Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

東北大学PDプログラム「特色ある大学を創るために「理念駆動型」の組織マネジメントを」に参加しました

high190です。
10月27日(土)に東北大学で開催された標記セミナーに参加しました。参加記録のメモを公開します。
以下の記録はhigh190が聴講した際に記録したメモです。主観が入っていること、内容に誤りが含まれる可能性があることを予めご了承ください。

特色ある大学を創るために「理念駆動型」の組織マネジメントを(出展:東北大学高度教養教育・学生支援機構)

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  • 開会挨拶 杉本和弘副センター長
    • 柳澤先生は前回のLADでアドバイザーを務めていた。組織を動かすにあたって推進力を内蔵した理念駆動型のマネジメントを学んでいってもらいたい。
  • 現状認識
    • 愛媛大学を辞めて4年になるが、愛媛大学の教職員には理念を大事にする文化があったように思う。現在は岡山理科大学で学長を務めているが、今日のセミナーでお話するのは愛媛大学にて取り組んだ事例である。
    • 吉武博通先生がカレッジマネジメントで連載されている"大学を強くする「大学経営改革」"は有益な示唆が多く含まれているが、Vol.212 Sep.-Oct.2018の「政策を見据えつつ現場主導の改革を−大学は高等教育政策にどう向き合うか」にて分かりやすく論点が整理されているので、抜粋してご紹介する。
      • 「瑞々しい感性や活力を失いつつある。」
      • 「政策を鵜呑みにするのではなく」
      • 「自校の課題と結びつける」
      • 「政策をどのように運営に活かせば大学をより良い方向に向かわせることができるか」
    • 吉武先生には岡山理科大学の外部評価委員をお願いしている。中長期計画などもガチガチにしてしまうとダメ。ストーリー性のある計画が欲しいとのご意見を踏まえて、岡山理科大では計画を策定するようにしている。
    • 「理念駆動型の組織マネジメント」とは
      • 「理念駆動型」となるためには、国の政策の字面を鵜呑みにするのではなく、その背景にある理念を批判的に取捨選択して自らの理念を打ち立て、それに基づいて実行することが肝心である。
      • 政策が揺らぐ現状では、大勢順応型であるよりは「異端」とみなされようとも軸がブレないことの方が大事ではなかろうか。
  • 自己紹介
    • 愛媛大学で大学教員として30年近く勤務。*1
    • これまででのキャリア
      • 平成11〜13年度(大学教育総合センター員)課題:教養部廃止後の共通教育の当て直し
      • 平成12〜16年度(評議員、理学部長)課題:国立大学法人化対応、理学部の教育改革
      • 平成16〜17年度(学長特別補佐、企画・評価担当理事)課題:大学憲章草案作成、法人化後の制度設計、学長が外部評価委員から「愛媛大学の特色を一言で」と言われて答えられず、大学憲章の制定に動いた。こうした経験から大学の理念・制度設計に関係する機会があった。
      • 平成18〜20年度(教育担当理事)
      • 平成21〜26年度(学長)
      • 平成27年度〜岡山理科大学学長
  1. 愛媛大学の概要
    • 7学部6研究科からなる地方国立大学。
      • 7学部と4機構(教育・学生支援機構、先端研究・学術推進機構、社会連携推進機構、国際連携推進機構)縦割りになりがちな学部に対して横軸としての機構。
      • 学長在任中、学内の委員会をすべて廃止し、教育学生支援会議に統合した。審議機関はこれだけ。委員として各学部からは副学部長クラスが出てくるため、各々の責任に応じた対応を求め、「学部に持ち帰って」ということをできないようにした。
      • 教育企画室の設置にあたって、通常事務組織は横並びにするのが普通だが、教育企画室に関しては機構長直属にした。
      • 学部横断的な研究センターの設置。センター数は多いので、研究者は兼任で対応。
    • 愛媛大学の3つの教育・研究拠点
      • 文科省の政策として拠点への資金投下を行っている。愛媛大学でも教職員能力開発拠点が教育関係共同利用拠点に認定された。全国の学長アンケートで上位に入ったが、評価が高いのは愛媛大学教育企画室メンバーは全国の中小規模大学で経験を積んだ者が多いことも影響していると想定。
      • 環境や生命などの得意分野において世界レベルの研究を発信するとともに、他大学から注目される教育、FD/SDを実施している。
  2. 教育改革と教職員能力開発
    • FDの定義とは?(学士課程答申の定義)
      • 授業内容・方法を改善し向上させるための組織的な取り組み。
      • 私立大学では私立大学党改革総合支援事業でFDへの参加率を求められる。しかし、愛媛大学ではFDポリシーを定義し、授業の改善(ミクロ・レベル)、カリキュラムの改善(ミドル・レベル)、組織の整備・改革(マクロ・レベル)の3種に分けて実施している。これは既にSPODで四国地域には定着した概念である。
      • FDポリシーをベースに、教育改革(教育コーディネーター制度)、能力開発(教育企画室)、両者の統合的実践とネットワーク化(ミドル・レベルのFD、SPOD、教育関係共同利用拠点、ミクロ・レベルのFD)
      • FDポリシーの拡大:FDからPD(Professional Development)へ
      • 能力開発(PD)に重点を置いた愛媛大学独自のテニュア・トラック制度の導入。
    • 上記施策の実行で、高等教育開発者に対しての「活躍の場」が与えられた。
      • 現在の教育企画室の体制
      • 小林直人室長・教授、中井俊樹副室長・教授、村田晋也講師、仲道雅輝講師、竹中喜一特任助教、上畠洋祐特任助教
      • 阿部光伸講師(学生支援センター兼任)、高橋平徳講師(教職課程センター兼任)、丸山智子講師(学生支援センター兼任)

