,副学長が自らの権限で校務を処理することを可能にすることで,より円滑かつ柔軟な大学運営を可能にするため,副学長の職務を,「学長を助け,命を受けて校務をつかさどる」に改めたこと。

このように、アメリカの大学におけるプロボストのような職務を担う機能については、法令面ではカバーされたところです。しかしながら、先に私が紹介したブログ記事「教育再生実行会議による提言は大学ガバナンスの向上に資するのか」でも指摘したところですが、アカデミック・アドミニストレーター(教学管理職)をどのように育成していくか、という点の議論はまだまだ足りていないのではないかと思います。また、LEAP研修でアメリカの大学を直に体験した方のお話を聞いたときにも、プロボストのことが頻繁に語られていたことが印象に残っています。*6では、この点に関する先行研究があるか否かですが、こちらについては、科学研究費補助金の奨励研究にて「大学戦略マネジメントにおけるマネシャー職の再定義と組織化に関する研究」が行われ、成果報告書が公開されていますので、こちらでご紹介したいと思います。この研究成果をまとめられた吉崎誠さんは、当時、国際教養大学に勤務されていました。現在は関西外国語大学で事務局長をお務めです。*7


(1)研究目的:
本研究は、マネージメントのあり方を視野に収めて、国立大学法人化後の大学経営に求められるようになった戦略計画(中期目標・中期計画)の形成のプロセスのあり方と、それを実践するマネジャー職の役割について検証するものである。
(2)研究方法:
このために、戦略計画の構造・内容に係る先行研究を整理するとともに、本研究の底本となった"Strategic Planning for Public and Nonprofit Organizations-Rev.ed."(1995;Jossey-Bass)の著者であるJohn M.Bryson(Professor,University of Minnesota)に、大学組織における戦略計画の構造、策定過程などについてインタビューを行った。また、米国の主要な大学の戦略計画をWebから得るとともに、ミネソタ大学、オレゴン州立大学を訪問し、戦略計画の形成過程、マネジャーの係わり等に関して、トップマネジャー(副学長)やミドルマネジャー(学部長)、これらを支援するInstitutional Research Officeの所長などの担当者へのインタビューを試みた。また、日本同様に、最近大学の法人化に踏み切った台湾の国立臺灣大学、真理大学、開南大学を訪問し、トップマネジャー(学長、副学長)およびミドルマネジャー(学部長など)へのインタビューを行い、大学における戦略計画に係わる情報を収集した。
(3)研究成果:
戦略計画は、いまや大学におけるマネージメントを語る上での共通のツールとなっていると言っても過言ではない。それは、プランニングされたビジョン・戦略・計画などを組織の内外に対する最も重要なコミュニケーションとなっている。
これら戦略計画は、アメリカの大学では、トップダウンボトムアップのミックス型で形成されている。タスクフォースを形成し、内部環境分析・外部環境分析を行い、多くの構成員が数年をかけ議論し策定に至っている。また、いい提案は他のタスクフォースに紹介し、各タスクフォースの意見に傾聴するなどProvost(副学長)の果たした役割が大きいが窺われた。他方、戦略計画の導入に日の浅い日本および台湾の大学における戦略計画は、トップダウン的な手法により策定している傾向にあり、戦略計画にも進化のフェーズがあることが見てとれた。
今後の課題としては、日本の大学において戦略計画(中期目標・中期計画)を経営にいかに浸透させるか、またマネジャーの果たす役割などについて、引き続き検証していきたい。

上記の研究成果では、大学における戦略計画の策定・実行に関する諸外国の大学マネジャーに対するヒアリング結果をまとめたものですが、戦略計画の策定にあたって、タスクフォースとの関係におけるプロボストの役割に関する言及があります。このような点は日本における大学ガバナンスの進化にあたって、非常に重要な示唆を持っていると思います。戦略計画とは?という点では、私のブログで紹介したことがありますので、そちらもあわせて参照していただければと思います。*8国際教養大学は、英語のみの授業・留学の必須化を推し進めた先駆的な大学ですが、加えて教授会なども英語のみで実施するなど、ガバナンス面でも欧米のモデルを取り入れた大学であると思います。そうした大学を作るところから参画していた方が上記のような研究を行われていることは、興味深いと思います。
これまで挙げてきたように、大学のガバナンスに関わるプロボストの重要性は様々な人物が指摘しているところです。しかし、プロボストにはどういう人物がなるべきか?という問いには明確な答えがないのも事実です。このことからも、各大学においてガバナンスの重要性を理解し、自学のミッションに適合する人材を配置(外部からのリクルーティング、内部での育成の両面)していくことが求められています。
また、職員においても、大学組織の構成員の一員として、上記のような動向を理解して、ガバナンスの向上にあたって自分がどのような形で参画していけるのかを考えなくてはいけないのではないでしょうか。

*1:ここ最近の大学改革の流れと今後の国立大学。(大学職員の書き散らかしBLOG) http://kakichirashi.hatenadiary.jp/entry/2015/06/12/001130

*2:大学のガバナンスと戦略力の強化(2014年11月19日 産業競争力会議「新陳代謝・イノベーション WG」) http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/wg/innovation/dai3/siryou2-1.pdf http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/wg/innovation/dai3/siryou2-2.pdf

