Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

秋田大学が秋田県の高校教員と共同開発した「高大接続テキスト」が話題に

high190です。
今年の8月28日に文部科学大臣が、中央教育審議会に対して「大学入学者選抜の改善をはじめとする高等学校教育と大学教育の円滑な接続と連携の強化のための方策について」という諮問を行いました。*1
中等教育と高等教育の接続をいかに円滑に進めるかは、現在の日本が抱える大きな問題の一つであると言えるでしょう。このような現状に対する解決策を模索する上で参考になると思われる事例をご紹介したいと思います。秋田大学秋田県内の高校教員と共同で開発した「高大接続テキスト」が話題になっているようです。


高校で学び残した知識を早く身に着けられるように、秋田大学が地元高校教員と共同製作した「高大接続テキスト」が好評だ。テキストを高大連携して作るのは全国的に珍しく、注目を集めている。
今年3月、同大と県立高校の教員計32人で作った。専攻分野で必要な知識なのに、高校で履修していない学生や、受験科目に選択しなかったために十分習得できていない学生が、授業でつまずく例が増えた事情が背景にある。県内出身生が4割いることから、1年半かけて地元高校生の学力データを集め、入学者のレベルに合った内容にした。
完成したテキストは物理、化学、生物、英語の4科目。例えば、化学はA4判40ページで、学生が疑問を抱きやすい項目をQ&A形式でまとめた。4月から、主に1年生が学ぶ基礎教育科目で副教材として使っているが、学生の評判は上々だ。
高校生向け講座でも活用している。大学で学ぶ意欲を高めてもらうのが狙いだ。8月28日には県立秋田北高校の2年生15人が同大で、山口留美子准教授(50)らから、光や音について講義を受けながら、実験に取り組んだ。八島光平君(17)は「テキストは実験がたくさん載っていて分かりやすい」と話した。
全国高校長協会の及川良一会長(58)は「大学入学者の学力を保証する上で、高校と大学が協力することは効果的だ」とみている。銭谷秋生・同大カリキュラムトランジッションセンター長(59)は「テキストは高校での部活動や大学教員が参加する特別授業でも活用したい。来春には数学や情報のテキストも完成させたい」と話している。

秋田県は教育県としても有名で、全国学力テストでも高結果を修めています。*2その他にも昨今グローバル人材の養成でも注目されている公立大学法人国際教養大学を設置するなど、教育に対する支援を厚く行っていることも知られているかと思います。*3 *4高大接続テキストの作成を取りまとめにあたっては、秋田大学内の「カリキュラム・トランジッション・センター(CTC)」を拠点として、高校と大学の教育課程の接続性を高めるための研究と実践を、高校教員と大学教員の協働により展開しているとのことです。*5

高大接続の実態は各大学によって様々だと思いますが、どの大学でも中等教育と高等教育の接続をいかにして円滑にするか?ということに頭を悩ませているのではないでしょうか。
秋田大学の高大接続テキストは、テキスト自体の出来はもちろんですが、高大連携を積極的に進めて成果物までたどり着ける制度設計にこそポイントがあると思います。職員の目線で考えると、PISAやAHELOなどの国際的な教育ベンチマークから見た日本の現状把握、その上で中等教育と高等教育の接続について検討するのがタスクかと思います。例えば、高大接続の起点となるアドミッション・ポリシーに照らして高校側と高大接続に関する勉強会を開催し、諸外国のベストプラクティスを紹介しつつ、日本の教育制度にあわせた課題などについて共通理解を構築できるようにするなどの取り組みが可能ではないかと思います。
それこそ、こうした形の見えない大きな問題に取り組むにはフューチャーセンターなどの問題解決手法を活用することも大切でしょうね。*6秋田大学の取り組みを参考に、入学者確保の観点だけではなく教育の円滑な接続をどのように行っていくべきか、そのための環境整備を担う職員間での議論がさらに深まらなければいけないようのではないか?と感じました。

*1:大学入学者選抜の改善をはじめとする高等学校教育と大学教育の円滑な接続と連携の強化のための方策について(諮問) http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1325060.htm

*2:秋田大学が全国学力テスト好結果の秘密を分析 http://d.hatena.ne.jp/high190/20100224

*3:就職難も何のその@秋田・国際教養大学 http://d.hatena.ne.jp/high190/20100106

*4:『なぜ、国際教養大学で人材は育つのか』 http://d.hatena.ne.jp/high190/20110406

*5:プロジェクトの概要 http://www.akita-u.ac.jp/ctc/project/index.html

*6:大学にフューチャーセンターを作ろう! http://d.hatena.ne.jp/high190/20120611