Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

平成26年度第18回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました(2日目)

high190です。
東北学院大学で開催された大学行政管理学会の定期総会・研究集会の2日目(9/7)の参加記録です。1日目はこちらからご覧下さい。*1今回もhigh190が参加したセッションについて、所感をまとめてみました。理解違いなどがある可能性がありますので、悪しからずご了承下さい。
一昨年、昨年のまとめ記事はこちらです。*2 *3

1.シンポジウム「東北から、今、未来に伝えたいこと」
仙北谷穂高氏(大学行政管理学会常務理事/國學院大學教学事務部次長)がコーティネーター。パネリストから発表があった後、ディスカッション。

  • 後藤好邦氏(東北まちづくりオフサイトミーティング*4山形市役所職員))
    • コンセプト「敷居は低く、されど志は高く」定期的な勉強会、学び・学び合いの機会を提供。インプット+アウトプットの活動へ。ネットワーク&ネットワーキング
    • 組織として「行政として」の限界を超える、組織の限界を補完するのは個々人の可能性。個が繋がる場(プラットフォーム)としてのネットワークの必要性。社会情勢に対応するにあたっての「横串」としての役割、「横の繋がりが閉塞した日本の縦社会を変える」組織学習論的なアプローチ。
    • 行政の長も変わってきている
      • 「情報を発信する時代ではなく、共感を発信する時代である。」(佐賀県武雄市長)
      • 「自分にない能力を持った友達をつくることで可能性が広がる。」(岩手県陸前高田市長)
    • これからは「連携」が大きな力を持つようになる。東北学生サミットの開催。被災地の状況は個々に異なるが、一番大切なことは被災地を直接訪ねること。
    • 【学生の力を活かす方法】
      • きちんとした役割を提供する
      • リミッターを外してあげる
      • 任せたら過度に関わらない
      • 見えないところでしっかりサポート
  • 山崎裕氏(福島大学つくしまふくしま未来支援センター*5 副センター長兼事務室長)
    • センターの活動としては、教育研究よりも支援を重視、福島大学で財務部副課長として文科省との折衝を担当。
    • 復興支援を目的として、各種活動を行っている。原子力災害に対応するには様々な分野の教員による研究が必要である。東日本大震災では直接的に亡くなった方が1400名ほどいたが、震災後に亡くなった方の方が多く、生きるための支援方策についての支援も必要だと感じている。
    • 原発事故で着の身着のまま避難して、学校を卒業してからどこにいったか分からない児童・生徒がいる。加えて地域インフラが整っていないので、地元に戻らない人が増えてきている。大学と震災の関わりでは、警戒区域に入るために教員が危ないところに入っていって住民を調整する役割を担っている。大学が地域に如何に愛され役に立つかが大切である。
  • 奥田昌治氏(関西大学高槻事務局高槻ミューズキャンパスグループ長)
    • 「社会安全学部」「社会安全研究科」を2010年に設置。
    • 特徴はリスクマネジャー制度を立ち上げた。リスク対応の知識が伝承されていかない。入職6年目の職員から50歳定年で、それまでの間にリスクマネジャーとして職務に務める。高槻ミューズキャンパスで避難訓練を毎年実施しているが、*6物品の備蓄数を算出してみたが、広域避難所に指定されていることもあって、地域住民分もカウントした。
    • 訓練実施を継続していった結果、地震避難訓練のアンケート結果では学生からも継続すべきという声が上がった。炊き出しについても、実際にやってみると学生が殺到するので、配給の仕方などを考える契機になった。学生に対して避難訓練を実施するにあたって、色々な情報の提供を行った。正確な安否情報の確認のために、情報収集と分析を行った。地域住民も巻き込んで、取り組みとして強化していきたいと考えている。
    • 災害初動期指揮心得*7の指摘「備えたことしか役に立たなかった」「備えていただけでは、十分ではなかった」
  • 小谷英文氏(PAS心理教育研究所*8理事長、国際基督教大学名誉教授)
    • トラウマとは何か?PTSD心的外傷後ストレス障害)とは何か?世界的には幅広く知られているが、日本ではほとんど知られていないと言える。繰り返される復興に関する無策の現実。知識が無ければ対策は無い。東日本大震災は人災の疑いがある。大学は最先端の知識とマンパワーを有している。現代はhidden impact。
    • 震災によるPTSD発症に関する事例
      • 東日本大震災の後、阪神淡路大震災の経験を思い出して、体が動かなくなった。PTSDでフラッシュバックを起こし、分かってもらえる人がおらず、大学は退学した。病院に行ったら統合失調症という診断が下っていた。実家は福島原発の20km圏内。
      • 今年の4年次生で震災当時の記憶をほとんど触れていないという実態がある。お互いに肝心な傷ついた時の対応について、話も出来ずに問題が埋もれてしまっている。初期対応後のケアがほとんどできていない。
      • 組織対応のモデルを是非構築してもらいたい。全体的に心の問題が隠れてしまっている。
    • 大学は先端の知識が集積している場。
      • 大学のミッションは教育である。「心の傷」を恐れてしまったことで問題が起こった。心のトラウマに向き合うことを恐れないようにしないといけない。そのことができるのは大学だけである。文科省厚労省にはできない。
  • 井上きみどり氏*9(ノンフィクション漫画家・コラムニスト)
    • 自分の持っているツールを活かして「漫画」で復興支援を行ってきた。*10外から見ることも大切だと感じ、ザンビアラオスに行って国際医療支援にも従事した。学校に登校してくる児童・生徒等でも、よくよく一人ひとりを見ていくと、個々が過酷な状況を経験しているということがある。震災の記憶を伝えていくことは徐々に困難になってきているが、そのことを地道にやって行きたいと思う。
    • メディアで被災地のことを報じることが減ってきている。しかし、被災地報道はうんざりという意見を持つ人も増えている。そのことに対しては都度見せ方を変えていくことが必要。震災で得たことを伝えていくためのカリキュラムを是非作っていただきたい。
  • 質疑応答
    • 大規模災害を受けた子どもたちを大学で受入れる際に、どのようなことを留意していけばいいのか?
    • 伝え合う語り合うということを、入学時の学生がどのような反応を示すかは予想できる。そういった点をアンケートで尋ねることがいいのではないか。

