Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

ジョン・ヘンリー・ニューマンの「大学の理念」を巡って

high190です。
先日某所で標記の人物に関する講演を聞くことができました。

ジョン・ヘンリー・ニューマン - Wikipedia

ジョン・ヘンリー・ニューマンはイギリスの神学者で、当初はイギリス国教会(現在の聖公会)に属し、オックスフォード大学のトリニティカレッジなどで神学研究をしていたそうなのですが、その後カトリックに改宗して晩年には枢機卿となった人物です。カトリック改宗後、アイルランドカトリック大学を創設するよう司教団から学長に任命されたそうなのですが、*1その際に発表したのが「大学の理念(The Idea of a University)」と呼ばれる書籍です。

f:id:high190:20171009151746j:plain

恐らく日本語での解説論文などがあるだろうと思って調べてみましたが、原文がWEB公開されていたので引用します。ニューマンを研究する機関があることも、*2ニューマンの名を冠した大学がイギリスとアメリカにあることも調べるうちに分かりました。*3 *4

日本語での解説論文については、以下の二つが見つかりましたので引用します。それぞれの解説論文を読むと以下のような箇所が出てきます。

中世の初期に確立されたリベラルアーツは、カロリング・ルネサンスの産物であり、貴族の子弟たちが、聖職者や官吏として活躍できるよう、教会附属の学校で教育したことに端を発する。その目標とすることは、(1)リーダーの育成、(2)徳育主義、(3)教育重視、(4)人格形成、(5)古典主義、(6)教条主義、(7)教育のための教育であり(Kimball,1995,pp.53-55)、ほぼ、ニューマンの理想と重なる。
(中略)
ただし、ニューマンの主張は、ヨーロッパ中世のリベラルアーツ観によって、すべて説明できるものでもない。次に述べるように、ニューマンの理想には、イギリス人として、16世紀以降に登場したイギリスにおける「紳士」の伝統が色濃く反映されており、特に、彼が強調する統合力や人格的影響力は、イギリスにおける「紳士」の伝統を抜きに語ることはできない。

そこで、今日、必要なことは、ロバーツのように、ニューマンの時代と現代との社会情勢の違いを指摘して、ニューマンの議論はすでに妥当性を失っているとするのではなく、彼の理念を現代の状況に読み替えることであろう。
(中略)
最後に、探究心や批判精神を推奨する近代の大学は、知性の開発や研究活動の推進に比較して、人生観や宗教観など人格形成に関わる部分において、文化の継承を行なっておらず、学生を精神的には放置しているという事実があげられる。この問題は、今日、より深刻になっており、かつてのヨーロッパや日本の大学が主張していたように、人格形成は中等教育段階までで完成すべきであるという原則論では対応できないのが実情である。
そこで、大学における宗教や神学の役割が重要になるのであるが、ニューマンの述べるように、宗教の理念を徹底することによって、寛容性や多様性を実現するという主張は、キリスト教的基盤を持っていた欧米の大学においても困難になりつつある。そのため、マースデンが述べるように、むしろ多元主義の一環として、科学的・実証主義的な思考と宗教的な思考の特性・限界を理解することと、せめて大学が宗教的な議論を行う余地を認めることが必要であろう。この点に関して、ニューマンの『大学論』自体が、カトリシズムの視点によって、近代主義を克服するという貴重な事例を提供していると思われる。


-ジョン・ヘンリー・ニューマンの「大学の理念」(出典:片山寛,西南学院大学学術研究所神学論集68巻,2011年3月)

私たちが勤務する近代の大学というものは,基本的にはこのような理念に基づいて誕生したのです。いわば大学の理念の原型というべき思想がここにはあります。
(中略)
1854年からアイルランドのダブリンに創設されましたカトリック大学の総長に就任しましたが,ダブリンの大司教と対立したために,一期だけで辞任しました。背景には複雑な事情があります。当時は,アイルランドはまだ英国に合併されておりまして,独自の議会を持つことも許されませんでした。カトリック教会も厳しい状況にありました。17世紀にクロムウェルアイルランドを征服したときに,カトリック教会の教会領は数多く没収されていたのです。アイルランドの人口の90%以上がカトリックだったのですが,教会経済は厳しかった。そんな中でダブリンにカトリック大学を創立することは,カトリック教会にとっても大きな決意を要することでしたし,またそれはアイルランド独立運動とも結びついていたのです。ニューマンは,そのような事情は当然よく知っていたのですが,大学を教会の支配下に置くことに対しては抵抗します。『大学の理念』を読めばよくわかりますが,ニューマンは,大学における教育は国家や教会に支配されない,自由なものでなければならないと考えていました。

片山先生はニューマンの大学の理念で「大学論として多くの国の教育制度に影響を与えたのは,主に5,6,7講」と述べておられまして、その中で特に大学教育に必要と思われる箇所について翻訳を以下のように紹介しています。また、ニューマンは長年オックスフォードで教鞭をとっていましたが、カトリック教会に改宗した際、オックスフォードから離れざるを得ませんでした。しかしながら、カトリックの大学創設にあたってもオックスフォードの理念、学問の自由を強調したことにポイントがあると思います。
また、片山先生はニューマンが捉えていた大学の目的を以下のように説明しています。

「リベラルな教育は,キリスト教徒を養成するのでもなく,カトリックを養成するのでもなく,紳士(gentleman)を養成するのである。紳士になるのもよし,教養ある知性,デリケートな趣味,率直で公平で冷静な精神,処世において高貴で礼節ある態度を持つこともよい。これらは,広大な知識から同時に生ずる性質である。これらこそ,大学の目的なのである。」(p.89)
(中略)
大学の知性的訓練の目的は,学習(Learning)や獲得(Acquirement)ではなく,むしろ知識の上に訓練される思想(Thought)あるいは理性(Reason)である。それは哲学(Philosophy)と呼んでもよいものである。」(p.101)

大学の目的は,学生の精神を拡張することであり,広い視野からものごとを判断する力を養成することです。その目的のためには,定期試験や単位取得制度によって学生を管理する,つまり私たちの現代の大学がまさにそのようであるような大学よりも,ただ数年間を先達(チューター)と共に生活しながら学ぶことのできる,カレッジ(学寮)の方がはるかに優れている,とニューマンは考えていました。
(中略)
ニューマンが否定しているのは,それらの技能が教育の目的だとする功利主義(utilitarianism)の考え方であります。つまりそれらの職業的技能はもちろん大切でありますが,知的訓練の結果としての知識(knowledge)は,それらの技能をどのように用いるべきかという,統御(rule)に関わっているというのです。この知性そのものの訓練に関わる教育は,一般教養(Liberal Education)と呼ばれます。私たちは一般教養と言うと,大学教育の基礎課程であって,専門教育の方が上位にあると考えがちですが,ニューマンは,これは基礎でありつつ大学教育の最終目的でもあると考えているのです。

大学の理念の原型として知られるニューマンの説について、私自身が不勉強であることが大きいとは思うのですが、あまり日本では知られていないように感じます。吉永、片山の両先生が解説しているように教授した知識の統合こそリベラルエデュケーションだと思いますし、ニューマンの理念は現代の大学にも通じる根本的な意義を問いかけているように感じます。その反面、吉永先生が指摘するようにニューマンの理念を現代的に読み直すこと、具体的には各大学が「大学の理念」に照らして現代的な意義を捉え直すことが必要です。

また、論文中に出てくるチュートリアルやカレッジシステムについては、苅谷剛彦先生が書いている「イギリスの大学・ニッポンの大学」で詳しく紹介されていますので、興味がある方はご一読ください。ニューマンが優れているとしたチュートリアルやカレッジシステムは、現代でもオックスフォードやケンブリッジに生きています。それを支える仕組みがどうなっているかを知ることは意味のあることです。
直接的にはニューマンと関係しませんが、今年のTimes Higher Educationの"World University Rankings 2018"ではオックスフォードが1位、ケンブリッジが2位となっています。*5

以上のように、ニューマンの「大学の理念」からは大学教育への現代的な示唆が多く含まれていると私は思います。拝聴した講演は高等教育にフォーカスしたものではなかったのですが、オックスフォードでの教授生活、学長として発表した「大学の理念」など、教育機関で働く者の一人として興味深く聞くことができました。講演を伺ってその他に面白い、と思ったことをいくつか書いておきます。

  • ニューマンの霊性を知るためには、単一の著作のみで理解することが難しく、複数の著作を年代別に見て背景をよく知らなければ正しく理解することができないこと。
  • ニューマンの霊性を形作ったのは「疑いに向き合う態度」であり、探求すること、理解することが核であること
  • ニューマンと対立したマニング枢機卿がレールム・ノヴァールムの基礎となる活動をしたこ
  • グラッドストーンイギリス前首相が出した教皇不可謬の宣言に対する反論「ノーフォーク公への手紙」によって、実質的な政教分離に繋がったこ
  • 有名な言葉:to live is to change, and to be perfect is to have changed often. (生きることは変わること、完全とは何度も変わることである)

ニューマンのことを知ることができたいい講演会でした。*6現在の日本の大学は政策的にも岐路にある場面ですので、古典から大学の本質を捉え直す努力を積み重ねていかないといけない、そのためのきっかけを私に与えてくれたのではないかと思っています。
ちなみに今回のブログを書くにあたって、Twitterでいいサジェッションを頂戴したことに感謝します。

*1:ちなみに当該大学は現存している「アイルランド国立大学ダブリン校」です。http://poets.notredame.ac.jp/international/abroad/university/dublin.html

*2:https://www.thenewmaninstitute.org/

*3:Newman University, Birmingham - Wikipedia

*4:https://en.wikipedia.org/wiki/Newman_University,_Wichita

*5:https://www.timeshighereducation.com/world-university-rankings/2018/world-ranking#!/page/0/length/25/sort_by/rank/sort_order/asc/cols/stats

*6:逆になぜ日本ではニューマンが知られていないかですが、彼が最終的に所属した修道会であるオラトリオ会が日本には無いという意見があります http://d.hatena.ne.jp/cyaginuma/20100425/1272204221

「大学マネジメント・業務スキル標準表」の研究会に参加しました(大学行政管理学会)

high190です。
2017年7月8日に早稲田大学で行われた大学行政管理学会関東地区(第2回)、北関東・信越地区(第1回)合同研究会に参加しました。
今回の研究会ではNPO法人実務能力認定機構(ACPA)が策定・公表している大学マネジメント・スキル標準表についての内容説明、導入事例の報告が行われました。今回も参加した記録をまとめておきます。

ACPA 実務能力認定機構 大学マネジメント・業務スキル基準表

f:id:high190:20170709155759j:plain

  • 会場校代表挨拶 JUAM副会長 高橋史郎氏(早稲田大学国際教養学部事務長)
    • 早稲田でJUAMのイベントをやるのは10年振り。
    • 早稲田でスキル基準表を運用し始めて何年か。個人でスキル基準を毎年作成して提出している。
  • NPO法人 実務能力認定機構(ACPA)理事長挨拶 早稲田大学理工学術院 教授・図書館長 深澤良彰氏
    • ACPAは10年ぐらい前に創立した。大学で教える教育内容と実務能力との関わりを取り扱うことから始まった。そこから大学職員の能力開発・スキル標準を策定する事を射程に含めた。この取り組みが他大学の参考になればと思う。

