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Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

離婚した夫婦間の養育費を巡る問題から学生の経済的支援策を模索する

high190です。
今日は、いつもと少し違った切り口から学生支援を考えてみたいと思います。独立行政法人労働政策研究・研修機構のコラム*1にはたまに目を通しているのですが、最新版のコラムに周燕飛副主任研究員*2が寄稿した「なぜ離別父親から養育費を取れないのか」というものがありました。中央教育審議会でも「学生への経済的支援の在り方に関する検討会」という調査研究協力者会議*3が設置されており、学生への経済的支援のあり方については、社会的にも関心の度合いが高いと思います。
また、母子家庭の増加など、経済的支援を必要とする学生の背景なども把握しておくべきではと思っていたところでしたので、興味深く読ませていただきましたので、ここで紹介させていただきます。


日本では、離婚後に父親が子どもの養育費を踏み倒し、それに泣き寝入りする母子世帯が非常に多い。厚生労働省が行った「全国母子世帯等調査2011」によると、6割の離婚母子世帯は、父親から養育費を一度も受け取ったことがない。また、離婚直後は養育費を受け取っていたものの、途中で支給が途絶えたケースも多く、実際に養育費を受け取っている離婚母子世帯は、全体の2割程度でしかない。母子世帯の相対的貧困率は50%を超えている中、養育費の確保は貧困解消の切り札となるのか。

経済状況の悪い夫婦間で「離婚」は生じやすいものの、離婚父親の大半は養育費を全く支払えない経済状況ではない(周2012)。JILPT「第2回子育て世帯全国調査(2012)」に基づく筆者の再集計によると、年収(離婚時)は200万円未満で、養育費の支払いが困難だと考えられる離別父親は全体の2割(19.5%)に過ぎない。離別父親の5人に1人(22.2%)は平均的な世帯主よりも多く稼いでいる(年収500万円以上)。

年収の高い父親ほど、養育費を払っている割合は確かに高い。同JILPT調査によると、離婚母子世帯の養育費の受取割合は、離別父親の年収が500万円以上の層では25.9%(注i)となっており、200万円未満層(4.7%)よりその割合は20ポイント以上高い。しかし一方、この数字の裏返しは、年収500万円以上の離別父親ですら、その74.1%は養育費を支払っていないというショッキングな事実である

経済力が十分にあるにも関わらず、なぜこれほど多くの父親が養育費の「踏み倒し」に至ったのか。十分な経済力を持つ離別父親の大半は、その後再婚し、新しい家族の養育責任を優先して、離婚した元妻と子どもの生活を置き去りにすることが大きな要因だと考えられる。実際、大石(2012)が「国民生活基礎調査2007」と「社会保障実態調査2007」の接合データを用いて、離別有子男性の現在の婚姻状況を調べたところ、離別父親の再婚率は59.1%(169人中100人)に達していることが分かった。また、単身の離別父親に比べ、再婚した離別の父親は明らかに年収の高い層に偏っている。つまり、貧困層父親は「支払い能力の欠如」、非貧困層父親は「新しい家族の生活優先」が理由となり、どの所得層の父親においても、養育費を支払わないという状況が生み出されているのである。

諸外国とは異なり、日本では養育費を支払うべきかどうかの交渉は、司法や裁判を介さず、単に家族や個人間の問題として処理されることが多い。また、日本には養育費の強制徴収を行う行政機関も存在していない。母親個人による養育費交渉と離別父親のモラルに委ねられているのが、現状である。もちろん、国は養育費確保の対策を全く取っていないわけではない。母親に養育費交渉のノウハウを伝えるために、「養育費相談支援センター」という専門機関を設置したり、養育費専門相談員を新たに配置したりしている。また、離別父親のモラルを高める方策として、子どもとの面会交流の促進事業も導入されている(注ii)。

