Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

キヤノンマーケティングジャパンの「採用スケジュールに関するお知らせ」がすごい。

high190です。

既に各所で取り上げられているのでご存知の方も多いかと存じますが、
キヤノンマーケティングジャパンの新卒採用に関するお知らせがすごいんです。

いきなり「訳あって、今年の採用活動に出遅れます。」の文字。

続けて読んでいくと、景気低迷で人員計画を予測することが難しいため、2011年に新卒を採用するという最終決定に至っていないとのこと。
その後にも文章が続きますが、私が読んでいて心を揺さぶられた部分を抜粋します。(赤字部分は私の強調です)

「果たして、このまま見切り発車で採用活動を続けるべきなのだろうか」


学生のみなさんに迷惑をかけるわけにはいきません。
だから、他の企業と横並びの採用活動はやめることにしました。
正直に学生のみなさんと向き合った上で、新卒採用活動そのものについてもう一度考え直そう。

新学期から始まったばかりの4月から面接を行うことで、
学生のみなさんから学ぶ機会を奪っているのではないか?

そこで、私たちは決断しました。
2010年1月から3月までの業績を見た上で、今年の新卒採用を行うか判断する。
採用活動を行うのであれば、4月以降にきちんと伝えよう。
そして採用活動は、いっそのこと夏季休暇期間中にすればいい。

日本では就職にしろ、受験にしろ、横並びで事が進みますので、この決断はとても勇気のいることだったと思います。
社会の同質的な動きに大学も同調せざるを得ず、学生にキャリア教育と称した就職準備をさせてきたことは否めません。
また、大学の本質は学校教育法第83条にもあるとおり、専門の学術の教授研究です。

大学は、学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする。

しかしながら、就職活動の早期化により3年生から4年生までの間はほとんど就職活動に時間を取られてしまいます。
また、初年次教育やリメディアル教育によって、大学を知るための勉強をしているうちにあっという間に時間が過ぎていきます。

ですので、4年生の夏季休暇中に採用活動を行うのは、学生の本分に照らしても理に適っています。

このように現在の新卒採用スケジュールは、学生も大学も企業も誰も得をしない形で進行しているのです。
(就活の現状を知るには、大学ライターの石渡嶺司さんが書いた「就活のバカヤロー」が適しています)

就活のバカヤロー (光文社新書)

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また、このお知らせではキヤノンマーケティングジャパンの本音も正直に書いてあります。

正直、選考時期を夏にすることには葛藤がありました。
社内では「優秀な人が他者に先に採用されてしまうのでは?」という不安の声も上がりました。
ただ、“就職活動早期化”に関しておこる様々な問題に対し、真摯に向き合い、
解決策を探り、より正しい“就職活動の在り方”を追求し続けていくことは、
私たち企業側の責任であり、義務なのです。

現在の就活スケジュールに関して、問題意識を持っている人は企業・大学にもたくさんいると思います。
しかし、実際に誰もその波に逆らうことはできず、横並びの形で毎年学生の就活が行われてきました。

誰もが声をあげたかったけれど、なかなか言えなかったのも事実。


本当に「良く言ってくれた!」と思います。


一大学職員として、このような決断をしたキヤノンマーケティングジャパン株式会社の決断に敬意を表するとともに、
もっと真剣に就職活動早期化に関して企業・大学が向き合っていけるようになればと思います。*1

【追記】
はてなブックマークニュースでも取り上げられていたので、紹介します。
ちなみに文中に出てくる日本経団連の「大学卒業予定者・大学院修士課程修了予定者等の採用選考に関する企業の倫理憲章」のリンクも貼っておきます。
こういう情報も意外と目に付かないですが、大学職員として知っておかなくてはいけない情報ですね。


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*1:同様の記事。参考になるのでお知らせしておきます。キヤノンMJの快挙!新卒採用の遵法−http://www.insightnow.jp/article/4750