Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

平成26年度第18回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました(1日目)

high190です。
9月6日(土)、7日(日)の2日間、東北学院大学で開催された大学行政管理学会の定期総会・研究集会に参加しました。今年の全体テーマは、「大学のちから〜東北で語り合おう 今、伝えたいこと〜」でした。全2日間のプログラムで、1日目は定期総会、基調講演、パネルディスカッション、懇親会が開催され、2日目はワークショップ、研究・研究研究発表が行われました。*1今回もhigh190が参加したセッションについて、所感をまとめてみました。内容が多いので今日は1日目のプログラムに関してのまとめです。理解違いなどがある可能性がありますので、悪しからずご了承下さい。

1.基調講演「震災と大学」−震災が開示した問いについて− (東北学院大学副学長・佐々木俊三氏)

  • 災害の二十の相。東日本大震災での経験
    • ディザスターとは「道を逸脱してしまった」ことを指す。原子力発電所の設置場所は人口過疎の地域に設定され、電力会社が莫大な利益を上げ、その上で安全神話が作られていた。ある者の生活がある者の生活を犠牲にして成り立つ。
    • シューマッハーの財の考え方(small is beautiful)の人
    • 農業や林業第1次産業として捉えない枠組み。食物が芽を出すときの「音」を聞くために農業をやっている。感謝や喜びという経済に還元されにくい要素。イデオロギー的な側面。震災によって生活インフラが止まって、人々は身を寄せ合って生活することをした。
  • 災厄が露わにした「食べること」と「魂」の関係
    • 学生が発した「食う」という言葉への違和感。食事は他者と「食べる」ことで団らんが生まれる。そういった他者との関係性を含めたことが「食べる」ということである。食卓を共にすることの重要性。
  • 「食事による結合」と「絆」
    • 砂漠の民と食事をすることは、宗教的な結びつきではなく、食べることそのものが人と人を結びつけるものだとフロイトが指摘している。これは兄弟などのことではなく、食事によって結びつけられている。
  • イエスキリストの最後の晩餐
    • 聖書に書かれた箇所の引用。パン=イエスの体、葡萄酒=キリストの血。聖餐の話。食べることで人と人が繋がる話。最後の晩餐が示したのは痛みを伴った経験。これは震災にも同じことが言える。
  • ヘーゲル宗教哲学講義。原始的なカニバリズムの講義。
    • アフリカの宗教。呪術師による野蛮な行い。人間は精神であるというヘーゲルの考え方。震災は人間を裸にした。その上で見えてきたものは、互いを食べ合うことによって、精神の”Geist”。学生にカニバリズムの話をしたところ、「何故こんな気持ち悪いことを講義するのか?」と言われた。その上で講義で説明をした。「定食」というものはメニューであって、それがない原始の状況に戻った時に、原始的な生活に戻ったということを体感した。
    • 教育は学校によってのみ行われるという誤解がなされている。教育が学校化される以前、教育の大事な支援は家庭や地域社会など至る所に存在していた。しかし、そういったものを喪失し、全て点数によって還元されるような制度にしてしまった。「原子力明るい未来」という福島の標語は、原発事故の後、象徴的に扱われてきた。便利さから震災によって切り離されて原始的な経験に押し流された。
  • イエスキリストの最後の晩餐の場面。
    • 食物をともにしている共同体。食べることがどれだけ魂に関係しているか。
    • 東日本大震災は二重の災い、農業、漁業、林業の崩壊。そのことで我々にできることは、これらを産業の枠組みに単純に入れてしまうことの問題点。
    • 震災の後、東北学院大学は多くの大学からのボランティア受入の中継基地としての役割を果たした。学生が被災地支援に果たした役割は非常に大きいということを感じた。その際、学生に働くグループとは別に料理の班を作るように伝えた。今年からボランティアステーションには直接的に関わらなくなったが、今夏の活動を見ていると、被災地に若い学生が行ってガヤガヤしながら色々なことをしているだけで、被災地のお年寄りなどに元気を与えることが分かった。我々にとって何が大切で何が大切でないのかを考えながら生活していくことが大切だと思う。
  • 【質疑応答】
    • 学生をボランティアに送り出した際、徐々に学生の顔つきが変わっていくのを目の当たりにして、大学職員としてボランティアに関わってよかったと感じた。東北学院大学で関西方面のボランティア学生を受入れたとのことだが、何か良い話があれば教えて欲しい。
    • ボランティア活動という科目を開講したのは、自分が教養学部長の頃で今から10年以上前のことだった。その当時は色々な批判があった。ある話、本当はやらなければならない仕事があったのだが、お年寄りのお茶飲み話をしっかり聞いてきたが、そのことが本当にボランティアなのか?と学生から質問されたが、それこそがボランティアであると回答した。
    • そうした経験も踏まえて、ボランティアステーション開設を検討していたところで東日本大震災が発生して、1日で開設した。しかし、ボランティアステーションから動こうとしたことはなく、学生の動きを後追いしていた。今後はいつどこで災害が起こってもおかしくない社会。一歩踏み出す力を付けることが大切。

