Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

学生が大学の授業を作っていく取り組み

high190です。
学生時代、他大学の講義を聴講していて「こんな取り組みを自分の大学でやったら面白そうだな」と感じたことを、大学に帰ってから論文指導教授に話してみたところ、次の授業で早速取り入れてもらえたことがありました。(まあ、リアクションペーパーなるものを講義終了後に提出してもらうだけでしたが、学生が講義の到達度を理解するのに適していると思いましたし、教授によるとユニークな回答があって面白かったそうです)

自分の話で恐縮ですが、ちょっとしたことを変えるだけでも大学の講義は大きく様変わりするということをその時に知りました。
今日お知らせするのは、大学の講義を学生に作らせてしまうという取り組みです。

学生の参画で、大学の授業は大きく変わる。
岡山大学の大講義室で「コンビニエンスストアが食卓から手作り料理を奪い、家族の対話を壊した」と教育学部の女子学生が強い調子で問題提起をした。
「親は忙しいから仕方ない。過労死まで生む働き方の問題だ」「子供の憩いの場になっていることも見逃せない」……。次々に他学部の学生が意見を発表した。
コンビニの存在意義や社会に与える影響を各学部の専門的立場から多面的に考え、討論する授業「知ってるつもり?コンビニ」の一幕だ。全11学部共通の「主題科目」。半年で13回。単位にもなる。昨年も今年も希望者が定員を超えて抽選になった人気科目だ。
各学部4人ずつのグループに分かれ、事前に発表資料を出し合って内容を競い、教授が優秀と認めたグループだけが発表、それに基づいて全体討論となる。競争原理とゲーム感覚を取り入れている。
この日は、教育学部の学生チームが、家庭や子供への影響を、コンビニに出向いた聞き取り調査も交えて報告。自分が教師となった場合の対応も語った。受講生は約130人いる。私語もなければ、居眠りする学生もいない。欠席もほとんどないという。


この授業を実現させたのは、授業改善を目的に6年前にできた「学生・教職員教育改善委員会」。各学部から推薦された学生と教授がメンバーで、委員長は学生が務める。学生から募った案をもとに授業の主題や内容を協議、学内メールで担当教員を募る。これまでに「コンビニ」「癒やしの公園計画」「大学授業改善論」「ドラえもんの科学」の四つの授業が生まれた。来年は「君は頭がよくなりたいか〜発信力」「This is Okayama」が加わる。
「受けたい授業を自分たちで作れる。やりがいがあります」と委員長の田中秀治さん(21)(文学部2年)。
「学びの主権者は学生。なぜ学ぶのか、何を学びたいのか、きちんと向き合えば、学びは変わる」と語る副委員長の橋本勝・教育開発センター教授(52)が、この授業の生みの親だ。「コンビニ」と「大学授業改善論」の担当者でもある。


1990年代、どの大学も授業方法の見直しを迫られていた。一方的な講義形式の授業は通用しなくなりつつあったからだ。当時、教育学部助教授だった橋本さんも、学生の学ぶ意欲の低下に悩んでいた。予習復習をしない、意見を求められても「わかりません」としか言えない……。
各授業を1話完結にしてどの回からでも出席でき、漫画や小説を題材に予備知識なしでも理解できる内容に改めた。「コンビニ」の授業の原型となったグループ討論も始めた。勝ち抜くために必死で研究する学生を目の当たりにし、「意欲や主体性を引き出すのは教員次第」と実感した。
後に「橋本メソッド(方式)」と呼ばれるこの試みを、当時、教育学部長だった田中宏二副学長(64)が評価。2000年に大学に設けられた教育開発センターの専任教員として橋本教授を推薦した。学生・教職員教育改善委員会ができたのはその翌年だ。
大学は、まず教員の研究棟に委員会専用の部屋を作った。学生が自由に出入りすることで、学生と教員が同格と周知させるためだ。委員会は、難解な表現が多かった「シラバス」(授業の趣旨や教材をまとめた冊子)を、曜日や時間ごとに並び替え、わかりやすい表現に直した。委員会主催で履修相談会も始めた。
授業改善や教師力向上を全教員に徹底させるため、岡山大学は学生の授業評価アンケートを教員の昇進や給与に反映させる検討も始めた。全国でも例がないが、「学生参画型を進めた開拓者としての責務。岡山大は研究業績が高く評価されてきたが、教育にも力を入れるのは時代の要請だ」と田中副学長。学生参画型の授業開発は昨年、和歌山大学などで、今年からは静岡大学でも導入された。学びの主権者を中核に据えた改革が、大学全入時代の今、注目され始めた。(松本美奈

◆授業の改善「西高東低」


全入時代を迎えた日本の大学の最大の課題は、多様な学生への対応だ。来年4月に、大学・短大設置基準が一部改正され、「授業の内容や方法の改善を図るための組織的な研修や研究」、つまり教師力向上への取り組みが義務づけられる。
こうした組織的研修はFD(FacultyDevelopment=教授団の資質開発)と呼ばれる。1999年には努力義務とされ、文部科学省の2005年度調査で国公私立計713大学の8割、575大学が行っている。
ただその内容となると、「講演会の開催」が約半数。おざなりにしてきた大学も少なくないため、いよいよ義務化となって、一部の先進的な取り組みに注目が集まっている。
取り組みは概して「西高東低」だ。京都大学が参考となる授業の公開をいち早く始め、数多くの実践研究を発表していることや、名古屋大学が授業改善事例集を小冊子「ティップス先生」シリーズとしてまとめたことも手伝っている。
「国高私低」の傾向も否めない。FDの努力義務化が国立大法人化前で、まだ人的、経済的余裕があったことが功を奏した。
ただ、FDは大学に課される義務で、個々の教員の義務ではない。免許も研修義務もない教員たちをどう養成していくか。各大学の腕の見せ所になる。

学生たちに講義をデザインしてもらうことで、彼らが学問に対しての意識を向上させられますし、より勉強するようになるのではないでしょうか?
もっと学生を信用して大学の力とすることに、私は今後の大学改革での可能性を感じています。