*3:大学財務から見た研究経営の戦略的マネジメント(2015年5月14 (木) 競争力強化に向けた大学知的資産マネジメント検討委員会@文部科学省) http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu16/008/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2015/05/29/1358325_5_1_1.pdf http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu16/008/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2015/05/29/1358325_5_1_2.pdf

*4:教育再生実行会議による提言は大学ガバナンスの向上に資するのか http://d.hatena.ne.jp/high190/20130610

*5:学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律及び学校教育法施行規則及び国立大学法人法施行規則の一部を改正する省令について(通知) http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1351814.htm

*6:LEAPプログラム参加の大学職員による研修報告を聞いてきました http://d.hatena.ne.jp/high190/20120730

*7:http://www.rcus.tsukuba.ac.jp/news/2013news/201402workshop.pdf

*8:日本の大学が海外の大学から学ぶべきものは何か?リーズ大学(University of Leeds)の戦略マップに学ぶ http://d.hatena.ne.jp/high190/20111124

大学職員の目線から、経済同友会の大学に対する提言文を読む

high190です。
3月27日付で中央教育審議会から「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の在り方について(審議のまとめ)」が公表されましたが、*1その6日後に経済同友会から、大学教育に対する提言が公表されています。提言では、グローバル社会・経済の中で、日本の置かれた状況を踏まえ、求める人材像を示し、求める人材の育成に向けて、企業、大学がなすべきことを提案することが目的として掲げられています。この提言の中に「大学職員の資質能力向上」についての記述がありましたので、こちらを職員の目線から読み解いていきたいと思います。


(上記提言から関連部分を抜粋、強調部分は筆者による)

大学職員の資質能力向上

大学においてこれまで以上に高い資質能力の人材育成が求められるなかで、教員のみならず大学職員の資質能力の向上も不可欠である。大学職員は本来、学校運営に係る重要な役割を担うべきであるが、その役割を十分には発揮してこなかった。今後は職員に、本来果たすべき役割を発揮できるような場を与えるとともに、職員の資質能力の向上を図り、教員と協力して大学運営に関わっていくことが期待される。職員は各自の専門性を高めて、教員と分担して業務の効率化、高度化を目指す役割を負っている。
大学業務は、教学マネジメント、広報、学生募集、産学連携や研究支援、国際化、就職やインターンシップの支援、資産運用等、多岐にわたる。これらの業務を担う職員を専門職として位置づけ、本格的に活用すべきであるが、わが国では教員がこれら業務を兼務したり、専門職員がいても任期制や非常勤のため雇用が不安定で、ノウハウが蓄積されない構造になっている。
各大学が職員の専門性の重要度を認識したうえで、その専門性が十分に発揮できるよう、職員に対しても成果に応じた処遇を適用し、各職員の長期的なキャリアパスを考えた配置を行うことで、培ったノウハウが組織内で有効に活用できるようにすべきである。
さらに専門職員については、民間企業のノウハウ、経験が有効に生かされる部分が多いと考えられるため、外部人材を活用しやすい環境を整備していくことが望ましい。

設置形態によって人事制度が大きく異なるため、一概には言えませんが、指摘されているように職員に対しても成果に応じた処遇を適用していくことは、能力開発に対するモチベーションなどに与える影響なども考慮すると、各大学が制度化していくべきものだと思います。ただ、大学職員の専門職化についての議論は色々なところでなされていると思いますが、大学職員を広義の「ホワイトカラー」と定義した場合、能力開発指標を設けていくことが必要になってくると思います。
私個人がひとつのモデルとして捉えたいと思っているのが、厚生労働省所管の中央職業能力開発協会が実施する「ビジネス・キャリア検定」です。こちらは公的資格ですが、会員名簿には産業能率大学東海学園大学、法政大学キャリアデザイン学会、学校法人立教学院立教大学などが名を連ねています。大学職員も広義のホワイトカラーであることは明らかだと思いますが、職業能力評価基準*2などの議論を踏まえつつ、実践的なSDに繋げていく必要があるはずです。


ビジネス・キャリア検定試験の目的
ビジネス・キャリア検定試験は、事務系職種の幅広い分野を対象とした職業能力検定のための試験を実施することによって、我が国の雇用の安定と産業の健全な発展に寄与することを目的としています。
事務系職種の労働者又は労働者になろうとする者の職業能力の評価を、全国統一的かつ適正に実施することを通じて、労働者がその能力にふさわしい職務に就くこと、その能力のさらなる向上に努めること及び労働者になろうとする者がその能力にふさわしい職業に就くことを支援します。また、企業等においては、試験の評価結果を活用することにより、労働者の適正な採用、配置及び処遇の適正化促進に役立てていただけます。

ビジネス・キャリア検定試験の特徴
ビジネス・キャリア検定試験は、技能系職種における技能検定に並び、国が定める職業能力評価基準に準じて、事務系職種の幅広い分野をカバーする、唯一の包括的な職業能力検定試験です。幅広い試験分野とそれに応じた等級を設けていますので、受験する人にとっては、より上位の等級を目指すことにより、職業能力向上の目標設定に役立つほか、人事異動などで担当業務が変わった際に、必要な知識を体系的に把握・理解することが可能になります。また、企業等においては、社員の職務能力を判断する基準として活用することもできます。

