Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

「東京大学大学院大学経営・政策フォーラム」に参加してきました

high190です。
10月17日(土)に東京大学本郷キャンパスで開催された標記フォーラムに参加しました。今年の3月に大学経営・政策コース*1の設立10周年記念シンポジウムに参加しまして、*2その際の議論が非常に興味深かったので、ホームカミングデイという若干場違い感がある中でお邪魔してきました。今回も内容について、簡単に所感をまとめてみましたが、理解違いなどがある可能性がありますので、悪しからずご了承下さい。


修了生コーストークセッション:修了後のキャリアと大学経営・政策コースでの学び
大学経営・政策コースでの学びとコース修了後の活動とのレリバンス、今後のコースに期待する教育内容について、コース修了生とコース現役教員によるトークセッション。

当日はコース修了生の方がパネリストとして4名登壇され、コメンテーターとして大学経営・政策コースの福留東土准教授*3が出席されていました。パネリストの皆さんは、氏名・所属が事前告知などで非公表でしたので、本ブログでも匿名にて取り扱いたいと思います。簡単に触れますと現職の大学職員が2名、大学職員から大学教員に転職された方が1名、企業勤務の方が1名です。司会進行もコース修了生の方が担当されていました。

トークセッション・テーマ1〜大学経営・政策コースの教育プログラムについて〜

  • 修了生調査の結果と論点整理
  • 【コースワーク】
    • 大学経営・政策コースでは、多種多様な科目が開講されているが、科目によって満足度に段差がある。講義内容によって修了生の「学習の満足度」「職場等での有用度」に程度の差がある。
  • 修士論文
    • 修士論文を修了生は重視する傾向が高い。ただ、その反面、有用度はあまり評価されていない。この点を明らかにできれば。教育目的と手段が合致しているかを議論したい。
    • コースに入って驚いたのは「大学の歴史」を学んだことだった。そもそも、実践的なことを重視するのだと思っていた。また、統計学も学んだ。数字を扱う事には苦手感があったが、大いに役立った。その他の印象深い授業では外部講師から高等教育の最前線の情報を得る事ができ、理論と実践の両方を学ぶことができた。正直なところ「学びたい」気持ちより「入学したい」という思いが強く、カリキュラムを見ずに入学したぐらいだった。修士論文は辛かったが、集大成として書き上げた。
    • 自分は大学職員ではなく企業勤務なので、入学の動機は異なる。企業人の目線で、ある地方の大学を訪れたとき「何故、こんなところに大学を作るのか」「そもそも学生は来るのか」など、素朴な疑問を感じた。大学の現場を回るうちに、大学を作る際には様々な政治的意図が組み合わさっていることが分かり、本コースに入学することで分かる事ができるようになるのでと思った。
    • 元々、東海地区の私立大学で働き、その後に関東地区の私立大学で職員として働いたが、最初の大学では学部等の設置認可申請業務を担当した。*4 *5 *6 *7その際、「設置の趣旨」を書いたが、学内の教員にかなりコテンパンにされた。そういう部分に対する反骨精神もあって入学を決意した。ただ、入学後には修論テーマでコテンパン(先行研究がない、研究する意味が無いなど)にされたが、そのことを通じて自らの研究能力の無さに気がついた。
    • 大学職員になる前は民間企業で働いて、その後に母校に戻って職員になった。教務部で働いたが、知識の足りなさを感じるとともに職場の先輩が本コースに通っていることを知ったので、まずは科目等履修生として1年間学んだ。入学してからは様々な背景の学生が集まって、他流試合を行うような形だった。テーマを与えられ、グループワークなどを行って、圧倒的な知識量の差に気づき、もっと学びたいと感じるようになった。私立大学に勤めているので、私立大学が今日に至るまでの経緯等を知る事が役立った。
  • 【質疑応答】
    • 教員・同僚に対して、という入学動機があったが、学生に対しては何か意識が変わったか。
      • 学部時代は卒業までに至る事が一番大事だった。しかし、社会人になって「何故学ぶのか」「何のために学ぶのか」ということを改めて自分自身が感じて、学生と接する際に「学ぶことの意味」を端的に説明できるようになった。
      • 管理系の仕事が主だったので、学生との関わりが少ない仕事だったこともあって、あまり変わらなかった。
      • 学生と窓口で対応すると「声の大きい」学生だけの意見を取り上げていいのかという疑問が生じた。研究テーマは「学習成果分析」だったが、勤務先は学生数が多いので、個々の学生と話すのではなく総体として見ていくことが大切であると思っている。その際に教学データなどとの統合等を行い、分析することが大切である事に気がつくようになった。
  • 【福留先生コメント】
    • コース長の山本先生が必ず説明会で言うのは「うちのコースは専門職大学院ではありません」という意見。修士論文を必ず求めているのは、そのような背景がある。登壇されている修了者は金子元久先生*8時代の修了生だが、現在、自分が授業する前にも「この授業は必ずしも実務に役立つ訳ではない」ということを伝えてから授業をすることが多い。しかしながら、例えば自分が担当する大学の国際比較では、他国の大学は制度面でも教育内容も大きく異なる中で、その知識を得る事によって自らの中で「大学のイメージの転換」を行う事ができることに繋がる。
    • 修士論文については大きく2つの観点から重要。大学について自分の手で知識を作り出す、自分の関心を具体化することを取り組んで「形にする」ことが大切である。知識を吸収するだけではなく、自分の中での体系化ができる。大学の目的は教育と研究である。そのプロセスがどのように行われているかを職員自身が知る事ができる。学術が出来上がる過程を知る事の重要性。
    • また、修了生調査に「他大学や官庁でのインターンを取り入れるべき」という意見もあるので、実践的なプロジェクトなどを今後取り入れていくことも考えられる。実際には在職者が入学してくることを想定しているが、ストレートマスターに対応するプログラムも考えられる。専任教員がカバーできない実践性を伝える講義については、知見と実践を兼ね備えた実務家教員を外部講師として招聘する事で対応している。実務と理論をどのように架橋していくかが重要だと思う。
  • 修士論文についてのパネリストからの補足】
    • 元々、理工学部図書館で仕事をしていた。情報を提供する立場としてはできていたが、自ら研究することによってさらに質の高い情報を提供できるようになったと感じた。例えばアメリカの大学での図書館司書は、図書館情報学と自らの専門分野とで学位を保有している。先ほども話のあった「学術」という点について、そのために支援することをどうするのか、という点で大いに役立った。修士論文の執筆は大変だが、これは決して体育会のしごきのように『自分もキツかったんだら、後輩にも同じ苦しみを味わわせる』というものではなく、知的生産の仕組みを知り、学術のクオリティーを保つために不可欠なのだと知った。
    • 休日に修士論文に没頭するという学生ならではの経験ができることは、修士論文を各意義ではないか。修士論文はバラバラの要素を組み合わせて作り上げる「自分の宇宙」である。今残念に感じるのは、多忙だったので先行研究のレビューができなかったのが悔やまれる。
    • 修士論文は、現在の教員としての仕事には役立ったが、当時の職員としての業務には寄与しなかった。ある意味で修士論文を書き上げることは「ファカルティ同質性の向上」である。大学を構成する教員と職員の同質性を高める事で、教職協働を深化させることができるのではないか。
    • 入学する段階、論文を書いている段階では「何故書かなければならないのか?」と思っていた。1年時は講義科目が中心で新しい知識を得るが、論文は限定的な領域で掘り下げていくことが必要。掘り下げる事は苦痛ではあったが、書き終わってみると書いている知識そのものが有用ということもあるが、形にすることを通じて得られる複合的な知識が得られること、先行研究にあたってみて検証すること、検証過程をまとめる技術、説明する技術はこれからの仕事にも役立つ有用な経験だと感じた。

トークセッション・テーマ2〜コースでの学びと修了後のキャリアについて〜

  • この中では修了後に職を変えた方は1名だが、昇進・昇格以外にもどのようにキャリアの影響があったかを討議する。
  • 【コースでの学びと修了後のキャリアについて】
    • 修了後も同じ職場・同じ部署なので変わってはいないが、教学IRを担当する事になった。そのきっかけは、修士論文を書き上げる際に教学担当副学長に依頼して教学データを活用させてもらい、最終的に論文を書き上げた。その過程で副学長と議論する機会を得て、研究内容を延長するような形で教学IRを担当するようになった。
    • 修了当時は関東地区の私立大学総務部に在籍していたが、昇進試験を受けたこともあって係長に昇進した。しかし、あまり給与面では変わらなかった。シグナリング効果もあると思い、当時の職場でIR室を作る際に大学院で得た知識・経験が活かされ、その経験を活かして現在の職を得ることに繋がった。これからの大学では高度専門職の働く枠が増える、増えていって欲しいと思っている。
    • 大学院を修了したことで勤務先企業の会議で話が通りやすくなった。高等教育を学ぶことによって、外部の人間も認めてくれるようになった。自分自身が女性なので「仕事を続ける」シグナルを発する事にも繋がった。
    • 適当な論文を書かせない、という役割を図書館司書に拡大したい。単に情報を提供するだけの存在からの転換が必要。修士論文の内容をベースに「IDE-現代の高等教育」*9に投稿し、日本高等教育学会での学会発表などを経験した。発表すると反響が返ってきて次のステップに繋がっていく。発表などを繰り返していくことで、徐々に研究歴が増えていく事になり、縁があって他大学で非常勤講師を担当することになった。このような積み重ねを繰り返す事で業務のステップアップとともに、学び続ける事で自分ができること、やりたいことをできるようになっていく。
  • 【質疑応答】
    • 素朴な疑問だが、大学院進学を職場にはどの程度オープンにしていたか?
      • 出願要項を見ると分かるが、通学には上司の承諾が必要で「学業に専念させる事」という一文が入っている。変な話、仕事をしながら研究を並行して行うので大変だが、職場の理解を得られるようにしていた。どうしても講義に出られない時は同級生にノートを貸してもらう、追試験を組んでもらうなどの対応をしていた。自費で通学したが「大学の金で行った」とか「仕事に穴をあけた」と言われないように気をつけた。
      • 大学を顧客とする企業勤務のため、反対されるだろうと思っていたが、その通りに反対されていた。(企業は売り上げを上げてなんぼ、の考え方)大学経営・政策という学問分野に対しての理解がなかったのである。上司の上司までに話を持っていくことで承諾してもらえた。
      • 職場には受験する際には言わず、合格してから承諾を得にいった。上司も了解してくれたが、当時、管理部門である総務部だったので、時間的な余裕があったことも大きかった。
      • 職場に通学している先輩がいたので、職場側の理解はすぐに得られた。ただ、仕事をしながら通学するので、仕事に穴をあけないように気をつけ、体調的にも大変だったが、得るものは大きかった。大学院は図書館を使えるので、非常に学びに繋がる環境に身を置く事が出来る。

