Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

IR組織を設置している大学のリストを作ってみた

high190です。
遅くなりましたが、2015年もどうぞよろしくお願いいたします。今年も自分のペースではありますが継続してブログを書きたいと思っています。
昨今、日本でのIR導入が急速に進展していますが、どの大学にIR組織が置かれているか明らかになっていないので、大学IR組織のリストを作成しました。設置有無の根拠は当該大学のWEB公開資料で確認できる場合に限りました。よって"IR"の名称は使っていないが、実質的にIR機能を有す大学はカバーしきれていません。リストは継続整備しますので、追加情報があればブログのコメント又はTwitterなどでお知らせ下さい。
※更新情報 明治薬科大学IR室を追加(2021/07/27)

国立大学

公立大学

私立大学

高等専門学校

私立大学でIR組織を持つところが多いのは、私立大学等改革総合支援事業のタイプ1「教育の質的転換」にて「IR担当部署の設置及び専任の教職員の配置」が全学的な教学マネジメント体制の構築の項目で加点対象になっていることが影響しており、新規に組織を立ち上げた大学が多いからと推測されます。公立大学に関しては私の探し方が悪いのか、あまり見つけることができませんでした。国立大学に関しても、恐らく実質的にIR機能を有している組織を持つ大学が多くあると思いますので、随時追加していくつもりです。また、文科省高等教育局担当の官房審議官の方から「国立大学法人に関しては全大学でIRを導入し、専門家を置く」という発言もあったようなので、その点も注視しておきたいですね。*11
さて、その他に公表されている資料からIR組織の数を調べてみることにします。平成24-25年度の文部科学省大学改革推進委託事業による報告書に「IR組織の設置状況」に関する事項がまとめられており、第4章「日本におけるIRの現状」の「IR組織と担当業務」にIR組織開設数の記述があります。


IR組織の設置状況について(図4-4)、有効サンプル(N=547)の中「IR名称の組織がある」(9.9%)と「IR名称はないが、担当組織がある」(15.4%)と合わせて,約四分の一となっている。

有効サンプルの547は、2013年12月調査の「大学のインスティテューショナル・リサーチ(IR)に関する調査研究」に回答した大学の数ですので、有効サンプルに比率を掛けますと、IR名称の組織を有すのは54大学、IR名称はないが担当組織がある大学は84大学になります。調査自体に回答していない大学が200以上ありますが、日本でも徐々にIR組織を持つ大学は増えていることが分かります。IR先進国のアメリカとの比較で考えた場合、以前にLEAP参加者の方の講演を伺った際、*12講演後の質疑応答で「アメリカのIRはすごいのか」との質問に「どの大学にも必ずIR担当者がいる。IRがないことのデメリットを考えた場合、必須の存在であり、公的調査に対応するためにも必要」と回答されていたことを思い出しましたが、日本でもこれから導入の動きが加速することは間違いありません。
IRは大学のガバナンスを適正にコントロールすることを下支えする手段ですが、日本は「戦略的な大学ガバナンスを作り上げる機構がきわめて弱い」ということを慶應義塾大学の上山隆大教授が教育再生実行会議などで発言されていました。*13最近「国立大学法人運営交付金の在り方に関する検討会」にて、上山教授からIRに関する発言があったようなので、議事録から一部抜粋してご紹介します。

その意味で、明らかに日本の大学の「大学本部」の果たしている役割は小さ過ぎる。小さ過ぎるというのは、それを果たすような予算が与えられていないということだと常に思っています。例えば、アメリカですと、主立った大学、大きなところでいうと、年間の予算は大体3分の1は恐らく大学の本部、すなわち学長がほぼ完全に把握している。それ以外のところの競争的資金も含めて、3分の2ぐらいは十全に理解できなかったのですが、それ1990年代に入ってきますと、大学の学長は、すべてのうちの大学の予算の隅々まで把握するようなバジェットシステムに変えるべきだという動きが起こってきました。その動きの震源地はシカゴ大学だったですけれども、やがてスタンフォード大学に移っていき、多くの大学が予算の中央管理を進めるようになっていきます。
その予算の管理は大学の学長を中心とした組織の大学運営の根本です。それによって学内の様々な分野のことを「経営」することができる。つまり、たとえトップが理系の先生であろうと、社会科学の分野でも自分の大学が何を行っているのか、それが一体うちの大学に必要なのか、その予算はどれぐらい充てるべきなのかということの完全な内部の財務のデータを大学本部が持つようになってきているわけです。そのようなきちんとしたデータに基づいた資料を手にして大学のビジョンを作っている。したがって、うちのところではこれだけの予算が必要だというような論拠を作っていくということができているわけです。日本の大学は、その力が非常に弱い。したがって、外部に発信するアカウンタビリティーに力がないわけですよね。
それができないうちは、財務省一つとってみてもそうですけれども、国立大学への資金の投入を握っている人たちを説得できないのではないですか。恐らくそのような大学の内部のガバナンスのマネジメントを達成できるシステムを早く国立大学の中に作ってあげなければいけない。それは渡し切りの予算の中で何%か分かりませんけれども、IR(インスティテューショナル・リサーチ)といいますか、内部のインスティテューションのリサーチをやって、うちの大学にはどういう人材がいて、どこがイノベーションに行き、それはそうではないところにも必要なものがあるかという絵を描けるようにしていけないと思います。