パネリストの皆さんが口を揃えていたのが、震災が風化し始めていることへの危機感でした。確かに東日本大震災から3年半が経ち、直接的な被災者ではない我々は日常生活が平静を取り戻したように感じていますが、被災された方々にとって復興への道のりはまだまだ遠いということのギャップを感じました。そのため、引き続き、大学と学生の協働によるボランティア支援が必要だと思うのですが、東北学院大学がボランティアステーションを設けるなど、被災地の大学が最も具体的に何が必要なのかを把握しているため、大学間連携による学生ボランティア支援継続が今後も必要なのではないかと感じました。

パネルディスカッション終了後に昼食を取り、午後からは研究・事例発表を4つ聞いてきました。

2.研究・研究事例発表

「判別分析を用いた4年ストレート卒業の決定要因に関する探索的研究」神戸学院大学:松宮慎治氏

    • 学内の教務システムから得られるデータを分析。学生支援の部署から異動してきて、教務の仕事は正確さが重視される分、あまり新しいことを前向きに取り組むことが難しいように感じたので、自分に何が出来るかを検討してみた。また、大学に馴染めない学生に対して、学生を個別に支援することの限界を感じ、感心があった。ミスマッチによる留年・休学・退学等を減らしたいと思っている。
    • 結論
      • 全学での統一状況は分からないので、学部・学科別ベースの議論が重要。分析手法について心理学担当の教員と一緒に作業する中で、判別分析を用いるとよいとのアドバイスを踏まえてSPSSを活用して分析を行った。
    • 分析から得られた知見
      • 全学部:出身校評定は正の相関、学友会等の所属団体なしは負の相関
      • 全学的な分析結果では、学部毎の特徴が平準化されてしまうため、個別の学部学科で内容を見るのが大切。
      • ストレート卒業と関係が深いのは、出身校評定、出身校が公立か私立か、部活やサークルに所属しないことである。部活やサークル活動が大学の教育目標とリンクした活動であれば、なお良い。
      • IRで専従の仕事をしている人でも統計に関する専門知識は特に必要ない。重要なことは、意思決定者に対して説明する場合、意思決定者が理解できるような形態で提供すること。
  • 質疑応答
    • この研究の結果を組織的取り組みに反映させる可能性はあるのか?
      • 組織での取り組みになる可能性はあるが、元々は個別の教員と協力して成果が出ているものなので、大学全体で活用するということは考えておらず、自分にとって役立つと思われることを続けていけばいいと考えている。
    • 就職支援でも同様の分析事例などがあればご教示いただきたい。
      • 金沢工業大学では一部上場企業の就職者リストを活用していると聞いた事がある。
    • 部活やサークル活動を独立変数にしているが、アルバイト等についてはどう取り扱っているか。
      • IRと4年間卒業の両方に感心がある。アルバイトに関してはデータが取りにくく、集めたい情報であると感じた。
    • 今後より中身を分析していくと詳細なインプリケーションがあると思うが、さらに細かく見ていくと部活別にストレート卒業率が異なるように感じられる。その点も含めて今後の研究はどう考えていくか。ストレート分析で出身校評定が重要と延べられているが、学校別の偏差値に異なりがあるが、どうか。
      • その通りでもっと偏差値のデータも加味して分析していきたいと思う。
    • 初年次の退学者に関して、上司から依頼されて分析したが、留年・休学・退学ごとに理由が違うので、その辺りはどのように分析されているのか。
      • 学籍異動理由については自分でデータが取れないので、切り捨てている。しかし、そのデータがないと説得力を持たせられないので、必要性は認識している。