「ACPA大学基準表を活用した大学業務改革について」ACPA事務局長 内山博夫氏

  • ACPAとは実務能力認証認定制度により授業科目などの質保証を推進している。2012年に大学マネジメント・業務スキル基準表を、2015年に大学マネジメント・業務/基礎(知識・能力)編の公開を開始した。
    • 大学マネジメント・業務スキル基準表:大学の職員業務を可視化し、役割像を共有化。
    • 大学マネジメント・業務/基礎(知識・能力):業務知識・能力の共有化ツール。
    • 早稲田の学内プロジェクト活動(職員業務構造改革WG)に当初から参画
      • 大学が外部環境の変化に適応できるようにするため、業務構造改革が必要であり、職員業務のあり方を見直すことが必要。大学運営に必要なスキルの把握と育成。人事政策の基本情報づくり。
      • 専任職員の業務を定型から非定型に転換させたい。
  • 「大学職員の高付加価値業務」
    • ルーチンワーク・提携業務➡判断業務・企画業務・専門業務(学士課程答申からの抜粋)
    • 大学基準表の活用目的
      • 担当業務ごとの遂行能力を本人と上司が診断(自己診断+上司補正)
    • 早稲田大学の事例
      • 業務改革への活用(業務内容の平準化、効率化)
      • 人材配置への活用(業務切り分け、雇用区分に応じた業務体制)➡外部委託可能と判断できる業務は、業務運用マニュアルと管理体制を整備し委託実施
  • 運用手順(通年スケジュール)
    • 1〜3月 基準表内容とスキルマトリクスの見直し、現状業務の差異分析、業務委託の活用(随時)
    • 5月 個人スキルの本人評価および上司判定
    • 6月 人事異動/人員配置の見直し
    • 7月 個人スキル判定表の人事課提出、人事異動に伴う部門別関係帳票の修正
    • 12月 人事異動/人員配置の見直し
  • 担当業務の役割状況
    • ベンチマーク(ACPA基準値)との差異把握
    • 【差異補正についての考え方】
      • 役割像(ベンチマーク)に向けた人材シフトの検討、外部委託化の推進。
      • より具体的には当該業務の遂行に必要な人材が配置されているか、また当該人材のスキルは当該業務の遂行に必要かを測定できる。
      • 上司補正の結果は部下にフィードバックされるのか。その際にどのような点について留意して伝えているか。また、当該職員が補正結果を踏まえて当該業務を達成できるようになるために、上司としてのアドバイス等を行う際の基準などは設けているのか。
      • 基礎/知識・能力編で対応している。
  • 今後の展開
    • 大学基準表活用勉強会(仮称)を設置予定
      • 勉強会メンバーを募集中
      • 活動内容として、SDおよび大学業務改革に関するセミナー開催、ワークショップ/活用実践演習など
    • 大学基準表活用サポート企業(協力企業を探して巻き込みたい)
      • サポート領域:大学経営コンサルタント、人材派遣(嘱託職員、契約職員、アルバイトなど)、大学業務委託/アウトソーシング、大学職員研修、ITベンダー(タレントマネジメント、大学業務システムなど)
      • 共通の物差しと目標値の設定

講演の内容に関して、大学マネジメント・業務スキル標準表については公表されている資料を前に読んだ事もありましたので、その内容に沿った説明がなされましたが、個人的には「大学基準表活用勉強会(仮称)」と「大学基準表活用サポート企業」に関する動きが気になりました。今後、各大学では一層業務改善に向けた取り組みが進展していくと思われますので、こうした動きは押さえておきたいところです。個人的には、大学基準表活用サポート企業として早稲田大学アカデミックソリューションあたりが関わってくるのかな?と思います。

早稲田大学における職員業務の構造改革と人材育成」早稲田大学人事部部長 三浦暁氏

  • 早稲田大学の専任職員数:約800人、常勤嘱託約350名、非常勤嘱託約150名、派遣職員約450名・・・合計で約1900人
  • 職員を巡る議論の変遷
    • 大学経営における諸制度の高度化、多様化、複雑化に対応できる資質の向上
    • 教員と職員が協働して担う領域をカバーできる力量の向上
    • これまで以上に教育研究への深い理解、従来とは異なった資質・能力
      • Waseda Next 125までは同じ議論の繰り返しだった。
      • 新しいタイプのアカデミック・アドミニストレーターが必要(各ファンクションで「調査・分析・企画・立案・実行・評価」できるプロジェクト型職員へ)
  • WASEDA VISION 150の推進
    • 核心戦略を実現させるために76のプロジェクトが動いている
    • プロジェクトのPDCAサイクル管理(高い目標と強い意志)
      • vision150推進本部の設置、ロードマップの策定、週1回の推進会議、数値目標、年度計画・評価・報告・改善
      • 他部門との協働・教職協働による新しい効果
      • 全体戦略の中における教職員自身の役割の重要性の理解◎
  • 職員の業務構造改革
    • 業務を4つに分割(サービス型業務、意思決定支援業務、高度専門的な管理運営型業務、渉外業務)
    • 定型化、仕様定義、専門人材活用を専任職員がマネジメントする体系。しかしながら必ずしも業務の担い手が切り分けられている訳でもない
      • 業務のやり方、組織のあり方等を見直し
      • 業務の効率化、大学に求められる機能の実現
      • スキルマトリクスを整備する事で全体業務の見える化を推進
    • 全学の仕事を「見える化」➡業務分析➡業務改革(適材適所の人材配置、適正な要員配置、分散業務の集中化、業務委託の活用、組織の見直し)
    • スキル項目説明書を元に、現状との差異分析(外部委託計画の策定、業務役割分析、スキルレベルの判定)
    • 個人スキル判定表(自己申告をベースに上司が判定している)、活用目的(戦略的なタレントマネジメント、目標と現状のギャップを育成計画に活用、人材ポートフォリオの構築、採用する人材要件の明確化)
  • プロジェクト型業務の推進
    • 職員がプロジェクトで仕事をした経験。プロジェクトは、新規事業の展開や新しい業務創造に適したスタイルである(業務スタイルの改革)
      • 組織(部門・課・係等)の壁を越え、必要なタイミングに必要な人材を柔軟に活用できる。「大学は「プロジェクト」でこんなに変わる」
    • WISDOMによる企画立案*1
      • 大学の経営改革に資する戦略や業務改革、プロジェクト企画立案のために開発した手法〜理想(あるべき姿)を考え新しい価値を創造する〜
      • 早稲田大学アカデミックソリューションで提供している
      • 一泊二日の研修を夏に2回(関西・西南・中央・法政・龍谷早稲田大学合同職員研修)
  • 授業運営支援(教職協働)研修
    • 1年目の職員全員を対象に実施。グループで授業の運営を支援する。職員が教育・学習支援においてどのような役割を担い、業務創造していくべきかを考察する。
  • プロフェッショナルズ・ワークショップ
    • 企業・自治体、学生の双方にメリットを生み出す新しい形の産官学連携実践型教育プロジェクト
    • 参加者の満足度調査を実施すると、学生、企業、職員いずれの評価も高い
  • 職員の育成方針
    • 早稲田大学の職員が目指す20年後については、組合からいつ決めた?と怒られている。
    • 職員に求められる役割と専門性の対照表を作成
    • 2017年度職員育成カテゴリー
      • 段階的なマネジメント力・リーダーシップ力の養成、プロジェクト・教職協働を通したマネジメント・処理力の養成、大学職員全般に求められる専門力の養成、職員個々の専門性に対応した専門力の養成、グローバル人材の育成、マインドの醸成、その他
  • 語学研修プログラムの充実化
    • 語学検定(TOEIC等)の受験による英語力の把握(3年に1回実施)
  • これから着手すること
    • 人事制度の改革に向けて、組合との交渉を行う予定。
    • 主な内容として、これまでは単線型のキャリア・年功序列だったが、これからは昇進・昇格時にも審査を行うようにしたい。職員個人が自らのキャリアを選択できるような制度に変えていきたい。来年4月の実施に向けて組合とも意見交換しているところである。

早稲田大学におけるスキル標準表の活用状況についての事例報告でした。
この後の質疑応答でも議論がありましたが、スキル標準表を導入する事によって業務負担の軽減には必ずしも繋がっていないということでしたが、全体的な業務の棚卸しができること、「全体戦略の中における教職員自身の役割の重要性の理解」に繋がるということは大切なポイントだと思います。その他の早稲田大学の取り組みについても、さすがだなと思いましたが、語学検定の受験による英語力の把握を3年に1回実施する事など、今後のグローバル化対応に向けた覚悟を感じる施策だと感じました.

質疑応答

  • スキル表の活用に課題があるとの事だが、どのようにすれば活用が進むと思うのか。また、プロジェクト型業務について個人で実施する場合の作り方を教えて欲しい。
    • 人事評価には使用していないが、課題の一つである。人事評価に使わないと真剣にスキル基準表が活用されないのではないかと思う。ちなみにスキル基準表の活用は若手職員(3年目程度の職員複数名)から発案されたものだった。その理由として担当すべき業務の知識等が分からないということが問題意識。人事部としてはもう少し活用を進めていきたい。
    • プロジェクトのほとんどは各職員からの提案を起点としている。
  • 業務構造改革に関しては、具体的に切迫した理由があって改革を進めたのか。
    • 若い職員から閉塞感があるという意見があった。理想を持って職員になったが、ルーティンワークばかり。こうした声を受けて組合とも協議して大学としての新しい価値を創造する機会を設定した。
  • 所属大学で教職協働を担当しているが、業務のきり分けを通じて既存業務をスクラップしたような事例があるのか。
    • 大学は業務のスクラップが難しく悩みどころである。ただし、業務の担い手を専任職員から嘱託職員に変更するなどの対応をしている。
  • 職員の専門性獲得のため、資格取得等とは異なる方法などを教えてもらいたい。
    • 資格取得なども促進していきたいと考えているが、職員育成の一環であってそれが全てではないと思っている。先ほど人事制度の話をしたが、将来的にはマネジメントと専門性のどちらを志向するでその後のキャリアが分かれるような人事制度を検討している。
  • スキル基準表を導入した事で顕在した長所、短所はあるか。導入から根付くまでにどの程度の時間がかかったか、導入によって労働時間の縮減に繋がったのかをお聞きしたい。
    • 早稲田大学の定期人事異動は6月、12月なのでそれにあわせている。
    • 技術的な問題として、スキル標準表は全てエクセルで管理していて、膨大な量になってしまうのがネックである。スキル判定を毎年実施しているため、シートがどんどん横に広がっていくので使いにくい。よってシステム化を検討している。当初ワークスアプリケーションズのパッケージでの対応を考えていたが、それでも難しそうな問題があるので、独自で開発する方向ではないか。
    • スキル基準表をゼロから導入した。一通りの業務をまとめるのに2年ぐらいかかっている。その際にはACPAや他大学からの意見も踏まえて、まとめた。ACPAで作っているのは汎用的なものであるので、各大学の実情にあわせてカスタマイズする必要があるのだが、そのためには一定のコストはかかる。しかしながら、スキル基準表の導入で全体が可視化され、業務内容への理解が進むということはある。スキル基準表の導入で労働時間が縮減される事は無く、別の仕掛けが必要と認識している。
    • 他大学での導入事例などを考慮すると、いきなり全学的導入は難しいので、法人事務局にテストケースで試行導入していくことが良いのではないか。カスタマイズについても、全ての文言等を各大学に合わせるなどのことは必要ではない。
    • (ACPA深澤理事長)ACPAに問い合わせが来る際、執行部と現場の教職員から問い合わせが来るケースがある。執行部からは「何人人減らしができる?」という問い合わせが来るが、それには答えにくい。反面、現場の教職員からは「業務を整理したい」という名目で照会が来るが、その点についてもどこからそのための時間や手間を捻出するのかという課題がある。
  • 大学の規模に応じて費用対効果の問題があると思う。また、給与に連動していないスキル基準表ということだが、現場の職員にはフィードバックされているのか。管理職者の異動等によって業務理解が浅い場合、適切に補正できるのか。
    • 「スキル標準表」という既にできたものを活用するので、それほど労力も費用も掛からない。ただし、メンテナンスは必要だと思っている。
    • スキル判定については本人が自己申告して、その点を上司が補正判定している。また、人事制度の変更時には異動等の基礎資料として活用したいと考えている。
  • 三浦部長がずっと人事に携わってきて、またここ数年の早稲田大学での色々な改革を踏まえて、早稲田の職員がどのように変わってきたと感じているのか。また、こういった制度変更を伴う改革によって、早稲田の職員がどう変わったのか。
    • (三浦部長)若手職員が閉塞感を感じていた時代があったと申し上げたが、現在では随分変わったと思う。大学設置基準の大綱化移行、高度化をしてきている。ルーティンのみを行う職員はいらないという方針で採用しているし、40代までの職員は劇的に変わったという自己評価である。
    • (高橋事務長)国際畑の仕事が長いが、国際では大きな業務委託をした。そのチームが全て担当している。よって、専任職員は外部資金獲得のためにスーパーグローバルなどにチャレンジし続けている。危機管理等についても専任職員が一定程度経験した事を嘱託に任せている。専任職員は数値目標の達成として、外部資金の獲得というベンチャーのような仕事を行ってきている。新しいことにチャレンジし続けることができるのも、強い業務委託のチームの存在あってのこと。そういった業務委託のチームを専任職員が開発してきた。専任職員の業務が今後どうなるか、という点で色々と思うことはある。