(過去の所属教員)佐藤浩章(現・大阪大学全学教育推進機構教育学習支援部准教授)、秦敬治(現・岡山理科大学副学長)、山田剛史(現・京都大学高等教育研究開発推進センター准教授)

      • 特に佐藤氏、秦氏は愛媛大の経験があって全国的な活動ができるようになった面もあると思う。
    • 段階的・継続的なFD活動開発
      • SD活動でも職員が講師をやっているのはメリットがある。自分たちの一歩前を行く人が講師であること、自前ならば講師代がかからないこと。
      • 教育企画室がネットワークリーダーとしての機能を持つようになった。
    • 教育コーディネーター制度
      • 各学部・学科の教育責任者。教育重点型教員。各大学での教務委員に相当するが、標準任期は4年に設定している。通常の教務委員では忙しい若手教員が短期(1〜2年)で交代するため、教育改善につながらない。専門性を高めるために「教育コーディネーター研修会」を年4〜5回実施。外部講師招聘。ファシリテーター教育企画室員が担う。
    • 教育改革と能力開発の統合的な体制づくり
      • 全学的視点で教育改革を議論し、実践できる体制を確立する
      • 全学レベル及び学部レベルで教員の役割分担を明確にする
      • 学部・学科における教育責任者の存在を明確にする。
      • 全学機能を強化するための専門的人材を配置する。
    • SPODの開発、SPODフォーラム*2
    • 愛媛大学テニュア教員育成制度
      • 3年間で100時間の研修プログラムを受講。教育能力開発プログラム、研究能力開発プログラム、マネジメント能力開発プログラム(会議マネジメントが入っていることが興味深い)、総合プログラムから構成。
    • 日本ではテニュア・トラックを文部科学省の研究3局(科学技術・学術制作局、研究振興局、研究開発局)が主管しているため、高等教育局が手を出しにくいのではないか。現在の助教制度は5年程度の任期を付されていることが通例だが「非常にけしからん」制度。若手研究者に対してのサポートが全くない。テニュア・トラックはもっと普及してほしい制度。
  1. DPと学生コンピテンシー
    • DP=学位授与方針、卒業時に達成していることが求められる到達目標。
      • 全学DPを作ろうとすると、学位の専門分野との相当関係において、学部・学科には意味があるが、総花的な内容にしかならないので全学DPにはあまり意味がない。(認証評価用には作る必要があり、愛媛大学でも整備は行った)
      • 現在、アセスメントポリシーの議論がなされているが、4つのポリシーで整合性が取れていなければならないが、DPは実現可能なものでなければならない。
      • よって、愛媛大学では全学DPではなく「愛大学生コンピテンシー」(平成24年7月制定)を制定し、学生として目指すべき方向目標(目指すべき方向)を示した。これは大学側が学生が人間としてトータルに成長することを支援する決意表明をしたもの。
    • 準正課教育(co-curricula)
  2. 地域人材の育成
  • 愛媛大学における地域人材の育成
    • 地域の発展を牽引する人材の養成、地域社会の自律的発展に貢献
      • 地方の大学は地方活性化を企図して設立された事例があるという認識(当時の学長)
      • 憲章に地域人材育成を組み込んだところ、各学部・学科がコース制で特別教育コースと研究センターの設置を進めた(大学執行部からの指示ではない)、こうした取り組みを基盤として文理融合型の新学部「社会共創学部」を設置(平成28年4月)
    • トランスディシプリナリー・アプローチ
      • 研究者が多様なステークホルダーと共に現状分析と問題の原因探索を行い、それを解決するための課題を設定し、その課題解決のための研究を企画し(Co-design)、協働で課題解決のための取組みを実施し(Co-production)、実施の成果を社会に還元して(Co-delivery)、社会の課題を解決しようする手法。
      • 学部ができた際に学部長や学科長が「社会共創学概論」を発行した。


