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Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

北海道旭川市に公立大学の設置構想が浮上。廃止予定の東海大学旭川キャンパスを活用

Diary

high190です。
北海道の旭川市に所在する東海大学旭川キャンパスは2011年度入学者から学生募集を停止しており、設置する芸術工学部の在学生が全員卒業し次第、学部を廃止して教員を札幌キャンパスに移動させる計画を持っています。*1
跡地の活用については旭川市と協議することになっているようですが、市民団体から公立のものづくり大学設置の要望が浮上しているそうです。


北海道旭川市に公立ものづくり大学開設を目指す市民団体が24日、西川将人市長に開設に向けて具体的検討を促す要望書を提出した。市民団体はこの日事務局も開設、署名活動を続けると同時に、独自に大学の青写真を描くなど本格的活動を進めることにしている。
要望書を提出したのは、「旭川に公立『ものづくり大学』の開設を目指す市民の会」。西川市長は「勉強して検討したい」と答えたという。
要望書では、旭川の独自性を強く打ち出し、デザインや木工芸、食品関連など「ものづくり」を建学精神に据えた公立大の必要性を訴えている。会長の長原實・カンディハウス会長は「地域文化の核となる拠点として、実践的に起業できる人材を育成する場が必要。市長に任期中にめどを付けて欲しい」と話す。
市民の会によると、市のものづくり支援事業などを集約すれば大学運営は可能で、校舎は東海大旭川キャンパスなど既存の施設を活用できるという。渋谷邦男副会長は「地域のものづくりネットワークを生かすことで、スタッフに技術者を招くなど、国立や私学ではできない態勢づくりができる」としている。
市民の会は今年8月に発足。家具業界などに人材を送り出している東海大学旭川キャンパス(芸術工学部)の2015年の閉鎖に危機感を持った経済人らが立ち上がり、会員は法人約200団体、個人約2千人。これまでに約5千人の賛同署名が集まっているという。

少子・高齢化に悩まされる地方都市にとって、大学は一定数の若者が毎年入学してくる存在であるため、地域活性化の起爆剤として期待される面があります。地域活性化を目指して、公設民営方式で作られた私立大学を公立大学法人化して学生確保を目指す例は、高知工科大学鳥取環境大学などで見られるものですが、*2今回のケースは廃止される大学キャンパスの跡地を活用することによる大学設置構想です。ちなみに東海大学旭川キャンパスの芸術工学部では高大連携も行われており、その教育内容を称賛する声もあります。


デザインギャラリーでは、世界でもここでしか見られない作品に触れることができました。旭川市が家具の街として世界に発信できるようになったのは、くらしデザイン学科があったからです。人材の育成はもちろん、デザイン力の活性化に、計り知れない貢献をしてきました。旭川市にとっては大変なダメージを受けることになるでしょう。文化は都市の心臓部です。その文化を創造してきた大学がなくなることの重大さをもっと認識すべきです。日本にとっても大きな損失です。残念でなりません。

地域貢献を果たしてきた大学が無くなることの重大性を踏まえた今回の設置構想ですが、個人的には実現にこぎつけるまでのハードルは高いと思っています。
まず、元々の東海大学旭川キャンパスの教員は札幌キャンパスに移動することになるため教員は自前で確保しなければなりません。既存の教育内容を引き継ぐことができないため、自分たちの手で新たな教育を作り上げるしかないのですが、どういった教育課程を編成し、それを実現するための教員組織をどのように確保するかが大きなポイントになります。公立大学法人の場合、設置者は自治体で多額の財政支出が必要となるため、議会での承認を受ける必要があります。
また、学生確保は年々厳しさを増してきています。今年度に日本私立学校振興・共済事業団が発表した私立大学・短期大学等入学志願動向では、北海道における私立大学等の入学定員充足率は96.55%と昨年度の100.12%を下回る値となっています。*3元々、東海大学が撤退を決定したのも定員割れが原因であることから、どのようにして学生を確保するかのシミュレーションを綿密に行っておく必要があります。ものづくりを主眼とした公立大学を設置するのであれば、インターンシップの実施や実践的カリキュラムの編成などに地域が積極的に関わっていくことが必要でしょう。新大学を設置するか否かを決定するのは旭川市になりますが、市民団体や経済界を巻き込んでいかないといい大学は作れないと思います。
ただ、ハードルは高くともいい大学づくりを目指して活動していくことを応援する気持ちはあります。官民一体で、密度の高い良質の教育を小規模で提供し、地域特性にあわせた人材ニーズを充足できる大学が地方都市には必要なのです。

*1:東海大、旭川キャンパス閉鎖。熊本キャンパスも存亡の危機(TK独り言)http://d.hatena.ne.jp/reds-suppo/20100610

*2:鳥取市鳥取環境大学公立大学法人化に向けた取り組みを進める http://d.hatena.ne.jp/high190/20101206

*3:http://www.shigaku.go.jp/files/nyuugakushigan_2011.pdf