Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

東大130年、世界戦略 「最強学府」改革急ぐ

high190です。
日本で初めて近代的な大学として創立した東京大学は、今年で開学130周年を迎えるんですね。国立大学法人化後は、世界トップクラスの大学を目指して目まぐるしく改革を行っています。
朝日新聞で、東大改革を良くまとめた記事がありました。

東京大学が12日、創立130周年を迎えた。法曹界や官界に人材を送り出し、国の手厚い支援を受けてきた東大が「世界の知の頂点を目指す」(小宮山宏総長)と宣言して2年近く。大学法人化で増した自由度をいかして次々と新機軸を打ち出す。ヒト、モノ、カネが集中する「最強学府」の改革は、ぬるま湯といわれる日本の大学全体を変えるのか。国際化した東大の一人勝ちに終わらないのか。
「眠れる獅子が動き出した」。ある大学関係者は「小宮山東大」をこう言い表す。
「総長としての決意表明」という「東京大学アクション・プラン」を発表したのは、就任4カ月目の05年7月。実践ぶりは「06年度達成状況報告」にくわしい。
世界の東大にふさわしい学生の獲得――全国7カ所で(初の受験生向け)説明会を実施。
東大産学連携協議会の会員企業が540社に。
財務戦略チーム(仮称)の07年度設置を決定。130周年の07年度末で130億円の寄付達成を目標に活動を増進。
ただ、これらは「世界」を狙うための基盤固めにすぎない。
まず、海外の拠点づくり。現在は22カ所だが、130周年を記念して130カ所に増やす計画だ。05年4月に開いた北京事務所に続き、人のネットワークをフル活用して米国の名門エール大学での日本研究の研究室開設などが続く。
海外の優秀な人材の呼び込みも急ぐ。外国人の教授や講師らを現在の5倍、1300人規模にする方針を打ち出した。留学生も含めて受け皿となるゲストハウスを東京都内に建てる予定で、債券発行で資金を調達しようと格付けも取った。最上級の「AAA(トリプルA)」だ。
130億円基金も、意識するのは自他ともに世界一の大学と認める米ハーバード大だ。東大によると、ハーバードは05年度に3兆円の基金を運用し、東大の年間予算の2倍にあたる4千億円の運用益をあげたという。

●「ノーベル賞もっと」・「一極集中」不満も
東大の改革はどう見られているのか。
名古屋大の出身で、同大の経営協議会学外委員を務める伊藤忠商事丹羽宇一郎会長は「小宮山さんは改革的」と評価しつつ「東大はもともと資産があり、甘えてもらっては困る。日本全体の『知』の水準が上がらなければ意味がない」。
「基礎科学の大半の分野は欧米中心」と嘆く02年のノーベル物理学賞受賞者、小柴昌俊・東大特別栄誉教授も「海外には500年以上の歴史を持つ大学もあり、東大は『青年』としてはよくやっている」。73年にノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈横浜薬科大学長は「東大は日本の社会基盤の整備に貢献したが、新しい科学の創出では不十分。ノーベル賞受賞者をもっと出してほしい」。
今、東大にいる関係者は、もう少し厳しい。
かつて米ハーバード大などで学び、「東大よりハーバードに行こう!?」(アルク社)を出版した森田正康さん(31)は東大大学院に籍を置く。「欧米では自分の社会経験に基づいて教育を行う教員が多く、説得力がある。東大の学生は優秀なのに、もったいない」。ハーバード大大学院で学んだ伊藤隆敏・東大教授は「一般論」と断りつつ「日本の大学は英語の授業が少なすぎる。日本人の学生が井の中のかわずになる」と言う。
他の大学、特に東大と同じ国立大ながら資金をなかなか獲得できない地方の大学は複雑だ。
3月、東京都内であった国立大学協会(加盟87校)の総会。「公立や私立と別組織を作ることもありうる」。国立大のあり方を検討する委員会の設置を巡り、東大など旧7帝大主導になりかねないことに不満が噴き出した。
ある国立大の副学長は漏らす。「東大の改革は、日本の大学全体の競争力強化につながるかもしれない。でも、東大を頂点とする序列の一層の固定化、一極集中を心配する声は多いんです」