理念を駆動させる仕組み作りなど非常に興味深いお話でした。日本の大学の場合、理念を立てるところまではできる、しかし駆動させる仕組み作りまで行うのが苦手な印象を持っていましたが、愛媛大学が高等教育機関として理念を機能させる制度を実装していった過程が可視化されていると感じました。特に、その駆動を担うのが教育企画室であり、学内の総合的教育支援組織として各部局を支援している体制は非常に興味深かったです。
別の機会に書きたいと思いますが、9月末にカナダ・オンタリオ州のクィーンズ大学に訪問調査をしてきました。その際、訪問先だったのが"Centre for Teaching and Learning(CTL)"という組織です。いわゆるScholarship of Teaching and Learning(SoTL)*3を担う組織です。

Home | Centre for Teaching and Learning

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Queen'sのCTLではPh.D保有で各々専門性を持ったEducational Developer*4が学内の総合的教育支援を担っていました。これと同じ機能を愛媛大学では教育企画室が担っています。愛媛大学では機構長(教育担当理事)の下に教育企画室が置かれていますが、Queen's UniversityではVice-Provost(Teaching and Learning)の下にCTLが置かれています。こうした役割の共通性があること、理念駆動型のマネジメントの態様は各国制度の違いを超越している可能性があること、理念駆動の仕組みが大学の教育改革に繋がるのであり、その中でEducational Developerが所属する機関が理念を現実化させるための駆動役を担う、というモデルがあることなど、柳澤先生のご講演から海外大学調査の気づきを深めるいい機会になったと思います。
日本においても、理念駆動型のマネジメントを推進する上でのカギは日本版SoTLの開発とともに、冒頭で柳澤先生がおっしゃていたように「国の政策の字面を鵜呑みにするのではなく、その背景にある理念を批判的に取捨選択して自らの理念を打ち立て、それに基づいて実行することが肝心」なのだと思います。そのためにも政策立案能力と教職協働を推進できる専門性を持った職員の存在が今後、より重要であることは間違いありません。

*1:https://www.univcoop.or.jp/about/interview/vol26.html

*2:愛媛大学のSPODについては2018年度の大学行政管理学会での報告を是非ご参照ください「愛媛大学のSD事業はなぜ継承できているのか?」http://high190.hatenablog.com/archive/2018/09/06

*3:SoTL関連論文「ポスト・ボイヤーのスカラーシップ論」 http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=AN0006957X-00000079-0001

*4:https://www.queensu.ca/ctl/about-us