high190です。
2017年7月8日に早稲田大学で行われた大学行政管理学会関東地区(第2回)、北関東・信越地区(第1回)合同研究会に参加しました。
今回の研究会ではNPO法人実務能力認定機構(ACPA)が策定・公表している大学マネジメント・スキル基準表についての内容説明、導入事例の報告が行われました。今回も参加した記録をまとめておきます。
ACPA 実務能力認定機構 業務切り分け・スキルレベル診断について | 大学マネジメント・業務スキル基準表
「ACPA大学基準表を活用した大学業務改革について」ACPA事務局長 内山博夫氏
- ACPAとは実務能力認証認定制度により授業科目などの質保証を推進している。2012年に大学マネジメント・業務スキル基準表を、2015年に大学マネジメント・業務/基礎(知識・能力)編の公開を開始した。
- 「大学職員の高付加価値業務」
- 運用手順(通年スケジュール)
- 1〜3月 基準表内容とスキルマトリクスの見直し、現状業務の差異分析、業務委託の活用(随時)
- 5月 個人スキルの本人評価および上司判定
- 6月 人事異動/人員配置の見直し
- 7月 個人スキル判定表の人事課提出、人事異動に伴う部門別関係帳票の修正
- 12月 人事異動/人員配置の見直し
- 担当業務の役割状況
- 今後の展開
講演の内容に関して、大学マネジメント・業務スキル基準表については公表されている資料を前に読んだ事もありましたので、その内容に沿った説明がなされましたが、個人的には「大学基準表活用勉強会(仮称)」と「大学基準表活用サポート企業」に関する動きが気になりました。今後、各大学では一層業務改善に向けた取り組みが進展していくと思われますので、こうした動きは押さえておきたいところです。個人的には、大学基準表活用サポート企業として早稲田大学アカデミックソリューションあたりが関わってくるのかな?と思います。
「早稲田大学における職員業務の構造改革と人材育成」早稲田大学人事部部長 三浦暁氏
- 早稲田大学の専任職員数:約800人、常勤嘱託約350名、非常勤嘱託約150名、派遣職員約450名・・・合計で約1900人
- 職員を巡る議論の変遷
- 大学経営における諸制度の高度化、多様化、複雑化に対応できる資質の向上
- 教員と職員が協働して担う領域をカバーできる力量の向上
- これまで以上に教育研究への深い理解、従来とは異なった資質・能力
- Waseda Next 125までは同じ議論の繰り返しだった。
- 新しいタイプのアカデミック・アドミニストレーターが必要(各ファンクションで「調査・分析・企画・立案・実行・評価」できるプロジェクト型職員へ)
- WASEDA VISION 150の推進
- 核心戦略を実現させるために76のプロジェクトが動いている
- プロジェクトのPDCAサイクル管理(高い目標と強い意志)
- vision150推進本部の設置、ロードマップの策定、週1回の推進会議、数値目標、年度計画・評価・報告・改善
- 他部門との協働・教職協働による新しい効果
- 全体戦略の中における教職員自身の役割の重要性の理解◎
- 職員の業務構造改革
- 業務を4つに分割(サービス型業務、意思決定支援業務、高度専門的な管理運営型業務、渉外業務)
- 定型化、仕様定義、専門人材活用を専任職員がマネジメントする体系。しかしながら必ずしも業務の担い手が切り分けられている訳でもない
- 業務のやり方、組織のあり方等を見直し
- 業務の効率化、大学に求められる機能の実現
- スキルマトリクスを整備する事で全体業務の見える化を推進
- 全学の仕事を「見える化」➡業務分析➡業務改革(適材適所の人材配置、適正な要員配置、分散業務の集中化、業務委託の活用、組織の見直し)
- スキル項目説明書を元に、現状との差異分析(外部委託計画の策定、業務役割分析、スキルレベルの判定)
- 個人スキル判定表(自己申告をベースに上司が判定している)、活用目的(戦略的なタレントマネジメント、目標と現状のギャップを育成計画に活用、人材ポートフォリオの構築、採用する人材要件の明確化)
- プロジェクト型業務の推進
- 授業運営支援(教職協働)研修
- 1年目の職員全員を対象に実施。グループで授業の運営を支援する。職員が教育・学習支援においてどのような役割を担い、業務創造していくべきかを考察する。
- プロフェッショナルズ・ワークショップ
- 企業・自治体、学生の双方にメリットを生み出す新しい形の産官学連携実践型教育プロジェクト
- 参加者の満足度調査を実施すると、学生、企業、職員いずれの評価も高い
- 職員の育成方針
- 早稲田大学の職員が目指す20年後については、組合からいつ決めた?と怒られている。
- 職員に求められる役割と専門性の対照表を作成
- 2017年度職員育成カテゴリー