しかし、これらの手段はいずれも養育費確保の抜本的方策とは言いがたい。個人に任せきりでは、どうしても父親が自分または新しい家族の生活を優先してしまう。そこで、行政がいわば「エージェント(代理人)」として間に入り、母子世帯のために養育費の強制徴収を行うという対策が必要となる。その際の問題は、その行政コストと母子世帯の貧困改善というベネフィットのどちらが大きいかということである。養育費確保の行政コストは、国によって大きく異なる。Skinner他(2007)の推計によると、1ユニットの養育費確保にかかった行政コストは、オーストラリアが12%、ニュージーランドが21%、イギリスが68%、アメリカが23%となっている。日本もやり方次第では、オーストラリアのように行政コストを低く抑えながらも養育費を確保できる可能性が高い。なお、オーストラリアの養育費制度については、下夷(2012)は参考になる。

日本における離婚の状況については、厚生労働省が平成21年度に「離婚に関する統計」を取りまとめており、コラムの中でも度々登場する「平成23年度全国母子世帯等調査結果報告」についても厚生労働省が結果を公表しています。*4

日本では、学資負担者が学生本人では無く保護者である場合がほとんどですが、中教審の検討会でも「家庭の経済状況によって、教育機会、とりわけ多額の費用負担を要する大学への進学選択が大きく異なる」との指摘がなされています。*5また、離婚の年次推移を見ると平成2年から14年まで上昇を続け、平成15年以降は減少傾向にありますが、大学・短期大学への進学率は平成15年で49.9%だったものが、平成23年では56.8%と増加しています。*6この辺りは教育社会学の領域になるのかと思いますが、母子家庭の増加と大学進学率の上昇によって、経済的支援を必要とする大学生が増えている可能性があります。そして、周研究員が指摘している通り、養育費が母子家庭に渡っていない現状を踏まえると、行政が代理人を立てて養育費の強制徴収を行うという施策は現実的で有効性があるのではないでしょうか。

もちろん、コストがどの程度かを踏まえて考える必要もありますし、さらに掘り下げて考えると、離婚した場合の子どもの親権を父と母のいずれが持つかという点に踏み込んで考えなくてはならなくなると思います。*7先に文部科学省中央教育審議会から公表された第2期教育振興基本計画では「社会経済構造の変化に対応した高等教育修了者の養成を質・量ともに充実させる必要性が今後一層高まってくると考えられる。」と指摘されていますが、*8財務省財政制度等審議会からは「将来的にも増税による税収増を教育予算の量的拡大に振り向けられる状況にない。」との表明*9がなされているため、財政支出を伴わない形で学生の経済支援策を模索していくことが求められています。

このように母子家庭の子どもが大学に通うための経済的支援策を考える場合、給付型奨学金以外にも策はあるということです。社会の動きに敏感であるとともに、様々な情報を組み合わせて解決策を模索していくことが必要ではないかと感じます。

*1:労働政策研究・研修機構コラム・バックナンバー http://www.jil.go.jp/column/bn/index.html

*2:研究員プロフィール「周燕飛」 http://www.jil.go.jp/profile/shu.html

*3:学生への経済的支援の在り方に関する検討会 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/057/index.htm

*4:平成23年度全国母子世帯等調査結果報告 http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/boshi-katei/boshi-setai_h23/

*5:学生への経済的支援の在り方に関する検討会第3回(6/17)参考資料 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/057/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2013/07/08/1337608_02.pdf

*6:総務省統計局 22-17「進学率と就職率」を参照 http://www.stat.go.jp/data/nihon/22.htm

*7:本コラムに関するはてなブックマークコメント http://b.hatena.ne.jp/entry/www.jil.go.jp/column/bn/colum0228.htm

*8:第2期教育振興基本計画「高等学校進学以降の段階における現状と課題」 http://www.mext.go.jp/a_menu/keikaku/detail/__icsFiles/afieldfile/2013/06/14/1336379_02_1.pdf

*9:「財政健全化に向けた基本的考え方(平成25年5月27日)」文教予算の項目を参照 http://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia250527/zenbun.pdf