Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

高等教育と雇用のミスマッチはグローバルに進行している

high190です。
今更の話かもしれませんが、グローバル化の進展は各国で雇用が減少することにも繋がっているのは周知の事実かと思います。これは日本の大学だけの話ではなく、お隣の韓国でも大学卒業者の就職難が問題になっているようです。


9月13日(ブルームバーグ):キム・ヘミンさんは韓国の一流大学で成績平均点が最高水準の4.0であることが自慢だ。英語力の評価は満点で、クレジットカード会社サムスン・カードや米コンサルタント会社ATカーニーでインターンシップも経験した。それになのに20社に提出した応募書類は全て不合格だった。
「以前なら良い大学を卒業すれば大手10社のうち少なくとも1社への就職が保証されていた。でも、それは大学の学位が実際に何らかの意味を持っていた時代の話だ」。キムさん(25)は8月28日、大手企業への就職のチャンスを高めるために通っている中国語教室に向かう途中、こう語る。「一生懸命勉強したし、全て完璧にこなしてきた。でもそういう人たちが多過ぎる」。
韓国では、主要産業で報酬がトップクラスの仕事に就くために高卒者のうち約75%が大学に進学する。そのため、求人を上回る大卒者が大量に生まれている。韓国の大手30社の昨年の大卒者採用数は約26万人。約6万人が就職できず、若年層の7月の失業率は7.3%と、全体の平均の2倍以上の水準に悪化した。
韓国政府が講じている対応策は、数十年間にわたる競争激化と教育への高額な支出で世界首位の学歴を誇るようになった現状からのUターンだ。李明博大統領は多くの高校生に対してこうアドバイスしている。大学に進学せずにまず働こう−。
ソウルにある延世大学のスン・テヨン教授(経済学)は「韓国では教育熱が過熱し、皆が同じように就職するよう社会がこれまで圧力をかけてきた。人々はその代償を払っている」と指摘。「問題になっているのは求人不足ではなく、質の高い雇用の不足と大企業以外の選択肢を考慮しようとしない求職者の柔軟性の欠如だ」との見方を示した。

高等教育の費用対効果は一体何であるのか、という厳しい指摘を付きつけられた感があります。大学教育が就職予備校化することを忌避するのは、学問の教育研究を中心に据える大学ならではのものと私は捉えていますが、実際に教育を受ける学生からすると、職業との接続がうまくいかないのであれば、大学で学んだ期間は「機会損失」になってしまい、就職するために大学で費やした時間全てが無駄になってしまいかねません。これは韓国だけの話ではなく、日本においても同様の現象が現れているように思います。


大卒の就職が本格回復していないことから、高校卒業後は大学に進学せず、効率的に国家資格を取得したり専門的な技術を習得し、就職につなげようとする動きが顕著になっている。
文部科学省が毎年発表している「学校基本調査」(2012年版)によると、2012年の18歳人口は119万1210人で、前年から0.9%減少した。このうち、大学進学者数は60万5385人で前年から1.2%減少しており、18歳人口の減少幅を上回っている。
また、大学進学者を18歳人口で割った進学率は、5年連続で上昇していたが、12年は50.8%で減少に転じた。逆に専門学校への進学者が増加、進学率は22.2%と過去5年に比べ最も高い。2010年ごろから医療、衛生などの分野を中心に増加しているようだ。
大和総研の環境調査部、岡野武志氏は、「卒業後の雇用機会が限られているとすれば、相対的に高いコストを負担することは、割に合わないということではないか」と指摘する。一方、専門学校では、各分野の公的資格の取得など目指す人材を養成しており、希望する職業に直接役立つ教育を受けられることが、若者たちに見直されているのかもしれないとの見方を示す。
同じ学校基本調査では、今春大学を卒業した人は56万9000人で、このうち35万7000人が就職した。その割合を示す就職率は63.9%だった。2008年には70%近くに達していたが、リーマン・ショック後の雇用悪化により6割付近に急落。その後は2年連続で微増でやや改善傾向を示す。
一方で、派遣社員やアルバイトなど安定的な雇用に就いていない人は2割余りにのぼり、安定的な職を得るのが難しい状況が続いている。特に、大卒者の5.8%にあたる約3万3000人が、進学も就職の準備もしておらず、大半が「ニート」とみられている。
大和総研の岡野氏は、私大文系が前年に比べて入学者数の減少が目立っているとし、「厳しい就職環境が続くなか、どこかの企業に就職するという漠然とした将来像は描きにくくなり、就きたい職業を想定した上で、入学する分野を選ぶ若者が増えている可能性がある」と指摘する。