質疑応答で印象的だったのは、ACPAの業務スキル標準表を導入する事で外部委託化の促進や人事評価との整合性などについての質問が多かった事です。しかしながら、人事制度との連動性が重要になるので、まだそこまでは取り組んでいないというところでした。人事制度の改革は教職員組合との調整も必要ですし、一度変更すると容易に変えられないこともありますので、労使間でのすり合わせなども考慮して検討することが必要と思います。
私自身が捉えたスキル標準表の活用方策としては、個々の職員が自らのキャリアを展望する際、現状でできていること・できていないことは何かを捉える参考になるという事、自分自身の強みと弱みを把握する事に繋がり得るということです。あと、スキル標準表では各業務を羅列した状態になっていますが、各大学で共通する業務であっても、実施する手順などはそれぞれ異なりますので、業務手順書の整備を行う事が大切だということです。外部委託化の推進を行うとしても、実際の手順を明らかにしておいて、誰にでもできるようにしておくことが大切だと思います。
以上の理由から、スキル標準表とあわせて文章化されたマニュアルを整備されているといいのではないかと感じました。大学におけるマニュアル整備については以下の論文が参考になると思います。著者の松丸英治さんはこれまでも大学におけるマニュアルの活用について、大学行政管理学会で発表を行なっています。私のブログでも何度か記事にさせてもらいましたので、是非ご参照ください。*2 *3 *4

swu.repo.nii.ac.jp
(出展:昭和女子大学現代ビジネス研究所紀要)

あとは、業務改善のための手法として、総務省が「業務フロー・コスト分析に係る手引き」を公表しているので、こちらも参考にしながら業務改善と仕事の棚卸のことを引き続き考えていきたいと思います。

【SD】2402B「始めよう、仕事の整理と協働」|SPOD – 四国地区大学教職員能力開発ネットワーク

最後に早稲田大学の問題解決手法"Wisdom"などを紹介した以下の書籍を再読したくなりました。

*1:なぜ、早稲田大学は大学改革に挑むのか~ビッグデータで見えてきた大学の新しい可能性~ wisdom.nec.com

*2:high190.hatenablog.com

*3:high190.hatenablog.com

*4:high190.hatenablog.com

日本高等教育学会第20回大会に参加しました

high190です。
5/27,28の二日間、東北大学で開催された日本高等教育学会の第20回大会に参加しました。私は会員ではないのですが、大会のみに参加する事は可能という事で大学教育学会、大学行政管理学会に続いて学会に参加してきた記録です。以下の記録についてはhigh190が各講演者の発表等を聞きながら内容をまとめたものですので、予めご了承下さい。

日本高等教育学会第20回大会


Day1(2017-05-27)自由研究発表Ⅰ・Ⅱ

現代の大学教育における「教養」概念の一考察-教養系学部の基本情報の分析を通じて-(玉川大学 栗原郁太 氏)

  • 「教養」「リベラルアーツ」の定義にまつわる議論は多くあり、多義性と一般性を併せ持つマジックワードに。意味が拡散・整理しにくい。
  • 全国大学一覧、大学ポートレート、各大学のWEBからデータを収集してKH Coderで計量テキスト分析。
    • 学位に着目して関連する概念の分析。DP,CP内容の概観のための計量テキスト分析。共起ネットワーク図で示すとDPでは「国際教養」学部のインパクトが強い。関連して英語運用能力、論理的思考力などが関連。CPで言語力をベーストした文化・社会の理解、留学語学研修の重視、情報収集などが頻出。頻出後をクラスター分析。世界・国際文化を理解。社会における問題解決力、外国語を用いたコミュニケーション能力。
    • CPのクラスター分析。国際教養学部だと留学等を含めたカリキュラムの特徴、教養系学部だと社会・文化、理解すべき事象、能力観などが出てくる。その他の教養系学部では情報スキルが出てくる。
    • DP・CPの分析を通じて、大学教育の理念的な文脈からは、「学び方としての教養」の概念が検証。各教養系学部がDP,CP策定の際に依拠している文書は?
      • これまでの答申等「新しい時代における教養教育の在り方について(答申)」などで頻出された単語。
  • 結論
    • 「専門としての教養」に着目して分析すると、
    • 学芸・科学分野
      • 文学、国語・国文学、英語・英文学、英語・英米文学、歴史学、心理学、社会学、教養・学芸、地域研究、国際関係、経済学、理学及び音楽
    • 職業分野
      • 教育学、法学、商学
  • 大学教育における「教養」のディシプリンの範囲
  • 質疑:
    • 結論部分の学問分野の括りが大雑把では。
      • 学位授与機構が発行している新しい学士への道で提示されている分類を使用した。
    • AAC&Uの文書はアメリカにおけるリベラルアーツの研究論文を回顧したものではないので、先行研究として扱うべきでない。AAC&Uは業界団体。アメリカの教養教育に関する参考文献が少ない。AAC&Uの教養教育に関する文書*1など*2、もう少し広く文献に当たる必要なのではないか。歴史学を取っても日本とアメリカでは異なるので、その点はもう少し整理する事。結論1から結論2までの議論の以降を整理する事。
      • 「先行研究」ではなく「背景」とすべきだったとコメントあり。

教養教育については私もまだ知らない事が多いので、興味深く拝聴しました。KHCoderは誰でも使える計量テキスト分析のソフトですので、興味がある方は使ってみてはいかがでしょうか。研究で使用された事例も公開されていますので、こちらも参考になるかと思います。*3あとは教養教育という点で、個人的に関心を持っているのはコロンビア大学のコアカリキュラムについてですが、その点については過去記事で言及していますので、そちらをご覧いただければ幸いです。*4

私立大学等改革総合支援事業が私立大学の教育活動に与える影響に関する実証研究(神戸学院大学 松宮慎治 氏*5

  • 先行研究
    1. 私学経営と関連づける研究
    2. 政府との関係に着目する研究
    3. 至近の政策に着目した研究をレビュー
  • 命題:私学助成の競争的配分と私立大学のガバナンス集権化かが、私立大学の教育活動に与える効果の検証
  • 仮説:私立大学等改革総合支援事業タイプ1への選定は、私立大学に脱連結*6によるアプローチを促すため、教育の質向上に貢献しえない。ガバナンスも教育の質向上に意味を持たない。
    • 仮説設定の理由:本事業の設計は、現場の教育活動の改善以上に「選定されるか否か」に目が向きやすい。この状態は新制度派組織論の「脱連結」現象に枠づけられる。また具体的な脱連結行動としては、本来の目的と異なる趣旨での現象拡大を扱う政策過程研究、特に「準拠集団の模倣」や「水平・垂直的波及」等と親和的である。さらに先行研究に鑑みて、ガバナンスの集権化が教育改善等に効果があるとは考えがたい。
  • 結論
    • ガバナンス改革を改革総合支援事業で行ったが、結論的にはガバナンスよりも組織にあったマネジメントの重要性があげられる。プロセスが大事なのであれば、GP事業を再評価できる可能性がある。
  • 質疑
    • この研究で得られたインプリケーションを再度整理してもらいたい。
      • 私立大学に対して競争的に資金配分する流れは止められないと思うが、私立大学側がそれに適う行動を取れるのかどうかを考慮する必要がある。

私立大学関係者ならば皆が気にする改革総合支援事業についての政策的効果を示した研究です。個人的にはGP事業の再評価という意見が出た事に関心を持ちました。また、「ガバナンスよりも組織にあったマネジメントが重要」という点はその通りだと思います。ガバナンスは仕組みであって、それを回すマネジメントを改善しない事には、大学経営の効率性は向上しないと最近は感じています。

「第三の領域に属する教職員養成の政策実施過程−分野を横断しての事例分析」(群馬大学 二宮祐 氏、玉川大学 小島佐恵子 氏、同志社大学 浜島幸司氏、山梨学院大学 児島功和 氏)

