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Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

東大生のキャリアパスに変化が現れ始めた?

high190です。
日本の最高学府といえば、誰もが認める東京大学。これまで多くの国家官僚や政治家を輩出してきた、まさしく日本のエリート養成機関です。そうした伝統も最近では少しずつ、風向きが変わりつつあるようです。

日本はかつて「政治は三流だが官僚は一流だから大丈夫」と言われた。しかし、最近は「エリート官僚」の座を惜しげもなく捨て、野に下る若手官僚が急増している。東京大学法学部の成績優秀者も官僚になることを敬遠し始めた。「天下り」のあっせん禁止を柱とする公務員制度改革論議も相まって、「霞が関」(中央省庁)はかつてないイメージ悪化や閉塞感に加えて人材の「霞が関離れ」に危機感を募らせている。


◇局益優先の旧態依然 「国の仕事にやりがいを感じない」

霞が関の各省庁は最近、若手のキャリア官僚(国家公務員1種試験合格者)の退官者が相次ぐ事態に危機感を抱いている。人事院が「我々も各省庁も人材確保には大変頭を痛めています」(渡辺直一・総務課広報情報室長)と率直に認めるほどなのだ。
橋本龍太郎内閣で、旧通商産業省(現経済産業省)から出向して首相秘書官を務めた江田憲司衆院議員(51、無所属)は、「私が通産省にいた1980年代には、家業を継ぐなどの理由で5年に1人くらいキャリアが辞めたら、省内で話題になった。それほど珍しかった」と振り返る。ところが、最近ではキャリア官僚の退職は急増している(図1)。


◇毎年60人のキャリアが退職

人事院によると、2006年までの5年間に、特殊法人地方自治体などへの出向に伴う形式的な退職を除いた自己都合退職者は、全省庁で計292人に達している。毎年60人近くものキャリア官僚が霞が関を去っている計算だ。省庁別では経産省総務省が各43人で最多。年20〜30人程度しか採用していない両省の“エリート官僚”のうち、年平均8〜9人が辞めていることになる。経産省では同期の半数程度が辞めた入省年次もあるという。
なかでも、97年入省の財務官僚3人が国費留学から帰国後間もない01年春、ほとんど同時に退職し、外資コンサルタント会社や外資系ファンドに転職したことが問題となった。
国費留学は、国を担うために必要な国際的な識見を広める目的で、入省8年未満の若手官僚を対象に2年間、海外の大学院などに国費で留学させる研修制度。ところが、この制度を自らのキャリアアップだけに利用する「食い逃げ」が後を絶たないのだ。人事院によると、04年度までの5年間に国費留学した599人のうち、1割近い47人(06年10月時点)がすでに退職している。省庁別で最も退職者が多いのがやはり経産省だ(図2)。「食い逃げ」を防止しようと06年4月、5年未満で退職した場合には留学費用を返還させる法律が制定されたほどだ。
若手官僚たちは、「日本最高のエリート」の座を、なぜあっさり捨て去るようになったのか。


◇理想と現実のギャップ

村上正泰さん(32、東大経済学部卒)は、「食い逃げ」が問題となった元財務官僚3人と財務省で同期の97年入省組だ。自身は06年に退官し、現在は独立系民間シンクタンクである財団法人日本国際フォーラム伊藤憲一理事長)で研究主幹に就き、政府に対し外部から政策提言を行っている。同省で同期のキャリア官僚19人のうち、村上さんらを含めすでに7人が財務省を去った。
退官の理由について、村上さんは霞が関では政策に精一杯取り組めないから」と語る。霞が関では、過去の政策との摺り合わせや与党、他省庁への根回しなどに膨大なエネルギーを費やす「局あって省なし。省あって国なし」と揶揄されるように、時には国益より「省益」、省益より「局益」を優先しなくてはいけない。そんな理想と現実のギャップに耐えられなくなったのだ。
99年入省の鈴木馨祐衆院議員(30)は05年に退官し、同年夏の衆院選(比例・南関東ブロック)で初当選した。開成中・高から東大法学部、財務省とすべてストレートで進んだ絵に描いたような“エリート”だが、霞が関の仕事を「失敗を恐れ、減点法で評価される仕事。80点や90点ではダメで、膨大な時間と労力をかけて100点満点を目指す非効率な作業ばかり」と振り返る。「朝方までの仕事が連日続く。やっと満点のものを作ったときには、もう時代が変わっているということもある」。
鈴木さんは海外留学から帰国して約1年で退官したため、留学費用を返還した。「留学後に戻りたくなるような職場を作ってくださいと言いたい」と若手官僚の気持ちを代弁する。


◇やっぱりカネ?