- 段階的なマネジメント力・リーダーシップ力の養成、プロジェクト・教職協働を通したマネジメント・処理力の養成、大学職員全般に求められる専門力の養成、職員個々の専門性に対応した専門力の養成、グローバル人材の育成、マインドの醸成、その他
- 語学研修プログラムの充実化
- 語学検定(TOEIC等)の受験による英語力の把握(3年に1回実施)
- これから着手すること
- 人事制度の改革に向けて、組合との交渉を行う予定。
- 主な内容として、これまでは単線型のキャリア・年功序列だったが、これからは昇進・昇格時にも審査を行うようにしたい。職員個人が自らのキャリアを選択できるような制度に変えていきたい。来年4月の実施に向けて組合とも意見交換しているところである。
早稲田大学におけるスキル基準表の活用状況についての事例報告でした。
この後の質疑応答でも議論がありましたが、スキル基準表を導入する事によって業務負担の軽減には必ずしも繋がっていないということでしたが、全体的な業務の棚卸しができること、「全体戦略の中における教職員自身の役割の重要性の理解」に繋がるということは大切なポイントだと思います。その他の早稲田大学の取り組みについても、さすがだなと思いましたが、語学検定の受験による英語力の把握を3年に1回実施する事など、今後のグローバル化対応に向けた覚悟を感じる施策だと感じました.
質疑応答
- スキル表の活用に課題があるとの事だが、どのようにすれば活用が進むと思うのか。また、プロジェクト型業務について個人で実施する場合の作り方を教えて欲しい。
- 人事評価には使用していないが、課題の一つである。人事評価に使わないと真剣にスキル基準表が活用されないのではないかと思う。ちなみにスキル基準表の活用は若手職員(3年目程度の職員複数名)から発案されたものだった。その理由として担当すべき業務の知識等が分からないということが問題意識。人事部としてはもう少し活用を進めていきたい。
- プロジェクトのほとんどは各職員からの提案を起点としている。
- 業務構造改革に関しては、具体的に切迫した理由があって改革を進めたのか。
- 若い職員から閉塞感があるという意見があった。理想を持って職員になったが、ルーティンワークばかり。こうした声を受けて組合とも協議して大学としての新しい価値を創造する機会を設定した。
- 所属大学で教職協働を担当しているが、業務のきり分けを通じて既存業務をスクラップしたような事例があるのか。
- 大学は業務のスクラップが難しく悩みどころである。ただし、業務の担い手を専任職員から嘱託職員に変更するなどの対応をしている。
- 職員の専門性獲得のため、資格取得等とは異なる方法などを教えてもらいたい。
- 資格取得なども促進していきたいと考えているが、職員育成の一環であってそれが全てではないと思っている。先ほど人事制度の話をしたが、将来的にはマネジメントと専門性のどちらを志向するでその後のキャリアが分かれるような人事制度を検討している。
- スキル基準表を導入した事で顕在した長所、短所はあるか。導入から根付くまでにどの程度の時間がかかったか、導入によって労働時間の縮減に繋がったのかをお聞きしたい。
- 早稲田大学の定期人事異動は6月、12月なのでそれにあわせている。
- 技術的な問題として、スキル基準表は全てエクセルで管理していて、膨大な量になってしまうのがネックである。スキル判定を毎年実施しているため、シートがどんどん横に広がっていくので使いにくい。よってシステム化を検討している。当初ワークスアプリケーションズのパッケージでの対応を考えていたが、それでも難しそうな問題があるので、独自で開発する方向ではないか。
- スキル基準表をゼロから導入した。一通りの業務をまとめるのに2年ぐらいかかっている。その際にはACPAや他大学からの意見も踏まえて、まとめた。ACPAで作っているのは汎用的なものであるので、各大学の実情にあわせてカスタマイズする必要があるのだが、そのためには一定のコストはかかる。しかしながら、スキル基準表の導入で全体が可視化され、業務内容への理解が進むということはある。スキル基準表の導入で労働時間が縮減される事は無く、別の仕掛けが必要と認識している。
- 他大学での導入事例などを考慮すると、いきなり全学的導入は難しいので、法人事務局にテストケースで試行導入していくことが良いのではないか。カスタマイズについても、全ての文言等を各大学に合わせるなどのことは必要ではない。
- (ACPA深澤理事長)ACPAに問い合わせが来る際、執行部と現場の教職員から問い合わせが来るケースがある。執行部からは「何人人減らしができる?」という問い合わせが来るが、それには答えにくい。反面、現場の教職員からは「業務を整理したい」という名目で照会が来るが、その点についてもどこからそのための時間や手間を捻出するのかという課題がある。
