Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

平成24年度第16回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました

high190です。
9月8日(土)、9日(日)に東京の芝浦工業大学で開催された大学行政管理学会(通称JUAM)の第16回定期総会・研究集会に参加してきました。

2日間のプログラムなのですが、1日目は定期総会、講演、ワークショップ、懇親会が開催され、2日目は基調講演、研究発表が行われました。high190が参加した部分について、端折ってますがまとめてみました。

1日目のプログラム

  • 講演(芝浦工業大学 村上雅人学長)「教職協働による教育の質保証」
    • 会場校である芝浦工業大学学長の村上雅人先生による講演ですが、国際的な学士課程教育の動向や理工学分野ならではのお話が聞けて面白かったです。ほんの一部分ですが、気になった部分を紹介します。
      • 卒業論文研究、修士論文研究は日本が誇るPBL学修だが、教育内容の標準化が課題。標準化のためにルーブリックを活用する。
      • PBLのPには3種類ある。Problem,Project,Practice。
      • 芝浦工業大学のLF(Learning Facilitator)制度。ドクターコースの学生が担当し、教育環境の改善に寄与している。
      • 職員は大学のガバナンスを担う存在で、大学経営に主体的に参画すべき存在。そのためには職員への権限移譲が必要で、委員会の委員として職員にも発言権を与える。
  • ワークショップ「SD(大学職員の育成等)の現状と課題」
    • 参加者が個別にワークショップのテーマを選ぶんですが、私はSDの現状と課題をテーマに選びました。このワークショップが一番参加者が多く、3つのグループに分けて自大学のSDの取り組みや課題などについてのディスカッションを行いました。参加者の年齢、設置形態なども様々でしたが、ほぼ共通した意見だったのが「若手職員に意欲が感じられない」ということでした。自ら進んでコミュニケーションを取らない人が増えている、仕事よりも自分の時間を大切にする人が増えたように感じる、など様々な意見が出ていました。
    • 個人的に、他大学の方のお話を伺って「これはいいな」と思ったのがメンター制度の導入です。新人の若手職員に3〜5年目の職員をメンターとして設定し、業務等に関するアドバイスを行うもので、意識的に職場内の縦のつながりを作ることも寄与すると思います。ただ、メンター制度にも問題点があり、「当たり外れ」があってマッチングが難しいという意見や、同じ部署が良いか違う部署が良いかの判断が難しいなどの意見もありました。この辺は、大学の規模によっても捉え方が異なる点ではないかと思います。また、メンター制度は受ける側よりも、メンターになる側の効果が大きいとの意見もありました。
    • また「SDはすぐに効果を期待してはいけない」「色々な研修と組み合わせることが大事」などの意見もあり、職員の育成にも中長期的な視点を持つことが大切であるとの意見もありました。

2日目のプログラム

  • 基調講演(文部科学省 板東久美子高等教育局長)「これからの大学改革と大学の質保証について」
    • 今年の6月に公表された「大学改革実行プラン」、8月28日に公表された答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて〜生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ〜」などを踏まえた今後の大学改革についての講演がありました。
    • 約1時間半の講演だったのですが、内容的にもかなりボリュームがあったため、会場からの質疑応答を受ける時間が少なくなってしまったのが残念でした。
    • 「大学職員への期待」として「大学改革を進めるに当たっては、大学の特色・強みを伸ばす質の保証・向上が重要」「大学職員が、大学の特色・強みと課題の把握、大学内外の多様な資源の活用、多様な主体との連携協働を積極的に進めながら、大学の機能の再構築・強化、そのためのガバナンス強化において有力なプレイヤーとして活躍することを期待」とされていました。
  • 研究発表
    • 高等教育機関の提携の動的な側面について
      • 京都大学の中元さんによる発表。私も職場で大学コンソーシアム関係の業務を担当しているため、参考になる事例をたくさん伺えました。例えば、大学コンソーシアム京都ではサービスをメニュー化し、単位互換についても教養科目に限定して、各大学の特色部分には触れないようにするなどの取り組みをしていることを知りました。
    • 京都外国語大学のSD改革―中小規模大学の委員会主導でできること―
      • 小規模大学に勤務する者として、中小規模大学で委員会主導型のSDをどのように行っているのか?とても楽しみにしていた研究発表です。京都外国語大学は収容定員5,000人規模の大学なので、私の勤め先の大学と比べるとやや大きな大学ですが、委員会主導型のSD改革については、事務職員研修指針の策定やSD委員会規程の整備など、参考になる点が多々ありました。
    • 職員は適正に機能して大学運営・経営に適切に貢献しているだろうか?
      • 順天堂大学の各務さんを中心としたグループ発表。事務組織の機能測定を目的として、国立大学法人の組織規程・分掌規程をベースに、職員の業務を分析しようという試みについての報告。例示として、財務系と学生支援系に求められる知識の違いを明らかにしており、例えば財務系と総務・人事系には業務内容の親和性が認められるなどのお話でした。将来的には「キャリア採用」が一般的になり、異動の範囲も狭まるのではないかと感じました。また、職員の専門性について「柱となる専門性を持つことができるようになることが大切」との指摘があり、思わず「自分の専門は何だろう?」と考えてしまいました。高等教育政策とか?ちなみにこの研究は科研費の基盤研究Cを取っているものとのこと。*1
    • 私立大学における戦略プランニング・プロセス組織化の現状と課題
      • 名城大学の中長期計画であるMS-15*2の推進にあたって、PDCAサイクルのシステム化と定型化をどのように行ってきたのかという発表。経営上のIRとして、マネジメントの可視化を図ることの大切さ、PDCAサイクルをコントロールすることの重要性などが印象に残りました。名城大学池田輝政先生も会場にいらっしゃって、質疑応答では色々なお話を伺うことができました。

実際にはそれぞれの発表ごとに密度の高い発表が行われていたのですが、まとめる関係上、ある程度簡略化してご紹介しました。
JUAMの研究集会には初めて参加したのですが、全国の大学からたくさんの職員が集まることもあって、色々な人とお会いできたのは大きな収穫でした。Facebookで繋がっていても実際に会うのは初めてという方もおられて、個人的には「前向き 外向き 自然体」を運営する山形大学の樋口浩朗さんとお目にかかれたのは嬉しかったです。*3来年の研究集会は東京電機大学で開催されるそうですので、また新たな発見があることを期待したいと思います。

*1:大学事務組織機能評価基準の新たな開発とその応用―事務組織と職員能力について http://kaken.nii.ac.jp/d/p/24531076.ja.html

*2:学校法人名城大学の基本戦略 MS-15 https://www.meijo-u.ac.jp/guide/ms15/index.html

*3:前向き 外向き 自然体 http://pub.ne.jp/hiroo1969/