探索的研究なのでまだまだ改善の余地があると仰っていましたが、SPSSを活用して教職協働で進めている事など、まず初めてみようという意識で色々なことを試されていることに興味を持ちました。今後の研究・事例の進展も楽しみだと思います。

「学校法人における理事会・評議員会に関する実務」神戸学院大学経営戦略推進部 本西孝收氏、山木暢氏

    • 組織統治の整備の必要性、情報を適切に経営層に連絡していかなければならない。
    • 整備するには以下の3点を押さえておかなくてはならない。
      • ガバナンス整備の動向理解
      • 学校関連法制の理解
      • 企業統治の理解
    • ボトムアップトップダウンの両方の問題点を探ることが必要。日本では教授会が諮問機関となることが法改正で明らかになった。責任を負う機関が判断しているか否かが重要。
    • 最高意思決定機関が独裁制に陥った場合の対応として、監事の役割(一定以上の法人の監事組織化、理事の監事に対する報告義務、一定以上の法人の常勤監事)の重要性が高まっている。
  • 質疑応答
    • ガバナンスを構築していく上で監事の役割が非常に重要であることの指摘であったが、監事の選出等に関しても公平性等の観点で何が問題と考えているか。
      • 日本の大学全体の問題として検討していくことが必要と認識している。大学としてしっかり議論していくことが必要であろうと思う。例えば、理事会・評議員会の資料を極力事前に配付したり、学内の情報などを伝えていくことが求められる。また、理事会方針と異なるような意見が出た場合として、評議員会は諮問機関であるので、そういった意見を述べていくことも必要な機能である。

理事会・評議員会の運営実務は直接担当した事はないのですが、教授会の事務局を担当している関係で聞いてみたいと思った発表です。組織統治の整備の必要性についての3つの視点はまさにご指摘のとおりだと思います。

「どうすれば教職員の考えをインスティテューショナル・リサーチ(IR)に繋げられるか」京都光華女子大学EM・IR部 橋本智也氏

    • 教育・研究はしっかりできていますか?それは、どうすれば納得してもらえますか?
    • このセッションに参加されている人が多いということは、多くの人が改善が必要であると認識していることの証左であると思う。
    • しっかり伝えて、理解していってもらうことが大切になる
  • 質保証が大切になってきている。IRは質保証に役立つ。何をどうすればよいのか?
    • そのことを期待されているのが、Institutional Researchである。質保証に対してデータで答えていく。学生・教職員のところで起きている事象を把握し、データに基づいて現場に返していくのがIR。
    • EM・IR部。京都光華女子大でEM・IRを行っていることから、10回以上他大学のヒアリングを受けた。
  • よく聞かれること
    • どういう体制、どういうシステムで行っているか?
      • 京都光華のエンロールメント=学内の学生支援を総合的に管理
      • 2006年度のGP採択を気に全学的に取り組んできた
  • IRの取り組む理由〜自分自身のキャリア〜
    • 大学院で”ことば”を研究
    • 民間企業に就職
    • 大学職員として勤務
  • 具体的な業務
    • 学習時間・態度の分析(ラーニングコモンズ設置に伴う実証分析)
    • 入学者の期待・不安(どんなことを心配しているかを分析して、入学前教育に反映)
    • 退学要因の分析(学科毎に分析理由を調査、入学してから1ヶ月ぐらいの動向を注視してもらう)
    • 国家試験合格率の調査
    • 競争的補助金の申請業務(大学教育再生加速プログラムに採択)
    • 申請業務に関する資料作成
  • では何をどうすればよいのか?
    • 「ちょっとマネ」はできない。(簡単にコピーできない)取り組みについて研究の蓄積が不十分
    • 使いやすいモデル
      • 現場の声を聞く(授業、窓口で何が行われているか)
      • 机の上だけで議論しないこと。フィールドワークが大切。
    • 考えをつなぐ
      • ひとつの部署で把握している知識を組み合わせていくと面白いものが生まれる。多様な方が面白い。
      • できることから始める
      • 目の前にあることからやっていくことが大切。京都光華でも大きなシステムは入れてない。Excelでも結構できる。山形大学でも同様の取り組みを行っている。
    • 組織で行う
      • どうやって続けていけるかを考える。京都光華の場合はEM・IR会議というものが置かれている。お金・時間・人手は限られている。
      • 重点項目を決める!(京都光華の場合)
        • 学修成果の可視化
        • 退学防止策
        • IRの体系化と活用
  • その上で教育研究できていますか?納得してもらえますか?という点
    • 既に取り組んでいる大学も多くある。京都光華の場合、他より早く取り組んでいる。質保証のためのIRに向けたデータの活用が必要だが、山形大学の福島真司教授によると「理解し合っていくステップが必要」なので、使えそうなところから共有していくことがいいのでは。
  • 質疑応答
    • データ収集のための調査として、学生アンケートなどがあるが、学習成果の可視化について取り方などはどうしているか?
      • 学内ポータルサイトからログインしてもらって、記名式ではないが、個人が追えるような形式で回答できるようにしている。授業評価アンケート回答率は7割弱だが、未回答者には指導教員から督促してもらう人海戦術を採用している。
    • 学習成果の可視化として具体的に行っていることは何か?
      • 手元にあるデータをまとめ切れていない。手元にあるが繋ぎきれていないデータを活用する。入学前・在学中・卒業後の成績についての動向を見るようにしている。
    • EMIR会議の構成は?
      • 学長、各学科から出てもらう。職員は学生支援、入試、教務関連の職員が参加している。
    • IRの設置目的を聞きたい。実行の部分にどれぐらいコミットするかということを聞きたい。
      • データを扱う収集等は、色々な部署でやっている仕事に横串を入れるのが、EM・IR部である。
    • 多くの大学では分析をしても活用されないということも大きいと思うが、その点はどうか。
      • 部署の中に教員もおり、会議の中で議論してから会議に出している。また、数字を突きつけるようなことはしておらず、ネガティブ情報は事前に根回しを行っている。小規模大学なので、実際に細かい根回しをしながら運用をしている場合が多い。