◆「海外の学生、取りに行く」 小宮山宏総長に聞く
日本は世界第2位の経済大国で、内にこもろうと思えばできるサイズ。だから危険だ。偏狭なナショナリズムが出てくると、世界から取り残されてしまう。
日本にとって重要なのはアジアとヨーロッパ、アメリカだが、アメリカ一極化はよくない。文化の多様性の確保は人類にとって不可欠だ。アジアでは、中国は当然としてインドも極めて重要だ。18歳人口は中国と同じ2千万人。日本は100万人ちょっとで、中国とインドを合わせるとその40倍だ。
国際化では、二つ観点がある。学術論文を通じた交流では十分に上だ。問題は人の行き来。外国籍の人が少なすぎる。
海外の130拠点体制は、必ず私の総長在任中にやる。拠点をつくれば東大の学生が海外に行きやすくなり、そこで学んだ海外の優秀な人材は東大に来たくなるだろう。親日家も増える。
学生も「取りに行く」ことが必要だ。中国の名門、復旦大(上海)の100周年記念事業に出た時、米エール大の学長は中国人の留学希望者に「優秀な学生しか入学を許さないが、許可したら全員授業料を免除し、奨学金を出す」と言った。みな拍手だ。勝負にならない。何とかしようと奨学金をつくった
女性の教員と学生も増やさないと。女性の元気が日本を明るくする一つの可能性だ。できることは全部やる。3年連続の育児休業もOK。研究室にベビーベッドを貸し出すとも言っている。まだ希望はないようだが。  「総長の意気込みと(各学部の)部局の思いとはかなり温度差がある」と言われた。それは正しい。でも、総長としてもう3年目。あちこちで言っている。「今年はやるぞ」とね。

■東大の「実力」

<資産額>
1位 東京大 1兆3057億円
2位 大阪大   4035億円
3位 京都大   3920億円
(05年度、国立大。文科省

〈科学研究費補助金の配分額〉
1位 東京大 74億8326万円
2位 京都大 53億7674万円
3位 東北大 46億3372万円
(06年度の新規分、国公私立大。文科省

〈格付け(財務)〉
AAA 東京大
AA+ 早稲田大、慶応大、同志社大、岡山大

(3月末。格付投資情報センターが格付けした24法人が対象)

〈国家公務員1種試験の合格者〉
1位 東京大  457人
2位 京都大  177人
3位 早稲田大  89人

(06年度。人事院

ノーベル賞受賞者
1位 東京大 5人
1位 京都大 5人
3位 東工大 1人
3位 東北大 1人

〈世界の総合ランキング〉
 1位 ハーバード大(米国)
 2位 スタンフォード大(同)
 3位 エール大(同)
     ・
     ・
16位 東京大
29位 京都大
(06年9月発行の米誌ニューズウィーク日本版)

〈論文の被引用数(総合)〉
13位(1位) 東京大
30位(2位) 京都大
34位(3位) 大阪大
(米トムソンサイエンティフィック。06年までの11年間。カッコ内は国内順位)

東証1部上場企業の社長〉
1位 慶応大  145人
2位 東京大   99人
3位 早稲田大  88人
(06年末。帝国データバンク

【東大の概要】
教職員数…7318人(うち女性2039人)
学生数……2万8071人(うち女性6444人)
経常収益(収入)…1861億円
経常利益…59億円
(教職員や学生の数は06年5月。財務データは05年度)

改めて、東大改革のスピード・大学業界に与える影響の大きさを感じます。その反面、東大への一極集中を懸念する声があることも事実です。東大の場合、強固な研究基盤と実績があるので、高い財務格付けをもとにした資金獲得も可能ですが、他大学でそれをできるところが少ないのも事実です。