総括

  • 【福留先生コメント】
    • 修了後のキャリアは教員にとっても重要なテーマだが、コースを修了して転職するということはあまり一般的ではない。日本の大学の慣習などに依存しているから。修了生がコースで学んだ成果としては、外形的な評価ではなく内面での力量が高まるということが重要である。コースで学ぶ2年間は非常に重要なものだが、それだけで終わるものではない。修士論文で取り組んだテーマを継続して発展させることが大切なので、その点を修了生に期待したい。あわせて、学んだ内容を職場に還元していくことも重要。
    • なお、転職・キャリアアップは一般的ではないとは言ったが、実際に転職する人も入れば学内でキャリアアップしている例もある。日本の大学でも教員と職員の間で働く専門職・戦略的なスタッフとして、自律的な仕事ができる役割が増えてきている。IR、URA、国際交流コーディネーターなどの職種。こういった仕事を想定しながら学ぶことも大事。
    • 特定の戦略的ポジションに関わるための科目をカリキュラムに組み込んでいくことも始めており、IRは大学評価・学位授与機構の森利枝准教授*10に依頼している。また、当コースに欠けているのは学生関係のプログラムであり、アメリカでは専門のサーティフィケートも存在している。*11職員としての実務経験が働くことに役立つ、高等教育の大学教員に関するキャリアも変わってくるかも知れない。アメリカではフルタイムで働く人がマスター、Ph.Dを取得してキャリアアップしていくルートがある。そういう意味での研究者養成などにも繋がるのではないか。
  • 【パネリストからのコメント】
    • 一番の財産だと思っているのは、勤務先の職位・年齢に関わり無く、修了者間のネットワークができていることである。これは目には見えない財産だが、自身は先行研究調査などの講義をボランティアで行っている。よって後輩とも繋がっている。また、教員との繋がりに関しても大きい。例えば学会発表に関して教員と一緒にリハーサルを行ったり、論文投稿の前に簡単に査読して下さったりなど、修了後にも「一人の弟子」として扱ってもらえていることは大きな財産である。
    • 所属企業ではリサーチも請け負っているが、修了生調査の回収率が70%以上なのは凄いと思う。通常の卒業生調査では25%程度。帰属意識の強さを感じる。
    • 今後に進学を考えている人に伝えたいことは、先ほど福留先生がおっしゃっていた学生関係の研究領域が抜けている点について、先日ペンシルベニア州立大学に行った際、学生支援アドバイザーという仕事がある事を初めて知った。またこれから大学入試も大きく変わるので、入試に関わるプロフェッショナルなども目指して欲しい。
    • たまたま自分が入学した期は男性だけだった事もあって、学内だけに留まらず、プライベートでも人的な繋がりが出来たことは非常に大きい。人脈形成という面では大きなメリットがある。また、修了生でも夏の海外研修プログラムに参加できる、修了後にも勉強会で発表できるなど、修了生に対する支援体制も非常に充実していることは、特筆して良い部分ではないかと思う。
    • コースワークと満足度のねじれが分かったのが調査結果だったが、各登壇者はそれぞれが解決しているように見えた。そのための政策立案能力の形成が必要であるということが分かったかと思う。修士論文を重視する理由はここにある。これから大学設置基準の改正などでますます職員の役割の重要度が増してくる事は間違いが無い。そのためにも当コースでの学びを活用して欲しい。

総括のコメントを聞いていて、どこかで同じようなコメントを読んだことがあるように感じたので調べてみたのですが、一橋大学米倉誠一郎教授がハーバード大学に留学していた際の思い出を書かれた記事を読んだ際、目にした内容と似ていたので以下に引用します。


話は逸れるが、僕はアメリカのPhDやMBAで学ぶ知識はそれほどたいしたものではないと思っている。ただ、これらの学位に意味があるとするならば、「あれだけ辛いことを出来たのだから、自分に出来ないものはない」と思わせる限界努力関数の証明と、「同じ釜の飯を食った仲間」の存在だと思う。だから、今でも大学院時代は楽しかったと思い出せるが、「もう一度やる?」と聞かれれば、即答で「ノー」。

登壇された修了生の方々からのお話を聞いていて、私が一番強く感じたことは「学んだことをどのように活かすかを今でも模索し続けている」という点です。学位を授与する大学は学位の質保証を行わねばなりませんが、学位を得るということは、その人自身の能力に関して一定の質保証がなされていると世の中的には捉えられると思います。もっと具体的に述べるとすれば、大学院を出ているだけの高度な能力を示すことができなければいけないということです。今回登壇された4名は非常に優秀な方々だと感じましたが、学び続ける姿勢を持って活動されている姿に感銘を覚えました。行って終わり、ではなく研究を続けるということは大切ですね。ブログも同じだと思っているので、書き続けることの大切さを改めて認識させられました。また、修士論文の執筆については皆さんが苦労を述べられていたところに注目しました。上記の米倉先生の記事にも「限界努力関数の証明」という言葉が出てきますが、やり遂げるというプロセスを通じて自分自身の成長を実感できることが、論文を書くことの意義のひとつなのかなと。
私自身は大学院で学んだことはないですが、通いたいという気持ちは持ち続けてきました。しかし、自分が追求したいと思う研究テーマを決められるまでは、大学院に進学するのではなくサーティフィケート・プログラム*12 *13を受講したり、科目等履修生として学ぶ程度でもよいのではないかと考えています。また、私は天邪鬼なので違った観点から大学経営・高等教育にアプローチしてみたいという思いもあります。いずれにしても、自分自身の中で大学院進学というものを再度考え、整理しようというモチベーションをいただいた素晴らしいトークセッションでした。今後も同種のイベントなどがあれば参加してみたいと思います。

*1:東京大学大学院教育学研究科 総合教育科学専攻 大学経営・政策コース http://ump.p.u-tokyo.ac.jp/

*2:東京大学大学院教育学研究科大学経営・政策コース設立10周年記念シンポジウム「大学経営・政策人材と大学院教育」に参加してきました http://d.hatena.ne.jp/high190/20150403

*3:スタッフ紹介「福留東土准教授」 http://ump.p.u-tokyo.ac.jp/faculty/cat221/

*4:私も設置関係業務を担当したことがあります。提出書類の作成の手引き、事務担当者説明会資料、大学設置室のWebサイトなどを参照するとイメージしやすいかと思います。

*5:大学の設置等に係る提出書類の作成の手引き http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ninka/tebiki.htm

*6:大学設置等に関する事務担当者説明会 http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ninka/1289295.htm

*7:文部科学省高等教育局高等教育企画課大学設置室 http://www.dsecchi.mext.go.jp/

*8:現在は筑波大学大学研究センターにいらっしゃいます。 金子元久特命教授 http://www.rcus.tsukuba.ac.jp/center/staff/staff_kaneko.html

*9:IDE大学協会の出版物 http://ide-web.net/newpublication/blog.cgi?category=001

*10:森利枝准教授 http://www.niad.ac.jp/n_kikou/soshiki/kyouin/kenkyu/1178258_1891.html

*11:ちょっと探してみましたが、カナダのトレント大学に類似のプログラムがあるようです "Student Support Certificate" https://trentu.ca/studentaffairs/certificate.php

*12:筑波大学・Rcus大学マネジメント人材養成プログラム http://www.rcus.tsukuba.ac.jp/program/index.html

*13:東北大学アカデミック・リーダー育成プログラム http://www.ihe.tohoku.ac.jp/CPD/lad/program_2015.html

Times Higher Educationの世界大学ランキング2015-2016が発表されました

high190です。
毎年恒例のTimes Higher Educationの世界大学ランキングが公表されました。「スーパーグローバル大学」など、日本の大学はどのような順位になっているでしょうか。過年度の結果はこちらからご覧いただけます。*1 *2 *3 *4


タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(Times Higher Education、THE)は9月30日(現地時間)、2015年の世界大学ランキングを発表した。1位は5年連続となるカリフォルニア工科大学だった。東京大学は2014年の23位から大きく順位を落とし43位、京都大学は2014年59位からさらに順位を落とし88位となった。
THEによる世界大学ランキングは、英国QSやサウジアラビアCWURによる世界大学ランキング、上海交通大学の研究センターによる「世界大学学術ランキング(ARWU)」とともにに世界で注目を集める世界大学ランキング。評価基準は、「教育」「研究」「論文被引用数」「産業界からの収入」「国際性」の5つ。世界の大学のうち、800大学をランキングで発表した。
トップ10には、2014年同様に英国または米国の大学が多数ランクイン。結果、1位は5年連続のカリフォルニア工科大学で、2位にオックスフォード大学、3位にスタンフォード大学が続いた。2014年に2位を獲得したハーバード大学は、6位に順位を落とした。英国と米国以外では、スイスのチューリッヒ工科大学(ETHチューリッヒ)が2014年13位から順位を上げ、9位にランクインした。
文科省が2014年9月26日に「スーパーグローバル大学(SGU)」を採択して以来、世界大学ランキングトップ100入りを目指す「トップ型(タイプA)」13校のランキング結果が注目を集めてきた。タイプA13校のうち、トップ100にランクインしたのは東京大学(43位)と京都大学(88位)の2校のみ。そのほか、201位から250位に東北大学、201位から250位に東京工業大学、251位から300位に大阪大学が続いた。私立大学では、慶應義塾大学が501位から600位、601位から800位に早稲田大学が入った。
国内の大学にとって、THE世界大学ランキングの評価基準で高評価を得るには「国際性」の基準で評価されることが最重要課題となる。東京大学は2012年に27.6、2013年に29.6、2014年に32.4と徐々に得点を上げてきていた。しかし、2015年の本ランキングでは30.3と、2014年と比較して2.1ダウン。文科省のスーパーグローバル大学として期待を背負っていただけに、ネット上では2015年の結果を残念がる声があがっている。なお、京都大学も、東京大学同様に「国際性」評価は2014年29.0から26.1に下がった。
2015年の主要な世界大学ランキングがすべて出揃った。今後のスーパーグローバル大学の取り組みには、更なる期待が集まるだろう。

