Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

学生が編集、広大広報誌 受験生らへPR効果

最近では学生のアイデアをビジネスに活用することも増えています。
同様に大学の募集戦略にも学生のアイデアが活用されている事例はたくさんあります。
今日はそんな中のひとつをご紹介します。

学生が編集、広大広報誌 受験生らへPR効果
ファッションチェックなど斬新企画
少子化で志願者が減った全国の大学で、学生の獲得競争が激しさを増している。これまで私学と比べPR下手と思われていた国立大学までもが、法人化を機に対外的な情報発信に力を入れ始めた。そんな中、広島大(東広島市鏡山)が広報誌の編集を学生に任せるユニークな取り組みを始め、キャンパス内外で注目を集めている。若者らしい感性で企画を立て、取材に飛び回る学生たちを追った。

過去の出版号を見ながらアイデアを出し合う学生たち(広島大で) 「表紙の写真どうしよう」「4月号だから桜の咲く場所がいいんじゃない」「動物を入れたら春らしさが出るかもよ」。キャンパス内の会議室に熱っぽい声が響く。5限目の授業を終えた学生7人が、広報担当の大学職員らと、広報誌「HU―style」の次号の企画を話し合う編集会議の一こまだ。

同誌はA4判、20ページ。3か月に1回、1万3000〜1万4000部を発行している。編集を担当するのは、大学が掲示板などで公募した学生の登録スタッフ約30人だ。この中から、毎号10数人が、4ページの特集コーナーや有名人へのインタビュー企画「あの人に会いたい」など自らが知恵を絞った企画記事の取材、執筆に駆け回っている。


講義などの合間を縫って取材に駆け回る学生ら(東広島市で) 学生スタッフが毎号頭を悩ませるのが特集コーナーだ。週1回の企画会議は3時間以上に及ぶ。2005年4月の創刊号から編集に参加している大学院生物圏科学研究科1年、有富大輔さん(23)は「最近はアイデアがなかなか出てこなくて」と苦笑い。

それでも、06年10月号で著名なファッションデザイナーのドン小西さんに広大生12人の服装を一人ひとりチェックしてもらったり、同年4月号では学生約150人へのアンケート結果を元に、学内で「愛の告白」によく使われる場所や尾道市のお勧めデートコースを紹介したり、斬新な企画を連発している。

教育学部3年の宮永静さん(21)は、06年4月号で初めて取材に挑戦し、東広島市役所で働く先輩にインタビューした記事が紙面を飾った。「みんなに読んでもらえるか不安でしたが、友人に『身近に感じられた』とほめられたのが、うれしかった。今ではキャンパスを歩く時も、何かネタはないかと考えてしまいます」と笑う。

◇   ◇

空港や市役所など公共施設にも置かれ、学外での情報発信に役立っている広報誌(東広島市役所で) 実は同誌が誕生したきっかけは、前身となる広報誌「広大フォーラム」の“不人気”だった。教員の著書紹介や教授からのメッセージが多く、ためにはなるものの、学生には取っつきにくい印象が否めなかった。

このため「もっと気楽に読んでもらいたい」と、紙面を一新。お堅いイメージからの脱却を目指して、学生の顔写真やイラストをふんだんに取り入れたビジュアル重視の編集方針に変えたところ、広報誌を持ち帰る学生が増えるなど認知度はアップした。

現在では、学内で配るだけではなく、地元の東広島市役所や広島空港など公共施設の閲覧コーナーに置いてもらったり、入試の募集要項と共に全国の高校に郵送したり、受験生や保護者らへのPRにも一役買っている。同市内の県立高校の進路担当教諭も「学生の顔写真が多く、活動の様子がよくわかる。生徒の目にも魅力ある大学に映っているのでは」と効果を認める。

編集長を務める同大広報グループの村上尚さん(47)は「少子化の流れの中で、対外的なPRはますます重要になっている。広報誌は学生獲得に向けた重要な武器の一つ」と手応えを感じている。

一方、学生スタッフに共通するのは、広報誌作りを通して、大学について考える時間が増え、親しみが増したという声だ。

有富さんも「以前はサークルや授業など限られた人と場所しか目に入らなかったけど、大学には想像以上にいろんな人がいると実感できた。ほかの学生にも、そんな発見をしてほしい」と、就職活動の合間を縫って取材に出かけている。

情報発信に本腰を入れ始めた大学と、キャンパスとその周辺の魅力を“再発見”しながら自らの成長につなげようとする学生たち。広報誌作りの現場には、そんな熱気が感じられた。

P.S.…国立大で過ごした私の青春時代を振り返ると、3、4年生ともなると、友人関係も固まり単調で怠惰な日々に陥っていた。だから「広報誌作りをきっかけに、休日も出かけることが多くなりました」という広大生が、ちょっぴりうらやましかった。自分が暮らす土地や人のことを知りたい、知らせたいとの思いは新聞記者も同じ。学生に負けない好奇心で励みたいと思った。

地域に根ざした大学は、近隣住民・企業から信頼されるよう、大学としての存在価値を示さなければなりません。大学で何を研究し、どのような学生が在籍して卒業していくのかを発信することは非常に重要なことです。広報に学生を活用するということは、学生生活の一部を広報にしてしまうということにより、よりリアルに大学生の姿を知ることができます。「あの大学の学生は何を考えているんだろう」という地域への情報発信にもなる訳ですね。もちろん、入学希望者への情報発信でもあります。