Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

沖縄科学技術大学院大学(OIST)が博士課程開設式を挙行

high190です。
このブログでも開設に向けた状況をお知らせしてきましたが、*1 *2 *3沖縄科学技術大学院大学(通称:OIST)が9月6日に開設記念式典を開催しました。


ノーベル賞学者ら世界トップクラスの英知を結集し、自然科学分野で世界最高水準の研究・教育機関を沖縄に設立する−。構想から11年余、沖縄科学技術大学院大学(OIST、ジョナサン・ドーファン学長)が1日、開学した。
曲折もあったが、最先端研究で人類の新たな未来を切り開くとともに、沖縄の経済的自立に向けた起爆剤となることを期待したい。
OISTは開学前の早い段階から研究事業を展開しており、これまでに440以上の論文を発表。1期生34人の入学で、研究と教育の両輪がそろい本格的に始動する。
国際性に富んだキャンパスを目指すが、教授陣や研究者、学生の顔触れを見れば一目瞭然だ。1期生で日本人は県出身者1人を含めわずか5人。残る29人はアフリカ、北米、欧州、アジアの世界18の国と地域にまたがり、多様だ。ドーファン学長は3日の歓迎式で「私が知る限り、世界でもこれほど幅広い科学的、文化的バックグラウンドを持った学生で構成された博士課程はない」と述べたが、国際色の豊かさは世界に開かれた証しでもある。学生のほかにも、約50人の教授陣、約260人の研究員、約170人の事務職員や研究支援スタッフがいるが、それぞれが世界と沖縄の懸け橋となる気概と誇りを持ち続けてほしい。県民にとっては、世界レベルの研究・教育機関が身近に存在する意義は計り知れない。沖縄の教育環境にとどまらず、社会・経済環境を変革する可能性を秘めるといっても過言ではないだろう。
とりわけ沖縄の未来を担う子どもたちへの教育的効果は大きい。世界的な研究者らとの触れ合いが創造性を刺激し、将来への夢と希望を与えるからだ。OISTは学生や児童を対象にしたオープンキャンパスや出前授業などを積極的に展開しているが、今後も引き続き、地域連携活動に力を注いでほしい。
一方、米スタンフォード大学シリコンバレーの関係を挙げるまでもなく、研究のアイデアや発明が産業化につながり、企業の集積を促す。一朝一夕にはいかないが、沖縄型の知的・産業クラスターはどうあるべきか、内外の英知を結集したい。現状の沖縄は基地の島として海外に知られているが、OISTを核に、世界に冠たる学術研究都市、先端産業集積都市となる日を心待ちにしたい。

記事にもある通り、入学者は34人ですがOISTは5年一貫性の博士課程のみを設置する大学院大学であるため、修了までには5年を要することになります。日本では前期・後期で課程が区分されている「区分制大学院」が多く、一貫した博士の学位プログラムの構築を座して今年の3月に大学院設置基準が改正され、博士論文研究基礎力審査を導入できるようになりましたが、*4OISTはそもそも5年一貫性の博士課程であるため、コースワークなどもじっくり行える環境にあるでしょうから、研究大学としてグローバル・スタンダードに近いと言えるでしょう。また、日本人学生の比率が約15%で授業はすべて英語で行われるため、沖縄という場所に立地していることも含め、国際的に開かれたグローバルな大学院大学であることも注目すべき点です。OISTに対する地元の期待は高く、地域連携や新産業の創出など多岐に渡っているため、高い教育研究のレベルを維持しつつも地域課題に対応できるかが大学院大学の成否を決めると言っても過言ではないように思います。

東京大学が秋入学に向けた検討を開始しましたが、OISTはそれに先駆けて秋入学と英語オンリーの講義を実施することになっていますし、昨今大学業界で叫ばれているグローバル化を先鋭的に捉えて実践している大学院であるだけに、大きな期待を持ってOISTの将来を見つめていく必要があると思います。と同時に今までにはない大学であることも確かなので、大学内部の動きがどうなっているのかを知ることも大切かと思います。OISTのG0細胞ユニットに所属する柳田充弘教授がご自身のブログの中で、OISTの現状や内部から見た問題点などをお書きになっています。*5柳田先生は京都大学名誉教授であると同時に文化勲章を受章されている研究者です。これまで長く日本の大学で研究に従事されてきた先生から見て、OISTの日常を知ることも大切ではないかと思います。

*1:沖縄科学技術大学院大学の初代学長はスタンフォード大学教授に http://d.hatena.ne.jp/high190/20100710

*2:沖縄科学技術大学院大学オープンキャンパスに約2,000人が来場 http://d.hatena.ne.jp/high190/20101205

*3:沖縄科学技術大学院大学の専任教員に定員の約37倍もの応募が http://d.hatena.ne.jp/high190/20110216

*4:「博士論文研究基礎力審査」に係る大学院設置基準の改正をどう読むか? http://d.hatena.ne.jp/high190/20111225

*5:生きるすべ IKIRU-SUBE 柳田充弘ブログ http://mitsuhiro.exblog.jp/