Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

東京大学のクロスアポイントメント制度から大学での人事制度改革を探る

high190です。
参議院議員で文部科学副大臣を歴任した鈴木寛氏が、東京大学公共政策大学院教授と慶應義塾大学政策メディア研究科兼総合政策学部教授に就任されたそうです。*1 *2こういった形で大学をまたいで専任教員に就任できる制度を「クロスアポイントメント制度」といいます。耳慣れない言葉ですが、今日はこちらを取り上げてみたいと思います。まずは科学技術担当大臣等政務三役と総合科学技術会議有識者議員との会合の資料をご覧下さい。


・部局長の申請により役員会の承認を経て、他機関との協定を締結。
・東大教員と他機関の身分を有し、その業務を行う。
・本学の教育研究の発展に寄与する場合について承認。
・他機関との勤務割合(エフォート)に応じた給与を支給。
年俸制を適用することも可能。(ただし、教(一) から異動する場合は退職手当を支給。給与は前年の給与を参考に決定。)
・他機関分の給与と東大の給与を合算して支給処理することも可能。
・東大での勤務割合(エフォート)が70%以上の場合は共済に加入。
・本学教員の身分は、承継教員と同様とし、同等の権限、同等の業務が課せられる。ただし、所属部局の長との合議に基づき、権限の一部を制限又は業務の軽減が可能。
・実施は採用可能数管理(本部負担)で行うこととし、余剰財源が出た場合は若手研究者ポストの確保に充当

教員の所属機関に柔軟性を持たせることができるクロスアポイントメント制度の導入については、以前から東京大学の濱田純一総長が創設の必要性を訴えていましたし、国立大学改革プランでも「人事・給与システムの弾力化」として大阪大学での事例が紹介されています。*3 *4


○大学改革の基本的なスタンスと行動シナリオ
大学改革の基本的なスタンスは、「当たり前と考えてきた仕組みや考え方を疑うこと」と、「社会の変化と連携しながら改革を進めていくこと」の2点です。「当たり前を疑う」という、ある意味学問の原点といえる姿勢を持つことが大学改革にも必要だろうと思います。私が総長になって以来、「行動シナリオ」という10の柱から成る一種のアクションプランを作って取り組みを進めてきました。教育、研究、国際化、社会連携、財務、ガバナンス等色々ありますが、今日はこれらの中でも特に大学の活動の最も原理的な部分である研究と教育を中心に、大学改革の一端に触れていきたいと思います。

○研究者の国際化
東京大学を例に見た場合、研究の競争力を伸ばしていくための1つの大きな課題は、研究者の多様性をどう生み出していくかというところにあると考えています。研究者の国際化の問題、女性教員の問題、若手教員の問題の3点についての取り組みをお話します。東大の場合、外国人研究者の割合は6%程度です。これは常勤以外の教員も含みますので、定員の割合ではもう少し下がります。単純に数字だけをみますと、マサチューセッツ工科大学(MIT)では14%、オックスフォード大学では20%、スイスの連邦工科大学(ETH)では60%が外国人教員です。世界の有力大学が外国人教員を多数雇って競争力を生み出してきたのと比べ、東大が主には日本人だけでここまでやってきたのはすごいといえます。しかし、これからも同じやり方で良いかというと、そうではないでしょう。
外国人教員を雇う1つの理由は、非常に優れた能力の外国人教員を即戦力にするということです。そのときに問題となるのが平均給与です。アメリカの有名大学から教員を連れてこようとすると、給与は東大の教員の1.5−2倍以上になります。戦略としては、クロス・アポイントメントなどの方法で、外国の大学で働きながら東大でも働いてもらうことで人件費を抑える工夫をしていくことなども考えています。もう1つは、ある程度優秀な外国人教員を採用することです。日々の研究の中で異なった発想や理屈で刺激をしてくれる人がいるというのは、意味があることだと思います。アクションプランでは、2020年に10%位という数字を出しています。理工系では2−3割は必要かもしれません。ただ、基軸は日本人でやっていくことになると思います。
当たり前といえば当たり前ですが、教員は自分より少しでも低い能力の教員を採ることに抵抗感を持っています。個人の業績をベースとした評価でいえば、自分と同等もしくはより優れたレベルの人間を採るというのは基本の考え方ですが、組織として多様性の中で互いに刺激し合う環境を作るという意味では、研究業績が少しは低くても違った能力を持った人であれば刺激になるケースもあり得ます。外国人教員の雇用ではこういう発想も必要と思いますが、この問題は心理的ハードルとしては小さくありません。

2つの大学に所属できる制度とのことで、教員の流動性を高めていくためにも今後必要な制度だと思います。特に東京大学などの研究型大学は、Times Higher Educationの大学ランキング等で大学の国際化指標を高める必要性が指摘されていますので、*5 *6優れた研究能力を持つ研究者の招聘のためにも、人事制度を柔軟にしていける仕組みが必要です。
さて、ちょっと視点を変えてみようと思いますが、クロスアポイントメント制度の利点もさることながら、個人的に気になったのが大学設置基準第12条との関係です。*7

(専任教員)
第12条 教員は、一の大学に限り、専任教員となるものとする。
2 専任教員は、専ら前項の大学における教育研究に従事するものとする。
3 前項の規定にかかわらず、大学は、教育研究上特に必要があり、かつ、当該大学における教育研究の遂行に支障がないと認められる場合には、当該大学における教育研究以外の業務に従事する者を、当該大学の専任教員とすることができる。

大学設置基準第12条第1項にあるように、通常大学教員はひとつの大学に限って専任教員となることができます。クロスアポイントメント制度の場合、2つの大学で専任教員として遇するわけですから第3項にあるように「当該大学における教育研究の遂行に支障がないと認められる場合には、当該大学における教育研究以外の業務に従事する者を、当該大学の専任教員とすることができる」という条文を当てはめて解釈すればいいのか?と多少混乱しています。例えば、京都大学でもクロスアポイントメント制度の導入に向けた規程制定が役員会で決議されているため、実施に関する規程を参照してみたいところです。*8 *9 *10

*1:鈴木寛プロフィール http://suzukan.net/profile.html

*2:帰ってきたスズカン! 鈴木寛教授に突撃インタビュー http://sfcclip.net/news2014032101

*3:国立大学改革プラン http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2013/12/18/1341974_01.pdf

*4:理化学研究所と「クロス・アポイントメント制度に関する協定」締結(2014年4月1日) http://www.osaka-u.ac.jp/ja/guide/president/president_message/top10/20140401_02

*5:Times Higher Educationの世界大学ランキング2012-2013が発表されました http://d.hatena.ne.jp/high190/20121005

*6:Times Higher Educationの世界大学ランキング2013-2014が発表されました http://d.hatena.ne.jp/high190/20131003

*7:大学設置基準 http://goo.gl/lek934

*8:平成25年度 役員会議事録 http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/profile/operation/conference/report/administrator/h25/index.htm/

*9:国立大学法人東京医科歯科大学クロス・アポイントメント制度に関する規則 http://www.tmd.ac.jp/cmn/rules/houki/3hen/2shou/3setsu/32312crossapointment.pdf

*10:国立大学法人東京工業大学クロス・アポイントメント制度に関する規則 http://www.somuka.titech.ac.jp/reiki_int/reiki_honbun/x385RG00000998.html