霞が関の閉塞感を内部から打破しようとする若手官僚の動きもある。村上さんらと同じ97年に旧通産省に入省し、現在は独立行政法人日本貿易保険に出向中の朝比奈一郎さん(34、東大法学部卒)らが中心となって03年に発足した若手官僚の会「プロジェクトK」がそれ。朝比奈さんの経産省の同期も21人のうちすでに4人が辞めたが、朝比奈さんらは現役官僚のまま、霞が関の組織・人事・業務などの改革案を内外に発信している。
02年に内閣府に入り、厚生労働省に出向中の松本宏太さん(28、法政大学法学部卒)も「プロジェクトK」のメンバーのひとり。「日本社会全体の閉塞感に加えて、組織の役割も変化したのに体制は昔のまま。閉塞感を抱えている官僚は多い」と霞が関の問題点を指摘する。
経産省に退職者が多いのは、「規制緩和で行政指導権限が激減し、最も地盤沈下が激しい」(同省OB)ことが、省内の閉塞感に拍車をかけている可能性はある。ただ、それ以上に、幅広い業界を所管しているため業界との接点が多く、民間の情報が入りやすいことが影響している可能性がある。なかでも急成長しているIT業界を抱えており、担当分野に民間の受け皿やビジネスチャンスが多いという事情もありそうだ。
78年入省の安延申さん(51、東大経済学部卒)は、旧通産省の中枢である電子政策課の課長としてIT政策立案の中心的役割を担い、将来の事務次官最有力候補と言われたエリート官僚だった。それだけに00年に44歳で退官し、スタンフォード大学の日本センターに再就職した際には「霞が関に衝撃が走った」(経産省官僚)。
入省5年目の82年には、摩擦が高まっていた日米半導体問題の担当スタッフとして「3カ月間で家に帰ったのは20日だけ」という激務もこなした。決してやりがいがなかったわけではない。安延さんは「経産省の場合、課長以上の管理職になると、仕事がつまらなくなることもあるが、辞めた理由を露骨に言えばカネとギャンブリング・マインド。子供にそれなりの財産を残したいと考えたとき、40歳くらいの役所の給料では何もしてやれない」と悪びれる様子もない。「退職金が約1000万円程度で、当時の年収はそれよりちょっと多いくらい」。上場企業の管理職とも遜色のない待遇だが、民間に転じれば、もっと高給が望めると考えた。

村上ファンド」を設立した村上世彰氏も83年入省の通産官僚OBで、同様に「ルールを作る立場からプレーヤーになりたい」と霞が関を飛び出したひとりだ。
経産省などの経済官僚は、まだ民間の活躍の場に恵まれているが、旧労働省OBで現在は兵庫県立大学大学院准教授の中野雅至さん(42、同志社大学文学部卒)は、「辞めたくて仕方ないのに辞められない同期の役人がたくさんくすぶっている。閉塞感は相当ひどい」と古巣を心配する。官僚のまま40歳を過ぎれば、あとは「天下り」に期待するしかないということか−−。


