Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

改正私立学校法説明会(京都会場)に参加しました

high190です。
2019年9月17日(火)にキャンパスプラザ京都で行われた説明会に参加しました。今般の法改正は「学校教育法等の一部を改正する法律」として、学校教育法、国立大学法人法私立学校法及び独立行政法人大学改革支援・学位授与機構法が改正されることとなり、そのうち私立学校法についての説明会として私立大学対象に実施されたものです。なお、10月7日(月)にも東京会場(文部科学省東館3階講堂)で説明会が実施されます。

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また、私立学校法の改正にあたっては、大学設置・学校法人審議会学校法人分科会の下に置かれた学校法人制度改善検討小委員会が平成31年1月7日に公表した「学校法人制度の改善方策について」を基にした内容となっていますので、こちらも併せて御紹介しておきます。

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京都会場説明会の記録を公表します。主観が入っていること、内容に誤りが含まれる可能性があることを予めご了承ください。

1.改正私立学校法に係る説明

  1. 私立学校法令和元年改正の概要」についての説明(松坂浩史私学行政課長)*1
    • 配付資料1の5ページから説明する。新たに学校法人の責務を規定。
    • 管理運営制度の改善。特別の利益供与の禁止。対象者は政令で規定。当該資料は例示であることに留意。学校法人と役員の関係は委任に関する規定に従うが、善管注意義務を明確化した。
    • 理事会の議事参与制限。特別代理人制度を廃止。業務執行にあたっては当事者である理事等は当該議決に関わらないこととする。
    • 監事の職務。今回の法改正で大きく変わる。理事の業務執行監査、理事会の開催招集権が追加された。監事が開催招集を求めたにも関わらず、理事長が開催しない場合、監事自ら招集できるように制度変更。学校法人の目的範囲外行為等によって、法人に著しい損害を与えると思われる理事に対して、監事による差止請求権を追加。
    • 競業及び利益相反取引の制限。理事が他の学校法人の理事、教授・非常勤講師を兼ねる場合、理事会での承認が必要になる。年1回ぐらい理事の競業状況を議題にすると良い。利益相反行為の場合、賛成した理事も連帯責任を負うことになる。利益相反取引が生じる場合、議事録規定に理事の賛否記載を義務化し、責任の明確化を図る。議事録規定については、寄附行為作成例第19条第3項を新設。
    • 理事の監事への報告義務。理事が経営上重大な事実を発見した場合、監事への報告義務が生じる。
    • 評議員会の議事参与制限。業務執行にあたっては当事者である評議員等は当該議決に関わらないこととする。
    • 評議員会からの意見聴取。中期計画、役員報酬基準は予め評議員会の意見を聴かなければならないことを規定。
    • 役員の学校法人に対する損害賠償責任。悪意又は重過失の場合、損害賠償責任を負う。軽過失の場合、評議員会の決議により損害賠償軽減を可能に。
    • 役員の第三者に対する損害賠償責任。悪意又は重過失の場合は損害賠償責任を負うもの。評議員会3分の2、理事会の場合は半数。損害賠償責任が重いと理事のなり手が減る恐れがあるので、責任限定契約についても制度化。寄附行為に「損害賠償責任の最低額」を規定し、その上で各非業務執行理事又は監事と「責任限定契約」を締結することで、責任の限度額を定める。この場合の報酬は役員報酬のみではなく、教職員としての給与も限度額に含まれる。
    • 中期的な計画については直近の認証評価結果を踏まえて評議員会の意見を聴かなければならない。毎年度の事業計画についても同様に直近の認証評価結果を踏まえて意見を聴かなければならない。
    • 寄附行為、役員名簿は各事務所に備え置き、閲覧に供すること。紙媒体ではなく電子的データでも可。
    • 役員報酬の支給基準。学校法人の公益性、税制上の優遇措置が与えられているので社会通念から逸脱した賃金が払われることは適切ではない。公開することで社会通念上の説明責任を果たす。例えば、設置する大学の教授が理事を務める場合、理事の職務についての支給基準が公開対象となる。役員報酬基準の制定にあたっては、2020年4月1日までに評議員会の意見を聴いたうえ、公表することが必要。
    • 情報の公表。インターネットの利用による。
  2. 政令・省令についての説明(川村匡私学行政課課長補佐)
    • 施行通知及び法改正の趣旨等について、資料1の37ページから説明する政省令の一部改正に係る通知は近日中に発出するが、「留意事項」をよく参照すること。
    • 特別の利益供与を禁止する学校法人の関係者について規定。
      • ア 学校法人の設立者、理事、監事、評議員又は職員
      • イ アの配偶者又は三親等内の親族
      • ウ イの者と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
      • エ ウの者のほか、アの者から受ける金銭その他の財産によって生計を維持する者
      • オ 学校法人の設立者が法人である場合にあっては、その法人が事業活動を支配する法人又はその法人の事業活動を支配する者として文部科学省令で定めるもの
    • 役員の欠格事由。成年被後見人。損害賠償責任の報酬算定方法を規定、年収・退職金の算定方法、損害賠償責任免除決議後の退職慰労金の利益、
    • 事業報告書の掲載内容についての規定を追加(資料1の53~58ページ、参考例を作成)。情報公表するデータはダウンロード及び印刷が可能な形態でホームページ等に掲載することが望ましい。
    • 役員の報酬等の支給の基準。報酬の額の算定方法については、例示を参考に各法人で定めること。役員報酬基準は既に約6割の法人で定められているが、法改正の趣旨を踏まえて制定いただきたい。
  3. 改正私立学校法のQ&Aについての説明(川村匡私学行政課課長補佐)
    • 寄附行為変更認可申請の集中受付期間を設定。
      • 第1期は2019年12月2日(月)から13日(金)まで*2
      • 第2期は2020年1月14日(火)から24日(金)まで
    • 上記期間の申請が難しい場合、私学行政課に個別相談いただきたい。必要書類は寄附行為変更の手引きに基づき対応、パンフレットは不要。対面での事務相談は行わず、私学行政課法人係にて電話相談を受け付ける。
      • 【参考:寄附行為変更認可申請の必要書類】
        • 1.提出書類の種類及び提出部数 1部
        • 2.提出先 私学部私学行政課法人係
        • 3.申請書類について
          • (1)学校法人寄附行為変更認可申請書(様式第1-2号)
          • (2)寄附行為変更の条項及び事由を記載した書類(新旧対照表を含む)
          • (3)当該学校法人の概要を記載した書類(様式第2-2号)
          • (4)寄附行為所定の手続を経たことを証する書類
          • (5)現行の寄附行為
          • (6)当該学校法人の事務組織の概要を記載した書類(様式第5号)
          • (7)事務担当者連絡票
    • 認可申請後、補正が必要となった場合には別途理事会・評議員会に諮る必要があるが、軽微な修正は理事長一任とすることも可能。
    • 特別な利益についての定義。「委任に関する規定」について、就任時の就任承諾書等の書類に変更が生じうるか否かは各法人で確認すること。
    • 監事の職務。理事の業務執行監査。これまでの取扱いが変わるものではないが、学部・学科の改組、認証評価、教学マネジメントサイクルなどのチェックは監事の業務監査に当然含まれる。監事の職務権限強化に伴い、監事の業務は理事会がチェックすることになる。
    • 役員の競業は理事会での事前承認が必要。
    • 役員の損害賠償責任について、会社役員損害賠償責任保険(D&O)の対象に含まれるか否かは、会社法制の見直し議論を踏まえて文部科学省でも検討している。なお、社会福祉法の改正に伴い社会福祉法人の役員等の損害賠償責任の明確化に伴い、同保険の適用対象となったことは承知している。
    • 非業務執行理事について、理事のうち「業務執行理事又は当該学校法人の職員ではない理事」と「監事」が該当すること、個別具体的な業務分掌を定めている場合、上記の役員でも業務執行理事と看做される可能性があることについて説明。
    • 中期的計画の策定。認証評価結果を反映させるのは大学のみ。原則として5年以上の計画であること。作成例を示すことは予定していない。
    • 役員名簿の公表。作成から5年間の据え置きが必要。
  4. 寄附行為作成例についての説明(加賀俊策私学行政課法規係長)
    • 作成例はあくまで例であり、どのように取り扱うかは各法人で御判断いただきたい。具体的に改正作業を行う担当者には、政省令通知に作成例を添付するので、その点をお伝えいただきたい。以下、個別に寄附行為作成例の条数にて説明を行う。
    • 第8条。監事の選任規定。利害関係者の規定が追加。第2項を追加、独立性の確保。
    • 第9条。役員の選任に当たって、前任者の残任期間と規定の任期年数のいずれかを選択することを可能にした。
    • 第11条。役員の解任。死亡と成年被後見人を追加。
    • 第16条。監事の職務。第3号に理事の業務執行監査を追加。理事会の招集請求権、理事の行為差止請求権も追加。
    • 第17条。理事会の事項。理事会開催の招集がされて理事長が理事会を開催しない場合の対応について、監事の招集に係る条文の追加。
    • 第19条。理事会議事録。議事録の署名・押印方法を理事全員から理事長と議事録署名人2名に変更。利益相反取引の場合、理事それぞれの意思(誰が賛成で誰が反対か)を議事録に記載しなければならない。
    • 第23条。予算、事業計画、中長期計画、役員報酬基準については評議員会意見聴取を義務化。
    • 第36条。財務書類等の備え付けについて役員等名簿、寄附行為が追加。
    • 第37条。情報公表の条文追加。
    • 第39条。役員報酬基準の規定を追加。
    • 第42条。残余財産の帰属者について、明確化の観点から「その他教育の事業を行う者」に変更。
    • 第45条。書類及び帳簿の備え付けについて、寄附行為・役員等名簿が公表対象に含まれたため削除。
    • 役員の損害賠償責任に関し、責任の免除、責任限定契約の条文例を提示。寄附行為上でどの項目に規定するかは各法人の判断となるが、同条文を規定する場所については、第4章「評議員会及び評議員」の項目又は第8章「補則」の項目に含めることが考えられる。

