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Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

田中眞紀子文部科学大臣が来春新設の大学認可を見送り、波紋が広がる

Diary

high190です。
中央教育審議会の大学設置・学校法人審議会が、来春の開設に向けて認可を申請していた3大学について開設認可を答申したことに対し、田中眞紀子文部科学大臣が認可を見送ったことで波紋が広がっています。


田中文部科学大臣は記者会見で、大学などの開設の認可の在り方を抜本的に見直したいとして、文部科学省の審議会が来年春の開設を認可すると答申した秋田市、札幌市、愛知県岡崎市の3つの大学の認可を見送ったことを明らかにしました。田中文部科学大臣が認可を見送ったのは、秋田市秋田公立美術大学、札幌市の札幌保健医療大学、それに、愛知県岡崎市岡崎女子大学です。
3つの大学について、有識者でつくる文部科学省の「大学設置・学校法人審議会」は1日、来年春からの開設を認可すると答申しましたが、田中大臣は、大学などの開設をこの審議会に諮問している現在の在り方を抜本的に見直したいとしたうえで、開設の認可を見送りました。
文部科学省は、群馬県高崎市の「創造学園大学」などを運営している学校法人に対し、経営に必要な財産を持っていないなど法律に違反しているとして、来年3月までに解散命令を出すことにしています。
これに関連して、田中文部科学大臣は記者会見で、「これまでと同じように審議会にお任せするのがいいかどうかは、火を見るよりも明らかだ。多様な視点で判断してもらえる人選を行うなど、ありようを抜本的に見直したい」と述べました。
文部科学省によりますと、審議会が認可を答申した大学などの開設が、文部科学大臣の判断で「不認可」となった例は、少なくとも過去30年間はないということです。

すでに開学予定を受験生にアピール
田中文部科学大臣が開設を認可しないとした3つの大学の申請団体は、すでに、それぞれのホームページで来年春の開学予定を受験生にアピールしていました。このうち、秋田市の大学設置準備室が設けている秋田公立美術大学のホームページでは、認可の申請中であることを表記する一方、動く大きな文字で「2013年4月美術系4年制大学が開学します」などと表示し、来年春の開学予定を伝えています。入学を希望する受験生に向けては、内容が変更される場合があると注意書きを付けたうえで、来月から来年3月にかけて計画していた推薦入試と一般入試の内容を紹介しています。

大学設置認可の手続きは
文部科学省によりますと、ことし5月現在、全国には国公立と私立合わせて1155校の大学や短大が設置されていて、このうち4年制大学が783校とおよそ7割を占めています。大学を新たに開設する場合、毎年、学校法人などが設置を予定する時期の1年前に文部科学省に申請し、設置が妥当かどうかについて大臣の諮問機関「大学設置・学校法人審議会」で審査します。審議会には15人の委員からなる「大学設置分科会」が設置され、教育内容や施設整備の状況が大学設置基準などに適合しているかなどを審査し、設置を認めるかどうかを審議会として判断して文部科学大臣に答申します。
これを受けて、大臣が最終的な結論を出すことになっていますが、文部科学省によりますと、審議会が設置を認める答申をした大学について大臣が不認可としたケースは少なくともここ30年間にはないということです。
田中文部科学大臣は、分科会の15人の委員のうち10人が大学の学長や教授と、多数を占めている状況に問題があるとして、大学の設置認可の判断に多様な視点が反映されるようにすべきとしています。文部科学省は再来年・平成26年度に大学の開設を予定している学校法人などから申請を受け付ける来年3月までに、審議会の在り方について見直すことにしています。

大学新設にあたっての手続等については、文部科学省が発行している「大学の設置等に係る提出書類の作成の手引き」に詳細が掲載されています。その中に、「大学設置分科会における一般的な審査スケジュール」という項目があり、申請してから認可されるまでの工程が示されています。また大学新設の場合、私立大学のケースですが寄附行為変更認可申請を行う必要があり、手続きは複雑で準備に相応の時間と経費を必要とします。