◇東大法学部生は霞が関より法曹界

学生の官僚人気にも陰りが見える。07年度の国家公務員I種試験の志願者数は2万2435人で、前年度より3833人(14・6%)も減り、「上級」から「I種」に制度が変更された85年度以降で最少となった。ある大手公務員受験予備校の担当者は、その背景として、(1)官僚のイメージ悪化、(2)民間企業の業績回復、(3)「記念受験」者の減少、(4)「小さな政府」方針による先行き不安感−−などの要因を挙げる。
なかでも「キャリア官僚養成の総本山」である東京大学法学部からの任官者の減少は際立っている。東大法学部から公務員(地方自治体などを含む)になる人数は、90年代前半までは毎年安定的に150〜200人程度だったが、官僚不祥事が続出した90年代後半から急減している。98年度には100人を割り込み、06年度は68人(中央省庁)に激減した。
05年度には、東大法学部生の農水省への入省者が戦後初めてゼロになり、東大生の「霞が関離れ」を象徴する出来事と話題になった。06年度は2人、07年度も内定者が出そうということだが、省庁間の人気格差も拡大している。最近、合格難易度が最も高いのは外務省で、警察庁も人気が高い。一方、かつて「別格」だった財務省は人気の凋落が著しい。目指す省庁だけを受け、落ちたら霞が関以外に、という選択をする東大生も増えているという。
東大法学部生の最近の傾向は、04年に開設された法科大学院ロースクール)への進学。「官僚になっていた層の一部が、法科大学院に進み、弁護士など法曹会への道を目指す傾向にある」(東大法学部学務担当)という。M&A(企業の合併・買収)などを扱う企業弁護士や国際弁護士など、華やかで稼ぎがいい仕事を目指す学生が増えているようだ。
法学部に限らず、東大全体で見ても、卒業後に公務員になる人数は大幅に減っている(図4)。90年度には316人だった公務分野への就職者は05年度に162人と、ほぼ半減している。「最近は各省庁の人事担当者が随分熱心に説明会をやるようになった。06年にできた公共政策大学院の修了生獲得に特に力を入れているようだ」(東大法学部)。公務員試験予備校では、毎年7月頃から各省庁による大学1、2、3年生向けの説明会が始まる。「02年頃から各省庁がPR活動に本腰を入れ始めた。そうしなければ優秀な人材が集まらないという危機感が強いようだ」(大手資格試験予備校の早稲田セミナー)。


◇官僚は「公」に殉じない?

東大が05年11月に実施した学内調査によれば、希望の職業に就きたい理由として、「人を助けたり、社会に奉仕する」を選んだ学生は、「自分の特技・能力や専門知識が活かせる」(63・2%)に次ぐ42・4%を占めた(3つまで選択)。「この理由を選ぶ学生が近年増えているわけでも減っているわけでもない」(東大キャリアセンター)のに、実際には公務員志望者は減っている。なぜなのか。
 安延さんは、「積極的に民間企業を選ぶというより、官僚スキャンダルの続発で官僚の世界は私利私欲の原理で動いている、と学生が感じているためではないか」とみる。東大生の「公に殉じる」精神は変わっていないが、官僚という職業がそれに適っていないとの受け止め方だ。「経済がグローバル化し、社会やビジネス界が急速に変わっているのに、役所は対応しきれていない」とも指摘している。

閉塞感、いくら誠実に取り組んでも報われない仕事、局益に振り回される毎日、こうした現状からすると官僚志望の学生が減ってしまうのも無理はないのかも知れません。これはまさしく頭脳の流出であり、日本の国家的危機であると言っても過言ではないと思います。

こうした事象の一因として、公務員給与の問題がありますが、私はそれよりもキャリア官僚が自らのキャリアパスを描けなくなったことに問題があると思います。一連の公務員制度改革で、天下り先は削減され、国家公務員の待遇は悪化したと私は考えます。
これに対しては、「今までが優遇されすぎていた」などの批判があると思いますが、国家の中枢で働く人間に対してはある程度のインセンティブがなければ優秀な人材を確保することは難しくなるでしょう。国家を動かすべき優秀な人材が失われることは、国力の低下に繋がり、国家の存亡に関わる重大な問題です。

東大生が霞ヶ関を敬遠し始めたということは、日本の国力が下がり始めることの前兆であると考えても大事ではないのではないかと私は思います。
私には、中央省庁と政治家との「せめぎ合い」がどのようなものか現実を知りません。しかし、公務員制度改革で表面的な部分を動かすのではなく、本当の意味で官僚が報われるようにすることこそ、政治家の役割なのではないかと思います。