Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

大学入試広報に関連するWEBソリューション戦略の講演を聴いてきました

high190です。
昨日、若手大学職員勉強会・Greenhorn Networkの2013年度第2回勉強会が立教大学で開催され「変化する大学入試広報〜Webソリューション戦略」と題した講演を聴いてきました。

講師は52ソリューション・ドット・コム代表取締役社長の稲垣靖氏です。この方は以前、河合塾伊藤忠商事が合弁で設立した52スクール(現・株式会社 KEIアドバンス)の常務取締役を務められていた方で、大学での講演・コンサルティングなどを数多く手掛けてこられたそうです。私自身、入試業務には直接的に関わったことがないため、勉強したいと思って参加してきました。いつも通り、high190が講演を聞いて面白いなと思った点を抜粋します。

1.インターネットの変化

  • 大学においてインターネット出願をしている大学は100大学に満たず、他の産業と比較しても、極めて遅れていると言わざるを得ない。例えば私立中学校の入試は、親が学校を選ぶにも関わらず、未だに紙媒体での出願を行っている。大学は1年サイクルで仕事が動くため、年度の途中で変えるようなことができない。そうした仕事のやり方を変えていかないといけない。

2.大学入試に関する市場・環境の変化(2000-2010)

  • 18歳人口は減少しているが大学進学率は増加している。教育再生実行会議の資料にも書かれているが、日本の大学進学率は51%だが、隣国の韓国は71%とまだ低い水準にある。*1学校基本調査の大学進学率の経年分析。進学率が増加しない場合、大学進学者のマーケットが減少していることを意味する。ここ2年は減少傾向なので、今年の速報値に注目。

3.大学公式Webサイトの構成

  • どの大学も個別継続広報の戦略・戦術として、来訪者別のメニューを設けるようになった。ただし、情報発信はできているが、情報収集は全くできていないように感じる。
  • 情報収集に関する課題
    • 高校の教員、保護者、受験生のそれぞれが「大学案内を見てどのように感じたか?」を情報収集・分析できていない。
    • 周年事業は「打ち上げ花火」なので、それによって「何が変わるか」が重要。やる側の満足に終わってはいけない。
    • 学生が4年間の教育を受けた満足度を調査する必要がある。卒業生が良いことを言わない大学には人は集まらない。
    • 地方入試は入試改革でも何でもなく「サービス」である。個々の大学が受験生へのアプローチ方法を変えるだけ。インターネット出願もサービスのひとつ。具体的には業務改革なので、受験生へのサービスレベルをどこまで高めるかということ。

4.WEB戦略(インターネット出願の今後と可能性)
(1)インターネット出願の現状

  • 紙とWEBの併用出願
    • 桜美林大学等で2001年に導入。後期入試のみの実施であったが、コストが2倍かかってしまう。出願は10%程度。
  • WEB集約型
  • WEB一本型
  • 経費節減効果は?(東海大学後期入試での導入事例)
    • 紙の場合は入試種別ごとに色分けした志願票を作らなくてはならない。その分が削減される。WEB出願の場合、受験票はWEBで印刷。そして郵送代などがかからなくなる。

(2)新規導入における検討項目

    • 本来的には数が小さいところ(大学院、外国人留学生選抜)にこそ、WEB出願を導入した方がいい。ただし、その場合のコストメリット分析は単年度でなく、複数年度で見た方が良い。
    • 出願前に接触があった受験希望者(OC参加者など)には、出願時の入力支援を行えないか。DBから登録データを引っ張る。二重の入力をさせないように。
    • 決済機能の多様化、例えば、クレジット機能決済の導入時にWEB出願の事務手続き手数料として受益者負担させている例がある。
    • 高校への利用マニュアルの作成と配布、オープンキャンパスでのWEB出願説明会
    • 調査書の問題、そもそも厳封で本人が閲覧できないのはおかしい。しかし、この手続きはしばらく変わらないと思われるので、当日持参・郵送での対応。
    • WEB出願の隠れたメリットとして、やり方次第でかなり多様な分析ができる。(例:早期に出願した学生は入学率が高いなど)

(3)受験者向け広報ではなく、合格者向けの広報

    • 合格者向けのSNSサイトなどを構築する。入学意思のある人は何度もアクセスするが、入学意思がない人(他大学進学希望者)はログインしない(しても1回ぐらい)なので、入学者の歩留まり分析などができる。経年で分析を行えば、傾向を把握することができる。

(4)オープンキャンパス・アンケートのWEB化

    • オープンキャンパスの参加者アンケートもいまだに紙媒体で実施している例が多い。iPadなどを活用すれば即時データ化が可能なので、動向分析が行いやすい。

(5)学校説明会のWEB化

    • 例えば個別相談も、WEB上で行う。その他には教務課と保証人の間でインタラクティブなコミュニケーションを取るために、WEBを活用する。SkypeGoogleハングアウトなど。

5.今後の大学入試広報中長期戦略の課題と提案項目
(1)第一志望者の掘り起こし → 安定したAO・推薦入試志願者の確保

  • 第1志望の受験者をいかに増やすかに注力すべきで、受験生に大きな影響を与えるファクターは次の5つなので、そのことを踏まえて戦略を考える。
    • 1番:母親
    • 2番:学校の教員
    • 3番:塾・予備校
    • 4番:父親
    • 5番:友人、先輩、その他