「ビジネス・キャリア」という名称
「ビジネス・キャリア」という名称は、中央職業能力開発協会のみが使用できるものです。したがって、ビジネス・キャリア制度、ビジネス・キャリア検定試験という名称も、当協会のみが使用できるものです。
ビジネス・キャリア検定試験は、職業能力開発促進法という法律に基づいて設立された当協会が、責任を持って実施する試験です。

職業能力という点で、ポテンシャルの高い職業の一例を考えると、私にはキャリア官僚がイメージとして浮かんできます。異動が多いこと、担当される仕事の幅も非常に広くかつ高いレベルの仕事が求められているのだろうと推察しますが、実際に働く人の仕事の質は総じて高いものだと思います。もちろん、官僚組織という点で捉えると色々と問題もあるのだとは思いますが、個々のプレイヤーとしての質を考えると優秀な人が多いのではないかと。(そう思いたい部分も多分にありますが)こういった点については、国立大学法人の幹部人事で本省から受け入れる異動官職などの例が参考になると思います。*3 *4今までは大学に正規職員として雇用された場合、大半の方がそのまま定年までお勤めだっただろうと思いますが、異動・出向・転籍などが多いキャリア官僚の働き方は参考にできる部分が多分にあるのではないかと感じています。

また、培ったノウハウを共有していくためには、「共通の言語」が必要になると思います。例えば教学マネジメントに関してでは、大学に関わる法令の理解や各種答申の時系列での論点整理、教学マネジメントに関わる知識に関する諸外国の制度に関するリサーチなどが挙げられます。あとは、個別の部署に留まらない形で仕事ができるような制度設計が必要ではないかと思います。部署横断型のワーキンググループや教職協働プロジェクトなどです。*5
なお、経済同友会の提言では「外部人材の活用」を進めるべきとの記述がありますが、そうなった場合に真っ先にイメージできるのが「国際交流系部署」での英語話者の人材を登用するなどの例です。確かに語学に関してはこれからのグローバル人材育成の必要性を鑑みても重要ですが、その反面、大学という教育機関で働く人材のコンピテンシーのような部分も是非考慮していただきたいと思います。その助けになる論文が以下です。大学での国際交流に長年携わってきた方が書かれている分、非常に重みがあります。


(上記提言から関連部分を抜粋、強調部分は筆者による)

むしろ「誰でもが国際交流担当者」という意識を持つことのほうが、「英語ができることくらいしか、取り柄のない」人を国際交流担当者として雇用し、雇用した側も雇用された側も期待外れに終わるリスクを背負うよりは賢明だと言える。「英語しか取り柄がない」人材が国際交流部門から異動しない前提で雇用された場合、そのような人材には、他部署と手を携えてあたらねばならないような業務を任せられないし、大学の全体を理解していないので、英語の翻訳業務すらも的確に内容を伝えることができないことも多く、国際交流部署内でも限られた業務しか任せられない人材となってしまう。
「国際交流部署でしか使えない人材」ではなく、「国際交流部署でも使える人材」を育成することが重要なのだ。

(中略)

大学のグローバル化を推進するためには、一部の教職員だけが、グローバル化された環境に適応すればいいということではない。大学の全ての教職員が、グローバル化された環境に適応できるようになっていないといけない。

経済同友会は大学に関する提言を定期的に出しています。例えば、2015年4月から学校教育法が改正されて、教授会の審議事項は従前と比較して限定的になりましたが、これは経済同友会が2012年に公表した提言が下敷きになっていると思われます。*6第8期の中央教育審議会大学分科会では、大学教育部会にて「学長補佐体制の強化」に関連して、職員の資質向上(スタッフ・ディベロップメント(SD))、高度専門職の設置等についての審議が行われる予定です。*7個人レベルでは、こういった政策提言を眺めながら、自らのキャリア開発にあたってどのような能力を獲得していくか、「自分のキャリアは自分で作る」という心構えを持つということも大切かも知れません。また、大学業界全体としては、提言内容を真摯に受け止めつつ、具体的にどのような点で改善が必要なのかを実業界とすり合わせていく、必要に応じて大学関係の業界団体を通じてもっと積極的に意見を発信していくことが求められているように思います。

*1:「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の在り方について(審議のまとめ)」の公表について http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/061/gaiyou/1356314.htm

*2:職業能力評価基準とは https://www.hyouka.javada.or.jp/user/outline.html

*3:異動官職について思う(大学職員の書き散らかしBLOG) http://kakichirashi.hatenadiary.jp/entry/2013/10/05/202113

*4:文部科学省出身の国立大学法人幹部に思う〜異動官職の是非〜(大学職員の書き散らかしBLOG) http://kakichirashi.hatenadiary.jp/entry/2014/09/03/222455

*5:上智大学の「教職協働・職員協働イノベーション研究」から今後のSDの方向性を探る http://d.hatena.ne.jp/high190/20141224

*6:経済同友会による私立大学のガバナンス強化を促す提言 http://d.hatena.ne.jp/high190/20120528

*7:大学教育部会(第34回)配付資料「第8期大学分科会の審議事項について」 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/015/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2015/04/24/1357380_05.pdf

