Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

改正私立学校法説明会(京都会場)に参加しました

high190です。
2019年9月17日(火)にキャンパスプラザ京都で行われた説明会に参加しました。今般の法改正は「学校教育法等の一部を改正する法律」として、学校教育法、国立大学法人法私立学校法及び独立行政法人大学改革支援・学位授与機構法が改正されることとなり、そのうち私立学校法についての説明会として私立大学対象に実施されたものです。なお、10月7日(月)にも東京会場(文部科学省東館3階講堂)で説明会が実施されます。

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また、私立学校法の改正にあたっては、大学設置・学校法人審議会学校法人分科会の下に置かれた学校法人制度改善検討小委員会が平成31年1月7日に公表した「学校法人制度の改善方策について」を基にした内容となっていますので、こちらも併せて御紹介しておきます。

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京都会場説明会の記録を公表します。主観が入っていること、内容に誤りが含まれる可能性があることを予めご了承ください。

1.改正私立学校法に係る説明

  1. 私立学校法令和元年改正の概要」についての説明(松坂浩史私学行政課長)*1
    • 配付資料1の5ページから説明する。新たに学校法人の責務を規定。
    • 管理運営制度の改善。特別の利益供与の禁止。対象者は政令で規定。当該資料は例示であることに留意。学校法人と役員の関係は委任に関する規定に従うが、善管注意義務を明確化した。
    • 理事会の議事参与制限。特別代理人制度を廃止。業務執行にあたっては当事者である理事等は当該議決に関わらないこととする。
    • 監事の職務。今回の法改正で大きく変わる。理事の業務執行監査、理事会の開催招集権が追加された。監事が開催招集を求めたにも関わらず、理事長が開催しない場合、監事自ら招集できるように制度変更。学校法人の目的範囲外行為等によって、法人に著しい損害を与えると思われる理事に対して、監事による差止請求権を追加。
    • 競業及び利益相反取引の制限。理事が他の学校法人の理事、教授・非常勤講師を兼ねる場合、理事会での承認が必要になる。年1回ぐらい理事の競業状況を議題にすると良い。利益相反行為の場合、賛成した理事も連帯責任を負うことになる。利益相反取引が生じる場合、議事録規定に理事の賛否記載を義務化し、責任の明確化を図る。議事録規定については、寄附行為作成例第19条第3項を新設。
    • 理事の監事への報告義務。理事が経営上重大な事実を発見した場合、監事への報告義務が生じる。
    • 評議員会の議事参与制限。業務執行にあたっては当事者である評議員等は当該議決に関わらないこととする。
    • 評議員会からの意見聴取。中期計画、役員報酬基準は予め評議員会の意見を聴かなければならないことを規定。
    • 役員の学校法人に対する損害賠償責任。悪意又は重過失の場合、損害賠償責任を負う。軽過失の場合、評議員会の決議により損害賠償軽減を可能に。
    • 役員の第三者に対する損害賠償責任。悪意又は重過失の場合は損害賠償責任を負うもの。評議員会3分の2、理事会の場合は半数。損害賠償責任が重いと理事のなり手が減る恐れがあるので、責任限定契約についても制度化。寄附行為に「損害賠償責任の最低額」を規定し、その上で各非業務執行理事又は監事と「責任限定契約」を締結することで、責任の限度額を定める。この場合の報酬は役員報酬のみではなく、教職員としての給与も限度額に含まれる。
    • 中期的な計画については直近の認証評価結果を踏まえて評議員会の意見を聴かなければならない。毎年度の事業計画についても同様に直近の認証評価結果を踏まえて意見を聴かなければならない。
    • 寄附行為、役員名簿は各事務所に備え置き、閲覧に供すること。紙媒体ではなく電子的データでも可。
    • 役員報酬の支給基準。学校法人の公益性、税制上の優遇措置が与えられているので社会通念から逸脱した賃金が払われることは適切ではない。公開することで社会通念上の説明責任を果たす。例えば、設置する大学の教授が理事を務める場合、理事の職務についての支給基準が公開対象となる。役員報酬基準の制定にあたっては、2020年4月1日までに評議員会の意見を聴いたうえ、公表することが必要。
    • 情報の公表。インターネットの利用による。
  2. 政令・省令についての説明(川村匡私学行政課課長補佐)
    • 施行通知及び法改正の趣旨等について、資料1の37ページから説明する政省令の一部改正に係る通知は近日中に発出するが、「留意事項」をよく参照すること。
    • 特別の利益供与を禁止する学校法人の関係者について規定。
      • ア 学校法人の設立者、理事、監事、評議員又は職員
      • イ アの配偶者又は三親等内の親族
      • ウ イの者と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
      • エ ウの者のほか、アの者から受ける金銭その他の財産によって生計を維持する者
      • オ 学校法人の設立者が法人である場合にあっては、その法人が事業活動を支配する法人又はその法人の事業活動を支配する者として文部科学省令で定めるもの
