Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

大学コンソーシアム京都主催の第20回FDフォーラムに参加しました(1日目)

high190です。
平成27年2月28日〜3月1日の2日間で同志社大学にて開催されたフォーラムに参加してきました。
このフォーラムは全国で開催されるFD関係イベントでも最大級のもので、私も2回目の参加になります。今回もhigh190が参加したセッションについて、所感をまとめてみました。分量が多いので1日目のプログラムに関して先にまとめます。理解違いなどがある可能性がありますので、悪しからずご了承下さい。


シンポジウム「学修支援を問う〜何のために、何をどこまでやるべきか〜」

  • コーディネーター
  • シンポジスト
    • 日向野幹也氏(立教大学経営学部教授・リーダーシップ研究所所長)
    • 溝上慎一氏(京都大学高等教育研究開発推進センター大学院教育学研究科教授)
    • 浜島幸司氏(同志社大学学習支援・教育開発センター准教授)
    • 岡部晋典氏(同志社大学学習支援・教育開発センター助教
  • 村上先生による導入説明
    • 大学においても様々な学修支援(アクティブラーニング、PBL、ラーニング・コモンズ)が行われるようになっている。
    • 2012年の中教審答申では、生涯学び続けることを求められる。十分な総学習時間の確保。授業外学習+主体的な学び。主体性を引き出しながら学修時間を増やす取り組み。
      • しかし、やりだしたらきりがない。どこまでやるべきか?(主体的な学びをどのように支援していくか?参加大学の個別の状況に応じて異なる)
        • 正課内の学習支援(日向野先生)
        • 学習支援を高等教育の観点から捉える(溝上先生)
        • ラーニングコモンズから学習支援を捉える(浜島先生)
        • 図書館情報学の観点から学習支援を捉える(岡部先生)
    • 世の中で「アクティブラーニング」という言葉はたくさん使われているが、実際にやってみよう。
  • 日向野教授による発表
    • 教育学の専門学ではなく、トライアンドエラーで対応していたらそのままアクティブラーニングになっていた。
      • 以前は東京都立大に在籍していたが、金融論を担当する研究者だった。その後、立教大に移るが、金融論に加えてリーダーシッププログラムも担当する事になった。(気軽な気持ちで引き受けてしまった)その際、立教大でも就職活動の変化に対応にするように、授業やゼミでプレゼンやグループワークなどを重視する教育を行ってきた。リーダーシップを全学部必修化するところまで繋がった。(当時からするとかなり変わった取り組み、学内でもなかなか理解が得られなかった)
      • 2008年に教育GPに採択。財源面で一定の目処がついたので、事務局・補助教員・SAトレーニング開始
      • 2011年頃からリーダーシップ教育に風が吹き始めた。
        • 職員からの要望で教員が職員のリーダーシップ開発。
        • ビジネス・リーダーシップ・プログラム(BLP)=スパイラルラーニングを学習モデルとして採用*1
        • リーダーシップ+専門知識を身に着けることが大切。「不満を苦情として伝えるのは消費者。不満を提案に変えて持っていくのがリーダーシップ」
        • リーダーシッププログラムでの「学生ポートフォリオ」活用
    • 松岡洋祐さんの発表(株式会社イノベスト代表*2・BLPプログラム1期生)
      • アクティブラーニング・リーダーシッププログラムは大学内だけで完結するものではない。企業内の人材育成にも活用できる。
      • リーダーシッププログラムの運営は、教員+職員+SA+企業コーディネーターなどが相互連携して実施している。
      • 学生の教育の質を高めるために教育目標を明確にする事。
    • 八田有里さん(立教大学経営学部2年次生・BLPのSA)
      • SAによるピアラーニングが特長。SAが後輩学生のロールモデルとなった。無知の知に気づく(学びの楽しさを知る)
      • 自分がお世話になったSAのようなSAになりたい。熱の循環(教員が「熱く」それがSAに伝わり、SAの「熱さ」が新入生に伝わっていく)
  • 浜島先生、岡部先生による良心館ラーニング・コモンズの紹介
    • 細かいエリア分け。ワークショップルーム、グローバルエリア、グループスタディルーム、プリントステーション、マルチメディアラウンジ(デザイン工房)、アカデミックサポートエリア(教員が常駐)
      • コンセプト:知的欲望開発空間(2013年4月に開設)
      • 図書館とは別校舎に設置し、教室等の中心部においていることが特徴。
      • 学習支援・教育開発センターは他部門とも有機的に連携して業務を進めている。(ITサポートオフィス、国際センター、図書館、業務委託)
      • 柔軟性、快適性、感覚刺激性(他者の学修行動が「情報」になる空間)
    • 実際のデータ
      • ICカード管理なので、そのデータを活用している。最も利用しているのは1回生。3回生・4回生の部分でも学修行動の変化が分かる。
    • 人的支援体制
      • 「アカデミック・インストラクター」学習支援を主たる業務とし、シフト制で回している。
      • チームティーチングで取り組んでいる ラーニング・アシスタント(大学院生)、情報検索アシスタント(図書館職員)
      • 高利用度の学生に対してインタビュー調査を行う。具体的に何が役立つのかを重視しなければならない。学習相談は概ね好意的に評価されている。
      • 質的調査以外に量的調査も行っているので、その結果もどこかで報告したい。
    • 今後「何をどこまでやるべきか」
      • 学習支援の範囲
      • 学習相談者の認識(教える、ではなくアドバイス、助言)
      • 学習相談環境の構築と維持(ラーニングセンターとしてのラーニング・コモンズ、サステナビリティの維持)
      • 学習支援のターゲット(アカデミックスキルを習得すべき学年は?大学での学習が可能となるスキル(汎用的と専門的)の獲得とは?)
      • 全学的学習支援の射程(それぞれの守備範囲を理解。あらゆる専門領域をカバーするのは不可能。学習支援スタッフは教員の授業展開のサポート役に)
    • まとめ:学習支援の場とは?
      • サポートに頼らなくてもよくなるためのサポート
      • ラーニングコモンズは万能ではない(できること・できないことの理解は大切)
      • 多くの教職員の協力無くしてラーニング・コモンズ及び学習支援は成立しない
  • 溝上教授による発表
    • 「学修」とは単位制(学習時間)に基づく与えられた枠(正課教育)内の学習のことである
      • アクティブラーニング=主体的学びではない
      • 主体的な学びとは、決してアクティブなだけではない。質的転換答申が入れたかった事。
    • 質的転換答申における「学修」の意義
      • 授業外学習をさせようと思うなら、学生の自主性だけではなく、教員側に責任主体を置くこと。(土持)
      • 質的転換答申の金沢工業大学国際教養大学に関する事例紹介
    • 大学設置基準での用字・用語としての「学習」
      • 設置基準でも授業外学習に関しては「学習」の言葉を充てている。
      • 質的転換答申では「生涯学習」「高校生の学習」と2カ所でてくる。「学修」の枠を超える「学習」
      • 「学修」と「支援」のカップリングには疑問を感じる。「教授」「指導」「ファシリテーション」「介入」「育成」などとすべき。
        • 何のために:ディプロマポリシーに即して学習成果を上げるために
        • 何を:カリキュラム、プログラムを見る
        • どこまで:単位制で学修時間が設定されている。少なすぎるのは問題だが、大幅に超過するのも問題である。
    • 「学習支援」と捉え直して、枠を超える学習を再度捉える必要があるのではないか。
      • 学習環境:授業外学習と自主学習
      • 学習の大枠に学修(正課教育)、プロアクティブラーニング、学習支援
      • アクティブラーニングに対応するのはパッシブラーニングである。これはアメリカでもそのように定義されている
    • 「与えられる枠を超える関与」という学習態度
      • トランジション課題の解決のために−学校から仕事・社会へのトランジション(移行)
      • 職業人養成だけに特化することは危険。よき市民、家庭人、社会人などの育成に関する問題もある。
      • アクティブラーニングを持ち出さなくても、単位制度の枠の中で超えていく態度。例示すると教員からの指示を充足すればそれでいいと思う学生と、自分の納得するところまで到達しようと試行錯誤する学生との違い。枠は枠としてミニマルリクワイアメントとして捉える。
    • トランジションの文脈で求められる主体的な学習態度
      • アウトサイドインとしての(主体的な)学修態度:個人→与えられる枠組み
      • インサイドアウトしてゆく(主体的な)学習態度:個人(プロアクティブラーニング)→与えられる枠組みを超えていく
    • トランジションの文脈で求められる授業外学習
      • 授業外学修を出発点としながらも、インサイドアウト的な授業外学習とする(プロアクティブラーニング)
        • 自身の理解を確認する
        • 既有知識や経験と繋げる(deep approach to learning)
        • 授業で出てきた分からない言葉や知識で調べる
        • 参考文献を読む
  • パネルディスカッション(日向野教授、溝上教授、浜島准教授、岡島助教、村上准教授(コーディネーター))
    • フロアからの質問事項に対するコメント
      • 日向野先生
        • フリーライドする学生に対する対処は?
          • 社会に出た場合、全員の手を借りないといけない場合、巻き込めない人も悪い。リーダーシップに対する持論を書かせ、数ヶ月での変化を見ている。巻き込めないことを変えていけるようにする