東京大学大学院教育学研究科大学経営・政策コース設立10周年記念シンポジウム「大学経営・政策人材と大学院教育」に参加してきました

high190です。
3月28日(土)に開催された標記のシンポジウムに参加してきました。東大の大学経営・政策コースといえば大学職員なら一度は聞いたことがある大学院ではないかと思います。過去にこのブログでも取り上げさせてもらいましたし、*1知人に修了生がいるので参加するのが楽しみなイベントでした。今回も内容について、簡単に所感をまとめてみましたが、理解違いなどがある可能性がありますので、悪しからずご了承下さい。


開会の辞 山本清氏(東京大学大学院教育学研究科大学経営・政策コース教授)

  • コース開設10年目。元々は修了生とコースが共催する大学経営・政策フォーラムを開催する運びになった。
  • 開催に当たって申し上げたいのは、本コースはビジネススクールでもなくポリシースクールでもないこと。学術的なことを研究しながら実践的なことを学ぶのが特色である。その中で専門職的なことをいかに両立していくかが今後の発展に資する点ではないかと考えている。

研究科長挨拶 南風原朝和氏(東京大学大学院教育学研究科教授・研究科長)

  • 修了生が高等教育の様々な場で活躍していることを嬉しく思う。
  • 修了生の論文を読むと様々な分野での論文が書かれているが、大学運営に必要かつ重要なものばかりである。自分自身も研究科長として運営に携わる中で、ほとんど多くの大学で経営・運営の知識を持たずに素人として運営に関わってしまっていることの危うさを感じることがある。自分自身も4月から東大副学長に就任するので、科目等履修生として学んでみようかと思っているところ。

祝辞 合田隆史氏(尚絅学院大学長・元文部科学省生涯学習政策局長)

  • コースの10周年記念を心よりお祝いを申し上げたい。
  • 本コースは大学経営の専門人材育成を目的として設立されたが、目的は専門人材の育成にある。専門人材の養成は本コースがスタートする10年ぐらい前から、日本でも認識されてきた。
  • その当時に比べると状況は様変わりしている。当時は大学の中で経営や専門人材という位置づけはマージナル・本筋ではないような感じがしたが、今では様相は一変している。学長を務める尚絅学院大学は学生数2000人、教職員100人の小さな大学だが、そういう現場から眺めると本コースで学んでいる人々はアドミニストレーション人材として育ち、そういった人材を多数輩出してきた実績に敬意を評したいと思う。
  • 以前は本コースの非常勤講師として教鞭を取らせてもらったが、現場から見ると国の政策の意味合いがだいぶ変わってきているように思う。大学が国に守られるということは期待しようがない。大学が自立して現場からの政策提言・提案をしていかなければならない。そういうことができる時代になってきている。そのためには現場に理論的・歴史的・国際的な知識をもち、構想力を持っている人材が現場から提案し、行動していく、個々の大学だけではなく、高等教育全体の発展に資することを目的として行動していくことがますます重要になってくる。
  • よって、本コースに対する期待・責任は大きいものがあり、専門人材の育成のみならず、学内外の英知を結集して日本の高等教育に関する議論をリードしていっていただきたいと思っている。以上の期待を込めてお祝いの言葉に替えさせていただきたい。

開会の挨拶から既に豪華な顔ぶれで驚きました。それぞれの方のご挨拶にも含蓄がありましたが、実際に大学経営に携わる重責を担う人の言葉には重みがある、と感じたところです。
また、地域創生の議論が昨今、広く世論でも取り上げられているので、地方での大学改革という点で合田学長のコメントには感じ入るところが多くありました。これは私が仙台出身ということもあるかも知れませんが。

記念講演「政策のエビデンスとは何か−平等・効率・世論」 矢野眞和氏(桜美林大学大学院大学アドミニストレーション研究科教授)