◆THE 世界大学ランキング トップ10

◆ランクインした国内の大学(掲載順)

日本国内では東京大学が首位にランクされていますが、2010年には香港大学にアジアトップの座を奪われ、翌年にはアジア圏での首位に返り咲いて数年間トップを維持してきました。しかし、今回は26位のシンガポール国立大学、42位の北京大学に次ぐアジア3位という結果に終わりました。*52013年の安倍首相による「日本アカデメイア」スピーチでは「今後10年で、世界大学ランキングトップ100に10校ランクインを目指します」との宣言がありましたが、今年のランキングでは東京大学京都大学の2校のみが100位以内にランクインしたという事実、苅谷剛彦オックスフォード大学教授によるスーパーグローバル大学への批判など、*6大学ランキングから見ると、日本の大学のプレゼンスは上がっていないという厳しい現実を突きつけられた結果ではないかと思います。また、昨今の大学改革の影響(競争的資金の活用、国立大学法人の運営交付金の削減など)によって、研究者が研究に避ける時間が削減したことにより、論文数の減少が著しいとの指摘もあります。*7 *8 *9
そこで、代表的な大学として東京大学のランキング構成数値の推移を見てみることにしました。使用したのは2010年から2015年までの6年分のデータです。(うち、Industry Incomeは2010年分はデータが無いので0になっています)

よく問題になるInternational Outlookですが、徐々にではありますが改善している様子が分かります。反面、論文引用数を示すCitationsが今年大幅に下がっていること、研究力を示すResearchが2012年から下がり続けていることが分かります。Citationsが今年下がったことについては、昨年度までトムソンロイターのWeb of Scienceを使用していたのを、今年からエルゼビアのScopusに変更したことによるのではないかと推察します。*10この辺りはあまり詳しくないので、電子ジャーナルなどの専門家の方による解説を待ちたいところです。こちらの解説だと分かりやすいかな?*11ただ、研究力を示す指標が下がり続けていることは、先に記述した論文数の低下とも関係があるので、今後の我が国の科学技術政策を考える際の視点として、目を配っておかなくてはならないように感じます。
その他、昨年度までは500位までの大学を公表していたのですが、今年からは800大学まで対象が広がったようです。私立大学でも慶應義塾大学順天堂大学近畿大学昭和大学上智大学東海大学東京理科大学早稲田大学がランクインしました。こちらも来年度以降にどうなっているかを注目していきたいと思います。

結果の英語版は以下からご覧いただけます。

*1:Times Higher Educationの世界大学ランキング2014-2015が発表されました http://d.hatena.ne.jp/high190/20141003

*2:Times Higher Educationの世界大学ランキング2013-2014が発表されました http://d.hatena.ne.jp/high190/20131003

*3:Times Higher Educationの世界大学ランキング2013-2014が発表されました http://d.hatena.ne.jp/high190/20121005

*4:Times Higher Educationが2010年の世界大学ランキングを発表 http://d.hatena.ne.jp/high190/20100917

*5:世界大学ランキング 東大 アジア首位から転落 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20151001/k10010254801000.html

*6:スーパーグローバル大「外国人教員等」 実態は経験浅い日本人 http://www.nikkei.com/article/DGKKZO92094740V20C15A9CK8000/

*7:これはやばすぎる:日本の工学系論文数はすでに人口5千万の韓国に追い越されていた!!(ある医療系大学長のつぼやき) http://blog.goo.ne.jp/toyodang/e/66fda06802e29f013e26f5d41f769b01

*8:いったい日本の論文数の国際ランキングはどこまで下がるのか!!(ある医療系大学長のつぼやき) http://blog.goo.ne.jp/toyodang/e/2b1307b461f2ed4d9c5bb8d13e31ae89

*9:運営費交付金削減による国立大学への影響・評価に関する研究〜国際学術論文データベースによる論文数分析を中心として〜 http://www.janu.jp/report/files/2014-seisakukenkyujo-uneihi-all.pdf

*10:World University Rankings 2015-2016 methodology https://www.timeshighereducation.com/news/ranking-methodology-2016

*11:ScopusとWeb of Science:引用データベース収録ジャーナルの選定基準について(室蘭工業大学附属図書館・学術情報最前線) http://www.lib.muroran-it.ac.jp/gakujo-saizensen/news.html#news13

平成27年度第19回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました(2日目)

high190です。
関西大学で開催された大学行政管理学会の定期総会・研究集会の2日目(9/6)の参加記録です。1日目はこちらからご覧下さい。*1今回もhigh190が参加したセッションについて、所感をまとめてみました。理解違いなどがある可能性がありますので、悪しからずご了承下さい。なお、総会に関するツイートをtogetterでまとめて下さった方がいますので、こちらもあわせてご覧下さい。*2

第19回定期総会・研究集会(出典:大学行政管理学会Webサイト)

1.分科会「学外のSDに意味はあるのか?-最もコストの高い「大学院進学」を話題に-」

各登壇者のプロフィール紹介。大学院に入学した理由。

  • 関西学院大学 渡辺 絵里 氏
    • 大学職員になりたい、と思って就職した訳ではなかった。
    • 仕事が合わない事から退職を考えた事もあったが、現在の部署に異動してきた時点で、桜美林大学大学院に進学する事を決意。業務に直結するスキルが得られるか否か。考え方を学べる。
    • 大学院で学んだ事が業務に直結するか否かは、担当業務によって異なるが、学外ネットワークが広がるきっかけになると思う。
  • 中央大学 梅澤 貴典 氏
    • 日本私立大学図書館協会の米国研修で刺激を受けて、東京大学大学院に進学する事を決意。
    • 大学院に進学してから、基礎知識を学び、俯瞰的に物を見る事ができるようになり、調査の設計やデータの分析を学ぶことができる。研究手法を学ぶことができ、知識の体系化に繋げられるようになった。職員として研究の視座を得られる事は、大学での仕事に大きく役立つ。*3
    • また、大学院で研究する内容は広すぎるテーマではなく、内容を絞って研究テーマを設定するといい。
  • 京都大学 中元 崇 氏
    • 大学院に進学することの意味付けについて、お話をしたい。他の登壇者の方と違って、就職の時点で修士号を得ており、職員になってから名古屋大学博士後期課程に進学した。大学院に進学する事の意味はあるが、ただし、それは当人及び職場・組織が相応の意味づけを行うことが必要。
    • 「絶対的コスト」と「相対的コスト」を考えなければならない。大学院に進学する事については、職場での仕事内容・レベルに引きずられる部分がある。
    • 大学職員の企画立案能力については、大学設置基準の大綱化によって90年代から徐々に求められるようになってきた。職能開発としての大学院進学に関し、職場からの理解が得られるかどうかは大事。
    • SDが多様化している「往々にして無秩序なダイバーシティ」SD/職能開発での「たまたま」問題。偶発的なキャリア形成。
  • 名城大学 森 康介 氏
    • 文学部を卒業し、中近世ドイツ文学を学んでいた。現在は名城大学大学院にて学んでいる。進学動機は「学生に学びを実行してもらえる職員になりたい」
    • 大学院進学による生活スケジュールはどうしても厳しくなってはしまう。学びと仕事を両立させる点については、どうしても時間的な制約があるので学習時間の確保を第一に置くことが必要である。
    • 大学院に進学して、情報の扱い方が変化した。精査、組み合わせ、リフレクション。
  • 京都文教大学 村山 孝道 氏
    • 寺の息子に生まれて、佛教系の大学に通い、佛教関係の大学に就職してプロパー職員として就職した。
    • 大学コンソーシアム京都のアドミニストレータ研修をきっかけに、職場の教職学イベントでの発表で「やる」「やらない」の選択肢が目の前に現れたら、「やる」を選択しようと思うようにと発表した。そして同志社大学大学院総合政策科学研究科に進学。
    • 家族を持っていると、ワーク・ライフバランスではなく、ライフ・ライフバランスになる。家族のことも大切にしないといけない。複眼的思考が身に付く事は重要だろう。専門性とメタ視点を持った職員。「やる」を選んでからどうやるかをゆっくり考えればいい。

【全体討論】

  • 職場・家庭の理解、折り合い
    • 職場・家庭からは特に意見などはなく、背中を押してもらえた。
  • 新人職員が大学院に通う際に、職場の理解は得られたか
    • 特にコメントなどはなく、職場の中でも背中を押されることが多かった。
  • 職場での理解を得るために、職場内でのコミュニケーションなどで気をつかっている部分はあるか
    • 通信教育課程なので、それほど通常業務には影響がないが、スクーリングなどに参加する際、職場内で調整して対応している。職場として、送り出す際に業務に支障を来たさないような仕組みなどを整備しておく事が大切ではないか。
  • キャリア焦燥感:大学院に通うと思うことはおかしいか?
    • 出願の段階で、研究計画書などをどう書けば良いかなどで迷っている人も多くいると思うが、登壇している人でも、ひとりとして出願時の研究計画書のままで修士論文を書き上げた人はいないと思う。
    • 大学行政管理学会に来るようになってから、焦りを感じるようになった。現在、大学院に通っており、高等教育に直結するものではないが、そういう部分で焦りの気持ちを抱くようになった。自分の責任において大学院で学ぶのだから、自分の責任において対応しなければならない。
  • 大学図書館に関する研究をして、どんな成果が大学にもたらせたか
    • 情報リテラシーに関する研修などを実施し、大学院で得られた知見を職場に還元するようにしている。*4 *5
  • 大学側の人材育成に関する投資に関する考え方
    • もっと大学側も職員の育成に関して、育成に関する投資を行うべきではないか。大学院進学などに関しても、費用負担などを行っても良いのではないか。
    • 費用面での負担軽減も大切だが、一番重要なのは、仕事をしながら履修することの時間的制約なので、その部分の負担軽減・職場の理解を得る体制整備が必要ではないかと思う。