      • グループワークについていけない学生(内向的)
          • 内向的な学生は自己に中立的な人が多い。むしろそういう人にこそリーダシップが必要であると教える。
        • SAの育成に関するリソースは?
          • 夏ぐらいから選抜を兼ねたSAの訓練を行っている。PBLで企業からの課題に対処していくが、学生に考えさせる質問ができるSAを育てていく。質問力は訓練する必要がある。
          • 答えを教えるのではなく、答えを出す補助役としてのSAの役割。どの学生がフリーライドしているか?ということは教員よりもSAの方が理解している(ボディランゲージを含めて)「先輩」としてのロールモデルとしての効果。費用としては90分分の対価は支払っているが、それ以上の満足度がある。
      • 岡島先生
        • 図書館とラーニングコモンズの関係性、同志社は切り離しているがどうか。
          • 物理的に図書館にラーニングコモンズを作れなかった用地的な制約が大きい。最近の関西圏での理解は、必ずしも図書館内に作らなくてもいいという認識が広がっている
          • 図書館の外にあることで「しゃべっても良い」という意識に繋がっている。「賑やかな学修習慣」図書館の内にある場合には「ゾーニング」「遮音性」などの面で配慮しなければならない。
      • 図書が無くて困ることは無いか?
        • 今まで特に困ったことはない。図書館から歩いて至近にあるので、そこまで困ることは無い。また電子ジャーナル等のリソースを活用したり、図書館とラーニングコモンズが相互に利用促進を行うような対応をしている。(役割分担が明確)
      • 溝上先生
        • プロアクティブラーニングを教員がどこまで把握すべきなのか?
          • 修める学修と習う学習。大学側が責任を持つべきなのは「修める」方である。
          • プロアクティブというものは成績などを超えた部分であるので、評価の対象にはならない。
          • 学生が教員の与えた枠の中でしかやっていないのか、枠を超えているかのチェックはしてもいい。(評価ではないことに注意) 講義を前提としながらもアクティブラーニングに繋げるツールとして「ワークシート」というものを配付している。3〜4枚の資料。
          • アクティブラーニング型の授業を進めれば進めるほど、どうしても色々とステップが細かくなる。そうした中で知識をしっかり習得させ、教科書がしっかり整備されていることがまず重要。宿題・課題を課している中で、その達成状況を回答させることでチェックすることはできる。評価というのは、教員が学習目標を立てて行為主体者・学習者側に目線をあわせることでアクティブになる。
        • 枠を超えたアクティブラーニングをどう評価したら良いか?
          • 評価しないことが重要では。与えられたことだけこなす京大生は好きじゃない。超えて欲しいという願いは是非伝えていきたい。
    • アクティブラーニングによって学力差がさらに拡大するのではないか?(村上先生)
      • 日向野先生
        • 言葉数少なくても30分自己の存在が認められれば、学生間での差が出るということはない。
        • 立教大学でもリーダーシップ教育に関心があるのは理学部である。まず全学対象科目を受講できるように。
    • 同志社のラーニングコモンズでも学生が来ないことはないか?
      • 浜島先生、岡本先生
        • 使っている学生かそうでない学生かという部分は検証中。グループワークに行くまでに結構な障壁を感じているよう。まずは来てもらえるように積極的に情報発信している。これからさらにニーズが出てくれば、どこで戸惑っているかの分析が出来るようになる。教員によっては、授業での学生に対する課題や伸びが弱いような問題もある。
      • 溝上先生
        • 個人的には学力差(ディバイド)は拡大すると考えている。社会性の問題、関係性の問題が今後クローズアップされてくると思う。
        • 自分は青年心理学が専門なので「発達」が研究テーマである。大学生になってから急にできるようになるかどうかは大学教育の課題である。高校段階で実証分析を行うと、高校段階でも主体性を身につけている生徒は少ないのでは。京大生でも処理能力は高いが、対人能力に問題があるので採用されない学生もいる。そういうことは非常にもったいない。これはどのレベルの大学でも起こりうることであり、個別の大学でも課題はあるので、どこに課題設定をして学生を育成していくかが大切。
        • 理系からアクティブラーニングが発生していることは案外理系の教員は知らない。 専門職として仕事をするとき、ひとりで仕事することはあり得ない。他者と協働することは必要不可欠なので、理科系だからできないということはない。
    • 立教大のBLPで学生が楽しいと感じているのはPBLだけではないのか?
      • 日向野先生
        • PBLではなく論理を学ぶスキル系の授業は必修ではないが、履修者は増え続けている。企業からの課題に対するプレゼンに対して厳しい指摘が入る。そこは論理の飛躍などに原因があるため、その重要性を伝えている。出欠、発言などを加味して成績を付けている。
        • リーダーシップの理論については、どれかを使わないとリフレクションできないので、そのことを説明している。まず第一にリーダーシップに関する成果目標を自分が率先垂範して決める。しかし、それで全員ができる訳ではないので、リーダーシップの3条件。企業連携のコツはひとつの大学でPBLをやる場合、教員が交渉するのは非効率である。よって、外部で企業とのコネクションを持ち、調整できる他者と協働した方が望ましい。
    • ラーニング・コモンズを利用している学生の学習成果に関して何か調査をしているか。
      • 浜島先生
        • 教育評価に関しては、学生のヘビーユーザーに対するアンケート調査などは行っている。利用している学生、その他の学生も含めた大規模アンケートを実施した。スキル系・学士力に関する質問を織り込んだので、それを分析している。ラーニングコモン ズを利用する学生に関しては学習に関する意識差の格差などは表出してくる可能性がある。自由記述欄を設けたところ、不満が3点上がってきた。
          • メディア環境を充実させて欲しい(性能がいいもの)
          • 全エリアで飲食可能にしてもらいたい(せめて飲料ぐらいは)→学生にしっかり対応策が行き渡っていない?
          • 声の大きさに対する不満(自分たちの話が隣のグループの声でかき消される、勉強したいのに別目的で使っているなど)学習に関する点については、利用者相互で意見交換を促している。
    • 学部間・部署間での連携をしているか。
      • 浜島先生
        • 週1回で情報共有できる場を設けており、スムーズに運営できている。
        • 学部教員に関しては2ヶ月に1回検討委員会を開催しており、教員からの要望を聞く機会を設けている。ただ、それだけでは足りないので、各学部の初年次から卒業 までのカリキュラムの話を聞き、自分たちに出来る支援のあり方などについて意見交換を行った。初年次で学習した内容を忘れている学生に対して、指導できる期間があることはいいとの評価を教員から得ている。
    • ラーニングコモンズにも行きたがらない学生に対する指導はどうしたらよいか?
      • 溝上先生
        • 学生の「面倒くさい」という意見を汲み取りすぎず、教員が求める評価基準に到達することで、枠にあてはめて考えることは必要。ある授業での単位修得条件がある場合、それをしっかり学生に説明して理解してもらえるようにクリアするポイント。京大生はこなすことがうまいので、枠に到達する学習はしっかりやってくるが枠を超えようとしない。そこを超えさせる努力を教員がしている。
        • 伝統的学力が低い学生はそもそも枠にはめられない。教室には来るが、多くの学生(3分の1以上)は学習意欲が低く授業を妨害する。そういった学生を相手に何とかコミット・エンゲージメントさせるかということが大切。例えば映像教材を活用すると、その時はいいが理論の説明になると嫌がる。ディスカッションさせるにしても、頭の中で全然進んでいないような状況はいけない。枠は与えているんだけど、そこに乗ってこない学生が乗ってきたことがある。授業を90分で完結させるのはなく、60分で授業を終了させ、残りの時間で確認テストを行い、リフレクションを行った(よくできましたのハンコを押す)ところ、学生の学習意欲が高まった経験である。そういった教員から認められる、達成感を感じていること自体が少ない。そういう個々の学生に課していくことが学習意欲を生む。
        • 枠を設定して、そこに到達させるための工夫を行っていくかが教員の力量で、これは各大学で異なる。
    • 汎用的なスキルが必要なのは分かるが、教員にそもそも教えられるのか?
      • 日向野先生
        • SAを導入したことでブレイクスルーが起きた。授業の中にFDを内蔵すること。その問いは学生から出てくることに意味がある。学生に対して質問力を育成することの重要性がある。
      • 浜島先生
        • 授業外でのサポートをしているが、学生の質問からどの教員がどういう課題を出しているかは分かる。ある意味、教員の方が汎用力があるという前提に立って話をしているが、学問的な作法に関して最善の部分を意見交換していくか。教員には汎用的能力は備わっているという前提。
      • 岡本先生
        • 汎用的スキルがあるかないかについては、ラーニングコモンズでは教員のやり方に対して意見を述べることはない。もちろんそこが悩ましい部分はあるが、学生にはなるべく色々な先生に話を聞きにいくように指導している。
      • 溝上先生
        • 教員のジェネリックスキルが弱いというのはあると思う。そういう教員がPBLなどをやっていくには研修しかないと思うが、ハイパフォーマーをモデルにするのはよくない。立教の八田さんの話を聞いて感動した。学生調査にしても「役割モデルになる人」があまりにも身近すぎるのが問題であると感じる。