2.質疑応答

  • 特別の利益供与を禁止する学校法人の関係者について
    • 特別の利益供与を禁止する学校法人の関係者には「理事が経営する会社等」から給与を得て「生計を維持する」場合には該当する。
  • 今般の法改正に係る寄附行為変更認可申請の「理事長一任の取扱いについて」
    • 寄附行為の認可申請に係る「軽微な修正を行う必要が生じた場合の理事長一任の取り扱い」については、認可申請時に「寄附行為所定の手続を経たことを証する書類」として議事録の写しを御提出いただくので、理事会等の議事録上に記録として残すことで対応いただきたい。
  • 寄附行為作成例中の文言について
    • 寄附行為作成例では、財団法人由来は決議、私立学校法由来は議決を使い分けているが、どちらかに統一していただいて差し支えない。
  • 役員報酬基準の策定について
    • 役員報酬基準の策定にあたり、今般示された寄附行為作成例と私立学校所在地の都道府県で作成している標準例に差異がある場合の対応だが、今後各都道府県の私立学校所管事務局宛に法改正に係る通知を発出予定である。今般の法改正は文部科学大臣所管法人のみを対象とするものではなく、全ての私立学校が対象となるため、役員報酬基準の制定は全学校法人が行わなければならない。よって、文部科学大臣所管法人の場合、評議員会の意見聴取を行ったうえ、役員報酬基準を制定し、2020年4月1日までに作成・公表していただきたい。

以上になります。今回の改正で役員の損害賠償責任が明確化されたことにより、説明会でも役員賠償責任保険についての話が出ていました。現時点でも私立学校向けの保険プランはあるようですが、*3役員の責任に焦点を当てた制度化を今後各保険会社で進めると思われるので、動向を注視したいと思います。
https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/hojin/baiseki/yakuin/


なお、法改正の趣旨に記載があるように、今回の改正では法第24条に「学校法人の責務」として「学校法人は、自主的にその運営基盤の強化を図るとともに、その設置する私立学校の教育の質の向上及びその運営の透明性の確保を図るよう努めるものとすること。」と規定されました。同条は寄附行為作成例には現れてきませんが、私立大学団体が制定する「私立大学ガバナンス・コード」に基づき、それぞれの私立大学が運営の自主性を担保するためのガバナンス体制を構築し、対外的にも説明可能にする必要があります。

www.shidairen.or.jp
www.shidaikyo.or.jp

また、今回の改正で大きな変更である中期計画策定の義務化に関しては、大規模・中規模大学では中期計画を既に策定しているところも多いと思われますが、小規模大学では未策定のところもあると思います。本来的には自学の将来像は自ら描くことが基本と思いますが、策定支援・戦略構築の方向性確認として外部団体等を活用することも考えられます。(学校法人の中期計画策定コンサルティングブルーオーシャンとして狙っている企業等は多いと思います)

www.eyjapan.jp

なお、直接的には今般の法改正に関係しませんが、The European University Association(EUA)が2006年に公表した資料では「内部質保証に必要となる構成要素」として、次の項目が挙げられています。*4私立大学のガバナンスとマネジメントを考える際、参考にすべき視点だと思うので紹介しておきます。

  • Quality Culture in European Universities: A Bottom-Up Approach(EUA, 2006)
    1. 戦略的計画(Strategy, policy and planning)
    2. 質保証のための適切な組織構造(Structures, Internal evaluation process and feedback loops)
    3. 執行部によるリーダーシップの行使(Senior leadership, Strategy and coordination, Relationship between leadership and staff)
    4. 教職員の関与・資質開発(Academic and administrative staf, Staff recruitment, Staff development)
    5. 学生の関与(Students, Students’ evaluations, Student involvement in decision-making bodies)
    6. 外部ステークホルダーの参加(External stakeholders)
    7. 組織的なデータ収集・分析(Data collection and analysis, Collection of data and indicators, Data analysis and integrated information systems)

【2019/10/15,11/19追記】
公益社団法人私学経営研究会が、法改正に伴う資料を掲載してますので、参考までにリンクを貼っておきます。

【2019/10/28追記】
説明会資料が文部科学省サイトで公表されました。
www.mext.go.jp

*1:改正私立学校法 新旧対照表(抄) https://sikeiken.or.jp/shigakuhou.pdf

*2:説明会資料では12/14(金)までとなっていましたが、同日は土曜日なので13日の誤植と思われます

*3:私立学校賠償責任保険 http://ps-office.com/panf_detail_251001/06_037_siritu_gakkoubai.pdf

*4:杉本和弘(東北大学 高度教養教育・学生支援機構)「大学教育の質保証-誰が何をどう保証するのか-」第22回大学教育研究フォーラム@京都大学吉田キャンパス(2016年3月17日) https://www.highedu.kyoto-u.ac.jp/forum/movie/pdf/2015/20160317_Sugimoto.pdf

大学職員が定時退勤と仕事の質向上のためにやっていること

high190です。
政府による「働き方改革」政策で年間5日の有給取得が義務化*1されたこともあり、ワークスタイル変革が個人・組織の両方に求められています。
www.mhlw.go.jp