ある意味、今回の研究集会に参加して一番興味をそそられたのが、この分科会のテーマでした。大学職員にとって大学院進学の意味とは?というテーマは、現在、中教審で議論されている高度専門職やSD義務化の話とも繋がります。私自身、ブログを書き続けることがSDになると思って続けてきていますが、登壇者の方々のお話を伺って、働きながら大学院に通うことの大変さが伝わってきました。その反面、マルチタスクをこなすための練習としてはいい機会なのかも知れないとも感じました。また、質疑応答でもフロアから色々な意見が寄せられましたが、個人的には現在においては、職員で大学院に通う人は「変わった人」「勉強熱心な人」という形で捉えられているように感じ、まだ一般的ではないということです。しかし、大学院に通うだけではなく、変わったバックボーンを持った人が多くいて、多様性のある環境を作っていくことこそ、これからの大学には必要なのではないかと思います。硬直的な発想や組織文化を打ち砕くためには、異なる文化に触れ、吸収した人を多く組織に迎え入れる・または内部で育成していく必要があります。もちろん、自学のミッションを浸透させることによって、多様な人々の集団凝集性*6を高める工夫を怠ってはいけないと思いますが。そのためにも大学院進学は魅力的な選択のひとつではないかと個人的に感じているところです。
これは私見ですが、登壇された皆さんの専攻分野は高等教育が中心(政策科学を専攻されている方がお一人)でしたが、経営学などの分野も今後は進学先の選択に入れてもよいかと思います。職員が学ぶべきマネジメントの発想、マネジャーとしての役割などは、高等教育の大学院だけでは学べないと思いますので、その点については今後の大学職員の高度専門職養成のあり方にも一定の示唆を与えうるものかと思います。こちらの詳細は拙ブログの過去記事をご参照下さい。*7
なお、上記にまとめた内容はあくまでも一部です。他の大学職員ブログでも記事にされている方がいますので、そちらも是非ご参照下さい。*8 *9 *10


2.研究・事例研究発表1「大学職員の研修(SD)の必要性と効果検証−テーマパークの事例を参考に−」昭和女子大学 松丸 英治 氏

  • 発表の目的
    • 学生時代に某テーマパークでアルバイトした際、非常に充実した研修制度があった。その反面、大学職員になってからは研修制度の未整備さに驚き、以来、研修に関心を持って、過去にも大学行政管理学会で発表してきた。
    • 現在、中央教育審議会の大学教育部会にて、「高度の専門性を有する職種や、事務職員等の経営参画能力を向上させるため(中略)」と指摘している。FDは大学設置基準上で規定されているが、今後はSDについても義務化される可能性がある。
  • テイラー、アレンによる効果検証を前提とした研修制度。
    • 既にSDを実施している大学は全体の83%に達しているが、内容面での不満などが寄せられている。ひとつの参考として、経営参画能力の向上などが挙げられているが、体系的な研修を実施している大学は少ない(早稲田大学立教大学など)
  • なぜ人材育成をするのか
    • 「組織は戦略に従う」チャンドラー
    • 「構造は戦略に従う。組織構造は組織が目的を達成するための手段である」ドラッカー
    • 必要な人数・スペックの設定が必要なのだが、現実は「既存人材の配置」に留まっている。「大学職員のSDの必要性と課題」(岩崎保道)
    • MBAは会社を滅ぼす」ミンツバーグ
      • 「教室でマネージャーはつくれないが、すでにマネージャーの職に就いている人は教室で成長できる」
    • 某テーマパークの研修方法を参考に、新任教員研修プログラムを開発した大学がある。「モントリート・カレッジ」
    • ディメンションズ(エグゼクティブ対象の研修)
    • SDを行う以上は効果検証が必須ではないか。まず、SDをやる前に「大学として必要な組織能力を把握」し、「所属員の能力の把握」を行い、「必要な人材と能力の把握」をした上で、「SD(研修)」を行うことで効果検証に繋がる。大学側が成長させてくれる訳ではない。

某テーマパークの研修手法から、大学職員の研修に焦点を当てた発表です。中教審で現在議論されているSDの義務化に際し、どのようにして効果的なSDを行うのか、またSDが機能するための仕組みづくりを行うことで効果検証を行うことができるという指摘でした。発表の中で興味を引かれたのはテーマパークでの研修手法をFDに取り入れた大学があるということでした。ノースカロライナ州のモントリート・カレッジがそのようですので、こちらについても引き続き情報収集してみたいと思ったところです。SDの効果検証のお話も印象的でした。実際にSDの効果検証をしている大学はあるんでしょうか?私は寡聞して知りませんが、どなたかご存知の方がいらっしゃいましたら、ご教示いただければ幸いです。


3.研究・事例研究発表2「大学職員のメンタルヘルス研究の現状と展望」立教大学 松木 敦志 氏

  • 発表概要
    • 大学職員のメンタルヘルス研究の現状の共有
    • 同研究の今後の必要性についての共有
    • 自分や同僚のメンタルヘルス、または職場の環境について関心を持ってもらう。
    • 内発的理由として、大学職員のメンタルヘルスが悪化しているのではないかという仮説。
    • 外発的理由として、厚生労働省のストレスチェック義務化。
  • メンタルヘルスに関する研究の到達点(先行研究)
    • 先行研究を踏まえると、大学職員の精神健康状態は決して良好とは言えない。その結果を含めて、どのようなアクションを起こせば良いのか。
  • 不足している研究知見
    • 何がストレス源(またはメンタルヘルス影響要因)か?
    • 特徴的なストレス反応はどんなものがあるのか?
    • ストレスを抑制・促進する要因(要因 AtoZ)は?
    • 要因AtoZは個人の属性によって異なるのか?
  • 研究主題
    • 大学職員のストレス構造を明らかにする
    • ストレス反応を規定する要因を明らかにする
    • ストレスを抑制・促進する要因を明らかにする
  • 調査の結果
    • 20代の職員が最もストレス要因を受けやすく、50代の職員が一番ストレス要因が少ない。
    • 「職場の将来への不安」がストレス促進要因として、最も高い。その反面、愛着的愛校心はストレスを抑制する。
    • ストレスマネジメント研修の効果の測定と分析を行うべきではないか。
  • 質疑応答
    • 各大学での職場でのストレスチェックについて、衛生委員会や衛生管理者などに対する研修を行うべきなのか、一般職も含めた全ての人に研修を実施すべきなのか。
    • ストレスは、対処を放置するとどんどん負担が高まっている。何か嫌な事があった時に、対処方法を知っていることが重要であると思う。

大学職員のメンタルヘルスに関する研究は、いくつかの先行研究はありますが、まだまだ研究が深まっていない分野だと思います。*11しかしながら、大学を巡る環境の激変に対応して、大学職員のメンタルヘルスがどのように変化しているかを明らかにしようという本研究の試みは、今後の研究進展に大きな一石を投じるのではないか?と個人的に期待しているところです。今後も研究を継続されるということでしたので、研究結果の進捗状況についてフォローしていきたいと思える発表でした。


4.研究・事例研究発表3「大学を取り巻く各種データに対する統計的分析手法の適用とその課題」日本大学医学部 烏山 芳織 氏

  • 研究の背景と目的
    • 大学内情報を統計データとして分析的に扱う場面の増加
      • 大学における評価・経営等に関する調査・分析(IR・大学ポートレート
      • 関連データベースの整備と公開(大学に関するデータを用途に応じて統計的な分析が可能に)
    • 統計解析ソフトの進展(SPSS
      • 大学職員においても業務の中で数値データを扱う環境となりつつある?統計的分析の利用と機会も広がってきている?適切な方法での統計処理・分析が望まれる。
  • 研究課題
    • 大学に関する各種データにおける統計的分析手法の適用に着目して、かかる課題や問題点とその対処方法について検討する事
    • 大学を取り巻く各種データ
      • 大学内情報・大学外情報
      • 公開データ・非公開データ
      • 集計データ・非集計データ
      • 統計調査に関するデータ
    • 扱うデータ毎に適切な方法での処理が必要
      • 統計的分析手法の種類
      • 合計、平均、割合、比率(簡単)
      • 相関分析、回帰分析(普通)
      • 検定(まあまあ普通)
      • 多変量解析
      • 重回帰分析、因子分析、主成分分析、クラスター分析など
      • モデリング、プログラミング
      • 線形計画法などなど
  • 統計的分析に係る環境
    • 大学職員においても、統計解析ソフトが広まってきたことの影響でできるようになってきた。その場合、データを正しく扱えているかどうか怪しい場合もある
  • 現実的にデータを統計的に分析する場合
    • 大学教員に相談しながら、というのが一番早い
    • 自学自習は正直、時間もかかるので教員の助けを借りながらやるのが良い
    • 多くの大学職員は、多かれ少なかれ近しい大学教員からアドバイスを受けながら統計的分析を進めていけるのではないか。
      • 当該大学教員が専門とする専門分野での慣例に依存しやすくなる傾向があるのではないか。
      • その点を考慮すると、職員向けの統計的分析能力は大切なのでは?統計的分析に関しても、様々な学問領域の教員毎にやっているのでは。知らない間に、結果として誤った分析方法の選択、十分な説明量がない統計モデルということに陥っていることもある。
    • 統計リテラシー統計学的背景を持たない者が、業務上の要請や自己の研究に必要なため統計解析ソフトに基づいているので、正しい統計知識で検証が必要
    • 統計的分析手法でも、大学行政管理学会の発表においても、様々な手法のアプローチが出てきている。
  • 大学行政管理学会で発表する場合、どの程度の統計処理レベルや分析方法が適切なのか?
    • 特定の学問分野に準じるか?教育学、社会学、心理学、経済学?
    • 統計的分析手法を用いた発表に関する定義
    • JUAMにおいても、統計スキル向上のための研修会・勉強会・ワークショップなどが必要な段階にあると考えられる。統計スキルアップや統計分析の必要性に関する知識など
    • 今後、大学職員が統計分析を行うことが増えるならば「統計スキル向上のための研修会・勉強会・ワークショップを企画実施」が必要ではないか。

ワークショップによる人的ネットワーク形成などに関しては、なかなか面白い提案ではないかと思います。個人的に気になったのは、統計的な理論背景を理解しない状況で分析する事は怖いということです。これは正しいと言えます。
統計に関する公的検定試験としては、日本統計学会が実施している「統計検定」*12がありますので、求められるレベルの試験に合格できるだけの基礎知識を付ける事が大切ではないかと思います。また、入門者向けの講座として私がオススメなのは、NTTドコモが運営するgaccoにて日本統計学会が提供する「統計学Ⅰデータ分析の基礎」*13総務省統計局統計研修所が提供する「社会人のためのデータサイエンス入門」*14です。私自身、統計に関する知識は持っていませんでしたが、IR関係の仕事をするようになって最低限の知識は必要であることから、両方の講座を受講し、修了しました。