2012年に公表された中教審答申を踏まえ、アクティブラーニングの進展などは各大学で取り組まれていることですが、具体的に何をどこまでやるべきなのか?という点で、先進事例の紹介と意見交換が行われました。なお、大学教育学会の小笠原会長は、2012年に「アクティブラーニングの実施は教員・学生を疲弊されるので、科目数を減らした上で大規模授業を組織化していくことが重要」との指摘をされています。*3
立教大学の日向野先生の発表を聞いていて感じたのは、立教大学経営学部のビジネス・リーダーシップ・プログラムでは、SAを活用したアクティブ・ラーニングの取り組みが紹介されていましたが、学生を授業を創る上でのパートナーとして捉えていらっしゃるのが印象的でした。教職学協働といいますが、授業内だけに留まらず、幅広い展開をされているのだと思います。リーダーシッププログラムを職員にも伝授されているそうですが、これはSDの取り組みとしても興味深いものですね。
同志社大学のラーニング・コモンズの取り組みに関しては、学生の学習支援に向けて部署間が相互に連携する仕組みが作られていることについて、規模の大小とは関係無く連携できる制度に関心を持ちました。私の職場でもラーニングコモンズの設置に向けた検討がようやく始まったのですが、これは是非本学の担当者にも伝えたいなと思った次第です。
溝上先生の講演では、大学設置基準上での「学修」と「学習」の違い、「トランジションの文脈で求められる主体的な学習態度」、「インサイドアウトとしての(主体的な)学習態度=プロアクティブラーニング」など、2012年の「質的転換答申」をより噛み砕いた内容で、非常に分かりやすく整理することができました。また、発表用のスライドをすぐにWEBで公表して下っているのは大変助かります。*4こういった場での発表資料を公表するということは、その後のリフレクションにとっても非常に重要なことですので、もっと様々な場で広がっていけばと思います。(現在はSlideShareのように便利なWEBサービスがあるので。)

また、シンポジウムのコーディネーターを務められた村上先生のファシリテーション力の高さは出色でした。溝上先生が持ち時間を超過してお話されていたのを、プロアクティブラーニングでの説明を引用し、「時間の枠を超える」という風におっしゃって、会場全体が和みました(笑)でも、ああいう大規模な会場の雰囲気を和らげるのは簡単ではないですし、授業でのアイスブレイクなどの手法にも繋がるものだな、と個人的には感心して見ていたところです。