(2)対高等学校戦略

  • 戦略的高等学校訪問
    • 高校訪問はとても大切なことだが、「やってはいけない」高校訪問がある。教員が1人で訪問して、質問された内容の回答・フィードバックが何もなされないなど。具体的には所属学部以外のことを教員に話させるのは酷。
  • 高等学校教員への授業公開
    • 大学の授業(特に初年次科目)を高校の教員に見せてはどうか。「うちの大学ではここから始めているので、高校ではここまで勉強させてください!」というアプローチができる。大学と高校のコミュニケーションを良好にすること。例えば教員向けに「注釈付きの分かりやすいカリキュラム表」を配るなどすると、意味のあるコミュニケーションになる。受験生向けの大学案内を持っていっても机の横に積まれて終わってしまう。
  • 高等学校カルテ(データベース)・高校ランキングの整備 → 情報の共有化と戦略立案
  • 対保護者戦略
    • 学生課だけでは対応できないようになってきているので、保護者対応の専門部署を作る必要性
  • 接触者の受験率・入学率UP戦略
  • 徹底した現状分析・市場調査
    • 例えば、東京への大学入学者マーケットで最も人数が多いのは茨城県(5000人)であり、仙台は1000人、大阪は1100人と少ない。静岡が3500人、長野・新潟・栃木・群馬は2000人以上、福島は1700人、福岡は1400人となっている。例えば、試験会場の設定方法などで学校基本調査を活用して市場分析を行うなど、さらなる客観的分析の必要性がある。*2
    • 何年かに一度、定点観測を行う。どのような数字で評価されているかを把握することが重要。
  • 大学のグローバル化:留学生の積極的受入体制の強化
    • 渡日前の入学制度を整備する必要性。現状のままでは優秀な留学生を戦略的に取れず、アメリカに持っていかれてしまう。ただし、アメリカは就労ビザ取得が極めて難しく留学生で就職できるのは1%程度であることを考えると日本企業で就職先確保が可能なスキームを用意すると良い。中国の高校では日本語学習者が20万人、大学では50万人が日本語を学んでおり、マーケットは広がっているが日本側の問題で取れていない。
    • 中国の留学生獲得にあたって、大連などの内陸部は親日だが、景気が余り良くないので、日本に師弟を出す余裕がない。その反面、沿岸部(上海、香港等)の富裕層の師弟が狙い目である。例えば、学部に入学して卒業した後、日本での就職先を確保しておき、5年程度日本企業の経営を学び、母国に戻るというプログラムを構築すれば、安定的に質の良い留学生を確保することができるようになる。
  • 人的ネットワークの構築・組織化
    • OB・OG教員のネットワーク・組織化
    • 学生学内インターンシップの組織化
    • OB・OGへの情報提供

6.質疑応答

  • 海外からの留学生を増やす方策は?
    • 海外で直接入試を実施すること。東大でもグローバル30でSAT受験,Skype面接を行うことで、渡日前に入学決定をしている。*3
  • WEB出願での費用負担、中小大学では負担が厳しいだろうが、日本でもアメリカのような統一サイトができる方向性はどうか?
    • 開発コストについては、2001年に開発した時のコストが基準になっている。大規模大学なら問題が無い。(1大学あたりの標準価格300万円、1回あたりの処理コスト)
    • 機能をモジュール化してカスタマイズしていくことになるので、中小大学でも機能別に使用ができるようになる。これから業界側からパッケージ作成の動きがあると思われるので、中小大学でも財政を逼迫させるようなことにはならないと思う。(変な話、突き出し広告をやめればいい)
  • 日本人高校生が海外大学の留学を目指す場合、どのようなことに留意したら良いか
    • 河合塾も高校の経営に参画することを始め、国際化対応を開始している。*4就職活動の後ろ倒しもあるので、留学などが増えることが想定される。
    • これから日本から海外大学に直接向かうケースが増えてくるのではないか。企業の採用がそのように動いてきているので、企業側の動きに注視。立命館アジア太平洋大学(以下「APU」という。)の事例と就職支援活動に注視すべきである。企業が大学に出向き、就職の面接している「オンキャンパスリクルーティング」。*5
  • 留学生受入れのリスクについてはどのように考えているのか
    • APUとは開学以来の付き合いがあるが、常に出入国管理の業務が発生し、個別に様々な問題が発生している。今後のグローバル人材育成には、そういったリスクも踏まえて大学が対応の経験値を積み重ねていくことが必要ではないか。具体的に大学としての留学生獲得目標を立てるなど、目標設定がポイント。
    • APUの高い教育効果として、若干年齢の高い留学生と日本人学生が接することで、学生が劇的に変わる可能性が指摘されている。異文化に触れることで、高い教育の効果があると思われるので、大学のグローバル化に力を注いでいくべき。

講演を伺ってたくさん勉強になるところがありましたが、予備校の人たちが大学教育を客観的にどう捉えているのかを直接聞くことができたので、とても参考になりました。また、大学教育を考えるにあたっては、大学内だけで考えていてはダメで、産業界の人たちの意見にも耳を傾けていくことの必要性を強く感じました。まだまだ精進あるのみですね。

*1:第9回教育再生実行会議資料「高大接続に関する参考データ」 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/dai9/siryou2.pdf

*2:平成24年度学校基本調査「出身高校の所在地県別 入学者数」 http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001044883&cycode=0

*3:Global30 Project Follow-up FY 2012-大学の国際化のためのネットワーク形成推進事業 2012年度フォローアップ- https://www.jsps.go.jp/j-kokusaika/follow-up/data/03_presen_tokyo.pdf

*4:河合塾が東京で中高一貫校設立へ 海外名門大進学めざす http://www.asahi.com/national/update/0711/TKY201307100631.html

*5:APU Career Office http://www.apu.ac.jp/careers/page/content0030.html&lang=japanese