Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

平成28年度第20回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました(1日目)

high190です。

9月10日(土)、11日(日)の2日間、東京の慶應義塾大学三田キャンパスで開催された大学行政管理学会の定期総会・研究集会に参加しました。今年の全体テーマは、「未来を拓く」です。2日間のプログラムで、1日目は定期総会、基調講演、ワークショップが開催され、2日目はパネルディスカッション、研究・事例研究発表が行われました。今回もhigh190が参加したセッションについて、所感をまとめてみました。内容が多いので今日は1日目のプログラムに関してのまとめです。理解違いなどがある可能性がありますので、悪しからずご了承下さい。昨年度以前の参加記録もお知らせしておきます。*1 *2 *3 *4 *5

1.基調講演「福澤諭吉における教育とモラル」(慶応義塾大学名誉教授 小室 正紀 氏)*6

  • 教育組織における道徳教育について話す。福澤は、学校におけるモラル(「気品」)の教育をどう考えていたか。
    • 結論的には:近現代教育への福澤の違和感。違和感を感じつつも前向きに
  1. 福澤のいう学問とは
    • 学問=「実学」※実用学・実業学ではない
    • 実学=「サイヤンス」=「サイエンス」
    • 科学的実証に基づかない「虚」な学問に対して、実証的「実」な学問
  2. 実学
    • “本塾の主義は和漢の古学流に反し、仮令い文を談ずるにも世事を語るにも西洋の実学を根拠とするものなれば、常に学問の虚に走らんことを恐る”
  3. 初期の福澤:智>徳 明治8年「文明論之概略」第6章
    • 私徳、公徳、聰明叡智(Thomas Clarkson, John Howard)
    • 私徳は教えられない「無形の際に人を化する」、当時の日本での不足は私徳ではなく智
  4. 「気品」・モラルの問題への直面
    • 明治15年頃以降の政府による道徳(儒教)教育の復活
    • 明治20年代後半以降、「私徳」についての憂慮の中で
  5. 明治15年頃以降:政府の道徳教育
    • 明治15年以降、政府は徐々に儒教的な忠君愛国の教育に復古していく。福澤はそれに反論。
      • 儒教は近代社会の実態に合わない。
      • 道徳は社会が育む。"道徳心の発育と其標準は之を社会の気風に一任す可し"
      • 学校では道徳は教えられない。
      • "人の子を学校に入れて育すれば、自由自在に期する所の人物を陶冶し出す可しと思ふが如きは、妄想の甚しきもの"
      • 例外:「徳育の実効を奏す可きものは、必ず家塾私塾に在り」師弟長幼相混在して不言の間に精神を伝える。緒方洪庵適塾がモデル
    • 今、大事なのは徳育ではなく知育
  6. 福澤の道徳教育論
    • 儒教主義は不可能、時代錯誤
    • 道徳は社会に任せるべき
  7. 明治20年代後半以降 福澤の徳育論(1)
    • 私徳の問題に向き合う:「紳士紳商の醜行」
    • 森村明六宛の手紙“何卒私徳を厳重にして、商業に活発にならんことを祈るのみ”明治29年1月
      • 日原昌造宛の手紙”老生の心事は千諸万端なるも、就中俗界のモラルスタントアルドの高からざること、終生の遺憾”明治29年3月
      • 若い時の思想と反する現状に直面する
  8. 明治20年代後半以降 福澤の徳育論(2)
    • 私徳は重要だが、儒教主義では解決できない。
  9. 儒教主義教育との再対決
    • 儒教主義教育・文明進歩の抑圧
  10. 慶應はモラルを教育できるか?
    • 「私塾」性の喪失、「気品の泉源、智徳の模範」における憂慮
  11. 気品の泉源、智徳の模範
    • "老生の本意は此慶應義塾を単に一処の学塾として甘んずるを得ず。其目的は我日本国中に於ける気品の泉源、智徳の模範たらんことを期し、之を実際にしては居家、処世、立国の本旨を明にして、之を口に言ふのみに非ず、躬行実践、以て全社会の先導者たらんことを期する者なれば、今日この席の好機会にも遺言の如くにして之を諸君に嘱託するものなり"
  12. 慶應の存廃に煩悩する福澤
    • "世の中を見れば随分患ふべきもの"
    • 「人心の方向を転換したい」と思うが、"それこれを思えば、本塾を存しておきたく、ツイ金がほしく相成り候。また是老余の煩悩なるべし"

福澤諭吉の思想などをベースに、現代の教育には何が求められるのか、また福澤の思想的な背景が時代とともにどのように変質していったのかを詳細にご講演いただきました。個人的には福澤が没する前に、慶應義塾の廃塾を口にしていたのは驚きでした。結果として、周囲の者によってそのようなことにはならなかったのですが、"先導者"という言葉を用いて世の中の先を見通していた福澤の先見性には脱帽する他ありません。
私立学校は「建学の精神」という固有の分化に依拠した組織ですが、時代とともに社会の変化に適応するためにこそ、創立者の思想をひもとく事は必要不可欠な事柄であります。私はこれまで、慶應義塾出身者の方と仕事をする機会に多く恵まれましたが、その際に"半学半教"のことを聞いてきましたし、その実践にも触れてきました。適塾をベースとした福澤諭吉の教育思想が今日まで生きていること、慶應義塾が重視する普遍の理念を説く基調講演として、このテーマが選ばれていたことには深い思いを感じた次第です。また、講演で紹介されていた「文明論之概略」を是非読みたいと思いました。

文明論之概略 (岩波文庫)

文明論之概略 (岩波文庫)

文明論之概略を読む 上 (岩波新書 黄版 325)

文明論之概略を読む 上 (岩波新書 黄版 325)

文明論之概略を読む 下 (岩波新書 黄版 327)

文明論之概略を読む 下 (岩波新書 黄版 327)

2.ワークショップ「中堅職員Meetup Tokyo 関東地区初!中堅職員しゃべり場〜あなたの「これまで」は誰かの「これから」」(大学改革研究会)

ちょうど自分自身が中堅職員の立ち位置ということもあり、同じ年代の職員の方々がどのような思いを持って日々の業務に向き合っているのかを知りたくて、このワークショップに参加しました。冒頭、ファシリテーターからの自己紹介があり、その後にアイスブレイクを経てグループに分かれてワークを行いました。ワールドカフェの手法を応用して、シンクペアシェアなども活用しながら短時間でグループ毎の結論をまとめ、共有するというやり方でしたが、最近、こういったグループワークなどを自分で企画してみたいと思うことが多くなってきたので、運営という部分でも参考になる点が大きかったです。
ちなみにhigh190が参加したグループでは「どうすれば危機意識を共有できるのか?」というテーマについて議論しました。議論の過程で興味深いな、と思った事項を以下に挙げておきます。

  • 学外で活動する(同志を得る、というコメントもありました)
  • 自ら発信し続ける(発信しなければ情報は集まりません。これはブログを続ける事と同義です)
  • まず自分が変わる(組織変革のためにはまず自分を変えていかないといけない)
  • 痛い目にあわせる(傍目から見て危ないと思っても経営陣に気づいてもらうため、あえて止めないで寸前の所で介入するなど)

同じぐらいの世代の職員の皆さんと議論できて楽しかったです。また、自分自身が現在取り組んでいる課題とも関連する議論が多く聞けたので、その点でも収穫が大きいワークショップでした。大学改革研究会はこういったワークショップをこれまでも開催しているので、今後の展開にも期待したいと思いました。*7二日目のまとめについても別途、お知らせしたいと思います。