  • FDer
    • 活用状況を見ても、自大学の専門家を活用する例は少ない。(大学における教育内容の改革状況調査)
    • インタビュー調査
      • アイデンティティの不安定さ。専門職なのか非常に疑問。専門分野関わらず就ける。※これで専門性と言えるのか。
      • 求められる業務が非常に多様。業績評価指標が非常に曖昧。
      • 教員と職員の中間を担う「ノンアカデミック」「ノンファカルティ」の職の重要性を指摘。しかしながら、そういった業務を担う者は冷遇。
  • キャリア支援・教育担当者
    • 文科省厚労省の政策動向によって、かなり引っ張られている。
    • インタビュー調査
      • 安定しない雇用と先の見えなさ。部局間の壁を越えるのが難しい。学内に仲間がいない。学部特性などが分からないと学生に対する効果的なアドバイスが難しい。特任教員を重要視していない。非常勤講師や任期付雇用の教員はカリキュラム作成に関与できないので、その点が難しい。
  • リサーチ・アドミニストレーション担当者(URA)
    • 他の専門職と比較すると、職能団体が発足している。
    • URAに関してはスキル標準が定められている。2013年度に東京大学に委託。早稲田大学に「研修・教育プログラムの作成」を委託。
      • 目的が曖昧ながらも、従事しながら主たる業務を理解していく。
      • 現場での混乱が拭えない。
      • 自ら業務を増やしていく。
      • 同僚との関わりから最適解を導こうとする
      • サービスとしての研究者以上のコミュニケーション
    • URAには研究者以上のコミュニケーション能力が求められる?
      • 他の専門職よりも制度的な整備が進んでいるように思われる。
  • 産官学連携コーディネーター担当者
    • 政策形成の経緯
      • 法整備の後、文科省経産省が産官学連携を進展させるための政策形成。専門職団体がある。産学連携学会、日本知財学会。ネットワーク化が他の専門職と比較すると進んでいる。
      • 企業出身者の専門職が大学の慣行に悩む例が散見される。技術移転に関しての専門家を育成するためには時間がかかる。
    • 専門職に視点を当てると、そもそもが組織としてどのようにその専門職を活用したいのか、その成果設定が上手く行っていない。
  • 政策形成とその実施、と言う点では
    1. 「第三の領域における教職員の必要性」が指摘される。
    2. 政策形成されて予算措置される
    3. 教職員の短期養成、他分野から移籍する教職員
    4. 時限付き予算による任期終了、不透明な契約更新の可能性、職能形成の課題。資源不足や曖昧な目標による職務遂行上の問題(「現場」での苦境)
  • 専門職団体の有無がストリート・レベルの官僚制を解消するか。URAの事例が最もうまくいっているように感じたが、その点についてはどうなのか。また、人材労働市場が整備されると良いのでは。
    • 仕事の裁量は広いが、雇用される期間は短い。
    • 職業が形をなす「初期の話」であるところが興味深い。事例としてあればだが、研究対象とした職種で、専門職養成課程をしっかり整えるべきと考える人と、そういったものは必要ないと考えている団体、どちらが強いのか。
      • 今回の対象とした事例は、職能団体は成立しているが、団体としては有機的に機能していないのだと思われる。
    • アメリカは専門職社会だが、アメリカが一般的になる訳ではないので、それ以外の道を模索することも必要である。
    • IRerとして業務を担当しているので、興味深い。自分自身は外部資金で雇用されていて科研費にも応募できる状況にある。今後の研究で、科研費申請の有無などを調べると研究者へのキャリアパスが見られて良いのではないか。
      • 必ずしも全ての専門職が研究に向きたい訳でもない。
    • 今回の研究のフィードバックをどのように行っていくつもりか。
      • 今回の発表に当たっても協力者へのフィードバックを行う必要があると思うので、その点については緊密に連絡を取りながら行っている。
  • 総括討論
    • 専門性よりも同僚性を重視するように感じたが、その点についてはどうか。
      • 東京学芸大学は大学教員の専門性を考慮した伝統的な考え方に基づく専門職養成だが、群馬大学の二宮氏らによる研究は、第三の領域に属する教職員養成の政策実施過程は現状に関連する個別集合体としての大学を考えるか、機能的に役割を果たしている事を良しとするか否か。
    • 専門職という点では、米国の例を見てて感じるのは人件費が上がり、専門職としての利権が発生する可能性はある。30代前半の職員は大概が便利屋になっている。日本においては立派な「政策」は存在しておらず、場当たり的である。専門職が増えると経営側は使いにくくなるということにならないか。
      • 教員養成型大学では、学生満足度と教員就職率が評価指標になる。同僚性に関して内発的・自発的な点に重きを置いているが、既存の教育学研究科が教職大学院化してしまうことに危惧を抱く。
      • キャリアに関する専門職を置くことは、学部内で本来的には学部の教育ディシプリンに基づいた専門性との分断が発生してしまうので、その意味においてはレリバンスの分断をキャリアの専門職が起こしてしまう事から、専門職を置かない方が望ましいとの意見もある。
      • FDについては大学でも定着したが、ポジティブとネガティブな人が分かれている点には着目する必要がある、

今回の発表で事前に聞きたいと思っていたものです。この研究発表は科学研究費補助金にも採択されているもので、研究動向なども公開されています。
*7現在の大学ではこの発表で示されているように第三の領域に属する専門職の方々が多くおられます。私は一事務職員でしかないですが、専門性を有する専門職の方々との協働をどのようにして果たしていくのか、その仕掛けを大学経営の主要課題として捉えることができるかどうかは大きなポイントではないかと思ってます。
個人的には、一般的な大学職員の中でも、設置認可申請業務に関しては経験知識を積み重ねていく業務で、経験が物を言う部分がありますので、新任者を育成するのに時間がかかるという点では似ているように感じました。このように通常の職員業務でも一定の専門性をどのようにして獲得して知識を更新していくのか、大学としての経営資源である人的資源をどのようにして保全していくのかが最近の関心事です。

私立大学における大学運営効率の規定要因に関する実証的研究(広島大学 前田一之 氏)

  • 命題:上意下達型のガバナンスによって、私立大学の運営効率は向上しない
  • 副命題:
    • 非公式組織に関する副命題:集権的な組織文化の醸成および集権的なリーダーシップによって私立大学の運営効率は向上しない
    • 公式組織に関する副命題:公式組織の集権化によって私立大学の運営効率は向上しない
    • 環境要因に関する副命題:私立大学の運営効率に対する環境要因の影響は公式・非公式組織の影響より大きい
    • (アドホクラシー型の組織文化が)適応効率性を重視した方が組織の運営効率は高まる仮説
      • 組合があると運営効率は7%下がる
  • 結論:
    • アドホクラシー型の組織文化への刷新
    • 内部的な財政規律の強化による基本金組入額の確保

DEA(Data envelopment Analysis)=包絡分析法についての発表でした。私はまだこの分野についての学習が足りていないので、あまりコメントできないのですが、仮説の立て方の妥当性について質疑で質問が多く出ていました。(元会長の金子元久先生などから)この分野ですと、京都外国語大学の山崎そのさん*8が第一人者ではないかと思いますので、山崎さんの書籍なども参考にしながら学び直しが必要だなと感じました。

学校法人(私立大学)の持続可能な財政運営のあり方についての実証的研究(國學院大學 篠田隆行 氏)

  • 目的:学校法人会計基準の改正に伴う財務運営における経営行動にどんな影響を及ぼしたか仮説を解明する。人口減少に伴い、私学を取り巻く経営環境が厳しくなる中で、永続的な存続を可能とする財務運営のモデル構築の提唱
    • 帰属収支差額、基本金組入前当年度収支差額
  • 内部留保への経営行動
    • 会計基準の変更は直接的には影響していないが、中長期的には関係がある
    • 東洋経済の財務力ランキングでの算出数値の修正
    • 基本金組入前当期収支差額が黒字であった場合、ステークホルダーから学費の値下げ等の要求があるのではないか。
  • 質疑
    • 基本金組入を「内部留保」と表現するにあたって、第2号基本金と第3号基本金が該当すると思うが、注記をした方が望ましいのではないか。
      • 近年では3号基本金を組み入れる学校法人が増えている。
  • 総括討論
    • DEAモデルが利用されている研究が2つあったが、どのようにしてモデルを組むのかを再度説明して欲しい。
      • 例えば効率性のモデル化として、帰属収入を最大化することを目的としつつ、人件費・ST比を下げることが目的として整合的であるのかをお聞きしたい。また、出力指標に帰属収入という部分が納得できないのだが、その点についてはどうなのか。
      • マスプロ教育がいいと言う訳ではない。大学経営の継続性を担保するために、人件費の抑制と帰属収入の増加を両立させられる大学がどのように存在しているのかを知りたいという意見である。
    • 人件費の最適配分、というtobit分析に関しては諸外国でのコーポレートガバナンス研究などでも使用されていた指標である。
      • 帰無仮説を検定した形で実証できるのだが、その点についてはさらに検証が必要である。
    • 持続可能な財政運営に関連する二つの質問。基本金組入前当年度収支差額ができたが、企業会計の営業収支に当たる教育活動収支差額に着目してはどうか。
      • 施設・設備の貸出のように、本来であれば財務活動に分類されるようなものも教育活動に入ってしまうため、基本金組入前当年度収支差額に注目した。
    • 第2号基本金は学校法人によって計上していない例もあるので、金融資産に着目した方が良いのではないか。ここからBSに発展させていきたい。「教育活動」という決め方が分かりにくかったのではないかと思う。
    • 減価償却費はどこに含まれるのか。
    • 基本金組入については額が大きくなってしまうので社会からの批判の対象にもなるが、一種の資産を保有する形態が予算と決算が示されていて、この際に予算と決算が食い違う場合、どういった理由に基づくのか。基本金は元々必要な額として計上するのか、残余額を基本金として扱うのか、その点はどうなのか。
      • それぞれで統制機能が働いており、一番発生するのは基本金組入である。経営者の計画に基づき、決定しなければならないが、設備投資に伴う金額として影響する。
      • 教育研究経費と管理経費の中に減価償却費が入っていると、学校法人側で減価償却費を操作できてしまう。よってB/Sで見ていかないと財政上の状況は把握できないので、当事者としても発信していかなければならないと思う。
    • 学校法人は企業会計との比較で議論されるが、消費収支計算は学納金設定を原則としていたこと、補助金が入ってくる事なども考慮する必要がある。
    • 業績連動型での運営交付金配分については、配分比率などについては旧帝大を優遇するようなものではなく、当初の国立大学法人化の趣旨を徹底すべきではないかと考える。
      • 回帰分析を行うにあたって、教育プログラム上での特色を持った学校などもあると思うので、その点は定量的分析と定性的分析を組み合わせた方がよいかもしれない。

総括討論での議論も交えてですが、大学経営を考える時に財務関係の知識をもう少し付けないと議論の背景が分からないので、学習が必要だと感じました。これまで財務部門で勤務した事が無いので、今後のキャリアではそういった部署での経験を積む事も必要かも知れません。

Day2(2017-05-27)課題研究「大学の教育マネジメントとガバナンス」

二日目のプログラムは午前中に所用があったため、午後の課題研究のみに参加しました。

金沢大学における教育改革推進体制について(金沢大学国際基幹教育院高等教育開発・支援系/部門 堀井祐介 氏)

  • 教員組織・教員人事制度の改革
    • 学域の設定。専任教員と準専任教員(全ての教員は1つの学類の準専任教員となることができる。専任教員に準じて当該学類の教育を担当する教員)共通教育での統一性に乏しい(アラカルト方式、科目はあるがカリキュラムでない)➡現学長がトップダウン式の改革方針を発表+SGU採択
    • 全ての学類で卒業要件となる共通教育科目を30単位に揃えた
      • 金沢大学<グローバル>スタンダードの5基準の目標に科目を紐づけ
      • 国際基幹教育院を設置し、共通教育機構を所管
  • 教育戦略会議の設置(理事の諮問機関)
    • 教育改革を実現する上での組織的な工夫と課題
    • 工夫
      • 教教分離、機動性の高い教育戦略会議(一貫性のある教育改革)
    • 課題
      • トップダウン型教学マネジメントのため、現場レベルに十分な情報が伝わっていない。制度はできても十分機能していない部分。改革全般に対する教員への情報提供、啓蒙が不十分(SGU、AP、COC、COC+などの補助金頼み。自ら目指す方向性がぶれている?)安定した財政基盤が無いために政策に振り回される。