個別の大学でも業務改善に取り組んでいる事例があり、成果を挙げつつあるようです。
www.obirin.jp

近年「大学職員は楽で高給」という言説をWeb上で目にしますが、ほとんどの大学は従業員数ベースでみれば中小企業です。また、学校は行政との関係が深い組織ですので、紙媒体でのやり取りが主流で、システム化による業務改善が進んでいる学校はまだ少数でしょう。また、日本の大学はほぼ18歳人口を主要な進学者として受け入れており、リカレント教育の重要性が叫ばれつつも雇用のあり方がメンバーシップ型からジョブ型に転換しない限り、今後も同じような構造に置かれます。
つまりパイの奪い合いが激化するので「楽で高給」は誤りです。給与水準の高い大学もあることは事実ですが、一握りの学校に過ぎず、学生獲得競争の激化、業務効率化によるコスト削減、公費助成に対する大学改革・情報公開の厳しい要求などに大学は晒されています。よって、フリーライダーの職員はいずれ淘汰される運命にあると思います。どれだけ仕事を効率化し、業務時間内での労働の質を高められるかが個々の職員の生存戦略になります。
業務改善・効率化のために個人・組織の両面からアプローチする必要がありますが、今回は私個人が行っている取り組みを参考までに御紹介します。

情報収集の効率化
high190.hatenablog.com
だいぶ前に書いた記事ですが、情報収集方法はこの頃から変わっていません。一定年数続けると解釈が鍛えられるので、より早く必要な情報を見つけられるようになりました。

業務スケジュール管理の効率化

業務スケジュール管理については、各種ビジネス書が出ています。私の場合、上記2冊などを参考にしてタイムマネジメントを何度も見直し、現在も改善を継続しています。個人的に小室淑恵さんが紹介されていた「メールを活用したタスクリスト作成とタイムスケジュールの組み方」は参考になりました。現在も日常業務は前日にタスクリストを作成し、翌朝見直してタスクに取り掛かっています。私の場合、Gmailでタスク管理を行っているので、「タスクリスト」というタグを作成し、月次ベースでスレッド化して過去のタスクをすぐ探せるようにしています。

手短で電子化できる書式の電子化・共有化
例えば今まで紙媒体記入の様式など、電子化できそうなものは叩き台のデータを作成し、メリットを上司に提示した上でOKをいただけば進めるようにしています。上司に相談する際、気を付けていることを列挙します。

  • 媒体が変わるだけでそれまでの運用と変わりがないこと
  • データ化によって過去データの検索等が容易になること
  • データ化とファイルサーバー等で課員全員がデータにアクセスできるため、業務の平準化に繋がること

以上になります。業務改善は日々の疑問点を探りながら、背景の現状分析と他組織・自組織の事例集集を行い、課題設定を行ってから課題解決方策に進むプロセスを経ると良いと思います。私の場合、以下のブログ記事などを参考にしながら業務改善と質向上を両立させるべく試行錯誤しています。
kakichirashi.hatenadiary.jp
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あとは所属組織に新しいテクノロジーを受け入れる風土があるか否かで業務効率性も変わります。例えば近畿大学がSlackの全学的展開を始めたように、外部環境への適応のために内部環境を常に変化させる「柔軟な大学組織風土」の構築がポイントです。その他、業務改善に繋がりそうな過去記事を紹介しておきます。

high190.hatenablog.com
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【2019/11/13追記】
業務改善の参考になる記事を追加。
note.mu

高等教育修学支援新制度に係る各機関の情報公表ページ準備状況

※2019/07/14 岐阜聖徳学園大学東北福祉大学広島工業大学専門学校を追加

high190です。
6月25日の閣議にて高等教育の修学支援新制度に係る政令及び省令が閣議決定されました。
www.kantei.go.jp
www.kyobun.co.jp
www.mext.go.jp


確認申請書の受理開始は6/28から、提出締切は7/25です。初年度ですので、文部科学省・各高等教育機関も慌ただしく動いているところだと思います。
さて、修学支援新制度では確認申請書と添付書類の公表が必須事項です。既に公表準備を行っている機関を調べました。設置形態別に50音順で掲載します。

国立大学法人

公立大学

私立大学

専門学校

まだ「準備中」とのみ表記している機関も多いですが、最近はますます高等教育を取り巻く環境が複雑化していますので、先読みして手を打っておくことは重要です。引き続き他大学の状況は見ていきたいと思います。
6/27(木)付で政省令が官報に告示*1 *2 *3 *4されましたので、近いうちに文部科学省のWEBサイトでも公表されますね。

*1:"大学等における修学の支援に関する法律施行令" / “インターネット版官報” https://htn.to/3EEcq7pCFK

*2:"大学等における修学の支援に関する法律の施行に伴う関係政令の整備及び経過措置に関する政令" / “インターネット版官報” https://htn.to/2DgRnh2npx

*3:"大学等における修学の支援に関する法律施行規則" / “インターネット版官報” https://htn.to/3o1LRWSHVt

*4:"独立行政法人日本学生支援機構に関する省令の一部を改正する省令" / “インターネット版官報” https://htn.to/2Acpo5A8rK

中央教育審議会会長にはどのような人物が選ばれるのか

high190です。

www.asahi.com

上記のニュースで新しい中央教育審議会長が決定したことを知りました。日本の教育政策の司令塔であり、決定機関でもある中央教育審議会についてですが、私自身もあまり詳しく調べたことはありませんでした。しかしながら、会長決定のニュースに触れてふとあることに気がつきました。

ということで、中央教育審議会の歴代会長にはどんな人物が選ばれているのかを調べてみます。

1.中央教育審議会とは何か

中央教育審議会に関わる法令を調べてみました。文部科学省組織令第76条に規定があるとともに、中央教育審議会令が定められています。

文部科学省組織令(平成十二年政令第二百五十一号)】*1
中央教育審議会
第七十六条 中央教育審議会は、次に掲げる事務をつかさどる。
一 文部科学大臣の諮問に応じて教育の振興及び生涯学習の推進を中核とした豊かな人間性を備えた創造的な人材の育成に関する重要事項(第三号に規定するものを除く。)を調査審議すること。
二 前号に規定する重要事項に関し、文部科学大臣に意見を述べること。
三 文部科学大臣の諮問に応じて生涯学習に係る機会の整備に関する重要事項を調査審議すること。
四 前号に規定する重要事項に関し、文部科学大臣又は関係行政機関の長に意見を述べること。
五 生涯学習の振興のための施策の推進体制等の整備に関する法律(平成二年法律第七十一号)、理科教育振興法(昭和二十八年法律第百八十六号)第九条第一項、産業教育振興法(昭和二十六年法律第二百二十八号)、教育職員免許法(昭和二十四年法律第百四十七号)、学校教育法及び社会教育法(昭和二十四年法律第二百七号)の規定に基づきその権限に属させられた事項を処理すること。
六 理科教育振興法施行令(昭和二十九年政令第三百十一号)第二条第二項、産業教育振興法施行令(昭和二十七年政令第四百五号)第二条第三項及び学校教育法施行令(昭和二十八年政令第三百四十号)第二十三条の二第三項の規定によりその権限に属させられた事項を処理すること。
2 前項に定めるもののほか、中央教育審議会に関し必要な事項については、中央教育審議会令(平成十二年政令第二百八十号)の定めるところによる。

中央教育審議会令】*2
第四条 審議会に,会長を置き,委員の互選により選任する。
2 会長は,会務を総理し,審議会を代表する。
3 会長に事故があるときは,あらかじめその指名する委員が,その職務を代理する。

より詳細には別の大学職員ブロガーがまとめた記事がありますので、そちらをご参照ください。

kakichirashi.hatenadiary.jp

2.中央教育審議会の歴代会長

ここでは歴代会長を文科省の委員名簿から洗い出します。*3前記のブログにあるように中教審は2001年に設置されたのですが、委員名簿は2003年分からのみ公表のようです。以下、発令年別に会長が変更になった部分のみを抜粋して掲載します。