  • 大学進学の機会を平等にすることが大事なのか、大学教育の効率性を高めるかが大事なのか、まずどちらを重視するのかを各自で考えてもらいたい。
    • 大学教育、学習過程の向上を目的に様々な努力が行われているが、精神論、制度論、資源論に関する3つのアプローチがある。この3つがバランスよく検証されていることが重要である。この枠組みから現実を見ていくと、現実的には法制度中心の改革であり、まず「大学はどうあるべきか?」という理念を議論し、その上で法制度を改革すればよいというアプローチがあると思う。しかし、資源配分、資源の変更を行うことこそが政策であると考えている。政策とは基本的に資源論である。改革というものは法制度を変更することである。法制度を変更するのか、インプットを変更するのか、どちらを重視するかが重要。
  • 政策基準の検証:平等生と効率性
    • 効率の測定法:教育の便益に関する測定
      • 収益率で検討すると、便益で測定すると、高い効率性を持っているものが教育という営みであることをまず知っておく必要がある。
    • 平等と効率の測定結果とその政策的含意
      • 教育機会の平等性、進学機会の不平等、不平等の是正は効率的。日本の大学は育英主義「高い学力を有する者が進む場所」という認識が強い。しかし、進学するにあたっての便益はそういったことではない。そういう構造になっている。
    • 教育年数が1年増加すると所得は何%増えるか
      • 中学校の学業成績別の収益率を測定すると、教育年数が1年増加することで収益率は成績レベル別に大差がない。学力によって労働市場の処遇は変わる。しかし、学力上位・中位・下位毎に進学することによる収益率の増加に着目すべき。(例示した中学校時点の学力によって縦軸で見るのではなく)
    • 大学への投資が、経済を変える、社会を変える
      • 勉強すれば誰でも報われる、という経済構造が存在する。自分のために教育投資することは、政府にとっても税収増などの便益がある。自らの収入増は政府を豊かにし、社会を豊かにするという事実がある。Goldin&Katzの書籍。教育に対する経済投資ということが社会の発展に資するということに繋がる。
    • 世論の支持
      • 実施した世論調査「大学の教育費は社会が負担すべきか、個人もしくは家族が負担すべきか」(一般成人調査)調査の結果によると、大学教育費は個人もしくは家族が負担すべきという回答が8割である。平等派は社会階層に関係なく、少数派なのである。これは政策的な効率性から考えると誤りである。
    • 世論の正体
      • 少数の平等派(しかも社会階層に関係なく)<謝った多数の効率派。貯蓄率の変遷を見ると子どもが小中高の間に貯蓄率を高め、大学教育でその貯蓄を用いて大学進学をさせているという事実がある。よって、教育費の家計負担の高さこそが現状の進学率を支えている。つまり全入のおかげで大学進学率は上がったが、これ以上は所得率自体が改善しなければ改善しない。
    • では一体、世論とは何か?
      • Path-dependency(経路依存)*2の世論形成:世論が政策をつくるのではなく、政策が世論をつくる
        • 過去に拘束された世論
        • 保守的な世論
        • 利己主義的世論
      • 作られてきた政策によって世論が形成されている。貧しければ国立大学に行けば良い、そうでなければ無理して大学に行く必要は無いと思っている。つまり育英主義的な意識が大学教育の費用負担に関する世論を作っているのでは。
      • ベネッセが実施した「学校教育に対する保護者の意識調査」では、国立大学の授業料は税負担、私立大学の授業料は家計負担と考えている結果が出ている。この調査の結果を踏まえて、経路依存によって意識化されているのではないか?という感覚を抱いている。教育に対する世論と他の社会保障に関する世論を比較すると、世論の形成過程を見ると教育に関する世論の形成はかなり特殊だと言える。
    • 結論:未来の世論をつくる「政策」と「経営」 
      • 大学教育の二つの目的(教育・学習の質と効率の向上、学ぶ学生の機会向上)と達成の可能性。いま日本で大事なことは、25歳で高卒で働いている人々がいかにして自らの費用で大学にて学ぶ機会を得るかを考えることが非常に重要である。そういった人々を大学に迎え入れることが大きなポイントである。様々なアクターが参画することで大学は活性化する。改革(法制度の改革)、精神論で大学教育は向上するのだろうか?
      • 教育・学習の質と効率の向上は、各大学が考える問題でこれは「経営」である。これは各大学が行うべき努力である。現場から問題の提案・提言が出てこないと。経営にも3つの要素がある。建学の精神、資源配分、制度の構築。
      • しかし、社会人を大学に迎え入れるとしたら少額の奨学金や簡便な入試制度などは現場の大学の質を向上させることには繋がらない。ただ、「学ぶ学生の機会向上」は「政策=税金の投入」によって解決できる課題である。通信教育に通う学部学生は25万人存在し、その半分は大卒で4分の1が短大・専門卒、さらに4分の1が高卒である。この部分で高等教育の機会向上は重要になってくる。
      • 経営と政策に関する考え方を変えなければいけない。Path-dependencyを変えていくためには、よりよい世論・政策を作っていくことなのである。そのためにも大学経営・政策コースの使命は、日本の世論を形成していく経営・政策人材の養成にある。
  • 質疑応答
    • 1年教育年数が増えると収益率が増加するということは何を意味するのか?
      • 教育年数は対数を取っているので7.3%である。これが本人の能力なのか、教育機会の影響を受けるかには議論がある。仮説としては「学び習慣」仮説を提唱したい。大学時代の学びが卒業後の学びに接続し、そのことが所得の高低に繋がっていると考えている。学校教育に意味が無いということには繋がらない。「学び習慣」は非常に重要なので皆さんにもその点を重視してほしい。
    • 教育年数が1年増えるとのことだが、大学院教育についてはどうか?
      • 大学院卒までのデータだと、大学院卒は大卒に含まれてしまっているので、実証できない事実がある。むしろ、大学院教育の基本的な統計データが存在していないことが問題ではないかと。就業構造基本調査を見ると大学院卒の教育効果は高い、教育効果はあると思っているが、信頼性のあるデータが取れていない。

矢野先生のお話を伺ったのは初めてでしたが、ユーモアを交えながらのお話で大変楽しく聞かせていただきました。ちょうど先日、教育再生実行会議の第3分科会第5回会議で「教育投資の効果や教育財源の在り方について、財政学・経済学の観点から意見発表」*3があり、ちょうど阪大の大竹先生の資料の中に似たようなご指摘があったので、*4個人的には頭の中が色々と整理されてよかったです。また、Path-Dependenceという言葉を恥ずかしながら初めてインプットしました。個人的な所感として、類似する研究としては、東京大学大学院教育学研究科比較教育社会学コースの橋本鉱市教授*5が、高等教育の政策過程についての研究をされていますので、そちらもあわせて参照するとより理解が深まるのではないかと感じました。*6 *7 *8 *9
ちなみに矢野先生がおっしゃっていたGoldin&Katzの文献を調べてみましたが、以下の書籍のようです。こちらも関心があれば是非。個人的にはサミュエル・ボウルズとハーバート・ギンタスの共著「アメリカ資本主義と学校教育」も参考になるのではないかと思います。*10(私自身、こちらの書籍を読もう読もうと思ってまだ読み切れてないので説得力がないですが)