金沢大学での教員組織改革の事例報告。地方の国立大学における教学改革事例ですが、実際には運営面で様々なご苦労がある事を拝察しました。これも国立大学法人化以後の国立大学法人運営の難しさを示す一例ではないかと思います。

私立総合大学における教育改革-立命館大学の内部質保証システムに着目して-立命館大学の内部質保証システムに着目して-(立命館大学大学評価室/教育改革推進機構 鳥居朋子 氏)

  • 大規模私立総合大学の教育改革事例(教育マネジメントの組織・メカニズム(PDCA)等の現状と課題について整理)学生が約35,000人
  • 大綱的指針
    • 立命館憲章
    • R2020後半期計画(7つの基本目標)「学びのコミュニティ」の形成
  • 第3期認証評価の受審(2018年度)の準備(学習成果、内部質保証)
  • 教育改革に関与する諸機関と実行プロセス
    • 包括的な視点の重要性
    • 内部質保証へのまなざし
    • 立命館大学「内部質保証システム体系図」
      • 3つの階層(大学全体・プログラム・授業)でPDCAを回す
      • カリキュラムマップ、ナンバリングなどのツールの活用
      • メカニズムとしての体制は整ったが、実質化させるのがこれから。
    • 基本的課題に照らした学びの実態の可視化
      • 外国語運用能力が学年進行で下がっていく。カリキュラムに原因を求め、1〜2年時のみであった外国語科目を3〜4年次でも開講するように変更。
      • 学修成果を年次進行で把握できるシステムの存在
      • 間接指標のみではなく、直接指標の開発が喫緊の課題
      • 学部・研究科のカリキュラム改革のタイミングのずれ(ほぼ毎年どこかの学部でカリキュラム改革している。加えて改組・新設等でカリキュラム改革に一定の制約がある)
  • 複雑系組織としての大学のガバナンス・マネジメント、リーダーシップ等を包括的に捉えるための視点
    • 各部局で作成した体系図を持ってきたが、各部署で作成してきた資料には異なりが生じた。体制を整備し、全学的に合意しても落とし込む所まではさらに意識のすり合わせが必要と思われる。
    • 大学において権限の集中化だけで問題は解決しない。シェアドガバナンスを前提としながら、個々の組織の暴走を防ぐ手だての工面・方策の検討。

立命館大学の教学マネジメント事例の紹介でしたが、「内部質保証システム体系図」が印象的でした。学生数が35,000人を超え、大規模大学として教学マネジメントにも様々なご苦労があると思うのですが、内部質保証のエスカレーションルールがA4一枚で分かりやすく整理されていたのが印象的です。こうした体系図の作成に関しても、職員が初期段階から参画しているとのことでしたので、内部質保証に関しても職員力の高さが影響しているのかなと思いました。

地方小規模大学における学生募集政策と出口を切り口に-教育改革の手順を中心に-(尚絅学院大学 黄梅英 氏)

  • 大学改革の成功に資する組織内の要因
    • 意思決定のスタイル
    • 課題に対する認識の共有
      • トップダウンにしてもボトムアップにしても、課題認識の共有を工夫する事が重要(自学の問題点、改革の必要性、他大学の先進的事例)
      • 取り組みの実態を随時報告し、新しい取り組みの効果を検証する事も欠かさない(教職員の継続的な協力が不可欠)
      • 学生の自己評価によるSPレーダー(レーダーチャートを用いた学生評価)

尚絅学院大学の取り組みについては、あまりメモできなかったのですが、小規模大学としての取り組み事例として色々思う所がありました。私自身、前職は小規模大学勤務でしたので。その意味では非常によくやられているのではないかと思う反面、小規模大学であるが故に新しい課題にチャレンジし続けないと他大学との間での競争優位が担保できないと言う点は、どこでも共通する問題なのだなと感じた所です。この点については、大阪経済大学の清水一先生が過去に論じた論考からも読み取れます。*9

指定討論(まとめと論点整理)(東京大学 両角亜希子 氏)

  • 支援センターの役割
    • 大学改革を担う組織の取り組み(従来のFD+IR機能+提案機能?)
    • 既存の組織ではできない業務を担うのか。
  • 教学IRの役割
    • 教学IRを各大学でどのように活用しているか。どのような教育改善・効果憲章等に活用されているのか。また、活用を目的として調査設計などが行われているのか。
  • リーダーシップのスタイル
    • 大学特性の影響、個人特性の影響、行う改革の特徴(既存組織へのインパクトの大きさ等、権限の違い)
    • リーダーシップのスタイル(ビジョンを示す⇄具体策も示す)
  • 教学ガバナンス・マネジメント・リーダーシップ
    • 各所・各層でのリーダーシップの重要性
      • 政策では学長リーダーシップに焦点
      • 実態はどうなのか
        • 学長の権限は学長のリーダーシップ発揮に影響を与えているのか
        • 組織特徴の違いがどのようにマネジメントに影響するのか
  • 教育改革政策の効果
    • 学校教育法の改正は教育マネジメントに影響を与えたか
      • 改革推進のための補助金の効果は?
      • 教育改革ツールの有効性は?(ルーブリック、ナンバリングなど)
  • 教教分離が教育改革に与える効果
    • 大きな制度改革が与えた影響は何か。教員人事制度の改革の効果は?
  • フロアとの質疑応答
  • 中長期計画などの策定には初期から職員が入っている(鳥居先生)
    • 大学評価室は学部の教員と寄り添って問題解決を図っていく。教学に関するリーダーシップは最終的に学長が責任は持つが、教学委員会で各学部の副学部長が出席しており、ミドルレベルのリーダーシップとして権限委譲されている。ポリセントリズム(中心となる組織は複数あるほうがよいという考え方。多中心主義)の議論。高等教育機関はニッチを探しながら競争優位を構築しようとしている。課題課題に即して現場で即座に判断することが望ましいように変わってくるならば、IRのあり様が変わる。しかしながら、これまでの日本ではIRがなかったのではなく、包括的な取りまとめができていなかったことがある。しかし、分散型に移行するためには一度は包括するというモデルを経ないとうまくいかないのではないかと感じる。
      • 日本の大学は学部・学科を基本とした組織でリーダーシップを発揮してきたが、これでは硬直的なので、、、分散してきた(羽田)
      • 教教分離というオルタナティブはあるのか。立命館ではその選択肢は恐らく無い。学部長なども任期が終われば普通の教員に戻る。組合が強い。今後さらに学部が二つ程度増える予定なので、それをどうマネージしていくか。教務部長というポストがあるが、これは非常に責任が重く大変。「内部質保証システム体系図」のひな形は大学基準協会が作成しており、このスキームに入れ込むとなると複雑になってしまう。(鳥居)
  • 職員の関わり方(黄先生)
    • 教務部長、教務課長などSDの強化に取り組んでいる。学長からも強く言われている。尚絅学院大学ではIRの実質化はこれからだが、次年度の予算計画などの策定に関して職員が関与している。
    • 2014年に将来構想プロジェクトを立ち上げた事自体、学長の意思である。ただし、学長が発案するのではなく、ボトムアップでの発案を取り入れるスタイルのリーダーシップを発揮。「生き残るための危機感」
  • 金沢大学の事例
    • 教職協働も行われているが、学内の意見提案としてはパブリックコメント制度の活用などを行っている。
    • 学長集中型のリーダーシップ。理事にも分権されているのだが、学長が決定をひっくり返すこともあるので、その点ではガバナンス上の問題点もあるように思われる。
  • まとめ
    • 評価と統制の問題。外部からの指標が与えられる場合、一致しない場合が多いのでチェックの機能すら働かなくなる。大きな組織で分割されたものをどう統合していくのか。取引コストの低減をどのようにするか。分権化しながらどのようにしてマネジメントしていくのか。
    • 立命館のケースだと、ミドルリーダーシップの権限を強化していくことはひとつのトレンド。質保証は外部性なので、内部を見て顕在化させると教員の授業方法などを画一化していくことになる。内部統制=内部質保証ではない。言葉だけに踊らされないように注意が必要。

内部質保証についての議論なども興味深かったのですが、職員がどのようにして参画していくのかという点について、立命館大学の例は示唆的だと思いました。しかし、これは今に始まった事ではなく、大学経営に職員が直接的に参画している大学の場合、内部質保証にしろ何にしろ、好循環が生まれているように思います。これは大学における教員と職員の関係性によるのだと思いますが、大学組織を永続的に運営していくのは職員組織であって、教員組織ではありません。教員は異動する事が頻繁にありますし、当該大学における教育の質を担保するためにも教員をどう動かすかを職員が真剣に考えている大学がうまくいっているという事なのだと思います。
日本高等教育学会には初めて参加したのですが、研究重視の議論が多く、質疑でも厳しい意見が飛ぶなど個人的には色々な発見がありました。SDにおける教職協働が重要であるとの大学設置基準改正がなされましたが、*10こうした学会に参加する事で教員集団が何を重視し、その中で高等教育をどのように考えているのかを知れることは大切だと思います。大学は教員だけ職員だけで動かせるものではないため、教員文化を知るためにも学会に参加する事は有意義だと思った次第です。

寄り添う学生支援と困難を抱える学生に対する避難所としての「保健室」

high190です。
現在は法人事務局に勤務していて、学生と直接関わる仕事には携わっていませんが、以下の記事を読んで色々考える点がありました。

news.yahoo.co.jp

成人年齢となる時期の学生に対し、手厚いサポートは「甘やかし」だと見る向きもあるだろう。はたして大学に保健室は必要なのか。この10年、帝京短大で学生と向き合ってきた養護教諭の富山先生に問いかけると、「実感として必要だと思います」と即答し、こう続けた。
「昔の子どもは地域や仲間に支えられていたし、何より最後は親が拠りどころになったけど、今は逆に、親が非常に緊張する相手という子も多いです。孤立感や自己否定感を持ったそうした若者に、昔と変わらない若者像を当てはめて同じレベルを要求するのは無理がある。そこに大人や社会が気づくべきです」

前職では学生課、教務課と学生に直接関わる仕事もしてきましたが、率直な感想からして困難を抱える学生は増えているように感じます。それが家庭的な問題であったり、経済的な問題であったりと様々ではありますが、大学に通う学生の一部がそのような困難を抱えている状況にあることは間違いなく増えているように感じます。社会を取り巻く環境は変化し、必然的に大学を取り巻く環境も変化していますので、学生支援にもこれまでにはない取り組みが必要だと感じます。