色々と感じることは多かったのですが、アクティブ・ラーニングをどこまでやるの?ということについて、他大学の真似をしてもうまくいかないでしょうね。各大学が、自学の教育にアクティブ・ラーニングをどのように位置づけていくのか、そのことをしっかり捉えていなければ、深い学びには繋がらないだろうと思います。その点を強く意識させられました。
シンポジウムの後は京都ブライトンホテルに場所を移し、情報交換会が行われました。京都の大学の友人とも旧交を温めることができ、充実した1日目を過ごすことができました。次回は2日目の分科会参加報告です。

*1:BLPについて(立教大学経営学部)http://cob.rikkyo.ac.jp/blp/about.html

*2:株式会社イノベスト http://innovst.com/

*3:アクティブ・ラーニングと中教審答申をめぐる高等教育研究者の議論を聞いてきました http://d.hatena.ne.jp/high190/20121226

*4:学修支援なのか、学習支援なのか?−単位制とトランジションをどう折り合わせるか− http://goo.gl/1wLfGJ

大前研一氏の本を読んで「外部から見た大学の姿」を想像してみる

high190です。
たまには自分の読書記録も記事にしたいと思います。友人に勧められた本なのですが、大前研一氏の本を1冊読んでみました。「マネー力 資産運用力を磨くのはいまがチャンス!」という本で、発行されたのは2009年ですから一昔前ではあるのですが、普段は大学や高等教育に関わる書籍を主に読んでいる私にとって、今まで読んだことがなかった分野の本だったので興味深く読むことができました。(Amazonのレビューを読むとなかなか手厳しいコメントもついているのですが)*1
私にとって大前研一氏のイメージは、コンサルタントとして活躍されていたことはもちろんですが、株式会社立大学のビジネス・ブレークスルー大学*2を開設して学長に就任し、全ての授業をインターネットで提供する日本ではまだ珍しい教育を提供しているという印象が強いです。(その他にはサイバー大学があります。この点については「大学職員の書き散らかしBLOG」さんが詳細にまとめていらっしゃるので、そちらも是非ご参照ください)*3この本ではリーマンショック後の今後の個人による資産運用のあり方などについての意見が述べられていますが、その中で教育に関する指摘も何点か出てきます。その部分を読むとなかなか興味深いので記事にしてみました。

マネー力 (PHPビジネス新書)

マネー力 (PHPビジネス新書)

以下に私が読んでいて気になった部分を抜粋します。表現等は私の方でメモをしながら読んでいたため、本文中と異なる場合があります。

  • 自ら能動的に動くこと。自分の足で歩き自分の目で現実を確かめることの重要性。生き残りたかったら能力・技術を学び、進むべき方向を決めて自分で切り開ける人材になること。中国人の姿勢(いい意味で国に対して面従腹背、したたかさ)に学ぶ。
  • グローバルな視野で考えるためにITと英語をマスターする。「世界で通用する人材」の育成に視野を向けていくべき(大学はこの責務を果たしていない)他国の真似をしても二番煎じで終わる。コミュニケーション×リーダーシップ×プラスアルファの能力が求められる。
  • 資産を自分自身で運用するリスクを負って、国に頼らずに生きるすべを身に着けることの重要性。マネー力は生活の知恵で発展途上国の国民の方が、自らを守るために身に着けている。
  • よいものを使えば耐用年数も上がる好循環へのシフト。長期投資と分散投資。資産形成や運用に最適解はあっても絶対解はない。
  • 本来、金融商品である生命保険をお守りだと考えるのは不適切。
  • 道州制の議論は効率性ではなく統治機構の抜本改革。

国に頼ってはいけない、自分自身で考える力を養う…など生き方と資産との付き合い方について触れられた本です。テンポよく読めますので、すぐに読了できるかと思います。
かなりざっくりとした抜粋なのでイメージが掴みにくいとは思いますが、教育に関連する部分では「世界で通用する人材」についての意見が出てきます。大前氏は教育に関する議論として「世界中の人とコミュニケーションが可能で、どの国の人に対してもリーダーシップを発揮することができ、なおかつ余人をもって代えがたいスキルをもつ人材の育成」が必要だと述べています。これは現在、グローバル人材の育成を目的としてスーパーグローバル大学を始めとした高等教育政策にも合致する部分ですが、コミュニケーション、リーダーシップに加えてプラスアルファのスキルを身に着けるということは、昨年10月に私も参加したGreenhorn Networkのシンポジウムで倉部さんが指摘していたことと同じだと気づきました。*4
また、道州制の導入に関する意見では、効率性ではなく統治機構の抜本改革が必要だと述べています。これは現在進められている国立大学改革にも繋がるように感じます。このように、大前氏の本を読んでいて自分なりに感じたことの一番は「大学を巡る状況は少しずつ変化しているが、根本的な部分では2009年頃とさほど変わっていないでは?」ということです。自分自身は大学の現場で働いているので、細かな制度変更などを気にしながら大学を巡る状況も変わってきているように感じますが、大学を外から眺めている人たちからすると、大学は依然として旧態依然として国に守られているという意識なのではないかと思われているのではないでしょうか。自分たちが変わろうとしている姿勢を、大学はもっともっと発信していかなければならないのかも知れません。
その他、気になった表現として「最適解はあるが絶対解はない」という言葉に感じるものがありました。大学で仕事をしていて、どうも絶対解のようなものを探しているような気になる時があります。前例を踏襲したり、何となく他大学でもそうしているから同じような施策を導入したりといったことです。最適解を導くためには自らの手で大学設置基準などの法令を紐解き、自らの足でマーケットからの評価の現実を知るということを、私自身が本当にできているかどうか。個人的にはマネー力を付けることも大切だと思いましたが、先述したような考え方の部分で共感できるところが多かったです。大学や高等教育以外の本から大学を客観視してみることも大切ですね。

IR組織を設置している大学のリストを作ってみた

high190です。
遅くなりましたが、2015年もどうぞよろしくお願いいたします。今年も自分のペースではありますが継続してブログを書きたいと思っています。
昨今、日本でのIR導入が急速に進展していますが、どの大学にIR組織が置かれているか明らかになっていないので、大学IR組織のリストを作成しました。設置有無の根拠は当該大学のWEB公開資料で確認できる場合に限りました。よって"IR"の名称は使っていないが、実質的にIR機能を有す大学はカバーしきれていません。リストは継続整備しますので、追加情報があればブログのコメント又はTwitterなどでお知らせ下さい。
※更新情報 明治薬科大学IR室を追加(2021/07/27)