ソーシャルメディア等での各種議論を見ていると、色々誤解があるようなので先に挙げておきますが、現在の大学設置認可制度は準則主義です。準則主義を簡単に説明すると、法令にて定められた要件を満たしていれば主務官庁が認可を付与する仕組みのことです。逆に要件を満たしている場合には認可をしなければいけないのが、準則主義の大きな特徴です。大学設置が平成15年に準則化され、事前チェックから事後チェックへの移行したとよく言われます。このこととあわせて、事後のチェックを行い、大学教育の質を保証するものとして機関別認証評価(いわゆる第三者評価)が行われるようになりました。大学設置認可に関しては、文部科学省が作成している「大学設置認可に関する基礎資料」が分かりやすいと思いますので、ご紹介しておきます。

昨今の大学を巡る提言型事業仕分けや国家戦略会議等での議論にて、大学の数が多いという指摘がなされているのはご承知の通りかと思います。また、創造学園大学に解散命令が下されるなど、大学の教育の質保証に関して社会からも厳しい目が向けられていることも事実です。しかしながら、今回の決定に関しては一大学職員である私にとっても素直に納得することはできないものです。
もちろん、田中大臣が指摘されている大学設置・学校法人審議会の構成員見直しなどについては、そういったご意見もあってしかるべきかと思いますし、より大学を幅広い視点から見ていくという点でも一定の効果があると考えられますから、一概に否定するものではありません。審議会の委員構成等を見直すのであれば、「大学設置・学校法人審議会令」*1の改正を行えばいいことで、現状の大学設置認可制度に照らすと今回の大学を不認可にする理由が見当たりません。
ですが、今回不認可とされた大学は来春開学予定であり、大学設置基準等に照らして認可申請を行い、大学設置・学校法人審議会による審査を受けて、認可の答申が文部科学大臣に出されています。これを大臣が不認可とするには、重大な疑義があるとか相応の理由が必要になると思われますが、大学設置に関するあり方を見直したいがために不認可にしたのであれば、法令や基準というものの存在意義が疑われることになってしまいます。現行法令等に従って設置の準備を進めてきた法人にとっては、法令に従って基準を満たすための準備を行ってきた訳ですから、この決定は当然受け入れられるものではないでしょう。
現に不認可とされた3大学は、学生募集等に関するPRを文部科学省が示す設置関係資料に基づいて行っていて、その分の経費は当然各法人が負担しています。秋田公立美術大学は11月4日(日)にオープンキャンパスを実施する予定でしたが、不認可の決定を受けて中止することにしたようです。*2また、札幌保健医療大学も不認可に至った経緯の文書を公表しています。*3今後、入学を志望していた生徒等に対してどのような説明すればいいのか、現場は混乱することでしょう。大学を受験する人にとっては、審議会では認可が答申されたが大臣によって不認可なったとかそういうことは全く関係がありません。急に不認可になったことを聞いて、進学する希望を持っていた人がいたならば、ショックを受けることにはならないでしょうか。受験希望者にとっても気の毒だと思います。
その他、秋田公立美術大学は新任教員を公募しており、応募して採用が決まった人は前職を辞して着任する訳ですから、不認可によって雇用の確保が難しくなるといったことも出てくると思います。*4今回の決定は、今後の大学設置に関して大きな影響を及ぼすとともに、大学受験者にも動揺を与えるものだと感じています。このことが日本の大学教育に対して禍根を残さないことを願うばかりです。

*1:大学設置・学校法人審議会令 http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S62/S62SE302.html

*2:受験生の方へのお知らせ http://www.amcac.ac.jp/aua/news/index.htm?serial_no=22&contents_id=1

*3:札幌保健医療大学(仮称)の平成25年度設置不認可に対して http://www.sapporo-hokeniryou-u.ac.jp/pdf/20121102.pdf

*4:秋田公立美術工芸短期大学、平成25年度の大学改組に向けて専任教員10名を公募することを決定 http://d.hatena.ne.jp/high190/20110919