事例研究発表は全部で4グループに分かれているのですが、今回は自分自身も発表をチャレンジしようと思いまして、他の方の発表を聞くことができなかったのが心残りです。今回の研究集会を通じて、色々な課題なども浮き彫りになったかと思います。是非継続してこのことに関する議論を積み重ねていくことを望みたいです。そのためにもソーシャルメディア等のツールを上手に活用していければいいのではないかと思います。

*1:平成27年度第19回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました(1日目) http://d.hatena.ne.jp/high190/20150908

*2:大学行政管理学会第19回定期総会・研究集会 http://togetter.com/li/873455

*3:梅澤貴典「大学職員が社会人大学院で学ぶ意義とは?」 http://www.slideshare.net/takanoriumezawa/ss-43688505

*4:梅澤貴典「誰でもできる!知的生産のための図書館&公的データベース活用法」 http://www.slideshare.net/takanoriumezawa/ss-37392161

*5:梅澤貴典・大学職員のための情報収集法 http://www.slideshare.net/takanoriumezawa/ss-35032215

*6:集団凝集性(グロービス経営大学院MBA用語集) http://gms.globis.co.jp/dic/00693.php

*7:東京大学大学院教育学研究科大学経営・政策コース設立10周年記念シンポジウム「大学経営・政策人材と大学院教育」に参加してきました http://d.hatena.ne.jp/high190/20150403

*8:大学職員の枠からはみ出た人たち−大学院進学をめぐる議論から(Curation) http://setapapa.net/20150920/

*9:大学職員と大学院〜SD・SD・PD〜(大学アドミニストレーターを目指す大学職員のブログ) http://as-daigaku23.hateblo.jp/entry/2015/09/07/180000

*10: (2015.9.6) 大学行政管理学会 分科会 大学院進学(システム担当ライブラリアンの日記) http://blog.goo.ne.jp/kuboyan_at_pitt/e/287a87091b6095c4553a99fd34e29d83

*11:大学職員独自のワークモチベーションとメンタルヘルスに関する研究を調べてみる http://d.hatena.ne.jp/high190/20131113

*12:http://www.toukei-kentei.jp/

*13:https://lms.gacco.org/courses/gacco/ga014/2014_11/about

*14:データサイエンス・オンライン講座「社会人のためのデータサイエンス入門」 http://gacco.org/stat-japan/

平成27年度第19回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました(1日目)

high190です。

9月5日(土)、6日(日)の2日間、大阪の関西大学千里山キャンパスで開催された大学行政管理学会の定期総会・研究集会に参加しました。今年の全体テーマは、「未来の社会を元気にするために大学ができること」です。全2日間のプログラムで、1日目は定期総会、基調講演、懇親会が開催され、2日目はワークショップ、研究・事例研究発表が行われました。今回もhigh190が参加したセッションについて、所感をまとめてみました。内容が多いので今日は1日目のプログラムに関してのまとめです。理解違いなどがある可能性がありますので、悪しからずご了承下さい。昨年度以前の参加記録もお知らせしておきます。*1 *2 *3 *4

第19回定期総会・研究集会(出典:大学行政管理学会Webサイト)

1.開催校理事長講演「この伝統を、超える未来を。〜関西大学 創立130周年〜」(学校法人関西大学 理事長・池内啓三氏)

  • 関西大学の歴史、1886年に関西法律学校が創立。創立者「児島惟謙」の紹介。現在では13の学部・研究科、幼児教育、初等中等教育の付属校を要する。教育の対象者数は約35,000人。
  • 中興の祖、山岡順太郎(総理事、第11大学長)
    • 学是:「学の実化(じつげ)」
      • 学理と実際との調和
      • 国際的精神の涵養
      • 外国語教育の必要
      • 体育の奨励。
    • 現理事長は事務職員出身。職員として大学紛争を経験。職員としては学生支援、就職支援などを中心に経験し、最終的には総務局長を務めた。その後、理事として理事長のサポートをするとともに、幼稚園長なども務めた。
    • 大学時報に書いた記事。2013年1月。ずいそう「事務職員今昔」*5
      • 単純作業に明け暮れ
      • 求められる高い能力や人間性
      • 人事制度改革
      • 真の教職協働を目指して
  • 取り組んだ仕事の紹介
    • 日本能率協会と協働で人事制度を改革。事務職員の意識改革の先鞭をつける。
    • 大学教育職員定年延長制度改革。教員組合と3年間の協議を経て妥結。その他、早期退職制度や再雇用制度などを導入して、ST比の改善を行う事が出来た。*6
    • 学納金訴訟の対応を行い、3月末日までに入学辞退した者には授業料を返還するように命じる判決。大学経営に大きな影響を与えるものだった。*7 *8
    • 長期ビジョンの作成
      • 5つの柱を作る
      • ゴーイングコンサーンとしての学園
        • 教育改革
        • 研究改革
        • 社会連携・生涯学習計画
        • 国際化
        • 学生支援改革
        • 大学入試改革
        • 併設校の教育改革
        • 組織・運営基盤の構築
    • 長期ビジョンに関しては、PDCAサイクルを回す。5年間で中間評価を行い、見直しを行って改訂版を作成する。関西大学2010プロジェクト推進体制図。大阪医科大学大阪薬科大学との協働学部設置については設置基準上の要件を満たすための調整が難航し、残念ながら頓挫。
  • 130周年記念事業の大要。
    • 千里山キャンパスに新たなアクセスエリアの創出
    • 関西大学グローバルフロンティアプログラム」の開発・提供による”次世代グローバルリーダー”の育成
    • 関西大学イノベーション創生センター
    • 天六キャンパスの閉鎖。梅田駅近くで新たに社会人教育の拠点を作る。
  • 大学行政管理学会に期待する事
    • 大学職員は将来有望な職種であると思っている。大学行政管理学会の研究集会も19回を数え、職員の地位向上にも繋がった。中長期計画があり、単年度の事業計画が構築できていれば、やることは明確になる。また、事務職員の役割として、教育職員(教員)をどれだけ動かす事が出来るかがポイントである。新卒職員に対しては、ジェネラリストとして、きらりと光るスペシャリティを持つ事。

事務職員出身の理事長として、職員に求められる役割が変化してきたことを分かりやすい形で説明されるとともに、中長期計画を策定して大学経営を行うことの重要性など、現在多くの大学が取り組んでいる事例などのお話でした。個人的には、過去にブログで取り上げられた教員の定年延長制度改革のお話は興味深く聞かせていただきました。最後にJUAMへの期待が述べられていましたが、私も大学職員は将来有望な職種だと思います。そのために個々の職員が能力開発を積極的に行い、あわせてスペシャリティを持った職員が能力を発揮できる人事制度の構築に向けた検討を、大学行政管理学会が主導して行っていくことが今後の課題ではないかと感じました。

2.基調講演「笑いは百薬の長」関西大学人間健康学部長・教授 森下伸也氏

  • 笑ってくれる会場とそうでない会場は明確に異なる。女性の会場の方が笑い、男性が多い会場は笑わない傾向がある。日本の古典芸能としては狂言がある。これは古典のコメディーなので、こういうものがあることは日本人はもっと誇りに思っていい。”狂言笑い”腹式呼吸で笑うので、呼吸が回る。
  • また、大阪には文楽という古典芸能がある。文楽はひとつの人形に3名がついて動かす。操り手、語り手、音楽隊(三味線)の三位一体で作り上げる。文楽では「笑いに3年、泣き3月」と言われる。それだけ、笑いの方が難しい。
  • 生き写し、朝顔、笑い薬の段
  • 文楽の場合は、狂言笑いと異なる。大学生に「やれ」というと「羞恥心」があるからやらないパターンである。
  • 日本笑い学会・会長」
    • 誰でも入る事ができるが、芸人、メディア関係者、教育者、広告業界関係者などがいるが、一番多いのは医療業界である。医者で”落ち研”出身者は多い。また、医師と同じぐらい多いのは看護師である。薬剤師なども加えると医療関係者が一番大きい。

医学には”ユーモア療法”というものがあり、健康増進・病気の療養などに役立てている事例がある。そのお話をしたい。

    • 元々、ユーモアという言葉は医学の専門用語である。意味は笑いの元、気質、(古義、大体2000年前ぐらい)では体液を意味する。ユーモア療法の歴史だが、1964年に始まった。ちょうど東京オリンピックが開催された年である。オリンピックは10月10日に始まり、10月1日には東海道新幹線が開通した。
    • その反面、世界的には冷戦の時代であり、キューバ危機などがあった。ノーマン・カズンズというジャーナリスト・平和運動家が始めた。キューバ危機でケネディの特使としてソ連のフルシチョフと交渉した人物である。体調不良を訴えて、医者に駆け込んだところ「膠原病」と診断された。治療方法は現在でも確立しておらず、対症療法しかない難病である。その中でも特に回復が見込まれない症状であると言われた。入院してほどなく、ある本を読んだ。その本には「ストレス」という言葉が書かれており、ハンス・セリエという医師が書いていたが、その本には「ネガティブな感情でいると、関節の病気にかかりやすい」と書かれてあった。カズンズは「では、ポジティブな気持ちでいられれば、痛みが和らぐのではないか」と考えた。通常な治療は継続しながら、ネガティブな感情(食事、病院内での知人関係(男性、女性で異なる))を誘発させられるとの思いから、病院を引き払い、ホテルを1室借りる事にした。(ちなみに東京では1日滞在費が30万円の病室がある)
    • 病院で多いのは「病気自慢」である。重たい病気の方が尊敬される倒錯した価値観である。そういう意味でも病因自体がネガティブな環境であろう。スティーブ・ジョブズの例。ガンで亡くなったが、スタンフォード大学の卒業式でのスピーチを行ったが、"Stay Hungry, Stay Foolish"と言った。意味を考えると愚直であることを説いた。
  • 「災害は忘れた頃にやってくる」
    • 「科学者は頭が悪くなければならない」物理学者・寺田寅彦の言葉(夏目漱石との繋がりがある)
    • 「細胞の初期化」iPS細胞の山中伸哉
    • ノーマン・カズンズは、笑うために友人のテレビのディレクターに頼み、コメディー番組の編集してもらったものを見て、極力笑うように務めた。それを繰り返すうちに、徐々に痛みが取れてきた。その結果を医師に伝えたところ、細胞の一部を顕微鏡で見る事になったが、結果として徐々に痛みが減っていき、元の生活に戻る事ができた。そして、仕事に戻っていくが、発病から5年後には完治してしまった。そして、ジャーナリストの特性を生かして「闘病記」を書いてみたところ、大変な反響があった。
    • ノーマン・カズンズの書籍を受けて、笑いを治療に活かそうという医師が現れた。"パッチ・アダムズ(映画にもなった)"ロビン・ウィリアムズが演じている。当のロビン・ウィリアムズ鬱病になって自殺してしまっている。そのことも因果があると感じられる。
    • 病院の道化師(”ピエロ”は和製英語=クラウン)が欧米ではいない病院を探すことの方が難しい。
    • インドではヨガと笑いを融合させた取組も出てきた。ラフター・ヨガ。
    • 日本人の死因の一番はガンであり、3人に1人がガンで亡くなっている。笑いはがんに効くということ。交通事故などの突発的な事象は、”生きている間にやってみたいこと”をできない。その点からするとガンは時間はあるので、死に方としては悪くない。

