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Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

東京大学の秋入学への移行に関する雑感と大学の機能分化についての私見

high190です。
先日、東京大学が入学時期を秋学期に全面移行を検討しているとの報道があり、1月20日に正式な発表がありました。*1
様々なところで秋入学の是非が議論されているのですが、私なりに思うことを書いておきたいと思います。とりあえず、まず紹介したいのが以下の記事です。


教育や研究の国際競争力確保を狙い、東京大が、全学部の入学時期を秋に移そうと動き出したことについて、私立大には複雑な声もある。
早稲田大の内田勝一副総長は、「すぐ大学で学びたい学生もいるのに、全員を半年間も待たせるべきではない。4月入学と秋入学を併存させるのが現実的な選択ではないか」と疑問を口にしていた。
大学進学率が50%を超える一方、国内には800近い大学があり、少子化などの影響で定員割れに苦しむところも多い。一部大学では、事実上、学力を問わずに入学させることも常態化している。
ある地方私立大の理事は「受け入れた学生をどう育てるか、社会人としての力をどうつけるか、就職先をどう確保するかの方がより切実だ」といい、こう言葉を継ぐ。「一部の大学が騒いでいるだけだ」

あくまでも一例ですが、全ての大学において秋入学移行に賛成ではない、ということが分かる記事だと思います。さて、今回の東京大学による秋入学の検討開始については様々な意見が出ていますが、既に来年から秋入学でスタートしようとしている大学があることは、あまり知られていません。来年9月から開学する5年一貫制の沖縄科学技術大学院大学(以下、大学の略称である「OIST」と言います。)がそうです。この大学については、このブログでも何度か記事にしたことがあります。*2 *3 *4

OISTが文部科学省に提出した設置認可申請書の「設置の趣旨等を記載した書類」に秋入学のことが書かれていますので、関係部分を抜粋します。


大学院大学の必要性

日本国内の既存の大学では、外国人の教員、研究者、及び学生の比率は高くない。世界最高水準の教員、研究者、及び学生を呼び込むためには、国際的なコミュニティーを構築し、外国人の教員、研究者、及び学生にとって魅力的な条件を整備することが重要である。既に定着した文化や管理運営機構を持つ伝統的な大学においては、これを達成することは困難である。例えば、英語を大学の公用語として使用することは、出身国に関わらず、トップレベルの科学者や学生の研究活動や勉学をより容易なものとする。世界中から、最高水準の教員、研究者、及び学生を獲得することができるような国際コミュニティーを構築する必要がある。

基本コンセプト

本学は、教職員、学生、組織文化、行動規範及び教育研究の言語の点で、十分に「国際的」な環境を醸成する。ここでは、英語が教学及び管理運営の公用語である。博士論文も英語で作成することとする。また、教授陣・学生の半数以上を外国人とする。日本人・外国人学生は、共に隔たりなく、こうした多様で特異な環境にさらされることによって、他に類を見ないほど自由で革新的な科学の見方を養うことになる。

学年暦

学年暦は、国際的に最も普及している9月から開始する。これにより、世界中からの学生獲得を容易にする。一学期は9月1日から12月31日、二学期は1月1日から4月30日、三学期は5月1日から8月31日までとする。

以上のように、OISTは大学院大学として世界中から優秀な人材を集めるために9月入学を導入することとしています。また、私が秋入学の観点からOISTの書類を読んでみて、一番印象に残ったのは「既に定着した文化や管理運営機構を持つ伝統的な大学においては、これを達成することは困難」という点です。東京大学は、明治10(1868)年に創立している140年以上の歴史ある大学ですので、秋入学に移行するにあたって、今までの伝統をどれだけ変えていけるのかということが大きなポイントだと思います。また、東京大学が秋入学の検討を始めたことについては、平成17年に出された中教審答申「我が国の高等教育の将来像」における「世界的研究・教育拠点」を、東京大学が真剣に目指し始めたことの表れであるとも感じます。この背景にはTimes Higher Educationなどの大学ランキングにおいて、2010年のランキングではアジアトップの座を香港大学に明け渡すなど、日本の大学が欧米のみならず、アジアの中でのプレゼンスをも失いつつあることへの危機感だと私は思っています。*5
別の観点から考えると、東京大学などが世界的研究・教育拠点を目指すのと同時に、アルファベットから学生に指導する大学があること*6からも、大学の機能分化が一層進みつつあるとの読み方もできると思います。(個人的には、社会に接続する最後の教育機関としてのミッションを果たそうとしている日本橋学館大学の取り組みには賛成です。)以上のことからも、東京大学の秋入学については、世界的研究・教育拠点を目指すための施策であると理解することが一番重要であり、他大学においては「我が国の高等教育の将来像」で示された機能分化をそれぞれのミッション・規模に応じた形でどのように理解し、大学経営に生かしていくのかを考える機会になるのではないかと思います。

*1:入学時期の在り方についての検討−http://www.u-tokyo.ac.jp/gen02/fall.enrollment.html

*2:沖縄科学技術大学院大学の初代学長はスタンフォード大学教授に−http://d.hatena.ne.jp/high190/20100710

*3:沖縄科学技術大学院大学オープンキャンパスに約2,000人が来場−http://d.hatena.ne.jp/high190/20101205

*4:沖縄科学技術大学院大学の専任教員に定員の約37倍もの応募が−http://d.hatena.ne.jp/high190/20110216

*5:Times Higher Educationが2010年の世界大学ランキングを発表−http://d.hatena.ne.jp/high190/20100917

*6:アルファベットから始める大学は、大学としての機能を失っているのか?大学の機能分化についての私見−http://d.hatena.ne.jp/high190/20111018