Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

変貌する学び(7)──ユニーク入試、大学に活力

大学にとって、入試は学生募集の要になるものですが、最近では各大学で様々な趣向を凝らした取り組みが行われています。(ただ、「一芸入試」を加速させすぎて、講義についてこられない学生を生んでしまった反省が十分に行われています。やはり、教学面との連携したシステムでないと、うまくいかないようです。)

けん玉や芸能活動など筆記試験以外の特技で合否が決まる一芸大学入試。導入が相次いだ1990年前後には入学後の単位取得を不安視する声が多かったが、多様な学生を得てキャンパスを活性化できる効用は大きい。最近は一芸入試が派生する形で、受験生が自らを大学に売り込むAO(アドミッションオフィス)入試を導入する大学も急増している。先駆的な試みが多い関西のユニーク入試を追った。

●「経験積みたい」
京都市北区立命館大学。「文芸入試」担当者が履歴書に目を落とす。「高校6年生」……なんやこれ?「毎日8時間、碁を打ってきた」。型破りな経歴に戸惑う教官。すでに20歳を過ぎた武田淳さんは「囲碁大会で入賞し、大学のイメージアップのために頑張る」と訴える。
2年半が過ぎた。武田さんは昼下がりの部室で囲碁を打つ。同級生は年下ばかりで、年上として一目置かれている。かつて囲碁のプロをめざしただけあって、旺盛な独立心が周囲の士気を高める。授業に出る一方、構内の売店でアルバイトもする。「色々な経験を積みたい。入学後は日本史に興味を持ったので、将来は教師をめざしたい」
担当者は「勉強漬けだった学生にとって、ベンチャー精神に富む武田君は刺激になる。今後も様々な経歴の人を取りたい」と話す。立命館大学は90年から文化面で優れた実績を持つ学生向けに「文芸入試」を開始。かるたやクイズ、バトントワリングなどユニークな種目が並ぶ。
関西学院大学は専門職を意識した技能をはぐくむ方針を打ち出す。総合政策学部2年の高井康太さん(20)は、自作のテレビ番組やCG(コンピューターグラフィックス)で受験。番組作りの発想の面白さやCGの技術力を認められ、入学した。
CG作成の授業で好成績を残す。同好会でカンフー映画を作り、銃撃や爆発を演出、学園祭で評判になった。「CG作成は天職。AO入試で全国の精鋭を集めてくれたおかげで自分を磨ける。卒業後は放送局で番組を作りたい」と話す。
80年代後半に導入がスタートしたとされる一芸入試。当初は特技がけん玉であることを理由に合格を手にした高校生が出たことなど話題性で注目を集めたが、各大学は求める学生像に合わせて様々な独自制度を導入している。
阪南大学では2007年度から、様々な資格を筆記試験の点数に加算できる「資格点」入試を始めた。日商販売士検定(商業経済)や総合旅行業務取扱管理者(観光)などの資格があれば、半分以下の点数で入学できる場合もある。商・工業高校から手に職を付けたい学生が押し寄せた。
大阪大学は最先端の研究分野で才能の芽を囲い込むことを狙う。08年度から、高校生の物理学コンテスト、国際物理オリンピックに出場経験を持つ受験生の筆記試験を免除する制度をスタートする。ノーベル賞級の物理学者を輩出するのが狙いだ。賞の獲得数では京都大学に水をあけられているだけに、熱が入る。
06年度から写真作品で合否を決める「ケータイ入試」を始めたのは大阪電気通信大学。受験生に携帯電話内蔵カメラで人や風景の写真を撮り、コメントを付けて提出してもらう。美的感覚に優れた人を集め、ゲーム、アニメの制作スタッフを育てる狙いがある。

●入学前に演習
増え続けるAO入試だが、評価対象となった特技でプロになっていく卒業生はごくわずか。学生の多くは筆記試験で入学した学生と同じように就職していく。合格証書を出して受け入れた以上は、社会に出て通用する人材に育てることが求められる。
立命大の「文芸入試」も、入学後学生が必要単位数を取れなければ、大学所属の文化系クラブから大会に参加することを禁じられる。「学業もしっかりとやってもらう」と教員の岡本直輝さんは語る。1980年代後半から始まったかつての一芸入試では、学力不足で授業についていけない学生が出たという反省がある。
京都工芸繊維大学のAO入試合格者は、入学前に数学の演習や英語読解の講座を受けることが課せられる。少子化で大学がますます広き門になるなかで、教育レベルをいかに維持するかは大学界共通の課題。こうした動きは全国に広がっているという。
大学の本分である学力水準を維持しながら、いかにキャンパスに活力をもたらす若者を引き付けるか。全入時代が現実になりつつある大学の模索はこれからも続きそうだ。
(大阪経済部 草塩拓郎)