先に掲載した事例は、東京都の帝京短期大学における保健室に養護教諭を置き、学生支援に役立てた例です。

大学に「保健室」を設置する
授業の片手間では対応しきれないと感じた宍戸教授は、冲永寛子学長にこう相談した。「大学は学生を支援できる最後の砦で、放置すれば彼らは不登校となって、社会で自立していくのが難しくなります。養護教諭のいる保健室を作れないでしょうか」
帝京短大保健室の風景。約35平方メートルとコンパクトだが、小中学校の保健室と共通する気軽に入りやすい雰囲気が漂う(撮影: 長谷川美祈)
養護教諭とは、養護教諭免許を取得した教員のこと。明治時代の学校看護婦にルーツがあるが、1941年に教員となって看護婦免許に関係しない養成課程ができ、戦後の47年に養護教諭という現在の名称になった。応急処置レベルを超えた医療行為はできないが、医学や看護の知識・技能を持ち、子どもの健康問題に日常的に対処する。海外にもいるスクールカウンセラーやスクールナースがそれぞれ心と体に特化しているのに対し、養護教諭はあらゆる心身の健康問題を通してケアと教育を施し、子どもが自立できるよう支える日本独自の専門職だ。
ただ、養護教諭は、小中学校では学校教育法により原則として必置と定められているが(高校は努力義務)、大学では法的根拠がない。養護教諭のいる大学保健室の例は、宍戸教授自身も聞いたことがなかった。
それでも自ら医師でもある冲永学長は、実情を踏まえて快諾した。07年4月、小中学校の養護教諭を35年間務めた富山先生を招き、帝京短大に保健室が開設された。

学長の決定によって設置された保健室が学生にとって居場所となり、そこから無事に社会に巣立っていったという事実を学校職員として心に刻みたいです。私自身も高校時代に悩んだ事がありまして、色々な人に支えられて社会に一歩踏み出す事ができました。社会の構成員となる学生が安心して社会に巣立つための支援策として、こういった取り組みに対する助成などを積極的に検討していただきたいと感じます。少子高齢化社会であることに鑑み、最も大切にしなければならない次の社会を担う人々を大切にすることは社会的使命とも言えましょう。

はてなブログに過去の記事を移行しました

high190です。ご無沙汰しております。
いつかやろう、と思いながら手をつけてこなかったブログの移転を行いました。
はてなダイアリーから、遅まきながらはてなブログに過去記事を移行しまして、今までとは異なるインターフェースに戸惑いながらも現在、記事を書いています。

書きたいネタはたくさんありながらも、日々の業務に忙殺されてしまっていますが、徐々にまとめて開放していきたいと思います。
書き続ける事が自分の力になる事を信じて、これからも続けていきます。

ブログを書き始めて10年経ちました。

high190です。

このブログを書き始めたのは2006年の10月30日、社会人2年目の頃でした。
当時は東京にいて仕事をしていましたが、ブログが流行ったりWeb2.0が全盛期で様々なサービスが日々生み出されていく刺激的な環境であった事を、ついこの間のように思い出します。当時、マイスターと名乗られていた倉部史記さんのブログ「俺の職場は大学キャンパス」(現在は大学プロデューサーズ・ノートに改称)*1に触発されてブログを書き始めました。自分なりに自己表現の場としてブログを始めてみた訳ですが、かれこれ書き続けていくうちに色々な気づきがあり、続けてみること10年、あっという間に時間が過ぎていました。

文章を書き連ねるという行為自体にさほどの意味は無いのかも知れませんが、続けていくうちに色々な人との繋がりができ、その繋がりができた源泉は何だったかと思うと、やはりブログの存在が大きかったように思います。さしたる特技も優れた頭脳も持たない私にとって、ブログを書いてきた事は大きな自信になりましたし、ある意味では自分に対する鏡のような存在でもありました。自分が持つ問題意識をブログに綴り、Twitterに投稿する事で見て下さる方々の意見を頂戴して、どのように考えていけば良いのかを教えてもらったように思います。

気づいたら10年も経っていたんだと思うばかりですが、ここで紹介したいエピソードがひとつあります。私は小学校4年生の秋から地元のサッカー少年団に入ってサッカーに親しんできたのですが、当時の監督が「10年続けなければ分からない」と言っていらした事が非常に強く印象に残っています。10年続けなければサッカーでは本当に適性があるかどうかは分からないという趣旨の発言だったと記憶していますが、その時から10年という年月をひとつの節目として考えるようになりました。10年続けられれば適性も見えてくるし、自分の特長も分かってくるということでしょうか。
私なりに受け止めると、10年続けたことで見えてくる方向性があるという事だと思います。このブログを通じて大学に関する情報を収集し、発信し続けていく事が有機的に他者との繋がりを作り、少なからずこれから大学職員を目指そうと思う人にとって何かの役に立つのであれば、これほどブログを書き続けて良かったと実感する事はないです。
私が大いに刺激を受けた関東の若手大学職員勉強会"Greenhorn Network"の設立10周年記念イベント*2でパネリストとして登壇する機会をいただきました。そこで思いあまって「是非ブログを書いて下さい!」と訴えてしまったのですが、同じ登壇者であった松宮慎治さんが毎日のようにブログを書くようになったきっかけを作ってしまった訳です。*3しかしながら、日本国内には平成28年版文部科学統計要覧によると779の大学がある*4ので、そこで働く職員の方々が日々の業務で感じた内容などを積極的に発信する環境があったら、日本の高等教育にとって有意義なのではないかと思ったりしています。

「ブログを続けていると良いことがある」

そのことを一番実感している者として、これからもブログを書き続けたいと思いますし、何か日々の業務で物足りないと思っていらっしゃる大学職員の方がいらっしゃいましたら、是非ブログを始めてみてはいかがでしょうか。

平成28年度第20回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました(2日目)

high190です。
今回も第20回大学行政管理学会定期総会・研究集会の第2日目の記事になります。初日の記事はこちらをご参照下さい。*1また、今年も全日程を通じて参加者有志によるtwitter実況も行われ、togetterにまとめていただきましたので、本記事と併せてご覧ください。*2

2日目はパネルディスカッションからスタートしました。テーマは「未来を拓く」ですが、多様なパネリストによる踏み込んだ議論が行われていたのが印象的でした。なお、ブロガーの瀬田博さんが既にまとめを作って下さっているので、是非こちらもあわせて参照しながら読んでいただければと思います。*3

20周年企画パネルディスカッション テーマ:「未来を拓く」(大学の未来・職員の未来、そしてJUAMの未来)