The Race between Education and Technology

The Race between Education and Technology

アメリカ資本主義と学校教育 1―教育改革と経済制度の矛盾 (岩波モダンクラシックス)

アメリカ資本主義と学校教育 1―教育改革と経済制度の矛盾 (岩波モダンクラシックス)

修了生調査報告「大学経営・政策コースの10年:修了生の調査報告」中田学氏(2008年度 修士課程修了生)

  • 修了生に対してアンケート調査を実施。回答率は7割強。主として修士課程が中心の結果である。修士課程なので修士論文を書くことは当たり前なのだが、実務家養成と修士論文を合致させていることが大きなポイントである。
  • カリキュラム
    • 集中講義として海外・国内の大学を訪問調査する集中講義に特色がある。入学目的の調査を分析すると、大学経営・政策を学ぶことの意識の高さが現れているが、現在の職場でのキャリアアップ等に関しては意識がそこまで高くない。
  • 調査結果から見えてくるイシュー
    • コースワークの満足度・有用度
      • 値が高い分類
        • 大学の歴史に関するもの
        • 高等教育の制度・政策に関するもの
        • 大学の組織・ガバナンスに関するもの
      • 値が低い分類
        • 大学の財務・会計に関するもの
        • 統計に関するもの(こちらは職場での有用度が高い)
        • その他各論に関するもの
  • 大学の歴史に関する授業は、満足度と有用度の評価にねじれが存在する。その理由は?
    • 現代の課題を歴史の文脈に置けることは満足度が高い。
    • 職場での満足度は、回答者が「職場」をどのように捉えているかに依存するため。
  • 今後の課題
  • 教育のアウトカム評価には時間がかかるため、職場等での有用度が変わってくる可能性がある。
    • 修了生の多くは修士論文を重視しているが、専門職大学院への転換は望んでいない。ただ、修士論文の執筆は直接的には職場での有用度が低い。
    • ただし、「論文執筆」から得られる、文献の調査、資料・史料の検討、(質的・量的)社会調査、統計分析は、今後の業務に幅広く応用できる。自ら問いを立てて、答えを明らかにするプロセスが重要。
  • まとめ(大学経営・政策人材と大学院教育)
    • 実践的な知識やスキルだけではなく、基礎教養を重視
    • 修士論文を非常に重視

修了生に対する調査を取りまとめて分析された報告でした。実際に当コースを修了した人たちが、職場に戻ってからどのように大学院での学びを捉え、評価しているかを知るためには有用な調査報告だったかと思います。個人的には、論文を書くことを重視していること、科目としては統計に関する科目の満足度は低いものの、業務での有用度は高いということ、大学の歴史に関する科目の満足度は高いものの、実際の業務での有用度とは相関していないことなどが興味深かったです。

シンポジウム「各大学における大学経営・政策人材の育成−現状と課題−」
パネリスト
吉武博通氏(筑波大学大学院ビジネス科学研究科教授・大学研究センター長)

  • 他大学を訪問すると「大学改革は結構進んでいるじゃないか」と感じることが多い。いい芽が出てきていると思う。大学の中には元々いいものがある。文科省の政策的支援もあるが、いいものは出てきている。ただ、任期付なので、金の切れ目が縁の切れ目になっており、使命感と疲弊感を抱えながらやっているのが実情ではないか。
  • そのためにもマネジメントが重要。私は実業界から大学に移ってきたが、その中でマネジメントという言葉を使うのは当初は憚られたが、現在では真っ当に議論ができるようになってきた。筑波大学では大学マネジメントの履修証明プログラムを運用している。セミナーということで遠隔地にも配信を行うことを始めている。1回あたり100名以上が受講している。これは東京にある大学としての使命ではないかと思っている。Certificateプログラムにも可能性があると思う。参加者の内訳を見ると、毎年職員を送っている大学もあるが、個人として学びたいという人も多いが、大学での人的資源戦略としても重要であるので、その点を加味して検討を行っていくべき。
  • 日本の大学では人材育成のシステムを内部に持たない例が多いので、そういった点でも履修証明プログラムなどが活かせるのではないか。グローバルマネジメントフォーラムの主催。日本は課長クラスのマネジャーまでは育てられるが、シニアマネジャー以上が育てられていないのではないか。優秀な人間を選んで選抜していく人材戦略を採用できるか否かがポイントである。
  • 日本の大学に欠けている経営資源は「時間」である。教育学・政策学だけではなく、経営学の視点も持っていただきたい。

山本眞一氏(桜美林大学大学院大学アドミニストレーション研究科教授)

