Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

米国の学生ローン返済は悪か

high190です。
日本と比べると米国は学生向けの奨学金が充実していると言います。しかし、その反面、大学の学費は高く学生負担が極めて重いことも事実です。奨学金を受けられない人は学生ローンを組む訳ですが、大学と金融機関との癒着が囁かれるなど、学費の面でも格差があるようです。*1

そうした状況の米国学生ローン事情、ちょっと大変なことになりつつあるようです。

(上記記事より一部抜粋)
過去10年間で米大学卒業までにかかる平均費用が倍増したのに伴い、大学卒の米国民一人あたりのかかえる学生ローン返済額が高額化してきており、米経済に悪影響をもたらす懸念事項の1つとなっている。


多くの米大学に通う学生の家族および学生個人らは、採用枠の限られている奨学金以外の利子が最大で20%までに制限されている民間学生ローンを利用している。そのため米大学卒の多くの社会人は学生ローン返済のために住宅購入時期が延長され、休暇も削減、食費も節約してローン返済を行わざるを得ない状況にある。
ミシガン州立大学ロースクールを卒業したKristin Coleさん(30)は奨学金民間学生ローン含めて15万ドルもの借金を抱えている。そのため月収の4分の1にあたる660ドルをローン返済に充てており、一年後には返済額が月800ドルに増額されることになっているという。Coleさんは、「家なんて決して買えないし、旅行にも行けない。何も出来ない。まるで囚人のようだ」と嘆いている。
一方歯周治療専門医のPaul-Henry Zottola氏(35)は、月1,600ドルの学生ローン返済、2,300ドルの住宅ローン返済、1,500ドルの事業ローン返済に負われる日々を過ごしている。そのためZottola氏は「返済不履行に陥る可能性は極めて高い。今後10年間の収入は返済のために充てられるだろう」と話している。
これまで米大学生の資金供給源は両親からであったが、ここ数年大学授業料が値上がりされるに伴い、多くの学生が民間学生ローンで借入を行うようになってきた。学生たちは、将来高給職に就くことを前提として高額ローンを借入したが、卒業後、高給職に就くのは容易ではないことに気づいた多くの大卒者らが厳しい学生ローン返済生活を送らざるを得ない状況となっている。
昨年一年間で米国では170億ドル以上の民間学生ローンが提供されており、2001年の40億ドルから急騰を示している。授業料値上げに伴い、学生ローンはますます魅力的な金融商品となってきた。公立大学の授業料、寮費など含めた平均大学生活費はここ10年間で79%増加して年間12,796ドルとなった。一方、私立大学では65%増加して年間30,367ドルとなっている。
そのような中、利子が最大6.8%までに制限されている政府による奨学金は4年間で最大23,000ドルまでの利用しか認められていない。これは4年間の学生生活費の半分以下でしかなく、残りの費用は自費、民間学生ローンに頼らざるを得なくなっている。

大学を卒業して仕事を始めてからも、学費をずっと返し続ける…勤め始めでは当然賃金はあまり高くありませんので、生活する上での大きな負担になります。大学で学ぶことの意味よりも、経済的な負担の方が重いということであれば、何らかの対策を打つべきではないのでしょうか。
もちろん奨学金であれ学生ローンであれ、債務を返還する義務は同じですが、利息が付くとなると話は別です。

[過去記事]
米国大学の財政危機に関する考察(2007/09/29)

過去記事でも取り上げましたが、「学費が上がったことで学生の便益は向上したのか?」という観点で考えると、怪しいものですね。非営利組織においてもより効率的な運営が必要になりますが、そのためにはもっと職員一人ひとりの能力を向上させ、仕事のやり方も一変させなければ。
安直な学費の値上げによって、学生が重い負担に苦しんで教職員には何の変化もないということであれば本末転倒もいいところですし、教育機関としてのアカウンタビリティは全く果たされていないということになります。

そういった視点で見ると単なる返済不履行の話では済まないような気がします。これは日本においても全く同様のことが言えるのではないでしょうか。