国立大学

公立大学

私立大学

高等専門学校

私立大学でIR組織を持つところが多いのは、私立大学等改革総合支援事業のタイプ1「教育の質的転換」にて「IR担当部署の設置及び専任の教職員の配置」が全学的な教学マネジメント体制の構築の項目で加点対象になっていることが影響しており、新規に組織を立ち上げた大学が多いからと推測されます。公立大学に関しては私の探し方が悪いのか、あまり見つけることができませんでした。国立大学に関しても、恐らく実質的にIR機能を有している組織を持つ大学が多くあると思いますので、随時追加していくつもりです。また、文科省高等教育局担当の官房審議官の方から「国立大学法人に関しては全大学でIRを導入し、専門家を置く」という発言もあったようなので、その点も注視しておきたいですね。*11
さて、その他に公表されている資料からIR組織の数を調べてみることにします。平成24-25年度の文部科学省大学改革推進委託事業による報告書に「IR組織の設置状況」に関する事項がまとめられており、第4章「日本におけるIRの現状」の「IR組織と担当業務」にIR組織開設数の記述があります。


IR組織の設置状況について(図4-4)、有効サンプル(N=547)の中「IR名称の組織がある」(9.9%)と「IR名称はないが、担当組織がある」(15.4%)と合わせて,約四分の一となっている。

有効サンプルの547は、2013年12月調査の「大学のインスティテューショナル・リサーチ(IR)に関する調査研究」に回答した大学の数ですので、有効サンプルに比率を掛けますと、IR名称の組織を有すのは54大学、IR名称はないが担当組織がある大学は84大学になります。調査自体に回答していない大学が200以上ありますが、日本でも徐々にIR組織を持つ大学は増えていることが分かります。IR先進国のアメリカとの比較で考えた場合、以前にLEAP参加者の方の講演を伺った際、*12講演後の質疑応答で「アメリカのIRはすごいのか」との質問に「どの大学にも必ずIR担当者がいる。IRがないことのデメリットを考えた場合、必須の存在であり、公的調査に対応するためにも必要」と回答されていたことを思い出しましたが、日本でもこれから導入の動きが加速することは間違いありません。
IRは大学のガバナンスを適正にコントロールすることを下支えする手段ですが、日本は「戦略的な大学ガバナンスを作り上げる機構がきわめて弱い」ということを慶應義塾大学の上山隆大教授が教育再生実行会議などで発言されていました。*13最近「国立大学法人運営交付金の在り方に関する検討会」にて、上山教授からIRに関する発言があったようなので、議事録から一部抜粋してご紹介します。

その意味で、明らかに日本の大学の「大学本部」の果たしている役割は小さ過ぎる。小さ過ぎるというのは、それを果たすような予算が与えられていないということだと常に思っています。例えば、アメリカですと、主立った大学、大きなところでいうと、年間の予算は大体3分の1は恐らく大学の本部、すなわち学長がほぼ完全に把握している。それ以外のところの競争的資金も含めて、3分の2ぐらいは十全に理解できなかったのですが、それ1990年代に入ってきますと、大学の学長は、すべてのうちの大学の予算の隅々まで把握するようなバジェットシステムに変えるべきだという動きが起こってきました。その動きの震源地はシカゴ大学だったですけれども、やがてスタンフォード大学に移っていき、多くの大学が予算の中央管理を進めるようになっていきます。
その予算の管理は大学の学長を中心とした組織の大学運営の根本です。それによって学内の様々な分野のことを「経営」することができる。つまり、たとえトップが理系の先生であろうと、社会科学の分野でも自分の大学が何を行っているのか、それが一体うちの大学に必要なのか、その予算はどれぐらい充てるべきなのかということの完全な内部の財務のデータを大学本部が持つようになってきているわけです。そのようなきちんとしたデータに基づいた資料を手にして大学のビジョンを作っている。したがって、うちのところではこれだけの予算が必要だというような論拠を作っていくということができているわけです。日本の大学は、その力が非常に弱い。したがって、外部に発信するアカウンタビリティーに力がないわけですよね。
それができないうちは、財務省一つとってみてもそうですけれども、国立大学への資金の投入を握っている人たちを説得できないのではないですか。恐らくそのような大学の内部のガバナンスのマネジメントを達成できるシステムを早く国立大学の中に作ってあげなければいけない。それは渡し切りの予算の中で何%か分かりませんけれども、IR(インスティテューショナル・リサーチ)といいますか、内部のインスティテューションのリサーチをやって、うちの大学にはどういう人材がいて、どこがイノベーションに行き、それはそうではないところにも必要なものがあるかという絵を描けるようにしていけないと思います。

昨年末に中教審の大学教育部会で「職員の資質向上等に関する論点」という資料が公表されて話題になりました。*14 この資料では「高度専門職」という言葉が出てきますが、恐らく現在国立大学法人で導入の進んでいるURAのように博士号を持つような人材を私などはイメージします。しかし、高度専門職を設置形態や規模を問わず、全ての大学に置くことは難しいと思われるため、現在のように「できるところから手探りで始めている」大学がほとんどだと思います。他の大学職員ブロガーの方の職員とIRの関係を現状から捉えた記事を拝見し、*15 *16また、大学評価コンソーシアムなどで知見が集積されてきているようですし、*17私立大学職員によるInstitutional Research(IR)文献メモ」という非常に有益なサイトもありますので、*18そういった先行研究を整理しながら自学のガバナンスに資するIRを作り上げていくことが大切ではと感じます。

*1:茨城大学大学戦略・IR室要項 http://www.che.yamanashi.ac.jp/modules/ir/index.php?content_id=1

*2:鹿児島大学Fackbook https://www.kagoshima-u.ac.jp/ir/]

*3:国立大学法人佐賀大学インスティテューショナル・リサーチ室設置規則 https://kiteikanri2011.admin.saga-u.ac.jp/doc/rule/818.html

*4:国立大学法人佐賀大学におけるインスティテューショナル・リサーチ室の運用に関する内規 https://kiteikanri2011.admin.saga-u.ac.jp/doc/rule/841.html

*5:企画政策課IR推進事務室 http://www.chiba-u.ac.jp/general/recruit/recruit_staff/staff/occupation/kikaku.html

*6:点在する学内のデータを集約・分析 戦略的な大学運営と開かれた大学を目指して国内大学初の統合報告書でビジョンや戦略を示し、「東大ファン」を増やしていく https://www.fujitsu.com/jp/solutions/industry/education/campus/case-studies/u-tokyo-ir/index.html

*7:補足資料:平成30年度国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学年度計画 https://www.jaist.ac.jp/about/data/year-plan-h30.pdf

*8:大学IRを活用した大学経営マネジメントの実施 大学IRを活用した大学経営マネジメントの実施 | 北海道大学URAステーション

*9:大阪府立大学におけるIR実践について http://dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/infolib/user_contents/kiyo/DBn0110202.pdf

*10:https://www.fujitsu.com/jp/about/businesspolicy/fieldinnovation/case-studies/case48/

*11:「『教学マネジメントの改善と学修成果』〜学生支援型IRの可能性」に参加 http://shinnji28.hatenablog.com/entry/2014/11/22/235113

