Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

飛び入学と高校早期卒業制度の創設に向けた関係を整理する

high190です。
飛び入学制度とは、「特定の分野について特に優れた資質を有する学生が高等学校を卒業しなくても大学に、大学を卒業しなくても大学院に、それぞれ入学することができる制度」のことを指します。*1
現行制度の飛び入学は、平たく言うと、高等学校の途中で大学に入学できる制度であり、高校の卒業資格は得られません。このことについては、内閣官房に設置されたグローバル人材育成推進会議にて議論され、*2あわせて中央教育審議会の高等学校教育部会で卒業資格を付与する早期卒業制度の創設に向けた検討が始まっています。*3高等学校の早期卒業は、高大接続を柔軟化すべく検討されている制度ですが、飛び入学を実施している大学等の実例から学ぶ点は色々あるように思われます。千葉大学は制度が創設された平成10年度から飛び入学の受け入れを行ってきたパイオニアです。受け入れから送り出しまでの流れを整理してみることにします。


才能ある生徒の育成などを目的にスタートした「飛び入学」制度。全国に先駆け導入、全国最多の入学者数を誇る千葉大学は各界に多くの人材を輩出している。だが、裾野の広がりは鈍く県内他大学に追随の動きはほとんどない。志を抱く若者たちからは「能力を試す場所が少ない」とため息が漏れる一方、大学側の“体力不足”が足かせになっているのではとの指摘もある。
鳴り物入りでスタートした飛び入学制度だが、高校の卒業資格を持てないことや手続きが複雑なことが課題。文部科学省は今月上旬、早期卒業制度の創設を検討、学校教育法の改正を目指している。
同省によると、現在飛び入学制度を導入しているのは全国6大学で、本年度までに計101人が入学。最も多いのが千葉大学の68人で、2番目の名城大学(26人、名古屋市)に大きく水をあけている。
すでに51人の卒業生を社会に送り出した千葉大学。2000年、私立開成高校(東京都)から同大学に入学、マサチューセッツ工科大学大学院で博士号を取得し、現在は京都大学大学院工学研究科の博士研究員として材料工学を研究する日沼洋陽さん(30)は「制度が広まっていないことが残念」と後進に門戸が拡大されない点を惜しむ。
生き残り競争が激化する大学にあって、導入のメリットの前にコスト面の課題もありそうだ。

飛び入学についての要件や根拠法令について、文部科学省のWebサイトで情報が公表されています。

対象者に関する要件

  • 大学の定める分野における特に優れた資質を有すること(法第90条第2項)
  • 高校に2年以上在学したこと(施行規則第153条)

受け入れ大学に関する要件

  • 飛び入学の対象分野に関する教育研究が行われている大学院が置かれ、かつ、教育研究上の実績および指導体制を有すること(法第90第2項)
  • 特に優れた資質の認定にあたって、高校の校長の推薦を求めるなど、制度の適切な運用を工夫していること(施行規則第151条)
  • 自己点検・評価の実施およびその結果の公表を行うこと(施行規則第152条)

このうち、受け入れ大学の要件として、制度の適切な運用、自己点検・評価の実施と結果の公表など、単純に制度として導入するだけではなく質保証をしっかり行うことが求められているのです。また、対象分野に大学院が置かれていることなど、将来的には大学院進学を視野に入れた形でないと飛び入学を推進する意味がありません。
記事中で指摘されている高等学校の早期卒業制度については、中央教育審議会の高等学校教育部会で検討が進められていますが、早期卒業と飛び入学をどのように位置付けるのかが問題になりそうです。生徒者側の視点に立つと、早期卒業であれば高等学校の卒業資格を得られることからメリットがありますが、高校側の視点に立つと、早期卒業するにあたっていかに高等学校教育の質を担保するかが問題になります。以上、とても簡単な整理ですが、既存の6・3・3・4制を打破することの期待感のひとつとして早期卒業が挙げられている訳ですが、事はそう簡単ではないということが分かると思います。
初等中等教育と高等教育の接続に関する問題は長年議論されている感がありますが、まずは発達段階ごとの教育目標を達成できる学校教育の再構築が一番重要なのではないでしょうか。飛び入学や早期卒業は、あくまでも学校種ごとの教育内容を高めてからの特例措置だと思いますので、その上で先に行ける素質を持った人を受容する制度として、飛び入学ないし早期卒業が機能することが最もバランスを保てるように思います。

*1:飛び入学について(文部科学省) http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shikaku/07111318.htm

*2:グローバル人材育成戦略(グローバル人材育成推進会議 審議まとめ) http://www.kantei.go.jp/jp/singi/global/1206011matome.pdf

*3:高等学校教育部会(第9回)配付資料「高等学校段階における早期卒業制度に関する考えられる論点(例)」 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/047/siryo/__icsFiles/afieldfile/2012/06/20/1322555_2_1.pdf