  • 前史を話しておきたい。2001年に日経新聞の教育欄に掲載された記事。科研費を得て大学経営人材についての研究を始めた。大学経営人材が市民権を得たのは2000年から2001年頃である。2000年に筑波大学で「大学経営人材の養成をめざして」という公開セミナーを開いた。
  • 2001年に桜美林大学に大学アドミニストレーション専攻が発足し、後に研究科に改組された。通学課程と通信課程を有する。通学課程では、現在は実務家コースと研究コースに分けている。修了者数は2014年度末で通学課程121人、通信課程は301人である。現職の大学職員、大学の役員・教員、大学以外の学校の教職員などがいる。
  • 現実の大学は様々な人材の協働によって動いている。役員、部局長等、一般教員、管理職・専門職、支援系職員など教員でも部局長等の管理的役割を果たしている者が多くいる。支援系職員が良質な事務サービスを提供できない大学は傾いていく。
  • 職員論の再整理を
    • 学校教育法の改正で学長の権限強化。外国大学の現実、国内大学の現実、職員論の認識、職員論の目標。この4点を接近させて教職協働の実現に。
  • 大学職員の目指すべき方向は?
    • 立場と能力を縦軸・横軸に取る。伝統的職員、うるさい職員、便利な職員(使い倒される職員)、出来る職員(大学経営人材)
    • 大学は知識社会の中で重要な役割、大学を支える経営人材の役割の再認識を

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・高度専門職業人養成コースの現状と課題」夏目達也氏(名古屋大学高等教育研究センター教授)

    • コースの目的・目標
      • 高度な理論的、実践的専門教育の機会を提供(高等教育マネジメント分野)
      • 高等教育マネジメントという科目で、フィールド調査を実施している。これは東大の大学経営・政策コースと同様の取り組みである。入学者の大半は大学職員だが、修了後は同一大学で勤務し、職員として転職、教員に転身などされる人もいる。進路は様々。
      • 高度専門職業人養成コースの課題としては、進学希望を持つ者はいるが、上司の理解の欠如や職場の周囲に気兼ねして進学を断念するというケースがある。大学院としての支援として、コースの魅力を広報することと、進学しやすいカリキュラムの編成。
      • 学習成果の活用として、習得能力に対応した職務の配置、昇進・昇給があるが、本人の意識・努力の問題以上に、組織の人事管理の問題が大きい。(大学院で学んだ内容を使い切れていない)大学院としていかに対処すべきか。
      • 後期課程への接続。Ph.D以外にもEd.Dも置いているのだが、進学に繋がるケースが残念ながら極めて少ない。院生のコミュニティ。院生館のネットワークづくりが必要で、励まし合える環境を作ることは非常に重要である。幹事の存在・役割が変質してきているように感じ、幹事を務められる人物は他大学にリクルーティングされる例が多い。
    • 大学院を活性化していくには多くの課題がある。社会人の学習環境・条件への配慮、院生のプロフィル、ニーズの多様化への対応、研究科としての目的・目標・諸条件の調整

広島大学・高等教育研究開発センターにおける大学院教育」島一則氏(広島大学高等教育研究開発センター准教授)

  • 自己点検・評価報告書のデータを活用した報告。
    • 2000年度に教育学研究科に高等教育開発専攻、後期課程に教育人間科学専攻(高等教育分野)を発足させた。基礎論・演習を基盤としたコースワークと多様な学術的背景を有する教員による特別講義を提供している。後期課程は論文指導が中心。
    • 専門的知識・技能に関する評価は概して高い。汎用的能力の向上については評価が分かれている。キャリアの多様化(多様な研究者・実務家養成)→汎用的能力への注目→専門的知識・技能と汎用的能力について考察。
  • 専門的知識・技能と汎用的能力についての考察
    • そもそも汎用的能力は研究者・実務家の両方に共通して必要。専門的知識・技能には「研究専門」「共通専門」「実務専門」の知識が存在し、実務家養成フェイズとして2つを整理することが必要なのではないか。共通専門の強化、研究専門と汎用的能力のリンク強化、実務専門の共通専門化・学問化(URA養成etc)
      • 共通専門の拡大・充実:学問や研究者養成という観点に置いて問題を生じさせないか
      • 研究専門的知識・技能の強化を通じた汎用的能力の開発
      • 実務専門的知識・技能の共通専門家・学問課:実務的観点から有用といえるか
  • 東大・修了生の調査結果のへのコメント&追加的イシューとして
    • 大学経営・政策人材の定義は?
    • 議論が実務家養成に無意識的に偏っていないか?
    • 実務家に対しての教育が重視されているが、研究者養成と実務家養成が両輪で大事にすべきではないか。
    • 有用度を考える際に、何がどのように有用となるのかといった「メカニズム」への注目も必要ではないか。

江川雅子氏(東京大学理事)