三村明夫会長時代に、多忙のため安西祐一郎さんが会長を交代しましたが、近年は実業界から続けて会長が選出されています。教育は社会全体に関わる事項なので、主として教育に直接関わらない人をあえて会長に選出しているのでしょうか。審議会令では会長は委員の互選により選任とありますが、しばらくの間、教育関係者以外からの選出が続いていることの背景を知りたいところです。なお、実業界から選出された会長の所属先はTOPIX100に含まれる大企業のみです。
なお、現政権になってから内閣の下に置かれて教育改革の推進を担う会議体が「教育再生実行会議」です。中央教育審議会国家行政組織法に設置根拠がありますが、内閣が直接的に教育改革を主導する点に特徴があります。個人的には政策面での整合性をどのように取っているのか気になるところですが、中央教育審議会教育再生実行会議の意見交換は2015年に1度だけ行われています。

www.mext.go.jp

こういった内容は政策形成過程分析、教育行政学の守備範囲かと思いますが、教育政策の政策形成過程を考える上でも、中央教育審議会長の人事には引き続き関心を持っておきたいところです。

大学設置認可制度の先行研究

※2023/11/26更新 国立公文書館「大学設置認可等に係る文書の決裁について〔取扱〕(昭和51年09月30日)」、「新制大学設置認可に関する基本要項」、「大学設置認可申請について(昭和23年04月07日・学校教育局長より公立私立専門学校長宛)」を追加

high190です。

職員人生の大きなターニングポイントが設置認可申請業務を担当したことでした。業務を通じて大学制度を幅広く実践的に学ぶことができましたし、大学設置基準に代表される関係法令を読み解く訓練にも繋がりました。業務自体は結構大変ですが、大学職員として学べることが多く、これからも学び続けたいです。実務的には以下の文部科学省関係資料に目を通すことが重要です。

そんな大学設置認可制度について、学術的な研究などはなされているのでしょうか。私自身の勉強も含めて、CiNii ArticlesとGoogle Scholarで先行研究を調べました。直接的に大学設置認可制度を扱わない大学評価等に関しても参考資料として掲載しています。今後、適宜追加するので、コメント等でお知らせいただけるとありがたいです。

また、「大学設置認可制度」についてはNIAD-QE Glossaryで定義の解説が日英語で公表されています。*1 *2その他、文部科学省が2012年に発行した"Higher Education in JAPAN"*3、"Quality Assurance Framework of Higher Education in Japan"*4などが参考になります。

政策形成過程

制度・事例研究

諸外国との制度比較

その他

質問主意書

今後も追加しますが、現時点で私が調べたリストです。
個人的には大学設置基準大綱化、準則主義など時系列での変遷を知ることができる塩野宏氏の「日本の行政過程の特色−大学設置認可過程(平成二十四年)を素材として」が最も分かりやすいと思います。この論文は2012年の大学設置認可において、田中真紀子文部科学大臣(当時)が大学設置・学校法人審議会の認可答申を保留にした点を、日本の行政過程の特色として設置認可制度を行政法の観点から述べたものです。なお、第181回国会の衆議院文教委員会、総務委員会及び予算委員会にて当該大学等の認可についての質疑が行われており、議事録が残っています。大学設置認可制度の政策形成過程の一端なので、脚注にリンクを掲載しておきます。*5 *6 *7
大学設置認可制度は、行政手続法との関連もあるため、関係情報も追加します。*8 *9
なお、大学設置認可制度に関係する内容は拙ブログでも以前に記事にしました。

high190.hatenablog.com

他の大学職員ブロガーも設置認可関係の記事を書かれています。いくつか参考として掲載しておきます。

www.daigaku23.com

kakichirashi.hatenadiary.jp

設置認可申請にあたっては設置形態によって手続きが異なるケースがあります。国立大学法人についての取り扱いは、以下の記事を参照されると良いです。

kakichirashi.hatenadiary.jp

設置認可申請と相補的関係にあるのが教職課程認定申請です。こちらの先行研究をまとめてくださっている方のサイトも併せてご紹介します。

note.com


その他、読みたいけれども読めていない書籍関係の情報です。

大学設置関係のコンサルティングを引き受ける企業・団体もあります。私自身はコンサルティングは使わずに、各大学が質保証システムを理解して教育を行う方がいいと思う立場ですが、どのようなサービスを提供しているのかはまとめておく必要があると思ったので、リスト化しておきます。

docs.google.com

東北大学SDPセミナー「AI時代の大学の働き方改革と経営革新の切り札?〜業務自動化とロボットと市場化テストの可能性〜」に参加しました

high190です。
11月9日(金)に東北大学で開催された標記セミナーに参加しました。参加記録のメモを公開します。
RPA(Robotic Process Automation)の大学業務への活用は、労働力減少や業務効率向上に直接的効果があるものとして、現在の大学業界でホットトピックのひとつです。大学での具体的な活用どう行えるのかを知りたくセミナーに参加しました。以下は記録メモです。主観が入っていること、内容に誤りが含まれる可能性があることを予めご了承ください。

www.ihe.tohoku.ac.jp

開会挨拶:齋藤仁(東北大学事務機構長)

  • 高等教育を取り巻く外部環境の変化に伴い、東北大学でも事務改革の必要性が内外から指摘されている。そうした折、高度教養教育・学生支援機構の大森先生からセミナーの案内が来たので、事務機構も協力する形での開催となった。大学の事務職員に求められる成果の達成に向けて、業務の効率化に向けて何ができるのかを考えていってもらいたい。

趣旨説明:大森不二雄(東北大学高度教養教育・学生支援機構教授、大学教育支援センター長)

  • 今日は理事、事務機構長も含めて東北大学から多数の参加者がいる。遠くは九州からも来ていただいている。本セミナーはSDPシリーズとして開催しているが、大学設置基準で義務化されたSD、教育・研究力強化のための大学運営力として教職員の資質向上を図るものである。今回のテーマはRPA・市場化テストという先端テーマを選んだ。今日、日本の大学は人手も資金も足りない状況であり、政府に対して財政的な支援を求めていてこれは今後も継続すべきだが、外部環境の変化(少子化・人口減・低成長)に対応するために、業務効率の向上・改善は不可欠である。
  • これは日本の他組織では既に行われており、大学は必要に迫られているにも関わらず対応が遅れているのが現状である。本テーマの2つはまさに直面している問題を解決する切り札になり得る。

講演:高等教育機関におけるRPAによる定型業務の自動化と創造的業務への集中 村山典久氏(スカイライトコンサルティング株式会社事業開発特別顧問)

