Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

上智大学の「教職協働・職員協働イノベーション研究」から今後のSDの方向性を探る

high190です。
自分自身が大学職員として仕事をしていて、色々な業務を経験させてもらってきましたが、最近強く感じる事は自分自身の強みをいかにして作るか?ということです。専門性を持つために大学院に通う方も多くいらっしゃいますし、そうした方々の諸研究を拝見して、自分自身の学びに繋げていきたいというモチベーションになってきました。
しかしその反面、大学院で研究した成果を職場で活かせた人が多いか?というと必ずしもそうではないかも知れません。これは各大学毎に人事政策が異なる事にもよるでしょうが、大学院での学びをどのように評価していくかという点でまだ課題があるように感じます。理論に根ざした実践的な取り組みに繋げていくために、どのような仕組みが必要であるのか?という点で参考に出来そうな事例があります。上智大学の「教職協働・職員協働イノベーション研究」です。


本学が競争的環境の激化による厳しい経営環境の中で、個性際立つ「世界に並び立つ大学」としてさらなる発展を遂げるためには、既存の概念に捉われない大胆且つ自由な発想による改革が必要です。
2012年8月の中央教育審議会の答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」においても、わが国の目指すべき社会像として「主体的な思考力や構想力を育み、想定外の困難に処する判断力の源泉となる教養、知識、経験を積むとともに、協調性と創造性を合わせ持つことのできるような大学教育への質的転換」が求められておりました。
そして、この教職協働の取り組みは、まさしく「知識を基盤とした自立、協働、創造モデル」を教職員自らが実現していく方法です。 また同時に、学院の教員と職員が協働し、あるいは職員が所属部署の枠組みを超えて協働して、学院行政および教育・研究体制の改革に向けた、実現可能な研究・政策提言を行うことは、学院全体の組織ネットワーク力の開発でもあり、組織力の向上にも寄与しています。
現在、第4回(2013〜14年度)においても5件の研究プロジェクトが運営されているだけでなく、過去の幾つかのプロジェクトについては、実際の事業段階へすでに移行しています。

第3回までは報告書が掲載されていますので、どのようなプロジェクトが行われてきたのかを見ることができます。研究代表者1名に加えて複数の研究メンバーを置いてプロジェクトを運営する形式のようですね。個人的には教職協働を行う中で、職員が教員から研究に必要なメソッドを学んでいける点がSDの効果を高めていくことに有効だと感じました。現在では多くの大学で教職協働の取り組みが行われていると思いますが、大学内部の取り組みに留まらず、成果を対外的に発信していくプロセスを経ることは非常に重要だと思っています。自分自身の関心としてはフューチャーセンターに大きな可能性を感じているので、*1以下の2つのプロジェクトについての進捗が気になります。

  • 上智大学における課題解決を促進するフューチャー・セッションの開催および上智大学フューチャー・センターの設置の可能性を模索する研究(第3回(2012〜2013年度))

○研究テーマについて
少子化や社会環境の変化の中で、日本社会は極めて多くの社会的課題を抱えており、上智大学も同様に多くの課題を抱えている。教育の質向上の問題、組織のマネジメントの問題、そして高まる社会のニーズにいかに応えていくべきかという問題など。こうした多様な問題に対して、従来型の縦割り組織では、利害調整の難しさや、問題の先送り、責任の押し付け合いなど、前向きで本質的な問題解決にはたどり着かない傾向が見られる。こうした傾向は上智大学だけでなく、閉塞感に包まれた日本、そして世界中のいたるところで共通してみられる根が深い問題である。
このような課題を克服するアプローチとして、北欧で開発されたフューチャー・センターとそこで行われるフューチャー・セッションを上智大学に導入するための準備として今回の研究を行った。
○研究内容

  1. フューチャー・センターとそこで行われるフューチャー・セッションについての研究
  2. 3回のフューチャー・セッションを開催し、教職員、学生、卒業生、経営陣など多くのステークホルダーがフラットな関係で未来志向の議論をする場を作る。
  3. 上智大学におけるフューチャー・センターの意義や実現可能性を研究する。
  4. 1〜3をふまえ、学院に対して「上智大学フューチャー・センターの設置」の提言を行った。
  • 上智大学フューチャー・センターを持続可能な組織とする方法の研究 ―NPO法人化を視野に入れて―(第4回(2013〜2014年度))

SDについては、大学設置基準に規定するか否かの議論が中央教育審議会大学分科会の大学教育部会で行われていますが、*2 *3 *4現有の職員能力の底上げという点からすると、上智大学の取り組みはプロジェクト形式でかつ教職協働を取り入れており、職員が得られる知見が多いと思われるため、優れているのではないかと考える次第です。なお、中央教育審議会答申「学士課程教育の構築に向けて」では、教職協働に関して以下の記述があります。

  • 今後,各大学による一層の改革が求められる中,事務職員が教員と対等な立場での「教職協働」によって大学運営に参画することが重要であり,企画力・コミュニケーション力・語学力の向上,人事評価に応じた処遇,キャリアパスの構築等についてより組織的・計画的に実行していくことが求められる。例えば,国内外の他大学,大学団体,行政機関,独立行政法人,企業等での勤務経験を通じて幅広い視野を育成することや,社会人学生として大学院等で専門性を向上させることを積極的に推進すべきである。
  • 教職員の協働関係の確立という観点からは,FDやSDの場や機会を峻別する必要は無く,目的に応じて柔軟な取組をしていくことが望まれる。

特に既存の大学組織では対応困難な課題に対処するため、プロジェクト型の業務を増やしていくことはこれからの大学マネジメントに必須の考え方だと思いますし、教員の専門領域での知識を大学マネジメントに活用していくためにも教職協働のより深い進展はこれまで以上に重視されてくるでしょう。

*1:大学にフューチャーセンターを作ろう! http://d.hatena.ne.jp/high190/20120611

*2:大学教育部会(第31回)配付資料「職員の資質向上等に関する論点」  http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/015/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2014/11/20/1353507_01.pdf

*3:大学教育部会(第32回)配付資料 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/015/gijiroku/1353929.htm

*4:義本博司大臣官房審議官(高等教育局担当)の発言部分「『教学マネジメントの改善と学修成果』〜学生支援型IRの可能性」に参加(松宮慎治の憂鬱) http://shinnji28.hatenablog.com/entry/2014/11/22/235113