Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

大学生の海外留学者数が再び増え始めた背景と、留学で得られる経験値についての再考

high190です。
現代の大学生の内向き志向、グローバル社会に対応した人材育成などが色々なメディアで論じられていますが、グローバル人材の採用枠拡大や円高の影響を受けてか、学生の海外留学が再び増え始めているとのニュースがありました。


低迷が続いた大学生の海外留学が回復しつつある。留学あっせん会社への申し込みや相談は前年に比べ2〜3割増えた。最近は就職活動の開始が早まり、出遅れを懸念した学生の間で留学離れが続いていた。しかし、企業が語学力や国際性を備えた人材を積極的に採用する姿勢を強めたことや、円高で費用負担が軽くなったことで学生が再び留学に目を向け始めた。
人材サービス大手、テンプグループで留学あっせんを手掛けるテンプ総合研究所(東京・渋谷)では、来春以降に米国や英国の大学で学ぶコースへの申込者数が1年前と比べ3割増のペースだ。
英語力が重要になるとの判断のほか、円が2007年に比べ対ドルで約3割、対英ポンドで5割上昇したのも追い風になった。
留学あっせん大手、留学ジャーナル(東京・新宿)の1〜6月の大学生の相談者は前年同期比約2割増えた。1〜3年生が短期留学を希望する例が多い。
就職情報のディスコ(東京・文京)は留学支援のニーズが高いと判断し昨年参入した。
留学ジャーナルの推計では10年の留学生(語学留学を含む)は約18万3000人で前年に比べ18%増加。今年はさらに伸びるとみている。00年のピークの19万4000人から09年には15万人台まで減少していた。
文部科学省の調査でも留学生は08年まで4年連続で減少。就職活動の早期化や、学生が内向きになり挑戦意欲が低下したことなどが指摘された。
日本企業はグローバルな視点から採用活動を見直している。
KDDIは12年春の新卒採用で「グローバル(新興国開拓)コース」を新設。留学経験者などを積極評価し、入社後は海外事業関連部門に優先配置する。採用予定数の約1割にあたる20人程度を同コースで選ぶ。
イオンは11年度からの3年間で日本のほか中国などアジア中心に1万人超を採用する計画。留学生や外国語の話せる人材を優先して採る。ユニクロを展開するファーストリテイリングソニーなども社員の国際経験や語学能力を人事面で重視する方針だ。
大学も学生の海外留学を後押しする。早稲田大学は交換留学プログラムを拡充。10年度の海外派遣留学生数は長期・短期合わせて1686人と前年度(1489人)を大幅に上回った。
東京大学も15年までに全学生が海外留学や派遣を体験できる体制を整えるのが目標だ。今年5月時点では留学中の学部生は53人と全体の約0.4%にとどまる。留学プログラムや留学情報説明会を拡充して目標の達成を目指す。

ここ最近の円高傾向は海外への渡航費用の軽減に繋がるもので、そのことを理由に海外留学しようと考える学生がいることは理解できます。また、文部科学省による「日本人学生の海外交流の推進」の予算でも平成23年度予算では前年度を大幅に上回る金額が計上されており、短期留学を支援するショートステイショートビジット制度が創設されたことを踏まえ、各大学で留学を後押ししていることも一因でしょう。
また、企業がグローバルに活躍できる人材を求め始めていることも関係があると思います。日本経団連は、「グローバル人材の育成に向けた提言」を公表し、政府・大学とも連携してグローバル人材を育成していくことを表明しています。

またこのブログではたびたび言及していると思いますが、留学には語学習得以外にも異文化体験を媒介にした「チャレンジする環境」に身を置くことができるというメリットがあります。文化、制度、コミュニケーションなどの面で海外での生活を送ることはそれまでにはない経験を積むことができるため、単純に語学力にフォーカスするのではなく、社会人基礎力の養成にも資するということがあります。単純に就職に有利であるという理由だけで海外に行くのではなく、海外で経験した困難や喜びを自分の糧にできるかどうか、またそういった経験を学生に積ませる環境をどれだけ整えるかが、国際化の進展する大学において必要なことだと考えます。
ここで紹介したい記事があります。電通育英会が発行している広報誌「IKUEI News」に掲載されている記事で、秋田の国際教養大学の職員の方が寄稿しているものです。

初年次生の寮生活義務化や1年間の留学義務化など、今までの日本にはない大学教育を展開している国際教養大学ですが、教育内容のみならず、学生生活に関しても、必然的に学生が自ら進んで問題を解決できなければ卒業できない仕組みにしています。残念ながら現在の日本の大学教育では、こうした教育を行っている大学は少数派であると思いますが、学生が自然にチャレンジできる環境を作っているからこそ、国際教養大学の卒業生は評価されるのかも知れません。閉じた大学内だけで過ごす大学4年間ではなく、学生の目が海外留学に向き始めている今だからこそ、学生が様々なことにチャレンジできる仕掛けを作っていくべきではないでしょうか。