high190です。
ご報告がだいぶ遅れてしまいましたが、2月6日(木)、7日(金)に東京の国立情報学研究所で行われたJAIRO Cloud説明・講習会に参加してきました。私は初日のみ参加でしたが、勉強になったので、当日の様子をまとめておきたいと思います。
ちなみにJAIRO Cloudとは国立情報学研究所が提供する共用リポジトリサービスのことです。リポジトリとは「大学とその構成員が創造したデジタル資料の管理や発信を行うために,大学がそのコミュニティの構成員に提供する一連のサービス」という定義がなされているようです。*1平成25年4月1日に施行された学位規則の改正によって、今まで印刷公表とされていた博士論文の公表方法がインターネットを利用した公表と改められたことにより、*2にわかに大学関係者を賑わす話題になりました。
リポジトリ構築の背景にはオープンアクセスの進展や学術情報基盤の整備など、様々な要因が絡み合っていますが、私は教務事務の人間なのであくまでも素人目線からの意見となることをご了承下さいませ。
【JAIRO Cloud新規参加説明会】
1.機関リポジトリの概要(国立情報学研究所(以下「NII」という。) 尾城次長)
2.JAIRO Cloud説明会
1.機関リポジトリの概要説明(北海道図書館附属図書館・佐々木氏)
2.JAIRO Cloudの概要説明(NII・前田係長)
3.WEKOの概要説明及びデモ(NII・加藤氏)
3.機関リポジトリの学内整備について(信州大学附属図書館・徳永氏)
4.質疑応答
- コンテンツの内容として紀要、学位論文を考えているが、ワーキングペーパーなども登録したいと考えているが、他大学でそういった例はあるか?
- 主なコンテンツの種類は学術論文等に限っている。あまりそういった例は聞いたことがない。
- データ類の登録を研究者から相談されているので、今後はそういったデータの登録も視野に入れている
- Ciniiに登録しているデータは自動的にJAIRO Cloudに反映されるのか。また過去に登録していたデータは登録されるのか。また、大学ニュースなどの資料を掲載している大学もあるが、そういったデータを掲載することの問題は無いのか。
- 学術論文・紀要論文は自動的にCiniiに入る。過去に掲載していたデータも登録できる。登録できる情報は学術情報のみとしている。何をもって学術コンテンツとして定義するかは各大学の考え方による。
【機関リポジトリ基礎講習会】
1.コンテンツ収集について(信州大学附属図書館・徳永氏)
- 広報活動
- リポジトリは新しい活動であるため、学内の教員に対する広報活動がコンテンツ収集には非常に重要。
- Connect,Contents,Consumerの3つのC
- Connect−人とサービスをつなげる
- Contents−集める→集まるに
- 学術雑誌論文、学位論文、紀要論文が中心になる
- 発行主体によって、アプローチが変わる。
- 教員個人の活動(学会発表等)をいかにフォローするか
- コンテンツの持ち主との「対話、プロモーション」が全て
- 学術雑誌論文
- 「何でもください」より「これをください」
- 教員執筆の論文を事前に把握しておくこと
- 教員の手間は、共著者の了解と論文を図書館に送るだけにする
- 紀要論文
- 新規分と過去分で取扱が異なる
- 著作権が著者本人に帰属するか、論集委員会に帰属するかを確認する
- 個人の場合
- 個々に確認していく
- オプトアウト一括許諾だと楽(異議ある場合に申出るやり方)
- 委員会の場合
- 論文投稿規程を改正する。
- 委員会での許諾を取って、教員に周知
- 印刷仕様書の改訂を依頼して、印刷業者からPDFを納品してもらうようにする
- 学位論文
- 学位規則の改正によって、博士論文の学位を授与された場合には、原則授与1年後以内にインターネット公表が義務化
- 論文要旨の公表
- 要旨を3ヶ月以内に論文の内容要旨及び論文審査結果の要旨をインターネットで公表
- 博士論文の公表
- 学位授与後1年以内にインターネットにより公表
- 博士論文収集のための準備
- メタデータとは何か?
- 機関リポジトリのメタデータとは
- メタデータを使いやすくするための仕組み
- Ciniiにデータが集まる仕組み
- Junii2と博士論文のインターネット公開
- 学位論文を提出するための条件
- IRDBのデータ提供機関であること
- junii2バージョン3.0に準拠したメタデータをIRDBに提供できること
- Junii2とは
- メタデータの各項目について、記入のルール・使用例などを示したもの。Junii2ガイドライン*5を定めている。これに従ってメタデータを書かないといけない。
- バージョン3.0でメタデータを作る際のポイント
- 学位授与番号も書き方が決まっているので、それに従って書かなければならない。
- 運用上の注意点
- 国立国会図書館に情報を提出する場合、本文がある場合のみETDを著者版フラグに登録する。
- バージョンアップデートの場合、JAIRO CloudはNII側で自動にアップデートする。
- 情報交換の場がある。
4.質疑応答
- メタデータのマッピング設定で項目を追加している場合、一括での更新はされないのか?