*12:LEAPプログラム参加の大学職員による研修報告を聞いてきました http://d.hatena.ne.jp/high190/20120730

*13:教育再生実行会議による提言は大学ガバナンスの向上に資するのか http://d.hatena.ne.jp/high190/20130610

*14:大学教育部会(第31回)配付資料「職員の資質向上等に関する論点」 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/015/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2014/11/20/1353507_01.pdf

*15:大学職員とIR〜職員がIRを関わる意味とは〜 http://as-daigaku23.hateblo.jp/entry/2014/10/02/141212

*16:IRと大学職員?〜IRの定義から考える拒否反応〜 http://as-daigaku23.hateblo.jp/entry/2014/12/13/104540

*17:これまでの大学評価担当者集会における米国IRの議論 http://iir.ibaraki.ac.jp/jcache/documents/2011/0915/h23-0915_sato_ppt.pdf

*18:私大職員によるIR(Institutional Research)文献メモをまとめたサイトを見つけました http://d.hatena.ne.jp/high190/20120803

上智大学の「教職協働・職員協働イノベーション研究」から今後のSDの方向性を探る

high190です。
自分自身が大学職員として仕事をしていて、色々な業務を経験させてもらってきましたが、最近強く感じる事は自分自身の強みをいかにして作るか?ということです。専門性を持つために大学院に通う方も多くいらっしゃいますし、そうした方々の諸研究を拝見して、自分自身の学びに繋げていきたいというモチベーションになってきました。
しかしその反面、大学院で研究した成果を職場で活かせた人が多いか?というと必ずしもそうではないかも知れません。これは各大学毎に人事政策が異なる事にもよるでしょうが、大学院での学びをどのように評価していくかという点でまだ課題があるように感じます。理論に根ざした実践的な取り組みに繋げていくために、どのような仕組みが必要であるのか?という点で参考に出来そうな事例があります。上智大学の「教職協働・職員協働イノベーション研究」です。


本学が競争的環境の激化による厳しい経営環境の中で、個性際立つ「世界に並び立つ大学」としてさらなる発展を遂げるためには、既存の概念に捉われない大胆且つ自由な発想による改革が必要です。
2012年8月の中央教育審議会の答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」においても、わが国の目指すべき社会像として「主体的な思考力や構想力を育み、想定外の困難に処する判断力の源泉となる教養、知識、経験を積むとともに、協調性と創造性を合わせ持つことのできるような大学教育への質的転換」が求められておりました。
そして、この教職協働の取り組みは、まさしく「知識を基盤とした自立、協働、創造モデル」を教職員自らが実現していく方法です。 また同時に、学院の教員と職員が協働し、あるいは職員が所属部署の枠組みを超えて協働して、学院行政および教育・研究体制の改革に向けた、実現可能な研究・政策提言を行うことは、学院全体の組織ネットワーク力の開発でもあり、組織力の向上にも寄与しています。
現在、第4回(2013〜14年度)においても5件の研究プロジェクトが運営されているだけでなく、過去の幾つかのプロジェクトについては、実際の事業段階へすでに移行しています。

第3回までは報告書が掲載されていますので、どのようなプロジェクトが行われてきたのかを見ることができます。研究代表者1名に加えて複数の研究メンバーを置いてプロジェクトを運営する形式のようですね。個人的には教職協働を行う中で、職員が教員から研究に必要なメソッドを学んでいける点がSDの効果を高めていくことに有効だと感じました。現在では多くの大学で教職協働の取り組みが行われていると思いますが、大学内部の取り組みに留まらず、成果を対外的に発信していくプロセスを経ることは非常に重要だと思っています。自分自身の関心としてはフューチャーセンターに大きな可能性を感じているので、*1以下の2つのプロジェクトについての進捗が気になります。

  • 上智大学における課題解決を促進するフューチャー・セッションの開催および上智大学フューチャー・センターの設置の可能性を模索する研究(第3回(2012〜2013年度))

○研究テーマについて
少子化や社会環境の変化の中で、日本社会は極めて多くの社会的課題を抱えており、上智大学も同様に多くの課題を抱えている。教育の質向上の問題、組織のマネジメントの問題、そして高まる社会のニーズにいかに応えていくべきかという問題など。こうした多様な問題に対して、従来型の縦割り組織では、利害調整の難しさや、問題の先送り、責任の押し付け合いなど、前向きで本質的な問題解決にはたどり着かない傾向が見られる。こうした傾向は上智大学だけでなく、閉塞感に包まれた日本、そして世界中のいたるところで共通してみられる根が深い問題である。
このような課題を克服するアプローチとして、北欧で開発されたフューチャー・センターとそこで行われるフューチャー・セッションを上智大学に導入するための準備として今回の研究を行った。
○研究内容

  1. フューチャー・センターとそこで行われるフューチャー・セッションについての研究
  2. 3回のフューチャー・セッションを開催し、教職員、学生、卒業生、経営陣など多くのステークホルダーがフラットな関係で未来志向の議論をする場を作る。
  3. 上智大学におけるフューチャー・センターの意義や実現可能性を研究する。
  4. 1〜3をふまえ、学院に対して「上智大学フューチャー・センターの設置」の提言を行った。
  • 上智大学フューチャー・センターを持続可能な組織とする方法の研究 ―NPO法人化を視野に入れて―(第4回(2013〜2014年度))

SDについては、大学設置基準に規定するか否かの議論が中央教育審議会大学分科会の大学教育部会で行われていますが、*2 *3 *4現有の職員能力の底上げという点からすると、上智大学の取り組みはプロジェクト形式でかつ教職協働を取り入れており、職員が得られる知見が多いと思われるため、優れているのではないかと考える次第です。なお、中央教育審議会答申「学士課程教育の構築に向けて」では、教職協働に関して以下の記述があります。

  • 今後,各大学による一層の改革が求められる中,事務職員が教員と対等な立場での「教職協働」によって大学運営に参画することが重要であり,企画力・コミュニケーション力・語学力の向上,人事評価に応じた処遇,キャリアパスの構築等についてより組織的・計画的に実行していくことが求められる。例えば,国内外の他大学,大学団体,行政機関,独立行政法人,企業等での勤務経験を通じて幅広い視野を育成することや,社会人学生として大学院等で専門性を向上させることを積極的に推進すべきである。
  • 教職員の協働関係の確立という観点からは,FDやSDの場や機会を峻別する必要は無く,目的に応じて柔軟な取組をしていくことが望まれる。

特に既存の大学組織では対応困難な課題に対処するため、プロジェクト型の業務を増やしていくことはこれからの大学マネジメントに必須の考え方だと思いますし、教員の専門領域での知識を大学マネジメントに活用していくためにも教職協働のより深い進展はこれまで以上に重視されてくるでしょう。

*1:大学にフューチャーセンターを作ろう! http://d.hatena.ne.jp/high190/20120611

*2:大学教育部会(第31回)配付資料「職員の資質向上等に関する論点」  http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/015/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2014/11/20/1353507_01.pdf

*3:大学教育部会(第32回)配付資料 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/015/gijiroku/1353929.htm