  • 自己紹介
    • 現状の「やりたくない仕事(定型業務)」を「やりたい仕事(創造的業務)」に振り分けていけるか、RPAを活用した事例として紹介したい。
    • コンサルタントとしてキャリアをスタート。2004年に国立大学法人滋賀医科大学で経営担当理事として10年ほど勤務。その後にアクセンチュアに戻り、スピンアウトで設立されたスカイライトコンサルティングにて業務改善などのコンサルティングを行っている。
    • 民間企業では2014年頃から金融機関を中心にRPA導入が始まり、製造業・サービス業にも波及している。しかし、高等教育機関ではまだ導入が進んでいない。企業から3周ぐらい遅れている。中教審のグランドデザイン、*1他業種の動向も踏まえて大学の現在の状況を整理する必要がある。
  • 日本が抱える本質的課題
    • 先進7カ国の労働生産性が最下位。直接的業務よりも間接的業務への比重が大きい。労働力人口の減少が見込まれ、中長期で事業体の持続的成長の危機に直面。
  • 課題解決に向けた方向性 RPA(Robotic Process Automation)の活用
    • 主にバックオフィスのホワイトカラー業務の代行。ロボットによる業務自動化。人間が行う業務処理手順を操作画面上から登録。知的労働者の業務はより多様化・高度化。タスク・シフティング。
  • RPAツールのデモ
    • 日常的にPC上で操作しているシステムへの入力等の業務を、RPAで解決している事例を紹介する。システム場の業務手順をフロー化。手順をロボットにシステム上で学習させ、自動化する。Web・内部システムからの情報の取得を自動化してExcelにリスト作成。システム上の情報入力について、Excelからデータを読みだして、Web上のシステムへの入力を自動化する。自動化にはHTML・画像認識などの技術を活用して行う。東京慈恵会医科大学で学長アドバイザーをしており、実際に慈恵医科大でRPA導入したところ、70分かかっていた入力が12分程度で終わる。5倍の生産性向上。
    • RPAの特徴
      • 代行:人間のルーチン作業を代行、人間の貴重なエネルギーをルーチン作業から解放
      • 能力:人間と比べて、圧倒的な作業スピードと正確性、24時間365日は炊き続け、辞めることもない
      • 変化:システムは、事業・業務の変化のスピードについてこられない。変化に柔軟かつスピーディな対応が可能。
    • ザ・トップリーダーズでの放送事例#11
      • 業務フローの定義・統一的見解がなければ自動化も危うい?まずは定義することが重要ではないか。
  • 高等教育機関における労働力上の課題とRPAの適用可能性
    • 事務職員
      • 労働力人口の低下、2018年問題による志願者減、補助金減による総事業費減少。しかし高等教育機関のサービスが継続される限り事務量は減少しないので、事務職員へのしわ寄せ等複雑な課題が逼迫。優秀な人材に仕事が集中。特定分野の業務経験を積み重ね、専門能力を向上させ、マネジメントリーダーになるべき人材の開発ができなくなる。そのための時間的リソースを作る出す必要性。定型業務を自動化して企画・マネジメント業務にシフト。
    • 教員
      • 高等教育機関コンプライアンス、ガバナンス、所轄省庁などからの圧力で管理運営業務に割く時間が増加。研究の質的向上の阻害要因。RPAを活用して教育・研究へのシフト。
  • 高等教育機関におけるRPAを活用した業務効率化の可能性
    • 適用可能領域
      • インパクト大:企画事務領域、総務・人事事務領域、財務・経理・契約事務領域、教員業務サポート機能、附属病院事務領域
      • インパクト中:教務・学生事務領域、監査領域、施設事務領域
      • インパクト小:研究事務領域
  • 高等教育機関におけるRPAを活用した業務拡張の可能性
    • 学生の継続的な授業欠席者監視ロボット(エンロールマネジメントの支援)、教員に最適な競争的研究公募情報の案内ロボット(競争的資金の獲得支援、URAの業務を一部代替)-
  • デジタルレイバーとの共存時代へ
    • 任せるべき仕事の選定
      1. やりたくない仕事
      2. やりたくてもやれない仕事(毎週、学生の授業出席状況をチェックし、学生のフォローをしていきたいが負担が大きすぎる)
      3. 人間が気づきにくい仕事(新たしい公募事業が出された、ソーシャルメディア等での情報)
      4. 人間が忘れやすい仕事(申請書や書類を期日内に出し忘れた)
      5. 人間が間違えやすい仕事(ル—チンのチェック業務)
    • まずはフィージビリティスタディから始める。
      • 定型業務をデジタルレイバーに代行させ、真に大学発展に寄与する付加価値の高い業務へとタスク・シフティング
      • 高等教育においてRPAを活用した業務効率化の余地は極めて大きい
      • デジタルレイバーは業務効率化だけではなく業務の拡張(オペレーティング・オーグメーション)にも貢献
      • RPAを導入しても、決してやりがいのある仕事が無くなるわけではない。(現在は労働力不足の時代)
  • 質疑応答
    • 導入コスト・メンテナンスコストは?
      • 様々なソフトウェアがあるので、何を選ぶか、またどの程度代替させるかによるが、概ねライセンス料・年間500〜1,000万円程度である。ライセンスの中であればコストの上積みはない。しかし、代替させる領域が増えればその分、当該業務のロボット開発がある。RPAも自ら開発するものと、業者に開発してもらうケースがある。業者に開発させる場合、そのコストがかかる。

講演中にYouTube動画が放映されましたので、以下にURLを貼っておきます。
www.youtube.com

また、大学業務へのRPA活用は先行事例等もいくつかあります。2018/07/25に早稲田大学で開催された「大学における業務構造改革の実践~RPA活用の可能性~」の資料が公表されているので、参考まで掲載します。加えて、リクルートカレッジマネジメントで吉武博通先生が書かれた論稿が非常に参考になるので、掲載します。

RPAの適用可能領域についての話がありましたが、いわゆるバックオフィスで効果が大きく、他業種で先行導入が進んでいるので事例として参考にすると良いと思います。しかしながら、講演を聞きながら感じた事のひとつに「まずは各大学が自学の業務を定義しないと前に進めないのではないか?」という点です。吉武先生のカレッジマネジメントでは日本生命保険相互会社のRPA導入経緯、導入後の事例が紹介されており、大学にも当てはまるRPA導入の本質です。

www.nissay.co.jp

  • RPAを早い段階から経営に導入しているようだが、現在の業務のデジタル化の状況は。また、それが職員の働き方をどのように変えていくか。
    • 当社は、RPAの導入に、2014年から取り組んできたが、何度も失敗している。重要なことは2つあると考えており、1つ目は、人間が行う実務やノウハウの見える化である。実務を熟知していなければ、ロボットに置きかえようとしても、イレギュラーケースに対応できず失敗してしまう。2つ目は、実務の変化に応じてAIやロボットを育てること、また、そのAIやロボットを育てる人のマインドを醸成することである。例えば、当社ではRPAに「ロボ美」と名前を付け職員名簿にも載せることで、職員がロボットを仲間として育てるようになってきている。現在では、53台のロボットが各業務において活躍している。
    • なお、単にデジタル技術だけを導入しても、業務全体への効果は薄いと考えている。新たなデジタル技術に加え、これまでのシステムや、人が介在するプロセス、この三つを業務プロセス全体にどのように組込み、どう変えていくかが重要である。プロセス全体の見直しによって、それに携わる一人ひとりの働き方が効率的になり、生産性が上がっていく。
    • また、それによって、資源を成長分野やお客様サービスにシフトすることができると考えており、そのような点も念頭に置いて、会社全体の効率性、生産性を上げていきたい。

失敗経験から成功に繋げるまでのストーリーはどの業種にも共通するものでしょう。

講演:「市場化テスト(民間競争入札)」で経費の削減とサービスの質の向上を 仁木俊二(総務省官民競争入札等監理委員会事務局参事官補佐)