ガンのポジティブな呼び方として”ポン”を日本笑い学会で考えた。人間の細胞は1日に1兆死んで、新しく1兆生まれるが、そのうちガン細胞は5000ほど生まれてくる。その反面、NK細胞を作り出して対応しているが、その力が弱くなってくるとガンになる。笑いはNK細胞を強化する効果があり、医学的にも実証されていることである。

  • 薬と笑いには3つの違いがある。即効性、経済性、副作用が無い。笑うとコルチゾールという物質が出て、ストレスを緩和してくれる。笑うと脳波にも変化がある。α波とβ波が出る。休息と元気によって人間は生活しているが、そのリズムを笑いがもたらしてくれる。また、脳血流を良くするということにも繋がりがある。

健康と笑いの関連性ということで、開催校の関西大学人間健康学部長・教授の森下伸也氏による講演でした。笑いの中に学問的な観点を入れながら、会場も巻き込んだ"アクティブ・ラーニング"の講演で圧巻でした。私自身も大学職員のメンタルヘルスについての関心があり、以前にそういった記事も書いたことがあります。*9能率・クオリティ面でも高いアウトプットを出すためにも、心身の健康が重要であることは言うまでもないことですが、笑いの面から健康を考えるという、とても楽しい基調講演でした。また、スティーブ・ジョブズスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチが話題になっていましたが、動画は公開されているので、こちらでもお知らせします。

3.ワークショップ「大学のガバナンス(改正学校教育法施行後の教授会等の教学組織における会議運営及び学長の校務の範囲について)」

  • 改正学校教育法に基づく学長までの意思決定手続について
    • 入試判定の判定結果などについて、学長の承認を取りにくいような場面がある事から、審議事項が報告事項になったということはない。
    • 学事研究会でも同様の議論になったが、代議員制(学校教育法施行規則第143条)の活用などによって、スピーディな意思決定が行えるとの意見もあった。
    • 入試の場合は、最終の決定権者は学長である事から、副学長を置いている大学に関しては、事前の学長が校務上の権限を委任すれば、副学長の決定でも可とできる。ある意味において、国立大学法人のガバナンスを見ると、理事長・学長が兼務されていることから、私立大学よりもリーダーシップが発揮しやすい面もある。
  • 改正学校教育法に伴う学内運営上の主な変更点について
    • 教授会議事録に関する変化など、以前は「教授会が決定した」という表現の大学もあったと聞いているが、「教授会が承認した」などの文言を使う事に改めた大学もある。議事録の扱いは変えないが、学長裁定で教授会議事録の位置づけを明確にした大学もある。
  • 学長のあり方について
    • 学長選考のあり方について、選挙制度と指名制度のメリット・デメリットがあること、政治と経営の意思決定の対比から、大学における経営のあり方についての討議を行った。また、私立大学の学長は、理事会と教授会の調整者として(ある意味で「課長補佐」のような中間管理職的な役割)
    • (参加者意見)民間企業から転職してきた時には、学長選挙などは普通あり得ないと思っていたが、学校法人で働くにつれて、株式会社の場合は株主総会によって、社長が罷免される例もあるが、私立学校の場合には所有者不在の状況もあり得るので、選挙で選ばれることもあり得るのではないかと思っている。
    • 私立大学の学長においては、自分がやりたい施策を踏まえつつ、理事会の意向を尊重できる人物ではないか。以前は学部長は選挙で決めていたが、法改正を受けて学長指名に切り替えた。ただ、教授会は自らの意思を示すために、教授会でも学部長候補を選考していた。
  • 学長以外に、副学長、学長補佐を置くことによって対応しているが、そういった教学役職者の選任にあたって、職員にも選挙権を与えている大学はあるのか?
    • 学長選挙において、課長以上の職員に投票権があるケース、全職員に投票権があるケースなどがある。
    • 大学の運営形態を考えると「選挙」という形式が成り立ち得るか?
    • 諸外国においては理事会が決定するパターンが多い。選挙全てがけしからんということはないが、「施策の方策」「業績評価」など、アカウンタビリティの観点で選挙は問題があると思う。
    • 学長の評価という観点では、私立大学では機関別認証評価は学長に対する評価と考えられるので、任期を7年で設定するなどのこともできるかと思う。
    • 東北大学の学長選考については、経営協議会・教育研究評議会・推薦という形態を取っているので、バランスが取れていると思われる。
    • 例えば、当該大学にとって「改革を実施したい」と思う大学において、選挙よって選ばれた学長では、理事会が思う改革を進められないのではないかと思う。そういう点で選考委員会方式と選挙方式の両面を取り入れていくのがいいのではないかと思う。
  • 理事長、学長の職務権限を定めている大学はあるか?
    • ある大学のケースでは、寄附行為施行細則という形で職務権限を明確に定めているケースがある。
  • 他組織のガバナンスと学校法人ガバナンスの比較について
    • 私立学校における理事会は「自己チェック型」なので、性善説に立った上での運営形態となっている。
    • 学長と現場がいかにコミュニケーションを取れるか、という点がガバナンスには大きな影響があるのではないかと思う。国立大学法人においては、運営交付金の削減分を学長裁量経費に組み入れるなどの措置も検討されている。
    • 株式会社でも学校法人でもオーナー型の運営形態はある。株式会社においては、会社の負債は株式という形で失われるので、オーナーも負担を被るが、私立学校においては所有者が存在しないことから、学校法人財産は学校法人が解散した場合、残余財産は国庫に入るが、経営者個人の資産には特に権限が及ばない。

学校教育法改正の関連から、大学のガバナンスを考えるきっかけがありまして、大学行政管理学会の学事研究会が主催する研究会などにも参加してきました。その延長として、今回も当該ワークショップに参加しました。法改正後に大学内での意思決定プロセスなどに変化があったかなど、自らの興味関心もありましたので、参加しました。とても月並みな言葉ですが、対応状況は大学毎に大きく異なるように感じまして、法改正の趣旨をどのように理解し、学長のリーダーシップ体制を整備してスピーディな意思決定に繋げているかの差が出ているようにも感じられました。

ワークショップの後は懇親会に参加し、関西方面の大学職員の友人と旧交を温めました。懇親会でもIRの実践事例などのお話を聞けて有意義でした。次回は2日目のプログラム報告を掲載します。

*1:平成24年度第16回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました http://d.hatena.ne.jp/high190/20120911

*2:平成25年度第17回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました http://d.hatena.ne.jp/high190/20130909

*3:平成26年度第18回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました(1日目) http://d.hatena.ne.jp/high190/20140911

*4:平成26年度第18回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました(2日目) http://d.hatena.ne.jp/high190/20140916

*5:大学時報第348号(2013年1月発行) http://www.shidairen.or.jp/activities/daigakujihou/index_list/no348

*6:関西大学が教授の定年延長制度を5年から2年に短縮 http://d.hatena.ne.jp/high190/20080603

*7:不当利得返還請求事件(最高裁判例) http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=33837

*8:大学に対する入学辞退者による学納金返還請求(独立行政法人国民生活センターhttp://www.kokusen.go.jp/hanrei/data/200706.html

*9:大学職員独自のワークモチベーションとメンタルヘルスに関する研究を調べてみる http://d.hatena.ne.jp/high190/20131113

読売新聞社の"「大学の実力」検索・WEB版"から大学ポートレートのあるべき姿を展望する

high190です。
大学のリアルな実態を明らかにする調査として、すっかり定着した感のある読売新聞社の「大学の実力」ですが、これまで紙面でしか見られなかった各大学の状況をWEB上で確認できるサイトを構築されたようですので、本ブログでも取り上げたいと思います。


大学は大きく変わっています。親御さんや進路指導の先生がご存知の大学ではありません。最も大きく変わったのは、教育です。
2人に1人が進学する時代ですから、学ぶ意欲のない人も珍しくありません。そういう学生をぴかぴかに磨き上げ、社会に送り出すため、大学が教育の見直しに取り組み、情報公開を進めています。
そんな時代だからこそ、偏差値や知名度より教育の中身で!2008年から始まった読売新聞の「大学の実力」調査が、あなたの選択をサポートします。

公表されたので、早速使ってみたのですが、複数の大学を一覧表示で比較できるのは分かりやすくていいなと思いました。具体例として国立大学法人のうち、経済学部で大学を8つ(一橋大学名古屋大学大阪大学東京大学東北大学横浜国立大学神戸大学)選んで比較してみました。(検索して知ったのですが、京都大学は大学の実力調査には回答していないみたいですね。紙面でも確認してみたいと思いますが、検索しても出てきませんでした。それともエラー?)
ただ、表を横にスライドする形だとちょっと見ずらいので、アメリカのCollege Portraitsのように単一ページに数字が一覧で表示されるような形態の方が利用者側が使いやすいと思います。(College Portraitsの表示内容については、過去の記事で取り上げていますので、そちらをご参照下さい)*1

