Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

文部科学省は博士の数を減らそうとしている?

high190です。
文部科学省が国立大学に博士課程の収容定員を減らすよう、要請する方針であるとの報道がありました。
定員の減少及び組織改編を行う国立大学には、財政支援を行うことで定員の適正化を要請するそうです。


修了者の就職難などが指摘されている大学院の博士課程について、文部科学省は30日、全国の国立大学に定員の縮小を要請する方針を固めた。大学間での院統合も含めた組織再編を促す。今後、定員・組織を見直す大学を財政支援する仕組みを整え、自主的な取り組みを後押しする。
国立大大学院の入学定員は合わせて約5万7000人で、うち博士課程が約1万4000人。文科省は長年、学部から大学院に教育研究の重点を移す政策を継続してきたが、博士課程では就職への不安などから定員割れが相次いでおり、軌道修正を決めた。
有識者で構成する国立大学法人評価委員会野依良治委員長)は、この方針を大筋で了承。同省が近く大臣名の書面で要請し、各大学が6月中に素案をまとめる2010年度からの中期目標に反映させる。
要請書案が定員、組織の見直し対象として挙げたのは、大学院博士課程以外に、少子化で需要の先細りが見込まれる教員養成系学部、各大学が既に定員縮小の検討を始めた法科大学院。ほかの学部などでも必要に応じて見直すよう求めている。

先日、博士号取得者の就職支援のため、文部科学省が企業へ持参金を準備するという記事がありました。

(過去記事)博士号取得者の就職支援のために文部科学省が「持参金」を準備。果たして制度は機能するか。(2009/05/07)

国の政策として博士号取得者を増やしたはいいが、結果として博士号取得者のキャリアパスを整備するところまではうまくいかなかったということでしょう。中央教育審議会は「新時代の大学院教育−国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて」という答申を出していますが、その中には博士課程に関してこんな記述があります。

また,今後の知識基盤社会にあっては,このような高度な研究能力と豊かな学識に十分裏打ちされた新たな知見や価値を創出できる博士課程修了者が,研究・教育機関に限らず社会の多様な場で中核的人材として活躍することが求められている。このため,博士課程修了者の進路として,研究・教育機関に加えて,例えば,企業経営,ジャーナリズム,行政機関,国際機関といった社会の多様な場を想定して教育内容・方法を工夫していくことが求められる。

教育内容・方法を工夫することももちろん大事ですが、問題は社会と大学の間に隔たりがあったからではないかと思うんですよね。欧米で博士号取得者が活躍しているのは、社会の中で博士号の重要性が認識されていると同時に、キャリアパスがしっかり整備されているからだと思います。つまるところ、産業界との調整をしっかりやらないことには博士号取得者の受け入れ先を確保することは難しい訳です。
例えば、Googleなどに代表されるWeb関連企業には博士号取得者もたくさんいると思いますが、日本の一般的な会社組織の人事制度では人材を活用しきれないのかも知れませんね。フェロー制度を活用するとか、特別職・専門職として処遇するとか、色々な方法がありそうです。博士号取得者を活用しきれないのは、会社側が要望する人材像との乖離があることと、制度的な受け入れ態勢を整えきれないということに原因があるのではないでしょうか。

大学院教育の国際比較 (高等教育シリーズ)

大学院教育の国際比較 (高等教育シリーズ)

そういった意味では博士課程の収容定員を適正化することは間違っていない政策判断だと思います。ただ、文部科学省は当初計画の履行状況のチェックと今後の中期計画を発表する必要があるのではないかと思います。

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