  • 自己紹介
  • 社会の流れの中の国立大学
    • 第二次大戦後、教育制度の改革:複線型から単線型の制度に移行
    • 高度経済成長で国立大学は施設の拡大と大学数の増加
    • 経済の安定成長・財政再建
      • 行政・行財政改革を志向。3公社の民営化、官から民への移行。独立行政法人制度(エージェンシー化)。
      • 21世紀:巨大独立行政法人2004年(国立病院機構)、国立大学の統合(国立医科大と地元国立大の統合、機能別の統合:筑波大+図書館情報大、大阪大+大阪外大)
    • 国立大学の法人化(2004年)
  • 入札とは
  • 市場化テストとは
    • 1970年代から米国、英国、豪州等で公共サービスを官と民が競争入札する「市場化テスト」取り組みが開始。
    • 我が国「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律」(2009年)、対象行政機関等には独立行政法人国立大学法人も含まれる。
      • 我が国の市場化テスト:官民競争入札が2%、民間競争入札が98%
      • 市場化テスト(民間競争入札)」で大学の事業・業務の見直しを。
      • 施設管理:設備の点検管理、警備、清掃、植栽などを1事業にまとめ、複数年度化する。専門家に諮って充実。経費節約・サービスの質向上。統合・複数年度化することで入札関係業務の効率化に。
      • 有識者による第三者委員会(監理委員会)の助言・チェックを受ける
  • 施設管理・運営の経費削減等の例
  • (公共サービス改革法による)市場化テスト(民間競争入札)とは
    • 普通の入札とどう違うのか。
      • 対象事業・業務を学内関係者が改めて見直すことから始める
      • 入札実施の「標準例」を総務省で作成。(競争性や業者の創意工夫などサービス向上の視点)
      • 有識者による第三者委員会(監理委員会)の助言・チェックを受ける(監理委員会の小委員会で入札実施要項を確認し、公認会計士・弁護士・大学教員がアドバイス。要項案の審議は1度)
  • まとめ
    • 入札事務・内部関係者だけでは、その事業の見直しや入札に関する情報収集、競争性を高める工夫が限定される。
    • サービス事業の「経費の削減とサービスの向上を図る」には、市場化テスト(民間競争入札)の活用が有効
    • 長年の入札充実のノウハウによる要項案づくり。専門家のチェックを受けることで要項案が充実。
    • 事業、業務を改めて見直すきっかけに。
    • 競争性を高める。
    • 経費削減・サービスの質向上を。
    • 契約事務の省力化
  • 質疑応答
    • 良い制度だと思うが、アンケートの満足度は90%となっている。残りの10%をどのようにするかが課題と思うが、どうか。
      • 様々な事業を実施するので、全て満足というわけにはいかない部分ではあるが、概ね満足いただいているのではないか。
    • 市場化テスト自体は良い制度だと思うが、具体的な費用などはどの程度かかるのか。
      • 基本的に小委員会は東京で開催される。各大学の担当者が小委員会での審議の折、旅費等の実費のみがかかる。コンサルティング料などは要しない。

主に国立大学法人が対象の内容だと思いますが、調達関係業務の効率化に「市場化テスト」が有効活用できる可能性との講演でした。講演者の仁木さんが文科省から内閣府に出向している点もポイントです。
国立大学法人の場合、大学の規模にもよりますが広大な敷地・施設を保有しているケースが多いと思われ、維持管理コストだけでも相当の金額になルことは容易に想像できます。市場化テストを通じて、民間競争入札を活用した適切なコストでの業務委託実現は、運営費交付金が削減され続けている国立大学法人の経営に大きなインパクトがあると感じました。

-討議(大森不二雄教授、村山典久氏、仁木俊二氏)

    • 大学で入札を行なっているが、市場化テストを活用する場合、パッケージ化や複数年化することが大切だと書かれているのだが、それ以外に委員会などでは具体例をもう少し教えて欲しい。
      • 業務の複数年化と包括化の話が出たが、それ以外に分割するという例もある。それぞれの業務が個別に大きく、包括化することで事業全体の規模が大きくなると体力のある事業者のみになってしまい、1社応札になるケースがある。その場合分割した方がメリットがでるので、そうした点を小委員会ではアドバイスする。基本としては今のようなケースもある。小委員会では柔軟に中身を見ていると思われる。
    • RPAの仕組みは業務の改善に繋がると思うが、各ユーザーがやってみよう・使ってみようと思うのが大事。ユーザー側が自動化にあたって推進しようとする仕掛けが必要だと思うが、どうか。
      • 現在市場にあるRPAでも自分たちで作るものもあれば、業者に開発を委託するケースもある。各大学によって事情が異なるが、自分たちで開発していきたいという意見が多い。20〜30代の若手職員、女性職員が推進するケースが多い。ユーザビリティはどのソフトウェアでも機能面比較は重要だが、厳密な比較などをやるのではなく、まずはデモを含めたテストなど、実際のシステムに触れてみることから始めるのが良いと思う。個別大学の職員のICTリテラシーによって異なる。東北大のような大規模大学の場合、部局によっても異なると思うので、全学的導入をいきなり考えなくても良いかもしれない。少なくともMicrosoft Officeが使える程度の知識は必要。RPA作成にあたっても、業務フローが簡易に構築できるケースであれば問題ないが、附属病院業務などの場合は電子カルテなどの専門的知識が必要になるので、そういった内容であれば外部の専門業者の支援が必要である。
    • RPA化対象業務の選定事例について、RPAに向くものとそうでないものがあると思う。具体的な選定作業の手法を教えて欲しい。
      • 個別の大学によって異なるが、この事例ではまずデモを見せた。また6つのコンポーネントを提示し、転機・情報収集・データのチェック・メール操作・大量印刷などがないか?と問いかけた。その問いに対して、RPA化できそうなものを出してもらい、その内容をコンサル側でできる・できないを判断していった。一番進まないのは、洗い出しが進まないケースである。その場合にはコンサル側が業務ヒアリングを行い、コンサル側が洗い出しを行ったケースもある。これは非常に時間がかかる。事業体によって洗い出しのレベルは異なるが、国立大学法人・大規模私立大学はスムーズ。小規模の私立大学の方が戸惑うケースが多かった。このケースでは課長級が会議に参集され、各課で情報を収集していた。
    • RPA導入にあたり、ルールというか業務フローの整備が先ではないかと思う。実は業務フロー整備ができているかいないかが重要なのではないかと思うが、どうか。
      • 学内の業務標準化がなされていた方が早い。ある大規模大学で部局の会計業務を本部に集約したかったが、部局ごとにバラバラだった。まずは業務の標準化をする必要があったが、RPA化とあわせて実施したので、大きな削減効果があった。
    • 国立大学や大規模私大で業務標準化を行うのは相当のパワーが必要なので、まずは部局別に初めてそこから広げていく手法が良いのでは。
      • 市場化テストを使うことでコスト削減に繋がった事例があると思う。これが国立大学に広がっていかない理由は何か。市場化テストを大学側がさらに活用するためには何が必要なのか。
    • 全体的にはいい仕組みだと思うが、個別のケースに応じて状況が変化することはある。例えば東北大学の場合、規模が大きいゆえに包括化が難しい面がある。
      • しかし、中小の大学は地方所在のことが多いので、そもそも応じられる事業者が少ないということもある。これは個々の職員が「やる気がない」訳では決してないが、様々な部局で働く職員がアイデアを出していくと良いのではないか。色々やってみて、1社応札が回避できず、市場化テストを取りやめたケースもある。また、各大学の担当者が「新しいことに取り組むと仕事が増える」という認識を持っていることも広がらない一因もあると思う。
    • 導入時の洗い出し作業と同時に、実際に使用者がトレーニングを受けていたという話だが、こうしたトレーニングコースの期間・所要経費などはどの程度か。
      • 職員が作っていく場合、トレーニングは必要。職員のスキルセット、大学の懐事情によるが、一番お金がかからないのはeラーニングでの学習だが、スキルセットの高い人が受講するケースが多い。これは無償である。その次は3日の研修+eラーニングの組み合わせ。これは数十万から100万円程度。その次はPOC・実証実験。3日間の研修を受けたのち、簡単なRPAロボット作成を行う。その後に実際の運用をしてみて、ということ。RPAのシステムに関しても、大学の規模などに応じて最適なソリューションを設定することが重要だと思う。役員・現場の両方が必要性を認識している場合、導入がうまく進むと思われる。
    • 例外的な業務書類の場合、RPAはどう動くのか。
      • 実際にそうしたケースは結構ある。RPA導入しても、1割程度はデータ投入できないケースもある。RPA作成を改善して解決するケースもあるが、例外の場合の作業手順を把握しておくことが重要。
      • Web上からデータ取得する場合などは例外処理が起きにくいが、属人での作業が介在する場合には入力ミス等の可能性を排除できないので、その点は難しい。
    • RPA化の業務洗い出しで、業務平準化の話が出た。東北大学でも業務平準化の必要性は認識しつつ、部局によって文化が異なることは苦慮している。RPA導入を進めるにあたり、標準化を浸透していくやり方などもあると思う。事例などあれば教えて欲しい。
      • 業務標準化とRPAは並行して進むケースもある。ある企業での事例だが、RPA導入にあたってRPA導入・業務改善・業務標準化を三位一体で進めていたケースもある。加えて業務必要性を洗い出し、事業継続性についてのコンサルティングなどを行なっているケースもある。