表示画面のユーザーインターフェースなど、改善の余地はまだあると思いますが、大学受験で志望校を考える際、数量的な比較を行えるという点で便利なサイトだと感じました。他のブログなどにおいても、大学選びに有効なサイトであるというような声もいくつかあるようです。NPO法人NEWVERY理事長の山本繁さんはいち早く賛同するブログ記事を書かれています。*2
このように「大学の実力」検索は、おおむね好意的に捉えられているようですが、私が一番最初に感じたのは「本来、この役割を担うものが大学ポートレートではなかったか?」という疑問です。大学ポートレートが整備されたことによって、同一のプラットフォームで大学情報を閲覧できるようになった点はメリットだと思いますが、機関毎の比較にこそ真価が発揮されますし、大学情報を公表する意味があるはずです。なお、大学間での比較ができないことのデメリットについては、筑波大学の金子元久先生が度々指摘してきたことです。本ブログでも過去記事で取り上げましたが、重要なご指摘だと思うので、平成25年10月2日に開催された中央教育審議会大学分科会組織運営部会の第4回議事録を抜粋して再掲したいと思います。


それから,作られようとするポートレートは非常にきれいで,様々な指標は入れられていって,その意味では,もう2年もかかって検討をして,お金もかけてやっているのだろうと思いますが,しかし,先ほどもお話がありましたが,大学によって,これにエントリーしないことは選べますし,それから今後も,別にエントリーしないことは任意です。私は,この任意はいいと思うのですが,しかし逆に最大の問題は,このポートレートでは複数の大学を比較することはできません。一つの大学を決めてしか,この大学について情報があるということを見ることしかできません。例えば私の行きたい大学は三つ,四つある場合,この大学の間を比較することは,このポートレートからはできないという設計になっています。諸外国の大学情報公開は二段構えになっていまして,一つは自由に検索できるデータベース,2段目はステークホルダー,高校生を中心として,大学を選ぶ際に比較ができる画面が出るような工夫がされています。
いずれにしても,日本の大学でポートレートと称しているものは,そういった基本的な情報公開の要件を満たしていません。私は,これは何回も大学ポートレート委員会に私,委員で入っていますが,主張しましたが,全くどうしてか分かりませんが,それは認められないと言われました。私は,この委員会の民主的な運営から見ても,これはおかしいと思いますし,日本の大学改革の全体の展望からいっても,なぜ先進国の間の中で日本だけがここでとどまるのかというのは分かりません。これについて何回も私は申し上げておりますけれども,著しく遺憾であると申し上げます。文部科学省の責任だけであるのかどうかは分かりませんが,とりあえずは文部科学省に説明していただきたいと思います。これは,むしろ日本の大学全体を交えた問題だと思います。
こういったところで,従来の秩序を壊したくないというプレッシャーが,私は端的に言って働いていると思いますが,こういったところを一つ一つ整理していかなければ,幾らここで議論していても余り意味がない。でも,この組織運営部会もそれで議論をやっているわけで,何も手が打たないというのを大変不満に,部会長も指摘されているところでありますが。しかし,私は,こういう基本的なところで,実際にやろうと言ったことも進まないようでは,きちんとした手を打っていないのは当たり前だと思います。これについては,私は何回も申し上げますけれども,非常に強く主張したいと思います。以上です。

大学ポートレートが構築された一番の理由は、大学教育の質保証のためです。しかし、実態として税金を投入して構築した大学ポートレートではなく、民間の新聞社が行っている調査の方が大学教育の質保証に資するということであれば、これほど大きな自己矛盾はないのではないでしょうか。ポートレートの構築に関しては国家予算も投入されている訳ですから、*3 質保証に繋がっているかどうかを政策的に検証していく必要があります。
また、これは私立大学に限った話ですが、今年からは私立大学等改革総合支援事業のタイプ1で「大学ポートレートに参加しているか」という設問が新規に追加されました。補助金獲得のために各大学は動くでしょうから、今後も大学ポートレートに情報を登録していくことが容易に想像できます。しかし、大学間比較ができないことで受験生や保護者に情報が伝わらないと仮定するならば、行政・大学・受験生の3者にとっても不幸なことです。この点を踏まえても、やはり大学ポートレートに大学間比較が可能となる機能を実装することこそ、あるべき姿に繋がるのではないかと私は思います。真に利用されるための公的データベースを目指して、大学ポートレートの進化に期待したいです。

【2015/09/14追記】
文部科学省が平成27年度に行った政策評価独立行政法人評価のうち、中期目標管理法人評価にて私学事業団の業務実績評価が公表されていますが、その中に私学版大学ポートレートについての記述がありますので、こちらでもご紹介します。なお、私学版大学ポートレートの構築に係る費用も公表されており、事業団の助成業務の収益から3億4千2百万円を拠出したとあります。*4具体的な費用なども明らかになってきましたので、今後の大学ポートレートの充実化に関する議論を継続して望みたいですし、大学の質保証に繋がる仕組み作りを考えていかねばなりません。

<評定に至った理由>
大学ポートレートの構築にあたっては、私学版ポートレートを構築し、予定どおり平成26年10月に稼働させたこと、また、私立大学等への積極的な働きかけや学校法人へ配慮したプレリリース等の実施により、平成 26 年度末の学校参加率について、稼働前に行った学校法人に対する参加意向調査の結果(参加見込み率71.1%)を上回る約9割と高い参加率となったことは高く評価できる。また、広報活動等については、本ポートレートの利用者である高等学校を所管する都道府県にリーフレットを配布するなど適切に取り組んでいると言える。これらのことから、大学ポートレートへの参加学校数が、見込み数より増加したことについて、ポートレートの構築と広報活動による成果と考えられるものの、その因果関係は明確ではなく、所期の目標を上回る成果をあげているとは判断しがたいことから、中期目標に向かって順調に実績をあげていると言うにとどまるため、評定をBとする。
<指摘事項、業務運営上の課題及び改善方策>
特になし
<その他事項>
有識者からは「私学事業団におけるポートレート参加校の増加に向けての努力や取組は評価されるべきであるが、計画及び評価の視点は「ポートレートの構築」と「広報活動」であることから、これらの取組等が中期計画における所期の目標を上回る成果にどのように繋がるのかを明確にしたうえで評価をすること。」と意見があった。

*1:大学ポートレートに関わる私立大学の状況を整理する http://d.hatena.ne.jp/high190/20140408

*2:読売新聞、グッジョブ!!ついに、大学間の教育情報の比較が可能に(「大学・NPO経営」と「初めての子育て」) http://blog.livedoor.jp/kotolier/archives/51978489.html

*3:構築にかかる費用等を調べていますが、まだ情報を見つけられていないので、見つけ次第掲載します

*4:日本私立学校振興・共済事業団(助成業務)の平成26年度における業務の実績に関する評価(文部科学省)によると、「大学ポートレート(私学版)の構築にかかる開発費(3億4千2百万円)は、参加学校に費用負担をかけず、その全てを助成業務の収益でまかなった。」とあります。 http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2015/09/11/1361260_15.pdf

日本学術会議が7月31日(金)に「人文・社会科学と大学のゆくえ」と題した公開シンポジウムを実施するので、お知らせします

high190です。
国立大学法人を巡る改革状況はめまぐるしく動いていますが、*1 *2特にその中でも議論の対象になっているのが人文社会科学系の学部・大学院の再編についての議論です。
この政策動向を受けて、日本学術会議が「人文・社会科学と大学のゆくえ」と題した公開シンポジウムを開催するそうですので、当ブログでもご紹介したいと思います。


文部科学大臣は去る6月8日、各国立大学法人に対して、「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」の通知を行ないました。そこでは、国立大学法人の組織の見直しにさいして「特に教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学部・大学院については、18歳人口の減少や人材需要、教育研究水準の確保、国立大学としての役割等を踏まえた組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めることとする」とされています。このことがわが国における人文・社会科学のゆくえ、さらには国公私立を問わず大学のあり方全般にどのような影響を及ぼすか、また今後、人文・社会科学はいかにあるべきか、どのような役割をはたすべきかについて、緊急に討論を行ないます。
日本学術会議の会員・連携会員、大学関係者のみならず、この問題に関心をお持ちのメディアや市民の皆さまのご参加をお待ちしています。

登壇されるメンバーも非常に豪華ですね。以下が当日のタイムラインです。個人的には本田由紀先生がどのような観点で発言されるのかに関心があります。

人文・社会科学系の見直しについては、京都大学総長を始めとして多くの場所で反対意見も出ています。*3これからの社会において、大学の人文・社会科学系の学問がどのような点で貢献していけるのか、議論の内容に注目したいと思います。

*1:国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて(通知) http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/062/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2015/06/16/1358924_3_1.pdf

*2:国立大学経営力戦略 http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2015/06/24/1359095_02.pdf

*3:山極壽一・京都大学総長インタビュー 「歴史や文化を科学に結び付け優秀な学生を世界に送り出す」 http://diamond.jp/articles/-/74128

日本の大学経営に必要な"人材体制"とは

high190です。
産業界と大学との関係性が変化してきていることについて、最近色々な場面で資料等から感じます。ある意味、国家戦略としての大学改革を産業競争力会議などで主導し、その議論をベースに大学改革の諸政策が動いているということです。
では、そういった議論の下地はどのように作られているのでしょうか。そのポイントとなるひとつのイベントが日本経団連主催で開催されていましたので、そちらの内容を踏まえながら、大学の現場で働く者の目線から捉えなおしてみたいと思います。なお、本稿は主として国立大学法人を対象とした内容になると思われますが、現状の国立大学改革に関する流れや懸念材料などを詳細にまとめたブログがありますので、そちらをリーディングアサインメントとして読んでいただければ、より理解が深まると思います。*1


21世紀政策研究所榊原定征会長、三浦惺所長)は15日、都内で第114回シンポジウム「研究開発体制の革新に向けて―大学改革を中心に」を開催した。研究プロジェクト「ナショナルシステムの改革方策に関するプロジェクト」(研究主幹=橋本和仁東京大学大学院教授)の研究成果を紹介するとともに、特に注目されている大学改革を中心に議論した。

■ 研究報告「研究開発体制の革新に向けて」

冒頭、橋本研究主幹が、大学改革、研究開発法人改革、科学技術イノベーション拠点の形成、産業界の変革について研究報告を行った。政府は、成長戦略の推進にあたってイノベーションを重要視し、特に大学の役割が不可欠であるとして「大学改革」を進めていると解説。国としてのイノベーション創出のシステムをつくるためには、産学官の連携拠点をつくり、大学と研究開発法人がそれに向けた制度改革を行い、産業界も協力して産学官が一体となって連携を推進することが重要であると指摘した。また、「尖ったサイエンスから生まれる真のイノベーション」を得るために、産業界は大学を育てることに対して当事者意識を持ってほしいと述べた。