- その場合は一括更新できないので、手動切替が必要。
- 博士論文の公開にあたり、やむを得ない事由の確認は必ず行わなければならないのか?
- 論文が共著の場合に、投稿された雑誌論文の著作権が出版社に譲渡されている場合、共著者の許諾を取る必要は無いのか。
- セルフアーカイビングする場合、共有者全員で行っている場合は全員に確認した方がいい。共著者全員の権利なので、全員の意思をもって複製することが筋ではないか。連絡自体は図書館に来るので、後々の揉め事を避けるためにも、共著者全員に確認は取った方がいい。
- 書面等で証拠に残すことはしているのか。出版社のポリシーさえクリアしていればいい、という申し出がある場合もあるがどうか?
- 著者からの申し出をもって、図書館側では受け付けたものとしている。特段、書面等での記録を残すようなことはしていない。
- 過去にさかのぼってバックナンバーを掲載する場合、連絡を取ることが難しい場合には、どのようにして許諾を取っているのか。
- インターネット上で公表すると紀要の規程に書かれていても、写真等を使用している場合には、許諾を得ることが必要なのか。
- その場合には、許諾を得る必要は特段ない。
初日に参加されていた方の多くが図書館職員の方だったようですが、教務の人間が参加しているのは珍しいようでした。私は博士後期課程の設置認可申請を担当し、教務担当として学位規程の改正にも関わった経緯もあって、学位規則の改正に向けたパブリックコメントが出されたあたりから、学内で機関リポジトリの構築を図書館に働きかけるなどして、JAIRO Cloud導入に向けて動いてきました。ただ、肝心の機関リポジトリがどういうものかということを詳しく知る機会が無く「メタデータ?」「ハーベスティング?」という状態だったので、今回の研修に参加して最低限の知識を得ることはできたかと思います。
機関リポジトリに限った話では無く、「教務」「図書館」といった既存の担当業務の間に存在する「隙間」へのニーズが高まってきているように感じます。例えばですが、私の職場では慣例的に図書館と教務の間に人事交流はありません。しかしながら、一昨年の中教審答申でアクティブ・ラーニングの重要性が説かれ、*10昨年8月には科学技術・学術審議会の学術分科会学術情報委員会が「学修環境充実のための学術情報基盤の整備について(審議まとめ)」を公表し、アクティブ・ラーニングを推進するために学修環境の充実として「ラーニング・コモンズ」を活用することや、教員や他の職員とも異なる中間職的人材の必要性などが提言されました。*11
結局のところ、各部署の業務は大学の教育研究という点で繋がっているのですが、業務横断的なSDの必要性を感じます。これは私が小規模大学の職員であることに関係していますが、最低限は他部署の業務等に関する知識を持たなければいけないと改めて感じたところです。特に業務ごとの初任者向け解説書などには目だけでも通しておくとよいかと思います。*12また、学外のリソースを有効に活用するという選択肢もあります。*13
さて、私の職場でも内部の調整は色々ありましたが、どうやら無事に機関リポジトリを整備できる運びです。私にはさしたる専門性は無いのですが、高等教育政策の動向や大学職員で積極的に情報を発信している方の資料に目を通しているから、こうした部署横断的な仕事でも楽しく取り組めたのかなと思います。この辺りは私が新しいことに取り組むことが好きであるという気質が影響しているかもしれないのですが。
*1:機関リポジトリとは何か http://www.lib.keio.ac.jp/publication/medianet/article/013/01300140.html
*2:学位規則の一部を改正する省令の施行について http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/daigakuin/detail/1331790.htm
*3:Digital Repository Federation http://drf.lib.hokudai.ac.jp/drf/
*4:運用指針一覧(公開のみ・DRF) http://goo.gl/73S4Wy
*5:メタデータ・フォーマット junii2(バージョン3.0) http://www.nii.ac.jp/irp/archive/system/junii2.html
*6:JAIRO Cloudコミュニティ https://community.repo.nii.ac.jp/community/
*7:学協会著作権ポリシーデータベース http://scpj.tulips.tsukuba.ac.jp/
*8:SHERPA/ROMEO http://www.sherpa.ac.uk/romeo/
*9:機関リポジトリと著作権Q&A http://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/00023065
*10:新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて〜生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ〜(答申) http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1325047.htm
*11:「学修環境充実のための学術情報基盤の整備について(審議まとめ)」について http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/25/08/1338778.htm
*12:これから大学職員になる人のためのまとめ http://d.hatena.ne.jp/high190/20100426/
*13:小中規模私立大学の新人研修に思う〜学内外のリソースを利用する〜 http://as-daigaku23.hateblo.jp/entry/2014/03/06/070135