Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

中央教育審議会会長にはどのような人物が選ばれるのか

high190です。

※2024/07/14更新 中央省庁再編前の歴代会長を追加。そのほか、参考文献と巻末に所感を追加

https://www.asahi.com/articles/ASM2N4W40M2NUTIL01Z.htmlwww.asahi.com

上記のニュースで新しい中央教育審議会長が決定したことを知りました。日本の教育政策の司令塔であり、決定機関でもある中央教育審議会についてですが、私自身もあまり詳しく調べたことはありませんでした。しかしながら、会長決定のニュースに触れてふとあることに気がつきました。

ということで、中央教育審議会の歴代会長にはどんな人物が選ばれているのかを調べてみます。

1.中央教育審議会とは何か

中央教育審議会に関わる法令を調べてみました。文部科学省組織令第76条に規定があるとともに、中央教育審議会令が定められています。

文部科学省組織令(平成十二年政令第二百五十一号)】*1
中央教育審議会
第七十六条 中央教育審議会は、次に掲げる事務をつかさどる。
一 文部科学大臣の諮問に応じて教育の振興及び生涯学習の推進を中核とした豊かな人間性を備えた創造的な人材の育成に関する重要事項(第三号に規定するものを除く。)を調査審議すること。
二 前号に規定する重要事項に関し、文部科学大臣に意見を述べること。
三 文部科学大臣の諮問に応じて生涯学習に係る機会の整備に関する重要事項を調査審議すること。
四 前号に規定する重要事項に関し、文部科学大臣又は関係行政機関の長に意見を述べること。
五 生涯学習の振興のための施策の推進体制等の整備に関する法律(平成二年法律第七十一号)、理科教育振興法(昭和二十八年法律第百八十六号)第九条第一項、産業教育振興法(昭和二十六年法律第二百二十八号)、教育職員免許法(昭和二十四年法律第百四十七号)、学校教育法及び社会教育法(昭和二十四年法律第二百七号)の規定に基づきその権限に属させられた事項を処理すること。
六 理科教育振興法施行令(昭和二十九年政令第三百十一号)第二条第二項、産業教育振興法施行令(昭和二十七年政令第四百五号)第二条第三項及び学校教育法施行令(昭和二十八年政令第三百四十号)第二十三条の二第三項の規定によりその権限に属させられた事項を処理すること。
2 前項に定めるもののほか、中央教育審議会に関し必要な事項については、中央教育審議会令(平成十二年政令第二百八十号)の定めるところによる。

中央教育審議会令】*2
第四条 審議会に,会長を置き,委員の互選により選任する。
2 会長は,会務を総理し,審議会を代表する。
3 会長に事故があるときは,あらかじめその指名する委員が,その職務を代理する。

より詳細には別の大学職員ブロガーがまとめた記事がありますので、そちらをご参照ください。

kakichirashi.hatenadiary.jp

2.中央教育審議会の歴代会長

ここでは歴代会長を文科省の委員名簿から洗い出します。中央教育審議会は中央省庁再編を機に、その役割が変わっています。よって、ここでは中央省庁再編前後で前期・後期に区分します。*3前記のブログにあるように中教審は2001年に再編されたのですが、委員名簿は2003年分からのみ公表のようです。以下、発令年別に会長が変更になった部分のみを抜粋して掲載します。また、前期の会長の情報については、関(2010)から引用しています。*4

【前期】

  • 第1期 亀山直人【株式会社科学研究所会長】(就任期間:昭 28.2.11~30.1.5)
  • 第2期~第5期 天野貞祐【独協中学校・高等学校長】(就任期間:昭 30.2.21~38.4.13)
  • 第6期~第9期 森戸辰男【日本育英会会長】(就任期間:昭 38.6.24~46.7.3)
  • 第10期 大泉孝【上智大学教授】(就任期間:昭 47.6.12~49.5.31)
  • 第11期~第13期 高村象平【慶應義塾大学名誉教授】(就任期間:昭52.6.15~58.11.16)
  • 第14期 清水 司【日本私学振興財団理事長】(就任期間:平元.4.24~3.4.20)
  • 第15期、第16期 有馬朗人理化学研究所理事長】(就任期間:平7.4.26~10.5.20)
  • 第16期、第17期 根本二郎【日本郵船名誉会長】(就任期間:平 10.6.30~12.12.25)

【後期】

三村明夫会長時代に、多忙のため安西祐一郎さんが会長を交代しましたが、近年は実業界から続けて会長が選出されています。教育は社会全体に関わる事項なので、主として教育に直接関わらない人をあえて会長に選出しているのでしょうか。審議会令では会長は委員の互選により選任とありますが、しばらくの間、教育関係者以外からの選出が続いていることの背景を知りたいところです。なお、実業界から選出された会長の所属先はTOPIX100に含まれる大企業のみです。
なお、現政権になってから内閣の下に置かれて教育改革の推進を担う会議体が「教育再生実行会議」です。中央教育審議会国家行政組織法に設置根拠がありますが、内閣が直接的に教育改革を主導する点に特徴があります。個人的には政策面での整合性をどのように取っているのか気になるところですが、中央教育審議会教育再生実行会議の意見交換は2015年に1度だけ行われています。

www.mext.go.jp

こういった内容は政策形成過程分析、教育行政学の守備範囲かと思いますが、教育政策の政策形成過程を考える上でも、中央教育審議会長の人事には引き続き関心を持っておきたいところです。

【2024/07/14追記】

先に引用した関(2010)には、以下のような記述があります。どうしても教育の現場にいると、過去のことよりも現在のことに目を囚われがちなのですが、関が指摘するとおり、「我が国の「教育の歴史」は、必ずしも否定すべきものばかりではない。」ので、過去を振り返りつつ、日本として取るべき教育の針路を中央教育審議会には示し続けほしいと願います。

教育の現場に、大学経費削減だ、学力調査だ、小学校英語だと、次から次へと新基軸が持ち込まれているが、大切なことは、根本となる教育の目的、理念の確立である。小手先の理論で新しい要素が入るだけでは、教育現場の子どもや教員に混乱を招くだけである。我が国の「教育の歴史」は、必ずしも否定すべきものばかりではない。真の“不易流行”こそ、模索されるべきであろう。

*1:http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=412CO0000000251_20180401_430CO0000000084&openerCode=1

*2:http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/gaiyou/05091501.htm

*3:http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/index.htm#pageLink5

*4:関 喜比古(2010)『政権交代後の教育政策のゆくえ~五つの教育課題に対する私的ウオッチング~』文教科学委員会調査室,立法と調査,300号(平成22年1月15日),特集:政策課題,pp.63-72  https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2010pdf/20100115072.pdf

*5:三村明夫第7期会長からの交代