*4:義本博司大臣官房審議官(高等教育局担当)の発言部分「『教学マネジメントの改善と学修成果』〜学生支援型IRの可能性」に参加(松宮慎治の憂鬱) http://shinnji28.hatenablog.com/entry/2014/11/22/235113

ウェブの進化について、大学職員の視点から振り返ってみる

high190です。
最近では他の大学職員ブロガーの皆さんから刺激を受けて、記事の内容を色々考えたり出来るので楽しいです。松宮慎治さんが「ネットによる知の変化と教養―大学教育学会 課題研究集会に参加して(2)―」という興味深い記事を書かれていましたので、*1記事を引用しながらウェブの進化を大学職員目線で振り返ってみようと思います。

1."The Machine is Us/ing Us"に衝撃を受ける

こちらの動画は2007年に公開されたもので、当時はWEBの進化を"Web2.0"などと表現していました。(最近はあまり聞かなくなりましたね)
梅田望夫さんが「ウェブ進化論」を書かれたのが2006年ですから、ブログやソーシャルメディアが興隆し始めてきた頃だと思います。私は当時ブログを始めたばかりでしたが、Twitterは2007年5月に、*2Facebookもその頃に始めました。今までとは違う新しい世界がWEBを通じて広がっていると思い、未知の可能性を強く感じたことを憶えています。

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)

現在ではWEBはさらなる進化を遂げていますが、進化の過程がよく分かることから上記の動画は何度も見返してきました。この動画を見てWIREDの"We are the Web"などの記事にも触れることができました。*3動画の作成者はカンザス州立大学のマイケル・ウェスチ准教授です。文化人類学を専攻されているようですが、"Digital Ethnography"というプロジェクトも進めておられます。*4(プロジェクト名を訳すと「デジタル民族誌」という表現になるでしょうか)


2.大学教育とWEBを巡る進化の過程
この頃から徐々に大学の授業にもオンラインの波が来ていたように思います。ちょうど"iTunes U"が始まったのも2007年でした。*5そしてこの頃からオンライン教育の効果に関する調査や、*6アメリカの大学が先行して講義をYouTubeなどで配信する試みなどが始まります。*7日本国内でもWEBによる大学のオープン化・講義の公開等に高い期待が寄せられていました。*8 その流れを受けて、2008年には京都大学が日本で初めてYouTubeで講義動画の配信をスタートさせています。*9こういった情報のオープン化に関わる一連の流れは、後のMOOCsにも繋がるものです。
その他にも大学が広報のためにソーシャルメディアを使用するようになり、*10大学の内部では、特に図書館が先んじてWEB2.0に対応してきたように感じます。蔵書を電子ジャーナルに移行させる取り組みや、*11 *12所蔵品をWEB上に公開する取り組みなどがありました。*13WEBの進化は止まることなく、むしろそのスピードが上がってきたように感じます。2010年には、先述した「ウェブ進化論」の著者である梅田望夫さんが、マサチューセッツ工科大学教育イノベーション・テクノロジー局シニア・ストラテジストの飯吉透さん(現在は京都大学高等教育研究開発推進センター長)と共著で出版した「ウェブで学ぶ」を出版しています。

ウェブで学ぶ ――オープンエデュケーションと知の革命 (ちくま新書)

ウェブで学ぶ ――オープンエデュケーションと知の革命 (ちくま新書)

最初に紹介した松宮さんの記事に「ネットによる知の変化」について以下の記述がありますが、目的に合わせて体系化すること自体がWEBの力でしょうね。組み合わせ方をどのように考えるかですが、私の場合は自分で過去に書いた記事のことを覚えているので、断片的な知識をたどりながら積み木を積むように過去の記事を引用するような形式を取ることが多いです。これもブログを書き続ける中で、他の人のまとめ方を参考にしつつ試行錯誤しながら自分なりに積み上げてきたひとつの知識なのかなと思っています。

自分なりに情報を峻別する能力がないと、溢れる情報に埋もれてしまって、騙されたり、被害を被ったりする可能性があります。加えて、峻別した情報を組み合わせる能力が求められます。多くの場合、得られる情報はバラバラに存在しているからです。体系化された情報もあるかもしれませんが、その体系性が自分の目的と合っていないと、自分にとってはバラバラにしか見えません。バラバラに存在するものを組み合わせて、目的に合わせて自分なりに体系化する能力が必要になるでしょう。


3.MOOCsに代表される大学教育のオープン化とこれから
さて、WEBの進化についての話に戻ります。2012年に入ると、Cousera、edX、UdacityなどのMOOCsプラットフォームが次々に生まれてきます。東京大学も2013年にはCourseraに参加するなど、*14日本においても講義のオープン化に関する土壌が整ってきていますし、現在ではJMOOCが発足して現実に大学の講義が無償で提供されるようになっています。このように、ちょうど私がブログを始めた頃からWEBは目まぐるしい進化を遂げてきた訳ですが、その流れに乗るように大学教育も大きくその姿を変えてきています。この流れに乗るためには止まっていては取り残されるだけなので、常に先端の情報に触れながら流れを追う必要があります。この10〜20年でWEBによって社会は劇的に変化してきましたが、今後はどのような変化が待っているでしょうか。その流れを見つめていけるよう、引き続きWEBを通じて大学のことを考えていきたいです。

*1:ネットによる知の変化と教養―大学教育学会 課題研究集会に参加して(2)― http://shinnji28.hatenablog.com/entry/2014/12/05/231607

*2:https://twitter.com/high190

*3:We Are the Web http://archive.wired.com/wired/archive/13.08/tech.html

*4:DR. MICHAEL WESCH http://mediatedcultures.net/michael-wesch/

*5:iTunes Uのサービスは2007年に開始され、iTunes StoreにもiTunes U専用の配信チャネルが開設された。スタンフォード大学、カリフォルニア大学バークレー校、マサチューセッツ工科大学などが当初から参加し、iTunes Uを通じて講義の映像を一般向けに配信している。日本でも2010年前後から、東京大学慶応義塾大学、早稲田大学明治大学などが講義映像の配信を開始している。 http://www.weblio.jp/content/iTunes+U

*6:「大学教員の多くが,ポッドキャストやブログの教育的な利用価値を認めている」,米調査 http://d.hatena.ne.jp/high190/20070510