    • 役員の欠格事由。成年被後見人。損害賠償責任の報酬算定方法を規定、年収・退職金の算定方法、損害賠償責任免除決議後の退職慰労金の利益、
    • 事業報告書の掲載内容についての規定を追加(資料1の53~58ページ、参考例を作成)。情報公表するデータはダウンロード及び印刷が可能な形態でホームページ等に掲載することが望ましい。
    • 役員の報酬等の支給の基準。報酬の額の算定方法については、例示を参考に各法人で定めること。役員報酬基準は既に約6割の法人で定められているが、法改正の趣旨を踏まえて制定いただきたい。
  3. 改正私立学校法のQ&Aについての説明(川村匡私学行政課課長補佐)
    • 寄附行為変更認可申請の集中受付期間を設定。
      • 第1期は2019年12月2日(月)から13日(金)まで*2
      • 第2期は2020年1月14日(火)から24日(金)まで
    • 上記期間の申請が難しい場合、私学行政課に個別相談いただきたい。必要書類は寄附行為変更の手引きに基づき対応、パンフレットは不要。対面での事務相談は行わず、私学行政課法人係にて電話相談を受け付ける。
      • 【参考:寄附行為変更認可申請の必要書類】
        • 1.提出書類の種類及び提出部数 1部
        • 2.提出先 私学部私学行政課法人係
        • 3.申請書類について
          • (1)学校法人寄附行為変更認可申請書(様式第1-2号)
          • (2)寄附行為変更の条項及び事由を記載した書類(新旧対照表を含む)
          • (3)当該学校法人の概要を記載した書類(様式第2-2号)
          • (4)寄附行為所定の手続を経たことを証する書類
          • (5)現行の寄附行為
          • (6)当該学校法人の事務組織の概要を記載した書類(様式第5号)
          • (7)事務担当者連絡票
    • 認可申請後、補正が必要となった場合には別途理事会・評議員会に諮る必要があるが、軽微な修正は理事長一任とすることも可能。
    • 特別な利益についての定義。「委任に関する規定」について、就任時の就任承諾書等の書類に変更が生じうるか否かは各法人で確認すること。
    • 監事の職務。理事の業務執行監査。これまでの取扱いが変わるものではないが、学部・学科の改組、認証評価、教学マネジメントサイクルなどのチェックは監事の業務監査に当然含まれる。監事の職務権限強化に伴い、監事の業務は理事会がチェックすることになる。
    • 役員の競業は理事会での事前承認が必要。
    • 役員の損害賠償責任について、会社役員損害賠償責任保険(D&O)の対象に含まれるか否かは、会社法制の見直し議論を踏まえて文部科学省でも検討している。なお、社会福祉法の改正に伴い社会福祉法人の役員等の損害賠償責任の明確化に伴い、同保険の適用対象となったことは承知している。
    • 非業務執行理事について、理事のうち「業務執行理事又は当該学校法人の職員ではない理事」と「監事」が該当すること、個別具体的な業務分掌を定めている場合、上記の役員でも業務執行理事と看做される可能性があることについて説明。
    • 中期的計画の策定。認証評価結果を反映させるのは大学のみ。原則として5年以上の計画であること。作成例を示すことは予定していない。
    • 役員名簿の公表。作成から5年間の据え置きが必要。
  4. 寄附行為作成例についての説明(加賀俊策私学行政課法規係長)
    • 作成例はあくまで例であり、どのように取り扱うかは各法人で御判断いただきたい。具体的に改正作業を行う担当者には、政省令通知に作成例を添付するので、その点をお伝えいただきたい。以下、個別に寄附行為作成例の条数にて説明を行う。
    • 第8条。監事の選任規定。利害関係者の規定が追加。第2項を追加、独立性の確保。
    • 第9条。役員の選任に当たって、前任者の残任期間と規定の任期年数のいずれかを選択することを可能にした。
    • 第11条。役員の解任。死亡と成年被後見人を追加。
    • 第16条。監事の職務。第3号に理事の業務執行監査を追加。理事会の招集請求権、理事の行為差止請求権も追加。
    • 第17条。理事会の事項。理事会開催の招集がされて理事長が理事会を開催しない場合の対応について、監事の招集に係る条文の追加。
    • 第19条。理事会議事録。議事録の署名・押印方法を理事全員から理事長と議事録署名人2名に変更。利益相反取引の場合、理事それぞれの意思(誰が賛成で誰が反対か)を議事録に記載しなければならない。
    • 第23条。予算、事業計画、中長期計画、役員報酬基準については評議員会意見聴取を義務化。
    • 第36条。財務書類等の備え付けについて役員等名簿、寄附行為が追加。
    • 第37条。情報公表の条文追加。
    • 第39条。役員報酬基準の規定を追加。
    • 第42条。残余財産の帰属者について、明確化の観点から「その他教育の事業を行う者」に変更。
    • 第45条。書類及び帳簿の備え付けについて、寄附行為・役員等名簿が公表対象に含まれたため削除。
    • 役員の損害賠償責任に関し、責任の免除、責任限定契約の条文例を提示。寄附行為上でどの項目に規定するかは各法人の判断となるが、同条文を規定する場所については、第4章「評議員会及び評議員」の項目又は第8章「補則」の項目に含めることが考えられる。