以上、業務改善についての興味深い話を聞くことができました。特にRPAについては以前から興味を持って情報を収集していたので、概要だけでも分かったことは収穫です。RPA活用によって業務効率化は図れると思いますが、以前当ブログでも取り上げた「大学マネジメント・業務スキル基準表」の活用など業務プロセス可視化とセットで考えないと、導入しても失敗する可能性が高いことが想定されます。業務構造の質的転換のためにもRPAをきっかけにしたアプローチは今後増えていくでしょうが、業務プロセス可視化とセットであることは重要なポイントです。また電子決裁システムの導入なども可視化に必要なプロセスだろうと考えられます。

high190.hatenablog.com
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まず業務の可視化に手を付けないとRPAのようなテクノロジーの恩恵を受けることすらできないこと、大学マネジメント層がここに目を向け、RPA活用も含めた業務改善のビジョン・アクションプラン策定を行えるか否か。少子高齢化時代を生き残れる大学かどうか、大きな分かれ目だと考えます。先だってご紹介した吉武先生の記事に核心を突いたコメントがあるので、以下に引用して終わりにします。

「業務の可視化」は業務改革における最大の課題であり、ITベンダーやコンサルティングを活用したとしても、業務担当者が当事者意識を持って能動的に関わらない限り、期待通りの成果を得ることは難しい。業務改革の経験に乏しい大学にとっては、RPA導入に当たっての最大の関門になると思われる。そのためにも、業務改革がなぜ必要か、RPAとは何か、組織と個人に如何なるメリットをもたらすか等について、担当者の理解を得るまで根気強く説明する必要がある。加えて、基礎的な業務分析手法の習得を含めた研修を行う必要がある。

*1:2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)について http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/30/11/1411368.htm

東北大学PDプログラム「特色ある大学を創るために「理念駆動型」の組織マネジメントを」に参加しました

high190です。
10月27日(土)に東北大学で開催された標記セミナーに参加しました。参加記録のメモを公開します。
以下の記録はhigh190が聴講した際に記録したメモです。主観が入っていること、内容に誤りが含まれる可能性があることを予めご了承ください。

特色ある大学を創るために「理念駆動型」の組織マネジメントを(出展:東北大学高度教養教育・学生支援機構)

