読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

読売新聞「大学の実力2013」を活用した偏差値・退学率・就職率を分析した論文が興味深い

Diary IR

high190です。
今年も読売新聞が実施する「大学の実力」調査の結果が7月9日、10日の2日間に渡って紙面に掲載されました。大学関係者のみならず、社会的にも大きな注目を集めている調査ですが、公表された調査結果を具体的に大学改革へと活かしている大学も多くあるのではないかと思います。
また、この調査によって大きな注目を集めたのが大学の退学率と就職率です。大学からすると退学率は公表したくない指標のひとつではありましたが、この調査を通じて現在では多くの大学が退学率を公表するようになっています。今年の10月から稼働予定の大学ポートレート*1においては中途退学者数、留年者数等は公表項目から除外*2されていますが、いずれ公表が必須となるのではないか?と予想しているところです。そういった意味でも大学・受験生にとっても重要な指標である退学率ですが、読売新聞の調査データを基に社会科学系の学部*3で偏差値と退学率・就職率がどう関連しているかを分析した論文がありますので、ご紹介したいと思います。是非本文を通して読まれることをおすすめします。

【論文要旨】

社会科学系学部(約400学部)の偏差値と退学率・就職率をマッチングさせたデータを分析した結果、退学率や就職率は偏差値によってかなりの部分が説明されることが分かった。大学生にとって卒業できるか(退学率が低いか)、就職できるかは、大学生活の満足度を決める主要な要因であるが、偏差値はそれらの指標をかなりの程度代理する。そのため情報の入手しやすさを考慮すると、偏差値による大学選びにはかなりの合理性があると考えられる。ただし、低偏差値の学部では偏差値水準と就職率等の実績が逆転傾向にあるため、低偏差値の学部を選ぶ際には偏差値によらない大学・学部選びにも一定の合理性がある可能性は否定できない。(P.57)

【その他、気になった部分の抜粋】

ところで『大学の実力2013』では「退学率が高い大学=悪い大学」ではないと主張する。しかし、経済的な観点からみると、退学率は顧客満足度(学生生活の満足度)であると考えられる。

(中略)

退学の原因としては、学習意欲喪失、学業不振や進路変更、経済的事情などがあげられるので、満足度とは関係ないと思うかもしれないが、そうではない。学生からみると、大学は満足できる水準の授業を提供してくれない、適切なサービスを行ってくれない、などによって学生が費やす資金と時間に見合うと思うほどの価値を提供できていないために退学するのであろう。そもそも入学する前から卒業しなくてもよいと考える受験生はいないはずだから、退学率の高い大学には入らない方が良い。(P.58)

本当に重要な指標は、入学すると途中で退学することなく卒業し、かつ、正規就職・進学できる可能性をあらわす実質就職率や実質決定率であると考えられる。その意味では、これらの指標に対する影響が大きい偏差値は、受験生にとって最も重視すべき指標であると考えられる。(P.67)

「大学の実力調査」が退学率などの情報を公開した意義は非常に大きいが、その情報内容は多くの部分が偏差値によって説明されることが分かった。また、退学率などの情報は非公開の大学等も多く、網羅性という意味でも偏差値以外の情報は使いにくい。以上から、偏差値によらない大学選びというのは、機能するのはかなり難しいように思う。
ただし、偏差値40台以下では多少事情が異なる。偏差値39のグループが比較的健闘しており、偏差値40台のグループより実質就職率・実質決定率が上回っているか、少なくとも同程度である。偏差値39グループは表3からわかるように、充足率が平均的に80%を下回っており経営的にはかなり厳しい状況であると考えられる。経営の厳しい偏差値39グループはかなりの改革を行っている可能性があり、学力・意欲の低い学生を教育し、就職させる方法論を身に着けつつあるのかもしれない。一方、偏差値40-44、45-49は充足率がそれぞれ90%以上、110%以上と比較的経営が安定しているため教育改革を行う必要性がなく、結果として、学生は学力・意欲が低いまま放置され、卒業・就職が困難になっているのかもしれない。

(中略)

充足率から分かるように、最下層の大学はマーケットの洗礼を受けており、そのためそこでは何らかの努力が行われ、実質就職率などの実績で上位校を逆転している。大学の設置の認可を柔軟にして大学数を増やし、大学間の競争をを導入することで、大学の改革意識や教育力を高めるという政策がとられてきた。その結果、一部で偏差値と実績の逆転が起こっている。これは、大学間の競争は大学の教育の質を高めることを示唆していると考えられる。安易に政策転換を行い、大学数を制限し、護送船団方式に戻すようなことを今しばらく慎むべきだと考える。(P.69)

分析の指標として提示されている偏差値、定員充足率、一般入試比率、退学率、就職率、決定率、実質就職率、実質決定率は大学経営のKPI(Key Performance Indicator)として、必ず押さえておきたいです。あと、個人的に自分の力不足だと思うのは、統計分析の結果を読み解く力に乏しいことを改めて感じました。私の場合は本当に初歩的なものから読む必要があると思いますが、統計の本をしっかり読み込まないと、こういった論文で提示されている結果を正しく理解できないように思います。

正直な感想として、かなり身も蓋もない結果が示されているので驚きましたが、とても興味深く読ませていただきました。「大学・学部選び」という点において偏差値は強力な指標であり、そのことは皆が「何となく」感じている部分ですが、こうして数値化するとより説得力を持つように感じます。また、偏差値が低い下位の大学が、実質就職率などで上位校を逆転しているという点も非常に興味深いです。具体的な例として、金沢星陵大学の名前が浮かんできました。金沢星陵大学の取り組みについては、進路支援センター長の堀口英則さん*4が書かれた「偏差値37なのに就職率9割の大学」*5に詳しく書かれていますので、こちらもご参考までにお知らせしておきます。
ちなみにこの論文を書かれた清水一先生は経営学で博士号を取得されている方です。*6今後も同種の論文等を書かれることもあろうかと思いますので、研究成果は引き続きモニタリングしていきたいと思います。こういった公表されているデータを基に分析することもIRだと思いますし、実際にIRに従事する者が分析結果をいかに意思決定支援に活かすか?という点こそ、IR担当者の腕の見せ所というところでしょうか。*7

*1:大学ポートレートに関わる私立大学の状況を整理する http://d.hatena.ne.jp/high190/20140408

*2:大学ポートレート説明会での配付資料に記載あり。資料はWEBでは未公表

*3:この論文では、経済学、経営学、法学、社会学、政策学などを対象として、私立384学部、国公立87学部の計471学部を対象としています(P.59参照)

*4:就職支援センター長より(金沢星陵大学) http://www.seiryo-u.ac.jp/u/career/message.html

*5:偏差値37なのに就職率9割の大学 http://goo.gl/Qymmlh

*6:清水一(researchmap) http://researchmap.jp/read0069558/

*7:米国のIR部署では何が行われているのか?意思決定支援の実際を探る http://d.hatena.ne.jp/high190/20140602