2.質疑応答

  • 特別の利益供与を禁止する学校法人の関係者について
    • 特別の利益供与を禁止する学校法人の関係者には「理事が経営する会社等」から給与を得て「生計を維持する」場合には該当する。
  • 今般の法改正に係る寄附行為変更認可申請の「理事長一任の取扱いについて」
    • 寄附行為の認可申請に係る「軽微な修正を行う必要が生じた場合の理事長一任の取り扱い」については、認可申請時に「寄附行為所定の手続を経たことを証する書類」として議事録の写しを御提出いただくので、理事会等の議事録上に記録として残すことで対応いただきたい。
  • 寄附行為作成例中の文言について
    • 寄附行為作成例では、財団法人由来は決議、私立学校法由来は議決を使い分けているが、どちらかに統一していただいて差し支えない。
  • 役員報酬基準の策定について
    • 役員報酬基準の策定にあたり、今般示された寄附行為作成例と私立学校所在地の都道府県で作成している標準例に差異がある場合の対応だが、今後各都道府県の私立学校所管事務局宛に法改正に係る通知を発出予定である。今般の法改正は文部科学大臣所管法人のみを対象とするものではなく、全ての私立学校が対象となるため、役員報酬基準の制定は全学校法人が行わなければならない。よって、文部科学大臣所管法人の場合、評議員会の意見聴取を行ったうえ、役員報酬基準を制定し、2020年4月1日までに作成・公表していただきたい。

以上になります。今回の改正で役員の損害賠償責任が明確化されたことにより、説明会でも役員賠償責任保険についての話が出ていました。現時点でも私立学校向けの保険プランはあるようですが、*3役員の責任に焦点を当てた制度化を今後各保険会社で進めると思われるので、動向を注視したいと思います。
https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/hojin/baiseki/yakuin/


なお、法改正の趣旨に記載があるように、今回の改正では法第24条に「学校法人の責務」として「学校法人は、自主的にその運営基盤の強化を図るとともに、その設置する私立学校の教育の質の向上及びその運営の透明性の確保を図るよう努めるものとすること。」と規定されました。同条は寄附行為作成例には現れてきませんが、私立大学団体が制定する「私立大学ガバナンス・コード」に基づき、それぞれの私立大学が運営の自主性を担保するためのガバナンス体制を構築し、対外的にも説明可能にする必要があります。

www.shidairen.or.jp
www.shidaikyo.or.jp

また、今回の改正で大きな変更である中期計画策定の義務化に関しては、大規模・中規模大学では中期計画を既に策定しているところも多いと思われますが、小規模大学では未策定のところもあると思います。本来的には自学の将来像は自ら描くことが基本と思いますが、策定支援・戦略構築の方向性確認として外部団体等を活用することも考えられます。(学校法人の中期計画策定コンサルティングブルーオーシャンとして狙っている企業等は多いと思います)

www.eyjapan.jp

なお、直接的には今般の法改正に関係しませんが、The European University Association(EUA)が2006年に公表した資料では「内部質保証に必要となる構成要素」として、次の項目が挙げられています。*4私立大学のガバナンスとマネジメントを考える際、参考にすべき視点だと思うので紹介しておきます。

  • Quality Culture in European Universities: A Bottom-Up Approach(EUA, 2006)
    1. 戦略的計画(Strategy, policy and planning)
    2. 質保証のための適切な組織構造(Structures, Internal evaluation process and feedback loops)
    3. 執行部によるリーダーシップの行使(Senior leadership, Strategy and coordination, Relationship between leadership and staff)
    4. 教職員の関与・資質開発(Academic and administrative staf, Staff recruitment, Staff development)
    5. 学生の関与(Students, Students’ evaluations, Student involvement in decision-making bodies)
    6. 外部ステークホルダーの参加(External stakeholders)
    7. 組織的なデータ収集・分析(Data collection and analysis, Collection of data and indicators, Data analysis and integrated information systems)

【2019/10/15,11/19追記】
公益社団法人私学経営研究会が、法改正に伴う資料を掲載してますので、参考までにリンクを貼っておきます。

【2019/10/28追記】
説明会資料が文部科学省サイトで公表されました。
www.mext.go.jp

*1:改正私立学校法 新旧対照表(抄) https://sikeiken.or.jp/shigakuhou.pdf

*2:説明会資料では12/14(金)までとなっていましたが、同日は土曜日なので13日の誤植と思われます

*3:私立学校賠償責任保険 http://ps-office.com/panf_detail_251001/06_037_siritu_gakkoubai.pdf

*4:杉本和弘(東北大学 高度教養教育・学生支援機構)「大学教育の質保証-誰が何をどう保証するのか-」第22回大学教育研究フォーラム@京都大学吉田キャンパス(2016年3月17日) https://www.highedu.kyoto-u.ac.jp/forum/movie/pdf/2015/20160317_Sugimoto.pdf