- 大学の規模に応じて費用対効果の問題があると思う。また、給与に連動していないスキル基準表ということだが、現場の職員にはフィードバックされているのか。管理職者の異動等によって業務理解が浅い場合、適切に補正できるのか。
- 「スキル基準表」という既にできたものを活用するので、それほど労力も費用も掛からない。ただし、メンテナンスは必要だと思っている。
- スキル判定については本人が自己申告して、その点を上司が補正判定している。また、人事制度の変更時には異動等の基礎資料として活用したいと考えている。
- 三浦部長がずっと人事に携わってきて、またここ数年の早稲田大学での色々な改革を踏まえて、早稲田の職員がどのように変わってきたと感じているのか。また、こういった制度変更を伴う改革によって、早稲田の職員がどう変わったのか。
- (三浦部長)若手職員が閉塞感を感じていた時代があったと申し上げたが、現在では随分変わったと思う。大学設置基準の大綱化移行、高度化をしてきている。ルーティンのみを行う職員はいらないという方針で採用しているし、40代までの職員は劇的に変わったという自己評価である。
- (高橋事務長)国際畑の仕事が長いが、国際では大きな業務委託をした。そのチームが全て担当している。よって、専任職員は外部資金獲得のためにスーパーグローバルなどにチャレンジし続けている。危機管理等についても専任職員が一定程度経験した事を嘱託に任せている。専任職員は数値目標の達成として、外部資金の獲得というベンチャーのような仕事を行ってきている。新しいことにチャレンジし続けることができるのも、強い業務委託のチームの存在あってのこと。そういった業務委託のチームを専任職員が開発してきた。専任職員の業務が今後どうなるか、という点で色々と思うことはある。
質疑応答で印象的だったのは、ACPAの業務スキル基準表を導入する事で外部委託化の促進や人事評価との整合性などについての質問が多かった事です。しかしながら、人事制度との連動性が重要になるので、まだそこまでは取り組んでいないというところでした。人事制度の改革は教職員組合との調整も必要ですし、一度変更すると容易に変えられないこともありますので、労使間でのすり合わせなども考慮して検討することが必要と思います。
私自身が捉えたスキル基準表の活用方策としては、個々の職員が自らのキャリアを展望する際、現状でできていること・できていないことは何かを捉える参考になるという事、自分自身の強みと弱みを把握する事に繋がり得るということです。あと、スキル基準表では各業務を羅列した状態になっていますが、各大学で共通する業務であっても、実施する手順などはそれぞれ異なりますので、業務手順書の整備を行う事が大切だということです。外部委託化の推進を行うとしても、実際の手順を明らかにしておいて、誰にでもできるようにしておくことが大切だと思います。
以上の理由から、スキル基準表とあわせて文章化されたマニュアルを整備されているといいのではないかと感じました。大学におけるマニュアル整備については以下の論文が参考になると思います。著者の松丸英治さんはこれまでも大学におけるマニュアルの活用について、大学行政管理学会で発表を行なっています。私のブログでも何度か記事にさせてもらいましたので、是非ご参照ください。*2 *3 *4
- 大学における業務のマニュアル化と運用−東京ディズニーリゾートを事例とした研究−
swu.repo.nii.ac.jp
(出展:昭和女子大学現代ビジネス研究所紀要)
あとは、業務改善のための手法として、総務省が「業務フロー・コスト分析に係る手引き」を公表しているので、こちらも参考にしながら業務改善と仕事の棚卸のことを引き続き考えていきたいと思います。
- 業務フロー・コスト分析に係る手引きhttp://www.soumu.go.jp/main_content/000439040.pdf
- 業務フロー・コスト分析に関する事例公表http://www.soumu.go.jp/main_content/000439040.pdf
【SD】2402B「始めよう、仕事の整理と協働」|SPOD – 四国地区大学教職員能力開発ネットワーク
最後に早稲田大学の問題解決手法"Wisdom"などを紹介した以下の書籍を再読したくなりました。
大学は「プロジェクト」でこんなに変わる―アカデミック・アドミニストレーターの作法
- 作者: WISDOM@早稲田
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2008/05/01
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*1:なぜ、早稲田大学は大学改革に挑むのか~ビッグデータで見えてきた大学の新しい可能性~ wisdom.nec.com