Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

「大学生が飽きない授業のノウハウ本」は効果があるのか

high190です。
大学職員という仕事柄、大学教員の方とお話することが非常に多いのですが先生方も結構お困りの部分があるようで、「こちらが一生懸命講義資料を作っても学生は活用してくれない」「講義間の連携が取れていないため、本来教えるべき内容以外にも内容を追加しなければならなくなることがある」などなど、先生方も講義運営をするのが大変みたいです。
特に研究畑ではなく、企業でキャリアを積んだ後に大学教員となった方は最初に講義運営の面で壁にぶつかることが多いみたいですね。そんな状況を打破するために大学で盛んに行われているのが、Faculty Developmentです。これは教員の指導力強化を行うためにワークショップを開いたりすることなんですが、恐らく今はやっていない大学の方が珍しいのではないでしょうか。(逆の見方をすると、それほどまでに工夫しないと講義にならないということでもあります)

大学教員による授業改善の実践例を集めた「授業を効果的にする50の技法」(アルク)が出版された。大学全入時代に向け、「教員の教える力を高める取り組み」=FD(ファカルティー・デベロップメント)に力を入れる大学が増える中、活用が期待されている。
今月19日、東海大外国語教育センター(神奈川県平塚市)で行われた「社会言語学」の授業。
「50の技法」の共同執筆者の一人で、同大の松本佳穂子准教授はマイクを手に教室を回りながら、学生たちに「コーヒーはいかが」「その髪形、すてきね」と英語で質問を繰り返した。
「サンキュー」としか答えられなかった学生には、「アメリカ人なら、どう答えるか考えて」と促し、笑顔を見せるだけで言葉が出ない学生には、「それでは気持ちは伝わらない」と語りかける。授業の目的は、相手からの質問にどう答えるのか、日米の言語の使い方の違いを通じ、双方の国民性を考察することだが、まずは学生たちに実際に英語で会話をさせ、興味を引き出すことが狙いだ。
「とにかく学生を、どんどん巻き込んでいくことが大切」。松本准教授は秘訣(ひけつ)についてそう語る。
文部科学省によると、「教員研修会」や「教員相互の授業参観」などFDを進めようとしている大学は年々増え、2005年度には国公私立計713大学の81%が、何らかの形で導入しているという。
ただ、現実には、講義や座学が中心で、教員たちに授業のノウハウを伝えるところまでたどりつかない大学が多い。教員が教材として使える資料も、これまでほとんどなかった。
そこで、赤堀侃司(かんじ)・東工大教授を中心に、松本准教授ら授業改善に取り組む各大学の教員ら8人が、「授業の導入法」「質問を活発にする方法」「出席の取り方」といった場面ごとに実践例をまとめ、今年8月、「50の技法」を出版した。
例えば「フランス思想」の講義で、教材として取り上げているのは、2人の農民が畑で祈るミレーの作品「晩鐘」。
この絵が描かれた19世紀フランスの農村との設定で、学生に同じようにポーズを取らせてセリフを考えさせるなど、学生をあきさせない工夫を紹介している。
「今は、45分しか集中力が持たない学生も多い。教員は学生の興味を引きつけるための、新たな技法を見つけなければならない。今回の本を参考図書として利用してほしい」と赤堀教授も期待する。
同書は、インターネットによる注文販売。1800円(税別)。実践現場を撮影した映像教材も作成し、希望の大学には有料で提供する。

上記記事にもありますが、国公私立の大学のうち約81%がFDを実施しているそうです。それだけ、学生の興味を引き付ける授業内容であることが必要なのですが、今回のようなノウハウ本で本質的な問題は解決できるのでしょうか。学生の興味を引かない、ということの裏側には改善を迫られていない、ということの裏返しでもあります。ちなみに私の大学では教学上の問題については、教務担当の委員会で問題を審議し、教授会で決定しています。しかし、日常の講義についてはチェックが果たされていないのが実情でしょう。学生に対して講義に関するアンケート調査も実施していますが、大学としてその内容を分析した上で改善に活かすようなことは出来ていないのが現状です。
また、最近ではOpenCourseWareなどで講義のオープン化も進んできています。そういった意味では、大学教員にとって自分の研究・講義を一般の目から見ても評価できるようにするチャンスが広がっているということなのです。そのようなチャンスを活かし、教育効果を高めるのに「ノウハウ本」はどこまで有効に機能するでしょうか。ただ、書籍を販売するのではなく、さらなるFD活動に繋げていけるといいように思いますが。大学職員サポートセンターなるNPO法人が出来たぐらいですから、「大学教員のFDサポートセンター」なんて組織があってもいいような気がします。