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開会挨拶 杉本和弘副センター長

  • 柳澤先生は前回のLADでアドバイザーを務めていた。組織を動かすにあたって推進力を内蔵した理念駆動型のマネジメントを学んでいってもらいたい。

特色ある大学を創るために「理念駆動型」の組織マネジメントを

  • 現状認識
    • 愛媛大学を辞めて4年になるが、愛媛大学の教職員には理念を大事にする文化があったように思う。現在は岡山理科大学で学長を務めているが、今日のセミナーでお話するのは愛媛大学にて取り組んだ事例である。
    • 吉武博通先生がカレッジマネジメントで連載されている"大学を強くする「大学経営改革」"は有益な示唆が多く含まれているが、Vol.212 Sep.-Oct.2018の「政策を見据えつつ現場主導の改革を−大学は高等教育政策にどう向き合うか」にて分かりやすく論点が整理されているので、抜粋してご紹介する。
      • 「瑞々しい感性や活力を失いつつある。」
      • 「政策を鵜呑みにするのではなく」
      • 「自校の課題と結びつける」
      • 「政策をどのように運営に活かせば大学をより良い方向に向かわせることができるか」
    • 吉武先生には岡山理科大学の外部評価委員をお願いしている。中長期計画などもガチガチにしてしまうとダメ。岡山理科大学ではストーリー性のある計画が欲しいとの吉武先生のご意見を踏まえて計画を策定している。
    • 「理念駆動型の組織マネジメント」とは
      • 「理念駆動型」となるためには、国の政策の字面を鵜呑みにするのではなく、その背景にある理念を批判的に取捨選択して自らの理念を打ち立て、それに基づいて実行することが肝心である。
      • 政策が揺らぐ現状では、大勢順応型であるよりは「異端」とみなされようとも軸がブレないことの方が大事ではなかろうか。
  • 自己紹介
    • 愛媛大学で大学教員として30年近く勤務。*1
    • これまでのキャリア
      • 平成11〜13年度(大学教育総合センター員)課題:教養部廃止後の共通教育の立て直し
      • 平成12〜16年度(評議員、理学部長)課題:国立大学法人化対応、理学部の教育改革
      • 平成16〜17年度(学長特別補佐、企画・評価担当理事)課題:大学憲章草案作成、法人化後の制度設計、学長が外部評価委員から「愛媛大学の特色を一言で」と言われて答えられず、大学憲章の制定に動いた。こうした経験から大学の理念・制度設計に関係する機会があった。
      • 平成18〜20年度(教育担当理事)
      • 平成21〜26年度(学長)
      • 平成27年度〜岡山理科大学学長
  1. 愛媛大学の概要
    • 7学部6研究科からなる地方国立大学。
      • 7学部と4機構(教育・学生支援機構、先端研究・学術推進機構、社会連携推進機構、国際連携推進機構)縦割りになりがちな学部に対して横軸としての機構。
      • 学長在任中、学内の委員会をすべて廃止し、教育学生支援会議に統合した。審議機関はこれだけ。委員として各学部からは副学部長クラスが出てくるため、各々の責任に応じた対応を求め、「学部に持ち帰って」ということをできないようにした。
      • 教育企画室の設置にあたって、通常事務組織は横並びにするのが普通だが、教育企画室に関しては機構長直属にした。
      • 学部横断的な研究センターの設置。センター数は多いので、研究者は兼任で対応。
    • 愛媛大学の3つの教育・研究拠点
      • 文科省の政策として拠点への資金投下を行っている。愛媛大学でも教職員能力開発拠点が教育関係共同利用拠点に認定された。全国の学長アンケートで上位に入ったが、評価が高いのは愛媛大学教育企画室メンバーは全国の中小規模大学で経験を積んだ者が多いことも影響していると想定。
      • 環境や生命などの得意分野において世界レベルの研究を発信するとともに、他大学から注目される教育、FD/SDを実施している。
  2. 教育改革と教職員能力開発
    • FDの定義とは?(学士課程答申の定義)
      • 授業内容・方法を改善し向上させるための組織的な取り組み。
      • 私立大学では私立大学等改革総合支援事業でFDへの参加率を求められる。しかし、愛媛大学ではFDポリシーを定義し、授業の改善(ミクロ・レベル)、カリキュラムの改善(ミドル・レベル)、組織の整備・改革(マクロ・レベル)の3種に分けて実施している。これは既にSPODで四国地域には定着した概念である。
      • FDポリシーをベースに、教育改革(教育コーディネーター制度)、能力開発(教育企画室)、両者の統合的実践とネットワーク化(ミドル・レベルのFD、SPOD、教育関係共同利用拠点、ミクロ・レベルのFD)
      • FDポリシーの拡大:FDからPD(Professional Development)へ
      • 能力開発(PD)に重点を置いた愛媛大学独自のテニュア・トラック制度の導入。
    • 上記施策の実行で、高等教育開発者に対しての「活躍の場」が与えられた。
      • 現在の教育企画室の体制
      • 小林直人室長・教授、中井俊樹副室長・教授、村田晋也講師、仲道雅輝講師、竹中喜一特任助教、上畠洋祐特任助教
      • 阿部光伸講師(学生支援センター兼任)、高橋平徳講師(教職課程センター兼任)、丸山智子講師(学生支援センター兼任)
      • (過去の所属教員)佐藤浩章(現・大阪大学全学教育推進機構教育学習支援部准教授)、秦敬治(現・岡山理科大学副学長)、山田剛史(現・京都大学高等教育研究開発推進センター准教授)
      • 特に佐藤氏、秦氏は愛媛大の経験があって全国的な活動ができるようになった面もあると思う。
    • 段階的・継続的なFD活動開発
      • SD活動でも職員が講師をやっているのはメリットがある。自分たちの一歩前を行く人が講師であること、自前ならば講師代がかからないこと。
      • 教育企画室がネットワークリーダーとしての機能を持つようになった。
    • 教育コーディネーター制度
      • 各学部・学科の教育責任者。教育重点型教員。各大学での教務委員に相当するが、標準任期は4年に設定している。通常の教務委員では忙しい若手教員が短期(1〜2年)で交代するため、教育改善につながらない。専門性を高めるために「教育コーディネーター研修会」を年4〜5回実施。外部講師招聘。ファシリテーター教育企画室員が担う。
    • 教育改革と能力開発の統合的な体制づくり
      • 全学的視点で教育改革を議論し、実践できる体制を確立する
      • 全学レベル及び学部レベルで教員の役割分担を明確にする
      • 学部・学科における教育責任者の存在を明確にする。
      • 全学機能を強化するための専門的人材を配置する。
    • SPODの開発、SPODフォーラム*2
    • 愛媛大学テニュア教員育成制度
      • 3年間で100時間の研修プログラムを受講。教育能力開発プログラム、研究能力開発プログラム、マネジメント能力開発プログラム(会議マネジメントが入っていることが興味深い)、総合プログラムから構成。
    • 日本ではテニュア・トラックを文部科学省の研究3局(科学技術・学術制作局、研究振興局、研究開発局)が主管しているため、高等教育局が手を出しにくいのではないか。現在の助教制度は5年程度の任期を付されていることが通例だが「非常にけしからん」制度。若手研究者に対してのサポートが全くない。テニュア・トラックはもっと普及してほしい制度。
  3. DPと学生コンピテンシー
    • DP=学位授与方針、卒業時に達成していることが求められる到達目標。
      • 全学DPを作ろうとすると、学位の専門分野との相当関係において、学部・学科には意味があるが、総花的な内容にしかならないので全学DPにはあまり意味がない。(認証評価用には作る必要があり、愛媛大学でも整備は行った)
      • 現在、アセスメントポリシーの議論がなされているが、4つのポリシーで整合性が取れていなければならないが、DPは実現可能なものでなければならない。
      • よって、愛媛大学では全学DPではなく「愛大学生コンピテンシー」(平成24年7月制定)を制定し、学生として目指すべき方向目標(目指すべき方向)を示した。これは大学側が学生が人間としてトータルに成長することを支援する決意表明をしたもの。
    • 準正課教育(co-curricula)
  4. 地域人材の育成
    • 愛媛大学における地域人材の育成
      • 地域の発展を牽引する人材の養成、地域社会の自律的発展に貢献
        • 地方の大学は地方活性化を企図して設立された事例があるという認識(当時の学長)
        • 憲章に地域人材育成を組み込んだところ、各学部・学科がコース制で特別教育コースと研究センターの設置を進めた(大学執行部からの指示ではない)、こうした取り組みを基盤として文理融合型の新学部「社会共創学部」を設置(平成28年4月)
      • トランスディシプリナリー・アプローチ
        • 研究者が多様なステークホルダーと共に現状分析と問題の原因探索を行い、それを解決するための課題を設定し、その課題解決のための研究を企画し(Co-design)、協働で課題解決のための取組みを実施し(Co-production)、実施の成果を社会に還元して(Co-delivery)、社会の課題を解決しようする手法。
        • 学部ができた際に学部長や学科長が「社会共創学概論」を発行した。


理念を駆動させる仕組み作りなど非常に興味深いお話でした。日本の大学の場合、理念を立てるところまではできる、しかし駆動させる仕組み作りまで行うのが苦手な印象を持っていましたが、愛媛大学は高等教育機関として理念を駆動させる制度の実装過程が可視化されていると感じました。特に、その駆動を担うのが教育企画室であり、学内の総合的教育支援組織として各部局を支援している体制は非常に興味深かったです。
別の機会に書きたいと思いますが、9月末にカナダ・オンタリオ州のクィーンズ大学に訪問調査をしてきました。その際、訪問先だったのが"Centre for Teaching and Learning(CTL)"という組織です。いわゆるScholarship of Teaching and Learning(SoTL)*3を担う組織です。SoTLとは東北大学の杉本和弘先生の定義によると「教育・学習活動を研究的アプローチによって探究・解明し、その実践の改善を図っていく営み」です。*4

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Queen'sのCTLでは各々専門性を持ったPh.D保有のEducational Developer*5が学内の総合的教育支援を担っていました。これと同じ機能を愛媛大学では教育企画室が担っています。愛媛大学では機構長(教育担当理事)の下に教育企画室が置かれていますが、Queen's UniversityではVice-Provost(Teaching and Learning)の下にCTLが置かれていました。整理すると以下のようになります。

  • 適切な高等教育開発の役割を担う組織マネジメントには国を越えた共通性があり、理念駆動型マネジメントの態様は各国制度の違いを超越している可能性があること
  • 理念駆動の仕組みが大学の教育改革に繋がるのであり、その中でEducational Developerが所属する機関が理念を現実化させるための駆動役を担うモデルがあること

柳澤先生のご講演から海外大学調査の気づきを深めるいい機会になったと思います。
日本における理念駆動型マネジメントを推進する上でのカギは日本版SoTLの開発*6とともに、冒頭で柳澤先生がおっしゃっていたように「国の政策の字面を鵜呑みにするのではなく、その背景にある理念を批判的に取捨選択して自らの理念を打ち立て、それに基づいて実行することが肝心」なのだと思います。そのためにも政策立案能力と教職協働を推進できる専門性を持った職員の存在が今後、より重要であることは間違いありません。

*1:https://www.univcoop.or.jp/about/interview/vol26.html

*2:愛媛大学のSPODについては2018年度の大学行政管理学会での報告を是非ご参照ください「愛媛大学のSD事業はなぜ継承できているのか?」http://high190.hatenablog.com/archive/2018/09/06

*3:SoTL関連論文「ポスト・ボイヤーのスカラーシップ論」 http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=AN0006957X-00000079-0001

*4:杉本和弘「大学教育の質保証-誰が何をどう保証するのか-」第22回大学教育研究フォーラム@京都大学吉田キャンパス(2016年3月17日)https://www.highedu.kyoto-u.ac.jp/forum/movie/pdf/2015/20160317_Sugimoto.pdf

*5:https://www.queensu.ca/ctl/about-us

*6:これは東北大学が「知識基盤社会を担う専門教育指導力育成拠点-大学教員のキャリア成長を支える日本版SoTLの開発」として、文部科学省教育関係共同利用認定拠点に選定されているテーマです http://www.ihe.tohoku.ac.jp/CPD/about/project/