■ 講演「アメリカにおける大学改革とグローバル戦略」

続いて、上山隆大・政策研究大学院大学副学長が講演を行い、キャッチアップ型の経済から抜け出すためにはまったく新しいイノベーションが必要であり、それを担うのが、新しい知識、アイデア、構想、概念をつくり出すための実験場である「研究大学」だと指摘。
アメリカの大学はかつて今の日本と同じような状況に置かれていたが、1980年代に、国家戦略として技術移転、知的財産を重視するように変革するなかで、大学の収入を多様化して財務基盤を強化するとともに、大学本部のガバナンスとマネジメント力を強化して、大学全体の戦略を考えた資金配分を行い生き残ったと説明した。そのうえで日本の大学改革について、産業界が積極的に関わり、投資することが非常に重要であると述べた。

■ パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、澤昭裕・21世紀政策研究所研究主幹をコーディネーターに、上山氏、須藤亮・経団連未来産業・技術委員会企画部会長、橋本研究主幹の間で、会場からの質疑も交えた活発な討議が行われた。

須藤氏は、実現すべき日本の姿を産学官で共有することが重要だと指摘。大学は経営的な視点を持ち、教育や研究をビジネスとしてとらえる観点が必要だと訴えた。さらに大学も変わってきており、(1)大学を育てる意識(2)産学官連携でオープンに研究開発する領域の拡大――等について、産業界としても早急に議論する必要があると述べた。

上山氏は、アメリカにおけるプロボスト(研究・学術担当副学長)のような大学経営ができる人材を育成する必要がある等を指摘した。

橋本研究主幹は、(1)実現すべき日本の姿を産学で共有するのは容易ではないが、政府の科学技術基本計画がこれに相当する(2)大学に経営人材が育つのを待っていられず、今ある人材で対応しなければいけない(3)産業界とさらなる意見交換をしたい――と述べた。

さて、色々と取り上げていきたい点がありますので、順番に書いていきます。
まず、上山隆大教授が指摘するアメリカの大学における1980年代の議論についてです。この点については、上山先生が産業競争力会議文科省の会議で発表されている資料を見れば、大凡の流れが掴めるかと思います。*2 *3また、私のブログでも取り上げさせてもらったことがあります。*4アメリカが1980年代に大学の危機をどのようにして乗り越えたのか、その点を多くの場で話されています。なお、このことに関連しては、上山先生が2010年に書かれた以下の著書を読むと、より理解が深まると思います。

上記の発表資料のうち、産業競争力会議での発表内容から一部を引用します。

アメリカの大学の財務環境は激変している。そしてそれは世界の大学の潮流でもある。日本の大学の財務状況は、国立大学の運営費等交付金の一律削減の影響や、18歳人口の減少によって悪化しているが、諸外国と較べればその減少の度合いはそれほどではないし、日本の大学行政は、むしろ安定している。問題は、諸外国の大学が自らの力で財務環境を改善する努力を重ねているのに対して、日本の大学の財務マネジメントには、それを追究する自由と気概が失われていることである。また、民間からの寄付を含めた活動が欠かせないにもかかわらず、そのような努力が「公的」あるいは「国家的」な利益に直結するという認識に欠けていることに問題がある。

(中略)

ハーバード大学では、80年代に入ると Office of Presidentの人件費が急速に増大している。つまり、全大学のビジョンを決めマネジメントを行なう体制が急速に発展したことを示している。

このように財務マネジメントを柔軟に行えるような体制を整備すべきという意見です。また、ハーバード大学においてOffice of Presidentの人件費が急激に増大していることに触れています。これは、大学がマネジメント能力のある人材を集め、ガバナンス体制を強化していったということを証するものです。また、先に紹介した日本経団連のシンポジウムや産業競争力会議において、上山先生はプロボストの重要性を掲げています。では、プロボストとはどのような人物を指すのでしょうか。また、日本の現行法令等において実現可能性があるか否かを整理しておきたいと思います。現行法令において可能か否かですが、今年4月から施行された改正学校教育法において、副学長の職務を明確化する条文が新たに設けられました。*5

(1)副学長の職務(第92条第4項関係)
副学長の職務は,これまでは「学長の職務を助ける」と規定されてきたが,学長の補佐体制を強化するため,学長の指示を受けた範囲において,副学長が自らの権限で校務を処理することを可能にすることで,より円滑かつ柔軟な大学運営を可能にするため,副学長の職務を,「学長を助け,命を受けて校務をつかさどる」に改めたこと。

このように、アメリカの大学におけるプロボストのような職務を担う機能については、法令面ではカバーされたところです。しかしながら、先に私が紹介したブログ記事「教育再生実行会議による提言は大学ガバナンスの向上に資するのか」でも指摘したところですが、アカデミック・アドミニストレーター(教学管理職)をどのように育成していくか、という点の議論はまだまだ足りていないのではないかと思います。また、LEAP研修でアメリカの大学を直に体験した方のお話を聞いたときにも、プロボストのことが頻繁に語られていたことが印象に残っています。*6では、この点に関する先行研究があるか否かですが、こちらについては、科学研究費補助金の奨励研究にて「大学戦略マネジメントにおけるマネシャー職の再定義と組織化に関する研究」が行われ、成果報告書が公開されていますので、こちらでご紹介したいと思います。この研究成果をまとめられた吉崎誠さんは、当時、国際教養大学に勤務されていました。現在は関西外国語大学で事務局長をお務めです。*7


(1)研究目的:
本研究は、マネージメントのあり方を視野に収めて、国立大学法人化後の大学経営に求められるようになった戦略計画(中期目標・中期計画)の形成のプロセスのあり方と、それを実践するマネジャー職の役割について検証するものである。
(2)研究方法:
このために、戦略計画の構造・内容に係る先行研究を整理するとともに、本研究の底本となった"Strategic Planning for Public and Nonprofit Organizations-Rev.ed."(1995;Jossey-Bass)の著者であるJohn M.Bryson(Professor,University of Minnesota)に、大学組織における戦略計画の構造、策定過程などについてインタビューを行った。また、米国の主要な大学の戦略計画をWebから得るとともに、ミネソタ大学、オレゴン州立大学を訪問し、戦略計画の形成過程、マネジャーの係わり等に関して、トップマネジャー(副学長)やミドルマネジャー(学部長)、これらを支援するInstitutional Research Officeの所長などの担当者へのインタビューを試みた。また、日本同様に、最近大学の法人化に踏み切った台湾の国立臺灣大学、真理大学、開南大学を訪問し、トップマネジャー(学長、副学長)およびミドルマネジャー(学部長など)へのインタビューを行い、大学における戦略計画に係わる情報を収集した。
(3)研究成果:
戦略計画は、いまや大学におけるマネージメントを語る上での共通のツールとなっていると言っても過言ではない。それは、プランニングされたビジョン・戦略・計画などを組織の内外に対する最も重要なコミュニケーションとなっている。
これら戦略計画は、アメリカの大学では、トップダウンボトムアップのミックス型で形成されている。タスクフォースを形成し、内部環境分析・外部環境分析を行い、多くの構成員が数年をかけ議論し策定に至っている。また、いい提案は他のタスクフォースに紹介し、各タスクフォースの意見に傾聴するなどProvost(副学長)の果たした役割が大きいが窺われた。他方、戦略計画の導入に日の浅い日本および台湾の大学における戦略計画は、トップダウン的な手法により策定している傾向にあり、戦略計画にも進化のフェーズがあることが見てとれた。
今後の課題としては、日本の大学において戦略計画(中期目標・中期計画)を経営にいかに浸透させるか、またマネジャーの果たす役割などについて、引き続き検証していきたい。

上記の研究成果では、大学における戦略計画の策定・実行に関する諸外国の大学マネジャーに対するヒアリング結果をまとめたものですが、戦略計画の策定にあたって、タスクフォースとの関係におけるプロボストの役割に関する言及があります。このような点は日本における大学ガバナンスの進化にあたって、非常に重要な示唆を持っていると思います。戦略計画とは?という点では、私のブログで紹介したことがありますので、そちらもあわせて参照していただければと思います。*8国際教養大学は、英語のみの授業・留学の必須化を推し進めた先駆的な大学ですが、加えて教授会なども英語のみで実施するなど、ガバナンス面でも欧米のモデルを取り入れた大学であると思います。そうした大学を作るところから参画していた方が上記のような研究を行われていることは、興味深いと思います。
これまで挙げてきたように、大学のガバナンスに関わるプロボストの重要性は様々な人物が指摘しているところです。しかし、プロボストにはどういう人物がなるべきか?という問いには明確な答えがないのも事実です。このことからも、各大学においてガバナンスの重要性を理解し、自学のミッションに適合する人材を配置(外部からのリクルーティング、内部での育成の両面)していくことが求められています。
また、職員においても、大学組織の構成員の一員として、上記のような動向を理解して、ガバナンスの向上にあたって自分がどのような形で参画していけるのかを考えなくてはいけないのではないでしょうか。

*1:ここ最近の大学改革の流れと今後の国立大学。(大学職員の書き散らかしBLOG) http://kakichirashi.hatenadiary.jp/entry/2015/06/12/001130

*2:大学のガバナンスと戦略力の強化(2014年11月19日 産業競争力会議「新陳代謝・イノベーション WG」) http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/wg/innovation/dai3/siryou2-1.pdf http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/wg/innovation/dai3/siryou2-2.pdf

*3:大学財務から見た研究経営の戦略的マネジメント(2015年5月14 (木) 競争力強化に向けた大学知的資産マネジメント検討委員会@文部科学省) http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu16/008/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2015/05/29/1358325_5_1_1.pdf http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu16/008/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2015/05/29/1358325_5_1_2.pdf

*4:教育再生実行会議による提言は大学ガバナンスの向上に資するのか http://d.hatena.ne.jp/high190/20130610

*5:学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律及び学校教育法施行規則及び国立大学法人法施行規則の一部を改正する省令について(通知) http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1351814.htm

*6:LEAPプログラム参加の大学職員による研修報告を聞いてきました http://d.hatena.ne.jp/high190/20120730

*7:http://www.rcus.tsukuba.ac.jp/news/2013news/201402workshop.pdf

*8:日本の大学が海外の大学から学ぶべきものは何か?リーズ大学(University of Leeds)の戦略マップに学ぶ http://d.hatena.ne.jp/high190/20111124