  • パネリスト:松本美奈 氏(読売新聞専門委員)、倉部史記 氏(NPO法人NEWVERY理事、高大接続事業部ディレクター)、水野雄二 氏(獨協大学教育研究支援センター次長)、竹山優子 氏(筑紫女学園大学学生支援課係長)、松田優一 氏(関西大学学生サービス事務局学生生活支援グループ)
  • コーディネーター:足立寛 氏(立教大学総長室渉外課担当課長・教育懇談会事務局・立教セカンドステージ大学事務室)
  • コーディネーターから各パネリストの紹介。まずは孫福初代会長の寄稿文に触れる形から始めていきたい。
  • 松本さん「大学の未来を拓くのは誰か」
    • 「大学の実力」調査から大学の現状が如実に現れている。学位に付記される名称について、非常に多岐にわたっていて、何が学べるのか、そもそも学問であるのか分からない。AO入試の退学率の高さ。6年制薬学部の卒業率の低下傾向、基礎学力の低下に伴って退学率が上昇している。
    • 入学時の学生年齢が18歳に大きく偏っている。学生の多様性は望むべくもないのが実情である。大学職員が大学の今後に想像力を持って、高等教育の将来像を描いていってもらいたい。
  • 倉部さん:大学選びという観点で、WEEK DAY CAMPUS VISITという取り組みを展開。
    • 「普段の授業を高校生に公開しませんか?」という提案を大学の入試広報課長に行う事が多い。では、この提案を受けたらどのように対応するのか?
    • 基本的に共感するが・・・「お金がない」、「人手がない。忙しい。」、「(競合の)○○大学はやってるのか?」、「教員の同意が得られない」、「上のリーダーシップがない」、「授業は教務課の管轄だから」、「うちの授業を見せたら志願者が減る」などなど。という人が多い。これは大学アドミニストレーターなのか?
      • 政策検討・実行の行動指針がない?
      • 組織間の壁を越える提案に不慣れ?
      • 全体最適化を担う意識に乏しい?
    • 「3カ年計画でゴールを設定しよう」、「どこもやってないなら、チャンスですね」、「まず○○学部から始めてみましょう」という反応をする人もいる。
      • 自分たちで成果を設定している
      • 成果から逆算して手段を講じている
      • 所属に関わり無く全体最適化を意識
    • この2人は何が違うのか?これこそ「政策提言能力」ではないのか。
    • 他の部署と連携せずに成果を挙げられる大学改革は存在しない。エビデンス重視の議論。IRを特殊なものとして考えるのではなく、日々の業務の中でIR的な発想を持ってデータを活用していく事が必要。
      • エビデンス重視の議論が大事、調査・分析も職員の専門性のひとつ。急にはできないので、若いうちから仮説・検証の繰り返しを!
      • 課題から逆算して、解決に必要なプロセスを組み立てる
    • 「貴学の中間管理職が他部署との連携を恐れないアドミニストレーターであるかどうか。それは貴学の経営はもとより、日本の社会問題解決にも関わる重要な問題」
  • 水野さん
    • 松本さんの指摘にあった経営と教育の不等式だが、現在の大学がアカデミック・キャピタリズムのようなものに成り下がっているのか?という視点での意見だと思う。戦後の教育運動で民主教育などを通じて、様々な学校が生まれた。看板になる代表者が一流の講師、学生が集まって、非常に大きな成果を挙げたが、数年で破綻した。理由は財政の破綻。これらに足りなかったのはビジネスアドミニストレーションである。学校を運営する知識・スキルを持つ人がいなかったことが原因だろう。では、ビジネスアドミニストレーションを誰が担うのか。職員である。
    • 孫福さんの意見、具体的な専門性は何か?という点は曖昧なままだった。30数年前に教務事務を担当していたが、上司・先輩職員を見ると「ルールだから」「ここに書いてあるから」という伝家の宝刀を抜いていた。大人しい学生でも不満はたまる。「違うだろう」と思った。制度趣旨などを踏まえた根拠を調べた。学生相談室に出かけていって、カウンセリングマインドについて、学生とどのように向き合ってどのように話せば良いのかなど、ごく基本的な学生との話し方を学んだ。
    • 仕事が変わると、学生の相談を受けるのが難しくなる。それまでに身につけた専門性をどう活かすか。自分自身のライフデザインで、自らの専門性をどのようにして修得していくのか。そういったものを実体験として持っていた。1982年に大学職員となり、七転八倒をたくさんしてきたが、そういった経験を通して自らの立ち位置が分かってきた。松本さんの意見には、既存の学会への批判があったが、個人的にはJUAMは既存の学会ではないという理解である。大学職員が業務の知見をどのように活かすか。
  • 竹山さん「職員の天井」
    • 1985年に男女雇用機会均等法、労働者派遣法、第三号被保険者制度(女性の分断元年)
    • 孫福さんのキーワード「ビジョナリーリーダー」:自らが組織の革新的なビジョンを示して構成員全体に向かうべき方向を示す能力、経営トップに向けて
      • 女子大学研究会、女子大学の今日的意義とは。男女共同参画社会の実現に向けて。女子学生のリーダーシップを育成するのに、「女性職員はこのままでいいのか」
      • ビジョナリーな視点が足りないのではないか。リーダーシップを発揮する環境をどのようにして若手職員に提供していくのか。性別役割と職務役割の関係性を今一度考えないといけないのではないか。
    • ビジョナリーリーダーシップ。学び続けながらアウトプットの機会を積み重ねていく事。知見・専門性を高めるために、JUAM(アカデミックを背景とした現場力)を活用する。最終的にアウトプットの対象は学生であることを忘れない。
  • 松田さん「若手・中堅職員から見た「現在」と「未来」」
    • JUAMなどでも若手・中堅職員としての活動をしており、若手・中堅職員の代表として生の声を伝えたい。
    • 大学改革研究会の活動。若手・中堅職員のピア・サポート。同世代の仲間が企画運営していく、学び合う場を作る。
    • なぜ、若手・中堅職員は大学改革研究会に集うのか。
      • 夢の場所で働きたい!
      • 学生のためにもっともっと役に立つ職員になりたい!
    • 自分なりに苦労して内定を勝ち取った。学生の能力開発に役立ちたい。多くの若手職員が熱い思いをもって入職してくる。現実は、「未来を拓く」なんて考える余裕が無い。若手・中堅職員が主体的に取り組めるものではない。
    • 若手・中堅職員の現状
      • 目の前の業務に追われている
      • 大学は危機的状況らしいという現実
      • キャリアビジョンをイメージできない
    • 志をもって大学職員になった人も、日々の業務で忙殺される中で当初の志を失っていってしまう。JUAMの近畿地区研究会に参加したところ、役員の方々から「何かやって見なさい」という形で背中を押された。そして、活動が停止していた大学改革研究会を引き継いで運営していく事になった。
    • ごくごく普通の若手・中堅職員が趣味的に集っているのが実情だが、その中で多くの気づきがあり、研究会でのイベント企画・運営を通じて、高等教育の最新情報に触れるなどのメリットがあった。
    • これからのJUAMに求めること。
      • 学会員のチャレンジに寛容な学会であり続けて欲しい。学会員がより一生主体的に参加し、JUAMを味わい尽くしてほしい。暗い未来の話ばかりだが、業務でなくプライベートでやっているので、我々が未来を変えていくのだという気概を持って活動していきたい。自分が動けば周りも付いてきてくれることを信じている。
  • これからのJUAMはどうあるべきなのか。(フリートーキング)
    • アカデミックな分野も必要である。自由な研究の機会が与えられているならば、
    • 知識に裏付けられた実践知という話があったが、具体的な事例があれば回答いただきたい(松本さん)
      • ワークショップを中心としたピア・サポートを行っている。(松田さん)
      • 人事、財務という領域は具体的な問題。各大学での知見などを集約し、そういった点を各大学で活かしている意味では具体的な事例である。(水野さん)
    • 先ほど出した例の中で、3番目のパターンの対応をした人がいる。WCVの提案をして、即決した課長がいた。自分たちの大学では既に行っていた、ということだった。その2校は産業能率大学金沢工業大学だった。(倉部さん)
    • 大学は教学、大学経営の2本の縦糸を紡ぎながら経営していかなければならない。(水野さん)
    • 意識の高い仲間と活動する事が刺激になっており、JUAMに入会して大学改革研究会に所属しなければ現在のような立ち位置にはなっていない。具体的に何かを得た!ということはない。(松田さん)
    • 最近は大学間で異動する人も増えているが、その多くの人たちが大学行政管理学会での発表などを行っている。人材バンク機能を学会が意識的に持つかどうかは色々議論があると思うが、このまま大学で働いていて大丈夫か?と思った事はないか?例えばNEWVERYにはそういった思いをもって、大学職員から転身してきた人が何人もいる。(倉部さん)
    • 根回しと腹芸。これだけで結構仕事ができる、特に管理職になれば。ところが様々なステークホルダーが出てきた今、それだけではやっていけない。何らかの理論や知見に基づいたマネジメントが必要だし、そのマネジメントに基づいた仕事ができないといけない(水野さん)
  • 松本さんに、「こうすればさらにJUAMが良くなる」という提案があれば教えて欲しい。(足立さん)
      • 現在は補助金誘導型の政策なので、ある意味において、大学が初等・中等教育化することにも繋がり得る。そういったことを避けたいのであれば、各大学が自律的にカリキュラムマネジメントを行って、3つのポリシーを実質化させていくことが必要なのではないか。(松本さん)
  • 質疑応答
    • JUAMが無くても活動はできるが、JUAMとしてアーカイブを残すという点で、JUAMだからこそこういった査読方針を採用するということがあるのか。
      • 学会誌という名称である以上、クオリティの担保は必要だと思う。しかし、発行する媒体などは変えていく事も必要なのではないか。
  • 【まとめのコメント】
    • JUAMの良さは懐の広さ、寛容性だと思う。しかし、規律と涵養の両方がある事で多様な学びに繋がると思う。若手にチャレンジする幅の広さを持ち合わせて欲しい。(松田さん)
    • JUAMはバラエティ豊かな学びの場だと思う。人を育てる場合、育つ側が文句を言うチャンスがある。そういった意見を踏まえて原点に戻る事も必要。(竹山さん)
    • 今までの大学職員はオペレーションに対するオペレーターだった。しかし、大学の高度化を支えるためには自律的に企画・提案を行って組織を動かす人物が必要。よって本学会は職員がアドミニストレーターとなることを目指してきた。これからはイノベーションであると思う。変化を見つけて変化を分析し、変化を利用することが大切なので、そうした職員になっていってもらいたい。(水野さん)
    • 水野さんの意見にあったイノベーションは本当に重要だと思う。「学生は未来からの留学生」という加藤寛先生のコメント。未来を最も確実に実現するためには、自分が未来を作っていくこと。良くなった部分もあるが、まだ未解決の点もある。30周年を迎えるための学会活動であればいいと思う。大学で働いていくために、やらなければならないことは多くある。止めるのは難しい。しかし、それを打破していくのがエビデンスだと思う。(倉部さん)
    • これからの社会に相応しい誰も考えていなかったあたらしい大学を、みんなで作っていくことが必要(松本さん)

個人的に今回のイベントで最も面白かったのがパネルディスカッションでした。大学職員、元大学職員や新聞記者など多様なメンバーが大学の将来、大学行政管理学会の今後についての意見を戦わせていたのが興味深かったです。個人的には倉部さんのコメントで「刺さる」事柄が多かったです。イノベーションの重要性の話が出ましたが、大学の事務職員という仕事柄、どうしても内向きな世界に籠りがちになってしまうのは否定できないところです。しかしながら、大学こそが変革を担う人材を送り出していくという使命を与えられていることも事実です。その中で職員がどのように行動し、また大学も職員に対して何を求めていくのか?という点で、未来を拓く職員になるためには大学内にとどまることなく、積極的に他者と協働する機会を作っていく事が必要ではないでしょうか。
他部署と連携せずに達成できる大学改革は存在しない、との倉部さんからのコメントがありましたが、大学での教職協働、産官学連携、地域連携など最近の大学にまつわるトレンドには連携・協働という文字が多くあります。他者を動かし、自らを変革していけるリーダーシップを発揮できる職員になる事が、未来を拓くということに繋がっていくのではないかと感じました。個人的にはSD義務化にあわせて検討すべきは、大学の執行部、教職員におけるリーダーシップ開発ではないかと思っています。そのことについてはまた別の機会に取り上げてみたいと思っています。

Ⅰ−8.「社会一般の人材育成・人事制度等と対比した高等教育機関のそれの特殊性は何か?」中元崇(京都大学医学研究科教務・学生支援室/名古屋大学教育発達科学研究科高等教育学講座・博士後期課程)

  • 研究目的:本研究では社会一般の労働情勢・慣行と高等教育機関の人材育成・人事制度を対比・整理し、今後望まれる人材育成・人事制度のあり様の提起を行う。
  • 日本型雇用システムの本質:雇用契約の特質
    • 濱口(2009)「雇用契約は空白の石版」「雇用契約の法的性格は、一種の地位設定契約あるいはメンバーシップ契約」の指摘
    • 個々の「職務」ではなく、組織に「所属」するメンバーシップ、人を職務に貼付けるシステム。
    • 新規定期採用制度:ポテンシャルに期待してメンバーシップを付与
    • 人事担当部署の中央集権的な採用管理:組織文化に適合的な人材化が第一義。個々の現場の希望は考慮されない。
    • 定期的な人事異動制度:ジョブ・ローテーション、玉突き人事、個人のキャリアパスなどは基本的に考慮されない。ジョブに応じてではない。人員管理、組織体制の維持が優先される。特定の職務に熟達しがたい(スキル熟達による転職が困難)
    • 企業内教育訓練の充実:個人の専門性と人事異動は基本的に不整合、一定の企業内教育訓練(OJT含む)が必要
    • 長期勤続者の優遇:ボーナス支給、退職金
    • 賃金と職務の分離:能力の代理指標としての年功制、職種別労組が未発達、無期限・無定量の業務(効率性の欠如、経験曲線効果が働かない)
    • 定年制:定期採用の裏返し、定期的に雇用終了。
  • 日本型雇用システムの利点と機能不全
    • 社会設計の上で想定しやすいモデル。しかし、社会変動の中で雇用システムが適応できなくなってきた。フルタイム非正規・ブラック企業問題
    • 大学においては事務系の専任職員において、日本型雇用システムを適用
  • 90年代以降の高等教育界の変動
    • 市場化、国際化、ユニバーサル化、ICT化の進展(従来の延長線上での対応は限界、諸業務の高度化・多様化の進展。しかし、アウトソーシング・電算化には限界)
  • 孫福弘のプロフェッショナル論
    • 二つの職務機能とプロフェッショナル機能
      • しかし、日本型雇用システムとプロフェッショナル型の雇用は接合が悪い
      • 大学における高度専門職導入の議論に対する違和感。菊地(2016)の指摘
      • メンバーシップとジョブでは異なる能力観。一緒に扱うのは無理。
        • 政策・制度レベルの諸要因の検討
        • 組織レベルの具体的な制度の検討
        • 個人レベルのキャリア成長とクロスプロフェッショナル化のあり方の検討
  • 質疑応答
    • 留学生からも日本型雇用のあり方が分からないとの質問がある。また、企業からしても働いてもすぐに止めてしまうとの評価。
      • 学術・経営専門職機能と大学アドミニストレーター機能の2つを孫福氏は指摘している。例えば弁護士資格を持つ職員を職場でどのように活用するかという点では、法務系業務のみ・ゼネラリスト志向の双方を見ていくことが必要。立命館と京大が人事交流制度を持っており、難しい部分は、同一賃金ではない中で同じ仕事をしていたという実情がある。市場的な意味で、ジョブの内容で給与が決まるようなあり方を検討していく事には可能性があるのかもしれない。
    • ジョブ型人材を交えた雇用管理は非常に難しい。古典的プロフェッショナルは専門職団体が存在している職業。弁護士、医師など。例えば学習支援専門職を位置づけるならば、職務内容のルーブリックで評価するなどの方法も検討できる。

高度専門職、専門的人材などジョブ型志向の大学職員のあり方が議論される中で、社会一般での雇用・人事と大学の特殊性との比較を通じて、今後の職員育成のあり方を論じた研究発表でした。中元さんの発表にはこれまでもほぼ参加しているように思いますが、今回も興味深く聞かせていただきました。
個人的に思う所があるとすれば、雇用や研修などのあり方を検討する際に、独立行政法人労働政策研究・研修機構*4の学術誌「日本労働研究雑誌」*5や「ビジネス・レーバー・トレンド」*6などが参考にできるのではないかと思っています。学生時代に所属していたのが人的資源管理(Human Resource Management)のゼミだった事もあり、機構のメールマガジンはいつも興味深く読んでいます。また、中元さんが紹介されていた濱口圭一郎先生も機構の研究員です。*7 *8