東日本大震災を踏まえた大学と災害の関係について、東北学院大学がミッション系の大学であったことも関係していたかと思いますが、佐々木副学長から哲学的な内容での講演をいただきました。(私の理解力が乏しく雑駁な内容でごめんなさい)佐々木副学長は現在も東北学院大学教養学部地域構想学科で哲学を担当されておられますが、*2参加していた友人が「まるで大学の哲学講義を聴いているかのようだった」と感想を述べていたとおり、教養あふれる内容で震災と大学の関係を捉え直す機会になったと思います。また、佐々木副学長は、以前に東北学院大学災害ボランティアステーションの所長を務められていたことから、学生によるボランティアの力が非常に大きかったことを述べられていたのが印象的でした。

2.ワークショップ(法令改正に伴う今後の教授会のあり方)

  • 自己紹介と論点の確認
  • 事前の質問事項に関する確認
    • 教授会の運営について
      • 大学と短大での合同開催を行ってるところは少数
      • 複数学部での合同教授会を実施している大学もある。
    • 教授会の構成員
      • 助教以上を全て構成員としている大学が多いが、議事の内容(特に教員人事)によって構成員を分けている例が多く見られる。
    • 教授会の位置づけ(審議機関か議決機関か)
      • ほとんどの大学において審議機関として取り扱っており、最終的な決定は学長が行っている。
      • 複数の学部を持つ大学においては、多くの大学で全学の意思決定機関を設けて最終的に学長が決定している。
    • 会議資料の配付方法
      • WEB化している大学もあるが、大半は紙媒体で配布している。
      • 規模の大きい大学では、一部の学部で電子化を行っている例もある。
      • 紙媒体からプロジェクタ投影に改めたものの反発が強かったので、紙に戻したという例もあった。加えて、会議資料は紙で配付しているが、今年一杯でやめることを事前通知して、電子化に備えている大学もあった。
    • 議事概要の公表状況
      • ワークショップ参加の大学で学外に公開している例はなし。その反面、ほとんどの大学においてイントラネットで教職員向けに公表を行っている。
      • また、速報版を担当者が作成し、局課長会議の配付資料として扱っている大学もあった。
    • その他特徴的な取り組み
      • 事務職員の課長以上は必ず教授会に陪席。
  • 学校教育法の改正に伴う論点
    • 教授会の位置づけ
      • 学長との意見相違があることは考えにくい。教授会はほとんど報告事項という形態を取っている。
      • 案件によって評決権の扱いが異なっている。校務をつかさどる〜という取り扱い。審議機関の捉え方の問題。
      • 教授会は今までチェック体としての機能だったが、今後は諮問機関としての扱いになる。「議を経て」という表現は法令上の適切性では問題はない。「教授会自治」という文言から脱却。
      • 大学の中に置く機関は学長が校務をつかさどるので、私立大学の場合、学長は理事会が定める範囲内で校務をつかさどるものとなる。全構成員が集まることを要するのは、入学と卒業に関してのみで差し支えなくなる。
    • 学部長等の選考に関して
      • 「学部長は、学部に関する校務をつかさどる」という規定に関して、理事会が定めた範囲を逸脱できない。
      • ある大学では学部長を選挙で選出しているが、学部長の職務は非常に多忙であり、自分の研究ができなくなってしまうため、学部長になりたがらないとの意見もあった。
      • 教職課程の運用は実質的に委員会ベースで検討していると思うがとの意見。恐らく多くの大学で全学組織にはしておらず、例えば文学部長が担当している場合、学長から付託する内部規則を整備すればよい。実例として、ある大学では、学長がトップの教職課程連絡協議会を置いて対応しているとの回答。
    • その他
      • 理事会が学長応援団的な位置づけ。学部権限が強すぎる大学に対して、学長がどのようにリーダーシップを発揮していくのかが見えにくい。
      • 教授会議長の考え方。教授会が諮問機関になるので、そういった観点では、学部長が議長となるのはあまり好ましくない。しかしながら現実的には学部長にやらせる例が多いように感じる。

基調講演終了後、「法令改正に伴う今後の教授会のあり方」と題したワークショップに参加しました。このワークショップを選んだ理由は、自分自身が所属組織で教授会事務を担当していることもありますが、来年4月1日から施行される「学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律」*3を踏まえて、関連する施行規則等の改正を踏まえた内部規則等の総点検・見直しが文部科学省によって実施されるため、他大学でどのような考え方を整理しているかを是非聞きたいと思ったためです。

9月2日に文部科学省で説明会が開催されたのですが、私は参加できなかったので、説明会での様子や他大学の検討状況など貴重なご意見を伺うことができました。
また、ワークショップ終了後に食堂で懇親会が開催されたのですが、東北学院大学では今まで懇親会でアルコールを出したことがない!ということで、ノンアルコールで他の参加者の皆さんと乾杯したのが印象的でした。2日目の記録も後日掲載いたします。

*1:大学行政管理学会が東北学院大学で研究集会 全国から大学職員400人が参加 http://mainichi.jp/edu/univ/news/20140907org00m100008000c.html

*2:地域構想学科専任スタッフhttp://www.tohoku-gakuin.ac.jp/faculty/liberalarts/regional/staff/

*3:学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律 http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/kakutei/detail/1349263.htm