  • 自分自身は大学本部で経営に携わっている。大学経営・政策コースの課題は、大学経営が抱えている課題と重複する点があると感じる。
  • コースでの人材養成像・職員のエンパワーメント
    • 研究者と実務家の両輪に関して、職員の位置づけから考えてみたい。海外の大学の例がProvostが紹介されていたが、ハーバードで経験したことも含め、大学内には教員の管理者と職員の管理者の2重構造が存在している。日本の国立大学は教員負担の部分が大きく、職員の権限が非常に少ないということだと思う。職員が担当する部分(エンパワーメント)を強化しないと、教員の研究時間の減少にも繋がるため、人事制度の改革なども必要ではないかと感じる。例えば国際センターでは教員が留学生の受け入れなどをやっているが、海外の大学ではそういったことは職員が担っている。その点で人事制度と職員の人材像は不可分である。
  • コースワークの取り組み・方向性
    • 修士論文を重視しているとの報告だったが、さらにコースワークを重視した方が望ましいのではないかと感じる。例えば教育学・政策学的なアプローチのみではなく、ビジネススクールで教える基本的なメニューから考えると、独立した組織体を動かしていくために必要な知識ではないかと思う。ビジネススクール修了者がNPO・国際機関で活躍している事実を踏まえると、そういったアプローチも有効ではないかと思う。学部毎に分散している業務を統合した場合のケース、学生確保に関するマーケティング的なアプローチなど、経営学の領域は大学経営にも役立つ。
  • 大学経営と執行部との関係性
    • 大学経営・政策コースでの研究内容を、大学の実際の経営に取り入れていくことが重要だと思う。理想的にはフィードバックをしていくということ。大学の本部でやっている仕事と当該コースでの研究内容とのリンクは残念ながら無い。そういった点に関し、本コースに所属する研究者の知見を活かしていくことも大切ではないかと思う。理想論ではあるが、こういったコースが存在している以上、大学執行部にインプットできる機会などを設けていくことが必要なのではないか。

こちらも豪華すぎるパネリストの皆様だったので、コメントするのは何とも難しいのですが、個人的に興味を引かれたのは筑波の吉武先生と東大の江川理事が経営学のメソッドを大学経営・政策コースの中にもっと取り入れてもよいのではないか?と指摘されている点です。確かに経営をテーマにする訳ですから、経営学的なメソッドをどのように取り入れていくかという点は、大学職員の高度専門職化にも関わる重要な論点ではないかと思います。この点については、筑波大学大学研究センターの佐野享子准教授*11が2007年に書いている論文が参考にできるのではないかと思います。*12
名古屋大学の夏目先生からは、修了生のネットワーク形成にかかわる幹事の役割が重要であるとの指摘がありました。確かに私が知っている大学職員でも職員間のネットワークを駆使して、かつ交流の場を提供しているすごい人を何人か知っていますが、そういう人を繋げられる方がリクルーティングされていくというところには妙な納得感を感じたものです。桜美林大学の山本先生からは大学経営人材の前史からのお話を伺い、現在の潮流が生まれるまでの経緯を知ることができました。広島大学の島先生のお話からは専門職養成と研究者養成のバランスが肝要であることの指摘があり、バランスの取れたカリキュラムとメカニズムに関する意見が出たのも興味深く拝聴しました。どのパネリストからのコメントも示唆に富み、今後の大学職員にとって考えなければならない示唆のある意見ばかりだったかと思います。
さて、最終的な私なりのまとめですが、東大の大学経営・政策コースが果たしてきた役割の重さを実感すると同時に、現状の取り組みだけではなく、さらに発展した形での大学院教育が求められてきているのではないかと感じました。矢野先生から学び続けることの重要性に関する指摘がありましたが、2012年の質的転換答申*13でも、生涯学び続けることの重要性が謳われています。このように大学院が全て、ということではなく、Rcusのように優れた履修証明プログラムなどもありますので、段階的に学び続けていけるプログラムへのアクセスを広くすることが大切なのではないかと感じました。「大学経営・政策人材」の育成のために、これからも東大の大学経営・政策コースが果たす役割は大きいと思いますが、本シンポジウムでの指摘を踏まえて、さらなるカリキュラム改革など、他の大学を引っ張っていけるような先導的改革に期待したいところです。

*1:東大大学院大学経営・政策コースのWebサイトには有益な情報が一杯 http://d.hatena.ne.jp/high190/20100202

*2:経路依存性(Path dependence)―過去の歴史が将来を決める https://healthpolicyhealthecon.wordpress.com/2014/09/07/path-dependence/

*3:https://twitter.com/Naikakukanbo/status/580603540550393856

*4:「教育の経済効果と貧困対策」 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/bunka/dai3/dai5/siryou3.pdf

*5:橋本鉱市 http://researchmap.jp/read0063268

*6:高等教育懇談会による「昭和50年代前期計画」の審議過程 : 抑制政策のロジック・アクター・構造 http://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/dspace/handle/2261/51334

*7:戦後日本の高等教育関連議員と政策課題−国会における発言量と内容分析− http://www.cshe.nagoya-u.ac.jp/publications/journal/no13/24.pdf

*8:高等教育をめぐる政策形成の変容と課題 http://ci.nii.ac.jp/naid/110006479787

*9:高等教育の政策過程分析−その理論的前提と方法論的枠組− http://www.sed.tohoku.ac.jp/library/nenpo/contents/53-2/53-2-04.pdf

*10:親の行動と子どもの成績の関連性って教育学的にはどう説明できるんだろう http://d.hatena.ne.jp/high190/20090528

*11:http://www.rcus.tsukuba.ac.jp/center/staff/staff_sano.html

*12:経営学分野を中心とした大学院における大学経営人材育成の可能性−筑波大学経営システム科学専攻の事例を手がかりとして− http://www.rcus.tsukuba.ac.jp/information/RcusWorkingP01.pdf

*13:新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて〜生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ〜(答申) http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1325047.htm