Ⅱ−7.効果的なSDの企画と実施−テーマパークの事例を参考に−松丸英治(昭和女子大学学長室)

  • 学生時代にアルバイトした某テーマパークと現職での研修制度の違いを感じた事から、SDに関するテーマでHRMに関連する内容をお話する。
  • 本研究の課題・目的
  • なぜ研修(人材育成)するのか
    • 組織は戦略に従う(チャンドラー)
    • 構造は戦略に従う。組織構造は組織が目的を達成するための手段である(ドラッカー
    • 組織論と現実では乖離がある。企業では人材育成・育成も投資。成果が求められるが、大学ではどうか?
  • 非営利組織の戦略
    • 戦略の重要性を知る、人をトレーニングする、廃棄のシステムをつくる
    • ポイントとしては「強みに焦点を合わせる」ことが非営利組織では重要。ドラッカーによる指摘。大学におけるSDの実施状況は国公私立を合算しても82.5%である。中身としては「職員としての基本的なスキルの修得を目的とした内容が多い」しかし、SDの効果検証は行われていないという指摘。岩崎
      • 現在行われているSDの必要性は本当にあるのだろうか。効果検証が行われていないSDに意味はあるのか。
      • 某テーマパークにおける研修。効果検証を前提とした研修制度が設計されている。合格しないと配属されない。不合格だと再研修。Disney University。かなり充実した研修施設。自分が何のための働いているのかを明らかにする。カストーディアル(清掃)マニュアルにもフローチャートがある。組織のビジョン➡組織のミッション➡部署のミッション➡部署の業務運営方針➡部署の作業という形でブレイクダウン。「毎日が初演」として業務に当たる。
      • 「現場のルールに理念を紐づける」
  • マニュアルの目的
    • 一般企業:個人の力を引き上げるため
    • ディズニー:現場のチーム全体の機能を押し上げるため
      • ストレンジャー:取り組むべき事を理解していない。
      • ディスリガード:定められたルールを軽視する
      • マインドレス:本質を理解していない
        • シンプルで明確なマニュアルを作る:全員を戦略に変える(研修)
        • 例えばディズニーランドで「ウォルト・ディズニーの理念は?」と聞けば、全員が答えられるように「訓練」されている。
    • 効果測定:相互で研修効果を確認する
      • 入社後の講義➡ペーパーテスト➡実地訓練➡実地テスト、OJT➡チェックシート、観察による評価
  • マニュアルに基づく効果検証
    • モチベーションを高め、ステップアップも踏まえた研修体系を形成。
    • 研修は、効果を確認することが前提
    • おはよう日本での紹介事例:2016/09/02
      • 近年、顧客満足度が下がってきている。ベテランキャストに対する顧客満足度向上のための接客力の向上
  • OJTでの事例
    • 研修で学んだ事を実地訓練で確認する。トレーナーとペアで業務を行い、一つ一つ作業手順を確認する。ミッションを理解した行動がとれているか確認する。効果測定方法は観察。トレーナーにも研修実施のポイントが定められている。マニュアル以上のことができるようにするために、マニュアルの的確な整備が必要不可欠ではないか。
    • トレーナーの仕事は通常業務のプラスアルファ。トレーナーをさせることでトレーナー自身の成長にも繋げていかなくてはならない。
      • SD(研修)の必要性:テーマパークでの事例は大学に当てはめていくことが可能なのではないか。ドラッカーが提唱する戦略そのものをテーマパークではやっている。大学とテーマパークの間で研修の目的に差がある?
      • SDの効果検証:効果が分からないものに投資をする意味は?東京ディズニーリゾートは3000億円程の年間売り上げがあると思うが、米国本社との取り決めで売上げの一割
    • 大学のSDは大学の理念・目的と紐づける事で、効果が出てくるのではないか。
      • 大学として必要な組織能力の把握➡所属員の能力の把握➡必要な人材と能力の把握➡SD(研修)➡効果の検証、または何に紐づけるか➡効果のある・意味のあるSDになるのでは。

某テーマパークの事例を元に、効果的なSDのあり方を模索するという興味深い内容でした。松丸さんの発表もほぼ毎回聞いているのですが、立教大学MBAを取られている事もあって、ビジネスアドミニストレーションのケースを馴染みやすいテーマパークに当てはめる事で分かりやすく説明されているのが特徴です。個人的には去年の発表でも効果検証の必要性を指摘する意見があったと思うのですが、確かに大学のSD研修においてはその視点が欠けているように感じます。
これは昨今の大学教育改革で質的転換が謳われ、修得主義から学修成果の評価に移行する過程とよく似ているように感じます。つまり、SDにおいてもただ受講するだけではなく、具体的に何が身に付いて何ができるようになったのかを測定可能にする設計が必要だという事です。この点においては、中元さんの発表の質疑応答で職務内容のルーブリックについての話が出ていたように、SDに関しても効果測定を可能とするためのルーブリックなどを検討していく事が今後のトレンドになるかも知れませんね。

Ⅲ−8.私立大学のガバナンス改革−内部対立構造を防ぐ組織設計を考える−杉原明(学校法人工学院大学総合企画部長)

  • ガバナンス改革というタイトルを付けたが、ガバナンスには様々な定義があり、内容面ではマネジメントの部分が入っている。また、テーマに入っている「内部対立構造を防ぐ」という点では、内部対立によって適格に意思決定ができない場合、大学の存続に関わる。よって、意思決定の仕組みの部分をどのように改革するか、具体的には寄附行為の変更等も含めてお話する。
    • 工学院大学は2キャンパス、学生数650人の工学系大学。最初の15年間は産業能率大学で勤務していた。オーナー系の大学。良い事もあれば良くない事もある。工学院大学に移ってきた際、民主的な大学だと思った。ただ反面、教授会で一人が反対したら決まらない面もあった。それでいいのか?という面もある。
    • 現在の理事長は卒業生で企業経営の経験を持つ人物であるが、企業的なガバナンス・組織設計の考え方が入ってきた。その中、工学院で寄附行為の変更等に至ったという経緯である。
  • ガバナンス改革の目的とは
    • 適切な組織運営による強い組織作り➡私立大学の具体的な課題(責任と権限の所在)①経営(理事会)と教学(大学)の関係の明確化、②学長(大学)と教授会(学部)の関係の明確化、③理事会と評議員会の関係の明確化➡決められない組織から決められる組織へ。経営と教学は車の両輪。
  • 私立学校法改正(2004)の目的
    • ①理事会は学校法人の最終的な意思決定機関、②評議員会は諮問機関(多様なステークホルダーの代表)、③監事機能の強化(学校法人の適切な運営チェック)➡役割分担(分化)による機能の強化
  • 学校教育法改正(2014)の目的
    • 学長と教授会の関係の明確化、①学長が業務執行を決定する(学校法人としてどこまで学長に委任するかは各法人で検討)、②教授会は教学事項に付いて意見を述べる➡教授会は決定機関ではない(諮問機関的役割)
  • 組織・業務決定・内部規則の体系イメージ
    • 体系が明確であれば、運営に混乱は生じない
  • 学校法人工学院におけるガバナンスの問題
    • ①理事会と教授会・学長の権限および責任の分担、②理事会と評議員会の権限および責任の分担、③理事および評議員の定員を削減
  • 寄附行為の見直し
    • 評議員会の議決事項、諮問事項の見直し
    • ②理事、評議員の定員および選任方法の見直し
      • 理事6〜9人、評議員定員を33名に。職務上の理事・評議員を原則廃止(適任者を選出)
  • 学長選考方法の見直し
    • 理事会が学長の任命責任を実質的に負う仕組みに。
    • 学長選挙を廃止、理事会が次期学長のミッションを提示し学長選考委員会を設置、学長選考委員は理事会・教授会・評議員会から各機関の互選。経営の視点、アカデミックの視点、ステークホルダーの視点
  • 人事制度の見直し
    • ①職員人事制度の見直し:職能階級制度、目標管理制度の導入
    • ②教員人事制度の見直し
  • まとめ:内部の対立を防止するためのガバナンス強化
    • 理事会が最終意思決定機関。よって理事長も学長も理事会の決定に従って業務を執行する。ガバナンスの強化こそが無用な内部対立を防止する手段。
  • 質疑応答
    • 工学院大学では監事機能の強化という点で、どのような取り組みをしていたのか。
    • いずれは常勤の監事を置く予定である。現状では非常勤監事2名の体制だが、財務関連の内容のみならず教学関係の業務監査ができる人物の採用がポイントである。
    • 職員人事制度の導入と組合との関係性については。
      • 色々あったが、何故ダメなのか?ということを組合側が示す事ができなかった理由である。こういった点について、ロジカルにやっていくことが非常に重要である。
    • 所属大学でもガバナンス改革を実施したが、発表内容を聞いてよく内容が整理できた。ガバナンス改革の成否は、改革内容を構成員にしっかり伝えていくことが重要だと思うが、どうか。
      • 部長レベルには会合の中で話しているが、教員や他の職員に関してはこれから説明していく段階である。全構成員にしっかり説明していく予定である。
    • 合議制を前提にしていると、ガバナンス上の難しい面もあると思うが、合議制の意思決定のアジェンダ・方針などはあるか。
      • やらなければいけないと思っている。理事会が責任を持てる集団にしていくことは必要。理事会のメンバーには重い責任があるから数も少ない。合議制が無くなると理事長の暴走を止められない体制にもなってしまうので、リーダーシップと合議制のバランスを取りながら運営する事が重要。委員会の設置に関しても学長の権限で置くように変える。大学に権限と責任を与えるから、そのために必要な組織構成を考えていくべきではないか。

大学におけるガバナンスの問題は、法改正などによって大きな影響を受けますが、その趣旨を理解して自学に適合的なガバナンス体制をどのように構築するのかということで、実例を元にした内容でした。私自身、現在は法人事務局で勤務しているため、ガバナンス体制の適切な構築という点で関心を持ってきいていましたが、個人的に感じたのは意思決定のあり方を見直すと同時に人事制度なども検討することに意味があるのではないかという部分です。
より具体的に言えば、杉原さんの所属部署である総合企画部が司令塔としての役割を果たし、トータルプランでガバナンス改革を進めていった事が良いのではないかと思った次第です。法人部門でも総務、人事、企画、財務など機能別に分化した組織を持つ大学も多くあると思いますが、それぞれが分かれているとなかなか意見を調整・集約するのは大変な事です。スピード感をもって運営するためにも総合企画部のような総括部署を置くということは、大学事務組織の合理的運営という面でも参考になります。反面、総括部署を機動的に動かせる人材がいないと機能しませんので、高い能力と専門的な知識が要求されるでしょう。まさに大学アドミニストレーターでないと担えない業務だと思います。その一端ではありましたが、杉原さんの発表から大学アドミニストレーターとしてのあり方を感じました。

以上、長々と書きましたが、今回の参加記録を終わりにしたいと思います。来年は福岡の西南学院大学での開催となります。私自身、九州には行ったことがないこともあるので、参加できるかは現時点で未定ですが、もし参加できた場合にはまた多くの学びを持ち帰れるようにしたいと思っています。