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Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

「博士論文研究基礎力審査」に係る大学院設置基準の改正をどう読むか?

high190です。
大学院で博士号取得を目指す者に対して、博士前期課程において修士論文を課さなくてもよくする大学院設置基準の改正について、現在パブリックコメントが募集されています。


文部科学省は26日、大学院で修士論文を作成しなくても修士号を取得できるよう省令を改正する方針を決めた。博士号取得を目指す大学院生が主な対象で、論文の代わりに専攻だけでなく関連分野も含めた幅広い知識を問う筆記試験などを課す。大学院の早い段階から専門分野に閉じこもるのを防ぎ、広い視野を持つ人材を育てる狙い。来年度から適用する。
現在の大学院教育は、2年間の修士課程と3年間の博士課程に分かれるのが一般的。省令の大学院設置基準では修士論文を提出して審査に合格することが事実上、修士課程を修了する条件になっている。
文科省は同基準を改正。「博士論文研究基礎力審査」と呼ぶ試験に合格すれば修士号を得られるようにする。審査は筆記と面接で、博士課程で学ぶのに必要な専門分野と関連分野の知識、研究を自力で進める力などを判定する。
修士課程2年の春から夏に筆記、冬に面接を行うことを想定。博士課程は別の大学院に進みたい場合、入試も受ける必要がある。博士課程に進まず就職する大学院生も多いことなどから、修士論文の提出を条件とする従来方式も認める。
修士論文を実質的に不要にするのは広い視野と能力を持った人材を育てるのが狙い。従来の修士課程は論文作成のため早い段階から特定の研究室に所属して研究テーマを絞ることが多く、博士課程を終えても産業界から「専門分野には詳しいが応用が利かず、使いにくい」と評価されてきた。
同省は審査の導入に合わせ、修士課程の教育内容の見直しを各大学に促す。院生が分野を超えて複数の研究室で学べるようにし、専門だけでなく関連する分野の知識も身に付けさせる。将来的には5年一貫教育で博士号の取得を目指すコースを普及させたい考えだ。
大学院設置基準の改正案については年明けにも国民から意見を募集。その結果を踏まえて来年3月までに改正したい考えだ。

ちなみに現行の大学院設置基準第16条に修士課程の修了要件についての規定があります。現行基準では修士論文又は特定の課題についての研究の成果を提出し、合格した場合に修士号が授与されますが、今回の制度改正では「博士論文研究基礎力審査」を行うことで、修士論文の提出に代えることができるようになるということです。ちなみに修士課程のみの大学院には博士論文研究基礎力調査は適用されません。

(修士課程の修了要件)
第16条  修士課程の修了の要件は、大学院に2年(2年以外の標準修業年限を定める研究科、専攻又は学生の履修上の区分にあつては、当該標準修業年限)以上在学し、30単位以上を修得し、かつ、必要な研究指導を受けた上、当該修士課程の目的に応じ、当該大学院の行う修士論文又は特定の課題についての研究の成果の審査及び試験に合格することとする。ただし、在学期間に関しては、優れた業績を上げた者については、大学院に1年以上在学すれば足りるものとする。

「博士号取得を目指す者」というのがポイントで、「修士号だけでいいや」という人には修士論文か特定課題研究を課すということになるのでしょうが、その辺りの判断は各大学に委ねられることになりそうなので、結局のところ「他の大学の動向も見ながらとりあえずは今まで通り修士論文を課せばいいや」なんてことにならないようにしてほしいものですね。
今年の1月に文部科学省が発表した答申*1と今回のパブリックコメント*2を読むと、日経の記事にもあるように元々の発端は、狭い分野だけでなく、幅広い分野の知識を持った博士号取得者を育成してほしいという産業界からの要請を受けた制度改正であることが分かります。パブリックコメントの資料にも「我が国の博士が,アカデミアはもとより広く産学官の中核的人材としてグローバルに活躍していくため」という記載があることから、産学官連携の中核人材を育てるためにも、専門分野の枠にはまらないための制度を位置付ける必要があるということが主旨のようです。どちらかと言うと文系よりも理系に重点を置いた制度改正のように思えます。
パブリックコメントの締切日は平成24年1月6日で、文部科学省は寄せられた意見を踏まえて3月末までの改正を考えているようですが、この改正によって修士課程、専門職学位課程、博士課程の区分をより明確にしたいのではないかと感じます。今年度から新たな競争的資金である「博士課程教育リーディングプログラム」の公募が始まり、先月末に採択された大学が発表されましたが、*3この事業の概要に今回の設置基準改正の趣旨と同じことが書いてあります。

「博士課程教育リーディングプログラム」は優秀な学生を俯瞰力と独創力を備え広く産学官にわたりグローバルに活躍するリーダーへと導くため、国内外の第一級の教員・学生を結集し、産・学・官の参画を得つつ、専門分野の枠を超えて博士課程前期・後期一貫した世界に通用する質の保証された学位プログラムを構築・展開する大学院教育の抜本的改革を支援し、最高学府に相応しい大学院の形成を推進する事業です。

グローバルに活躍するリーダーを産学官の参画を得つつ一貫性博士課程で実現するんですから、まさしく今回の設置基準改正の趣旨に適うのが博士課程教育リーディングプログラムな訳です。今後、このプログラムに採択された大学でどういった施策が取られるか興味深いの同時に、私個人の意見としては、これまでは博士課程というと進学しても就職先がないなど、高学歴ワーキングプアを生み出す温床のように語られてきてしまっていた部分がありますし、政策面でも迷走していた感が否めない*4ため、今回の改正をきっかけに大学院教育のより良い方向への改革に向けて上手に活用してほしいなあと願うばかりです。

*1:グローバル化社会の大学院教育〜世界の多様な分野で大学院修了者が活躍するために−http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1301929.htm

*2:博士課程教育の質の向上等に係る大学院設置基準等の改正に関するパブリックコメント意見公募手続)の実施について−http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=185000552

*3:平成23年度「博士課程教育リーディングプログラム」の採択拠点の決定について−http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kaikaku/hakushikatei/1313575.htm

*4:「博士号取得者の就職支援のために文部科学省が「持参金」を準備。果たして制度は機能するか。」−http://d.hatena.ne.jp/high190/20091115