Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

私学事業団発行の「月報私学」に掲載されている「大学経営とIR活動」が面白い

high190です。
私立大学職員の方はご存じだと思いますが、日本私立学校振興・共済事業団が毎月発行している刊行物に「月報私学」というものがあります。
私立大学等経常費補助金や私学共済など私立学校に関する情報が掲載されている冊子ですが、今月号に「大学経営とIR活動」という記事がありまして、なかなか面白い内容だったので、このブログでもご紹介したいと思います。

IRは「Institutional Research」の略で、「大学の中にある様々な情報を活用し、教育、研究等の大学の業務の改善や意思決定の支援情報のデザイン、収集、分析、評価、活用、提供などの中核を担う」と記事中で紹介されています。
私が面白いと思った箇所をいくつか抜粋しますが、特にAIRエグゼクティブ・ディレクターのランディ・スウィング氏のコメントから得られる情報が興味深いです。

IRオフィサーの一番重要な役割は、ただのデータを実用的な情報に変えることです。その際に、データソースやデータ分析に関する様々な手法を用い、意思決定に役立つような情報に変える作業を行っていきます。

IRオフィサーは、新規にデータ収集を行うこともありますが、通常は既存のデータを利用して分析活動を行っています。私は、IRをアクション・リサーチ(Action Research 行動調査)と呼びたいと思っています。分析の過程で、外部のベンチマークを利用して他者と比較分析するような局面もありますが、基本的にIRにおいて情報の利用者は、学内の関係者や上司です。研究者同士の批評を意識した研究調査とは異なります。

なお、我々が比較検証する際には、特性分析という手法を用いますが、比較対象とする特性には四つのパターンがあります。まず一つ目は、同規模同系統のように似たような特徴を持った高等教育機関同士との比較。二つ目が同じ地域にある高等教育機関同士の比較。三つ目に、その高等教育機関が今後目標としたい高等教育機関との比較。最後は、ウェブサイトや様々な外部のメディアなどの情報をよりどころとする比較になります。

では、IRオフィサーは一体どのようにこうした業務を学んでいけばよいのでしょうか。IRに関する高等教育プログラムというのはそれほど多くありません。IRの業務は多くの場合、OJTの形をとることが多いのです。メンターになってくれる先輩から学ぶことがほとんどですが、多くの高等教育機関ではIRオフィスは一人体制で構成されることが多いため、業務を教育するためのメンターが存在し得ないことが大きな課題となっています。そのため、IR活動の教育訓練については、あまりよい状況とは言えません。それでも、大学院博士課程の卒業者がIRの職に就いて、AIRの年次大会におけるワークショップに参加し、約1,700人の人々が集まって一緒に勉強を進めたり、あるいはオンラインコースを使用してIRについて勉強したりしているのです。日本においてもこうした活動が必要になるのではないかと思われます。

IRについての書籍・資料は色々と出てきていると思いますが、実際にAIRの方のコメントを見るとIRオフィサーの仕事がどういうものなのかが少し見えてくるような気がします。特性分析の比較対象とする特性として4つのパターンが挙げられていますが、同規模同系統、同一地域、今後の目標、ウェブサイト等の外部メディアの情報という具体的なコメントが掲載されているのも参考になります。記事の中で同志社大学の山田礼子教授が日本型IRについて講演した内容も紹介されていますが、国公私立の4大学連携によるIRプロジェクト*1など、日本でも少しずつですがIR活動が行われ始めてきているようです。
関西国際大学の濱名篤学長は、中小私大の立場からIRを考えると題した講演を行っていますが、「IRのデータの収集法・使用法というのは組織が置かれている状況によってかなり違うので、その組織に有益となる利用を考える必要があります。」と述べており、単純にIRと一括りすることは難しいとの指摘をしています。スウィング氏のコメントにも、IRオフィサーの育成についてはアメリカでも組織的な対応は発展途上であるとあるのも興味深いと思いました。高い能力と幅広い知識を要求される仕事であるが故に、教育訓練が難しいため、AIRのような団体が活発に活動しているのですね。

ただ、当然のことながらWebや掲載資料は英語ですので、理解するのにはある程度の語学力を必要としますが、大学評価・学位授与機構では「IR研究会」を設置して、AIRの資料翻訳や日本におけるIRのあり方などを検討しています。まずは日本語化された資料から目を通してみて、さらに詳細を知るためにAIRのサイトにアクセスするのがいいかも知れませんね。(英語力のある人はいきなりAIRでOKだと思います)

私もIRには関心を持っているつもりですが、恥ずかしながら今月号の月報私学で初めて知った情報も多くありました。私学事業団がこうした記事を発行していること自体、あまり知られていないかもしれませんが、業務にとって有用な記事が出ているので個人的には毎月回覧されてくるのがとても楽しみな資料だったりします。

*1:相互評価に基づく学士課程教育質保証システムの創出−国公私立4大学IRネットワーク−http://www.irnw.jp/