昨年末に中教審の大学教育部会で「職員の資質向上等に関する論点」という資料が公表されて話題になりました。*14 この資料では「高度専門職」という言葉が出てきますが、恐らく現在国立大学法人で導入の進んでいるURAのように博士号を持つような人材を私などはイメージします。しかし、高度専門職を設置形態や規模を問わず、全ての大学に置くことは難しいと思われるため、現在のように「できるところから手探りで始めている」大学がほとんどだと思います。他の大学職員ブロガーの方の職員とIRの関係を現状から捉えた記事を拝見し、*15 *16また、大学評価コンソーシアムなどで知見が集積されてきているようですし、*17私立大学職員によるInstitutional Research(IR)文献メモ」という非常に有益なサイトもありますので、*18そういった先行研究を整理しながら自学のガバナンスに資するIRを作り上げていくことが大切ではと感じます。

*1:茨城大学大学戦略・IR室要項 http://www.che.yamanashi.ac.jp/modules/ir/index.php?content_id=1

*2:鹿児島大学Fackbook https://www.kagoshima-u.ac.jp/ir/]

*3:国立大学法人佐賀大学インスティテューショナル・リサーチ室設置規則 https://kiteikanri2011.admin.saga-u.ac.jp/doc/rule/818.html

*4:国立大学法人佐賀大学におけるインスティテューショナル・リサーチ室の運用に関する内規 https://kiteikanri2011.admin.saga-u.ac.jp/doc/rule/841.html

*5:企画政策課IR推進事務室 http://www.chiba-u.ac.jp/general/recruit/recruit_staff/staff/occupation/kikaku.html

*6:点在する学内のデータを集約・分析 戦略的な大学運営と開かれた大学を目指して国内大学初の統合報告書でビジョンや戦略を示し、「東大ファン」を増やしていく https://www.fujitsu.com/jp/solutions/industry/education/campus/case-studies/u-tokyo-ir/index.html

*7:補足資料:平成30年度国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学年度計画 https://www.jaist.ac.jp/about/data/year-plan-h30.pdf

*8:大学IRを活用した大学経営マネジメントの実施 大学IRを活用した大学経営マネジメントの実施 | 北海道大学URAステーション

*9:大阪府立大学におけるIR実践について http://dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/infolib/user_contents/kiyo/DBn0110202.pdf

*10:https://www.fujitsu.com/jp/about/businesspolicy/fieldinnovation/case-studies/case48/

*11:「『教学マネジメントの改善と学修成果』〜学生支援型IRの可能性」に参加 http://shinnji28.hatenablog.com/entry/2014/11/22/235113

*12:LEAPプログラム参加の大学職員による研修報告を聞いてきました http://d.hatena.ne.jp/high190/20120730

*13:教育再生実行会議による提言は大学ガバナンスの向上に資するのか http://d.hatena.ne.jp/high190/20130610

*14:大学教育部会(第31回)配付資料「職員の資質向上等に関する論点」 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/015/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2014/11/20/1353507_01.pdf

*15:大学職員とIR〜職員がIRを関わる意味とは〜 http://as-daigaku23.hateblo.jp/entry/2014/10/02/141212

*16:IRと大学職員?〜IRの定義から考える拒否反応〜 http://as-daigaku23.hateblo.jp/entry/2014/12/13/104540

*17:これまでの大学評価担当者集会における米国IRの議論 http://iir.ibaraki.ac.jp/jcache/documents/2011/0915/h23-0915_sato_ppt.pdf

*18:私大職員によるIR(Institutional Research)文献メモをまとめたサイトを見つけました http://d.hatena.ne.jp/high190/20120803