「私立大学職員によるInstitutional Research(IR)文献メモ」を運営されている橋本智也さんの発表で、私のブログでも以前にサイトをご紹介した事があったため、*11今回一番聞いてみたいと思っていました。私も小規模な大学に勤めていますので、できるところから始めるということに賛成です。また、簡単にコピーできないという点もそうであって、各大学がどのようにIRを位置づけるかはガバナンスのあり方などにも関係しますので、それこそ教職協働で取り組んでいかないと解決策が見えてこないのはないかと思います。そういった意味でも「EM・IR会議」のように学長が統括する形で、大学としてIRを意思決定に活かすための試行錯誤を繰り返していくことは大切ではないかと感じました。

学校法人の決算書は誰が何のために見るのか?財務研究グループ(津田塾大学・根元氏)

学校法人の計算書が想定する「決算書を見る人」を切り口にした学校法人会計基準等の解説です。来年度から、私立大学に対しては改正された学校法人会計基準が適用されますので、直接財務の業務には関わっていませんが、勉強のために聞いてきました。当該グループが発刊していた「これならわかる!学校会計―いまさら聞けない・これから知りたい」という書籍も平成25年4月改正学校法人会計基準対応版が新たに発刊されていますので、こちらにも目を通して一定の知識はおさらいしておきたいと思います。

さて、あまりまとまりきっていませんが、今年度の大学行政管理学会でも多くの事を学ぶ事ができました。ボリュームがあるので理解して落とし込むのが難しいですが、参加された方々にはこのブログでリフレクションを行っていただければありがたいですし、参加されなかった方には何らかの形でお役に立てば嬉しく思います。

*1:平成26年度第18回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました(1日目) http://d.hatena.ne.jp/high190/20140911

*2:平成24年度第16回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました http://d.hatena.ne.jp/high190/20120911

*3:平成25年度第17回大学行政管理学会定期総会・研究集会に参加しました http://d.hatena.ne.jp/high190/20130909

*4:東北まちづくりオフサイトミーティング http://t-o-m.cafe.coocan.jp/

*5:つくしまふくしま未来支援センター http://fure.net.fukushima-u.ac.jp/

*6:地震避難訓練「関大ミューズ防災Day2011〜広がれ!みんなの安全・安心!〜」を実施しました http://www.kansai-u.ac.jp/Fc_ss/news/2011/11/day2011.html

*7:東日本大震災の実体験に基づく「災害初動期指揮心得」の発刊について http://www.tohokuck.jp/notice/20140401/20140401.pdf

*8:PAS心理教育研究所 http://www.pas-ins.com/

*9:ハイ、井上きみどりです! http://hi-kimidori.cocolog-nifty.com/

*10:ふくしまノート http://sukupara.jp/plus/mag_top.php?manga_id=37

*11:私大職員によるIR(Institutional Research)文献メモをまとめたサイトを見つけました http://d.hatena.ne.jp/high190/20120803