職業に直結する教育を受けられる学校を高卒者は求めている、というのは事実でしょう。最近、「ハーバード新卒者の年収、サウスダコタ鉱業技術大下回る」なんてニュースもありました。これはちょっと特殊な例だとは思いますが。*1
大学に入学しても志望する企業に勤められる可能性は低く、それならば資格・職業直結型の教育を受けた方が良いというのはあながち間違いではないと思います。しかしながら、資格・職業直結型の教育を受けることは別の部分で危険であることを、大学プロデューサーの倉部史記さんは著書「看板学部と看板倒れ学部」の中で指摘していますので、一部引用します。

・・・看護学部や歯学部、薬学部の例で挙げたように、資格制度は、社会制度の変化や国内の需給バランスなどに左右される面を持っています。今後はより早くなっていくでしょう。

「キャリアショック」という言葉があります。キャリアコンサルタントの高橋俊介氏が提示された概念で、以下のように説明されています。
 「キャリアショック」とは、自分が描いてきたキャリアの将来像が、予期しない環境変化や状況変化により、短期間のうちに崩壊してしまうこと。(高橋俊介『キャリアショック』ソフトバンククリエイティブ

今後、あらゆる職種でキャリアショックが起きうると想定すると、そもそも「数十年先のキャリアについて目標を設定し、計画を立てて、今のうちから準備を始める」という逆算型の進路計画にも、限界が生じてきます。・・・だとすると、学生は大学で何を学べばよいのでしょうか。できることの一つは、資格だけに頼らず、他の付加価値を身につけることです。・・・「資格に食べさせてもらう」のではなく、資格以外のつよみで糧を得ていく、くらいに考えられる人材が、厳しい競争の中でも生き残っていけるのではないでしょうか。

激変する社会状況に対応するには、既存の大学教育だけでは不可能になりつつあるのかもしれません。つまるところ、高等教育の拡大期には大学は社会からのアプローチを待つだけで良かったですが、これからの先が見えない社会を生き抜くには、建学の精神は堅持しつつも、社会の変化を睨みながら、常に新しい取り組みを続けていける大学だけが社会の要請に応えられるようになるのだと思います。その課題を解決するためには、既存の大学職員という枠組みではなく、企業やNPONGOといった外部組織との連携を強化できるプロデューサーが必要です。
例えば、今日のテーマである高等教育と雇用のミスマッチに対しては、今までの就職課・キャリアセンターでのアプローチではなく、全く別の方法でアプローチすることなどが考えられ、具体例を挙げるとソーシャルメディアを活用した就職支援体制の構築に向けて、色々な大学が取り組みを始めています。*2
アメリカ、イギリス、日本などでソーシャルメディアを活用した就職支援のアプローチは始まっており、*3 *4 *5 *6 *7 *8グローバルに進展する雇用のミスマッチに対して、何も手を打たないのではなく、何か出来ることが無いかを模索していくことはとても重要だと思います。グローバル化という大きな流れを変えることが難しいなら、その流れに乗って何かできることを考える。そういうことの積み重ねが、就職支援の厚みを増していくのではないかと思いますし、今からでもできることはたくさんあるだろうと思います。

*1:ハーバード新卒者の年収、サウスダコタ鉱業技術大下回る  http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MAIRQS6JTSES01.html

*2:ソーシャルメディアを活用した就職支援体制をどのように構築するか?アメリカから学ぶ http://d.hatena.ne.jp/high190/20111031

*3:Princeton University Career Services https://www.facebook.com/PrincetonUniversityCareerServices

*4:Boston University Center for Career Development https://www.facebook.com/buccd

*5:University of Rochester Career Center https://www.facebook.com/URCareerCenter

*6:City University, London - Centre for Career and Skills Development https://www.facebook.com/cityunicareers

*7:Duke University Career Center https://www.facebook.com/DukeCareers

*8:一橋大学 キャリア支援室 大学院部門 https://www.facebook.com/pages/一橋大学-キャリア支援室-大学院部門