*7:米大学が全世界で初めて講義をYoutubeで公開 http://d.hatena.ne.jp/high190/20070916

*8:Webを使った大学のオープン化、講義の公開に強い期待〜gooリサーチ結果 http://d.hatena.ne.jp/high190/20070210

*9:京都大学が国立大学では初めてYouTubeに講義を公開 http://d.hatena.ne.jp/high190/20080408 

*10:大学のソーシャルメディアポリシーを定めよう! http://d.hatena.ne.jp/high190/20111121

*11:これからの大学図書館はメディアセンターへ http://d.hatena.ne.jp/high190/20100713

*12:紙の本が1冊もない大学図書館がアメリカで誕生 http://d.hatena.ne.jp/high190/20100914

*13:イェール大学が博物館、図書館の所蔵品画像をライセンスフリーで提供 http://d.hatena.ne.jp/high190/20110519

*14:東京大学が大規模オンライン講座サイトのCourseraに参加 http://d.hatena.ne.jp/high190/20130227

「道の駅」と大学の連携・交流からサービスラーニングに繋げる取り組みを観光庁が開始

high190です。
先月末に観光庁から興味深い発表がありまして、その内容は是非取り上げたいと思っていました。全国に所在する「道の駅」ですが、最新の情報では全国に1,040カ所設置されているようです。*1この道の駅を活用して、将来の地域活性化の担い手を育成しようという取り組みを観光庁が始めることになったようですので、このブログでもご紹介しておきたいと思います。


「道の駅」には地域の観光資源や魅力を語る人材が集まっており、地域の課題を解決する拠点となっています。また、将来の地域活性化の担い手となる人材を育成・確保するためには、現場での就労体験を通して、実際的な知識や技術を学ぶことが重要です。このため、「道の駅」を、観光振興や地域振興を学ぶ学生の課外活動やインターンシップの場として本格活用することとしました。
これまで、「道の駅」において、地元大学等と個別に連携を行う事例はありましたが、全国の道の駅を対象に実施することにより、都市部の学生が地方部の道の駅で交流するなど、新たな価値の創造が期待されます。(別紙1参照)

<実施内容例>
・観光資源調査、地域活性化プログラムの企画・立案
・HPやSNSなどによる情報発信の提案・実施
・地場産品を活用したオリジナル弁当などの商品開発

上記の別紙1の内容は以下のとおりです。

大学においても、COC事業などの募集によって地域連携を強化することの重要性は今まで以上に認識されてきていると思います。また、学生の学びを深めるためのサービスラーニングに対する認知度に関しても、2012年度の「質的転換答申」で言及されたこともあって*2徐々に高まりつつありますので、私も他大学の取り組みに関する情報を集めていました。*3学生が大学で学んだ知識を、実践を通して深い学びに繋げていくことは大学教育の質的転換にまさしく適う取り組みですので、社会と大学が深く連携していくきっかけになるだろうと思います。サービスラーニングに関しては、筑波大学による解説がわかりやすいと思いますのでこちらもご紹介しておきます。*4
道の駅のように、一般的な認知度も高い組織体との連携ができると、大学側でも色々なプログラムを考えることができると思います。一番重要なのは間に入って調整の役割を担うコーディネーター役ですが、職員側でもそういった人材ニーズに応えることができる人を発掘・育成していくことが永続的な制度設計に繋がるように感じます。地方創生は人口減少社会を迎える日本にとって重要な政策課題ですので、その意味でも観光庁文部科学省の連携も重要になってくると思います。行政と大学がさらに連携を深めて、地方創生に繋げていけたらいいですね。

【2014/12/06追記】
具体的には、立教大学観光学部と跡見学園女子大学マネジメント学部が興味を示しているようです。*5

*1:「道の駅」の第42回登録について〜今回10駅が登録され、1,040駅となります〜 http://www.mlit.go.jp/report/press/road01_hh_000444.html

*2:質的転換答申の本文と用語集に記述があります http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1325047.htm

*3:サービスラーニングに関する私のブックマーク http://goo.gl/R1gwBm

*4:サービス・ラーニングとは http://www.human.tsukuba.ac.jp/gakugun/k-pro/aboutSL/aboutSL.html

*5:「道の駅」で就労体験=観光学部の学生ら対象−国交省 http://www.jiji.com/jc/c?g=eco&k=2014120600198

千葉県大学職員の集い「Chinowa」の勉強会に参加してきました

high190です。
昨日は千葉商科大学で開催された千葉県大学職員の集い「Chinowa」の勉強会に参加してきました。この勉強会は今年の5月から活動をされているそうなのですが、昨日が2回目の勉強会ということで、私は東京都内の大学に勤務していますが、発足メンバーの方から参加しませんか?とお声掛けいただいたので出かけてきました。ちなみに会の趣旨は、千葉県内の大学職員がそれぞれの知識・経験・課題を持ち寄り、ネットワークを構築し、学びあう事で大学職員のスキルアップを図ろうという有志の集いということで、名称の「Chinowa」には、「千(葉)の輪」・「知の輪」の意味が込められているそうです。


大学運営などに生かせる知識や経験を共有し、職員としてのスキルアップにつなげようという県内の若手大学職員らの勉強会「Chinowa」が29日、市川市の千葉商科大であった。
5月に続き、今回で2回目。この日のテーマは大学を新設する場合などに、どんな基準を満たさないといけないかなどを学ぶこと。学部新設の経験がある職員が、国への申請の流れなどを説明した後、新大学を作る想定で、基準上、必要な面積、教員数やどんな特色を打ち出せばいいかなどを全員で考えた。
少子化グローバル化が進む中、大学界では学生獲得競争が激化したり、より丁寧な教育が必要になったりしている。職員にも高いスキルが求められるが、県内は小規模大学が多く、研修の機会などが少ない。そこで学びのきっかけにしたいと、有志で企画した。
千葉科学大(銚子市)企画課の中島資彦(ゆきひこ)さん(30)は「普段はなかなか接する機会のない他大学の人と話ができ、とても刺激になったし、勉強になった」と話した。勉強会は今後も年2回程度開く予定。問い合わせは事務局(chiba.univ.staff@gmail.com)へ。

今回のテーマは大学設置基準に基づいて、大学を新設する場合に専任教員数や校地・校舎面積をどのようにして算出するか?というワークショップが行われました。私も学部等の設置関係業務を担当していたことがあったため、過去に関係する記事をいくつか書いていますが、*1 *2 *3 *4設置に関わる知識は、直接その業務を経験しないと得られない知識というものがあります。また、大学設置基準は大学を置く場合の「最低の基準」であるため、大学設置基準に基づいて大学運営ができているかをチェックする視点は教育の質保証の観点からも非常に重要です。講師の方の説明もわかりやすかったですし、ワークショップの際にもアイスブレイクなど、研修内容が非常によく練られていると感じました。
今後も年2回程度の開催されるとのことですので、千葉県内の大学にお勤めの職員の方々には是非参加してもらいたい勉強会だと感じました。

*1:日本国際大学に改称予定の聖トマス大学、認可申請時の書類不備で認可取り下げ。向こう2年間の認可申請が不可能に http://d.hatena.ne.jp/high190/20110829

*2:北海道旭川市公立大学の設置構想が浮上。廃止予定の東海大学旭川キャンパスを活用 http://d.hatena.ne.jp/high190/20111205

*3:田中眞紀子文部科学大臣が来春新設の大学認可を見送り、波紋が広がる http://d.hatena.ne.jp/high190/20121102

*4:平成25年度設置計画履行状況等調査の結果に思う〜リメディアルからサプリメンタル・インストラクションへの転換 http://d.hatena.ne.jp/high190/20140220